表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋月桜花 ~巫女と花嫁と大和撫子~  作者: 南条仁
恋月桜花4 ~恋は戦い~
106/128

第105章:それぞれの葛藤

【SIDE:柊元雪】


 どれほどの時間が経ったのだろうか。

 気がつけば、俺は唯羽に膝枕されていた。

 

「……ここ、は?」

 

「目が覚めたかい、柊元雪」

 

「唯羽……?そうだ、俺は……!」

 

 ゆっくりと体を起こすと、周囲は青葉の生い茂る桜の巨木。

 

「俺は、今まで夢を見ていたのか」

 

「赤木影綱の記憶が流れ込んできたんだろう。どうだった、彼の記憶は?」

 

 俺が見た桜の恋は、真っすぐな純愛だった。

 影綱は椿姫を幼い頃から愛し続けていた。

 それがなぜ、椿姫を裏切り、紫姫に惹かれたのかが分からない。

 

「なんで、なんでなんだよっ!どうして、影綱は椿姫を裏切ったんだ!?」

 

「……柊元雪?」

 

「俺には分からない。あれだけ愛した女を裏切る奴の気持ちが分からないっ」

 

 俺は今まで影綱が椿姫を裏切った理由が分からずにいた。

 椿姫を愛していなかったのではないか?

 そう考えていたが、この記憶を垣間見て違うのだとはっきりした。

 影綱は椿姫を心の底から愛していたのに。

 

「なぜ、影綱は裏切ったんだ?」

 

 分からない、分からない、分からない。

 俺の叫びに唯羽は驚きながら止めようとする。

 

「落ち着け、柊元雪。過去の記憶に影響され過ぎるな」

 

「……落ち着いていられるか。こんな記憶を見せられてっ」

 

 心が不安定になる。

 なんだ、このざわついた気持ちは……。

 込み上げてくる怒り、憤る想いを抑えられない。

 

「柊元雪……落ち着いて、お願いだから」

 

 唯羽は困惑する俺を抱きしめる。

 

「お前の苦しみは分かる。戸惑うのも分かるから……」

 

「……くっ、だけどっ……んぅっ!?」

 

 俺の唇を強引に奪い、重ね合わせる唯羽。

 唯羽の思わぬ行動に、乱れていた心がおさまる。

 

「落ち着いたか、柊元雪?」

 

 唇を話した唯羽は顔を赤らめながらも、どこか嬉しそうだ。

 

「……お前、ちょっと強引すぎるだろ?」

 

「ふふっ。これくらいしないと、お前の動揺を止められないだろ」

 

 こちらの人格の唯羽にキスされると、いつもと違ってときめくのだが。

 突然のキスはともかく、俺はなんとか落ち着きはじめる。

 俺は唯羽に抱きしめられながら深呼吸を一つする。

 影綱の記憶を垣間見て、頭の中がぐるぐると渦を巻くように混乱している。

 

「……ふぅ。すまん、何か混乱していた」

 

「前世とはいえ、他人の記憶を見たのだから当然だよ。お前の混乱も、怒りも分かる。だからこそ、今の私がここにいる」

 

 唯羽がいてくれるおかげで、ようやく俺は冷静さを取り戻せた。

 

「なぁ、唯羽……今の俺が見た桜の記憶は本当のことなんだろうか」

 

「お前がどのような記憶を見たのかは分からない。けれども、想像はできる。私が初めて、椿姫の記憶を見た時と同じなんだろう。影綱は確かに椿姫にとっては良き夫であり、彼は彼女の事を心底愛していた」

 

 だからこそ、余計に分からないんだ。

 

「それだけ愛した女を裏切る事になった理由は何だ?」

 

「……それはこの桜は知らない。もう一つの桜だけが知っている」

 

「もう一つの桜、椎名神社のご神木か。因縁だよな。桜だけしか知らないなんて」

 

「人の想いは土地に残るものだ。想いが強ければ強いほどに」

 

 夏の暑さを忘れるほどに清涼な風が吹く。

 俺は桜の巨木に触れながら思うのだ。

 

「影綱の心変わりをした原因を、椎名神社のご神木は知っているわけだな」

 

「今のお前にならそれを感じられるけど、私は勧めないよ。恋月桜花の真実はあまりにも辛く、愚かで、寂しいものだから」

 

「それでも、俺は知らないといけないんだな。椿姫の呪いから逃げるわけにもいかない」

 

 幸せな記憶、それが椿姫の怨霊を生みだすほどの悲しい記憶に変わる理由。

 影綱と椿姫、紫姫の間に何が起きて、どうしてこうなったのだろう。

 

「全てを知った後でも、今までの柊元雪でいて欲しい」

 

「まるで、俺が変わってしまうような物言いだな」

 

「……変わるよ、きっとお前は変わってしまう。優しいから、誰よりも優しい事を知っているから怖いんだ。私は柊元雪の変化を望んではいない」

 

 唯羽が危惧する事をこの時の俺はまだ知らずにいた。

 桜だけが知っている記憶。

 もうひとつの桜に会いに行かなくてはいけない。

 

 

 

 【椎名和歌】


 元雪様と唯羽お姉様が過去を探求すると離れてしまい、私は麻尋様と一緒に温泉に入りながら、のんびりとしていた。

 

「ユキ君たちの事が気になるの、和歌ちゃん?」

 

「えぇ。今頃、何をしてるんでしょう」

 

「私には難しい事は分からないけど、ふたりにとって大事な事があるんだよね」

 

 お湯につかりながら、私は考えてしまう事があるの。

 ふたりの関係が近づいてしまう事の不安。

 

 

 

 これ以上、仲良くなられてしまうと、私と距離がもっと開いてしまう。

 

「ダメですね、私は……いつも嫌な事ばかり考えてしまいます」

 

 元雪様の想いは今や、私だけに向かれているわけじゃない。

 一目惚れをして好きになった時は恋月桜花の事も、前世の事も、お姉様の事も、何もか知らずに楽しく恋ができたのに、今の私は“嫉妬”ばかりしている。

 いろんな事が分かって、私達の関係は変わってしまったの。

 

「恋って思い通りにはいかないものなんですね」

 

「そう?結局、どんな事があっても、強い想いを持った方が勝つんだよ。和歌ちゃんが唯羽ちゃんに負けたくないなら、もっと強い想いを持てばいい」

 

「そんなに簡単にうまくいくわけないじゃないですか」

 

「そうしたら、完全に唯羽ちゃんに負けちゃうよ。私があの子をすごいと思うのは、一途な思いの強さ。自分がどうなってもいい、彼を守りたいと心を封じてまで恋をしてきたところ。その強さがなければユキ君に想いは届かない」

 

 麻尋様の言う通り、お姉様の想いはとても強い。

 私には彼女みたいな真似は出来ない。

 

「和歌ちゃんが唯羽ちゃんに勝つために必要なのは……」

 

「必要なのは?」

 

「……胸かな。和歌ちゃんは立派な物をもってるじゃない。これで誘惑しちゃえば?」

 

 ぽにゅっといきなり、タオル越しに私の胸を触りにくる。

 麻尋様の思わぬ行動に私は顔を真っ赤にさせて温泉の中を逃げる。

 

「な、何をするんですか!?麻尋様、いきなり触らないでください!?」

 

「和歌ちゃんって、脱ぐと意外にスタイルがいいわねぇ。男の子は誰だって胸が好きなんだから、それでユキ君を誘惑しちゃえばすべてOKだってば」

 

「そ、そう言う問題じゃないと思いますっ」

 

「えー。そうかな?ちなみに、私はこれで誠也さんを落としたよ?あの人はあれでむっつりだからね。うん、やっぱり、女の子の最大の武器って身体だと私は思う」

 

 麻尋様の発言に私は自分の胸を見て「元雪様も好きなのかな?」と悩んでしまった。

 そんなはしたない事を考えてしまう私は、少しお湯にのぼせているようだった。

 

 

  

【篠原唯羽】

 


 温泉旅行を無事に終えて、私達は椎名神社に戻ってきた。

 今回の旅行は、柊元雪に影響を与えてしまった。

 これまで前世の影響を受けずに来た彼を無理やり、引きずり込む形になった事に、とても危惧している事がある。

 私の杞憂に終わってくれればいいのだけど。

 家に戻り、夕暮れとなった頃に私は柊元雪に誘われて、ご神木の方へと歩いていた。

 

「柊元雪、何も今日でなくてもいいんじゃないか。ただでさえ、疲れているだろう?」

 

「気になるんだよ。俺はこのままでいいとは思っていない」

 

「私は心配なんだ。影綱の記憶を取り戻す事でお前に与える影響が怖い」

 

「心配かけてごめんな。それでも、俺は知りたいんだよ。どうして、影綱は椿姫を裏切り、紫姫に惹かれたのか。その真実を知りたい」

 

 真実を知ることは必ずしも良いことではない。

 知らなくてもいい事は、知らずにいても欲しかった。

 だけど、これは私の我がまま、知りたいと願う柊元雪を邪魔する事はできない。

 

「……分かった。私も最後まで付き合おう」

 

「唯羽には本当に苦労ばかりかけてるな。辛い想いをさせてばかりだ」

 

「そう思っているのなら、愛情で返してくれればいい」

 

 私自身、自分の台詞に驚き、照れくさくなる。

 こちらの人格でそんなセリフを言えるとは思わなくて。

 どうやら、本来の性格はこちら側にも影響を与えてるらしい。

 夕焼けに赤く染まるご神木に到着する。

 桜は彼に恋月桜花の辛い真実を見せるだろう。

 

「さぁ、桜よ。俺に、お前の見た恋の結末を見せてくれ」

 

 彼はこのもう一つの桜の記憶に触れる。

 やがて、意識を失い倒れ込む彼を私は支えてご神木にもたれかけさせた。

 

「今度の記憶は辛いよ。私でも嫌になるくらいだ。私の場合は裏切られて、傷つけられてしまう側の記憶だったけども」

 

 桜は柊元雪にどのような真実を見せてしまうのか。

 その時だった、鎮守の森全体が強い風に吹かれて唸りをあげる。

 

『……憎たらしい、憎たらしい。愛を信じるなど、意味もない事を』

 

 その低い女の声に私はハッとして、ご神木の方を振り向いた。

 そこにいたのは、鬼の形相で柊元雪を睨みつける着物姿の女性の姿。

 

「つ、椿姫、だと……?お前がなぜここにいる――!?」

 

 封じられていたはずの最悪の怨霊、椿姫が再び私達の前に姿を現した――。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ