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恋月桜花 ~巫女と花嫁と大和撫子~  作者: 南条仁
恋月桜花 ~巫女と花嫁と大和撫子~
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第9章:恋愛成就

【SIDE:椎名和歌】


 神社を守りたいがゆえの縁談。

 それは私が小さな頃に聞いたお父様の言葉がきっかけ。

 

『和歌は女の子だから、跡取りにはなれない。神社の将来を考えなくてはいけないな』

 

 それはとてもショックだった。

 私だけじゃこの神社は守れないなんて……。

 巫女はずっと続けられる職業じゃないし、私には神社を継いでくれる男性が必要だったの。

 幼い頃から決めていた事だから、例え、一目惚れ相手がいたとしても曲げられない。

 私が自分で決めたことだもの。

 そして、運命の朝が来る。

 緊張に加え、色々と考え過ぎて、昨日はあまり眠れずにいた。

 

「……和歌、今日は縁談なんですって?」

 

「お母様……はい、お父様がそう言ってました」

 

「縁談はいずれと思ってはいたけど、このタイミングで?昨日、一目惚れ相手をしたばかりなのに、本当にそれでいいの?」

 

 お母様も分かっているはずだ。

 小さな頃から決めていた私の意思は変わらない事を――。

 

「はい、ずっと前から決めていた事ですから。私はこの神社を受け継いでくれる方と結婚したい。心配なさなくても、無理に慌てて決めたりはしませんから」

 

「……本当に?」

 

 お母様はこういう時は鋭い。

 もしも、相手が私の結婚条件である「神社を受け継いでくれる」と言ってくれたら、私はきっとその相手を断らない。

 よほどの事がない限り、その相手を受け入れる。

 

「和歌が大事な物を守りたいって気持ちは分かるわ。だけど、和歌はもっと自分の事も大事にした方がいい。私は神社より貴方の方が心配よ」

 

 ぎゅっとお母様は私を抱きしめて呟いた。

 彼女の優しさに私はすごく心が楽になる。

 抱えていた不安が少しだけ消えた。

 

「ありがとうございます。ほら、お母様。今日は出かける予定なのでしょう。私の事はいいので、そろそろ出かけてください」

 

「いきなりなのよね。こんな大事な話をすぐに決めちゃうなんて……」

 

 お母様は以前から予定があったために、出かけなくてはいけない。

 傍にいて欲しい気持ちはあったけども、仕方なかった。

 

「今回で決まるとも限りませんから」

 

「そうよね。いきなりってわけじゃないもの。ゆっくりと決めたらいいわ」

 

 あくまでも相手次第だけど、と私は心の中で呟いた。

 

「でも、良い人だったらいいわね。和歌が好きになれるような人である事を私は祈っている。和歌にとっての良い出会いを期待しているわ」

 

「……私もそう思います」

 

 良い出会いである事を祈る。

 私にもその気持ちは理解できた。

 不安と期待が入り混じる縁談。

 そして、その縁談は思いもよらない再会になる。

 

 

 

 

 運命と言う言葉があるのなら、私は今、この瞬間に使いたい。

 そんな事を私は本気で思った。

 

「俺の名前は柊元雪、よろしくね」

 

 私の縁談相手として家にやってきたのは……。

 

「元雪様が……あの時の男の子?」

 

 その彼こそ、私が一目惚れをした男の子だった。

 嘘だ、こんなこと……奇跡としか思えない。

 元雪様と一目惚れの男の子が同一人物なんて、想像すらしていなかった。

 私が一夜の間、抱えてた不安は一気に消し飛んでしまう。

 こんな偶然があるの?

 ううん、これは偶然なんかじゃない。

 特別な縁だと断言できる、運命の出会いだった。

 そして、それだけじゃなくて――。

 

「……俺は和歌さんと一緒に生きていきたい。キミの夢を叶えたい」

 

 私の夢、私の事を理解してくれて、受け入れてくれたの。

 元雪様に初めて会って感じた優しさ、それは本物だった。

 私は元雪様が好きなのだと自覚する。

 この気持ちこそが恋愛なんだって……。

 

「俺も誰でもよかったわけじゃないよ。和歌が相手だから、結婚したい。夢を叶えてあげたいって。俺も和歌が好きだから」

 

 そう言ってくれた元雪様。

 私の瞳から流れるのは嬉しい涙。

 神様が与えてくれた素晴らしい出会いに私はただ感謝していた。

 

 

 

 

 互いに告白をしあい、想いを認め合う事ができた。

 その後は元雪様とふたりだけで神社の境内を散策する。

 

「それにしても、広い神社だなぁ」

 

 私の好きなこの場所をもっとよく知ってもらいたかったからだ。

 彼に神社を案内しながら、私は質問をしてみる。

 

「元雪様は椎名神社に来た事は?」

 

「んー、七五三以来だなぁ。それ以来はここに来る機会もそんなになくてね」

 

「そうなんですか?」

 

 彼の話だと初詣はもっと近い神社に行っていたみたい。

 今日と言う日に出会わなければ、私と会う可能性なんてほとんどなかった。

 これは神様が与えてくれた縁に違いない。

 

「ここから先は森になってるんだ?」

 

「はい、この向こうにはご神木があるんです」

 

「そう言えば、ここの森は大きいけど、ここも神社関係の土地なのか?」

 

 ここの神社の場合はこの付近の山のほとんどが先祖から受け継がれている。

 

「そうですね。この鎮守の森は椎名神社の土地になります」

 

「ちんじゅの森?」

 

 不思議そうに元雪様は尋ね返す。

 そうか、一般の人はあまり知らない事なのかもしれない。

 

「はい。鎮守の森です。元雪様、大抵の神社には森が一緒にあるでしょう?」

 

「……そう言えば、そうだな。思いつく限りの神社のどこにも森がある。あれ?何でだろう?今まであまり気にした事はなかったけども」

 

「それを鎮守の森と言うんです。神社の周りある森のことですね」

 

 私達が今いるこの場所も鎮守の森と呼ばれる場所だ。

 樹齢数百年のご神木を含め、古くからの自然が残されている。

 

「何で神社と森はセットなんだ?」

 

「それは、神社と森には深い関係があるんです。元々、神様と言うのは古い時代からこう言った神域と呼ばれる森を信仰していたのです。自然崇拝、特別な森林には神様がおられる場所と言う事で礼拝していたんですね」

 

「つまり、最初に神社ありきじゃなくて、信仰された自然の森の方が最初にあったってこと?その森を礼拝しやすくするために神社が建てられたのか?」

 

「はい。そうなります。古くから神聖な森があり、その場所に神社が建てられました。そして、その場所を覆うように残された森は特別な森として、鎮守の森と呼ばれているんです。だから、どの神社にも周囲を覆うように森が残されているんです」

 

 今の時代では都会でも数少ない森林に触れられる事のできる場所。

 鎮守の森は周囲が開発されても触れる事を良しとしない。

 神聖な場所ゆえに、今も多くの自然が残されている。

 

「そっか。それで、街中でも神社の場所だけには森があるわけだな」

 

「この神社の場合は山全体が鎮守の森になっていますけどね」

 

 森だけがポツンと残り、周囲が建物だったりる光景も珍しくはない。

 それはそれで、とても寂しい気持ちにはなる。

 自然が消えていく現代でも、鎮守の森にだけは手をつけて欲しくない。

 

「元雪様、こちらがご神木になります」

 

 この神社のご神木は桜の大樹。

 樹齢は数百年、この神社が建てられた以前よりあったらしい。

 

「古い木だなぁ。この木の桜はまだ咲くのか?」

 

「はい。まだ咲きますよ。春になると、とても綺麗な花が咲いています」

 

 夏場は虫が多いので、あまり気の近くには近づきたくないけども。

 

「……おや、こっちの石碑は何だ?」

 

 元雪様が気付いたのは古い石碑。

 その石碑には少し悲しい恋の話が残されている。

 戦国時代にこの椎名神社は今のような大きな神社になった。

 そのきっかけとなったのが、この石碑に名前が刻まれているお姫様。

 かつて、この地を治めていた大名の娘である、紫姫ゆかりひめ

 今もこの神社に伝わる彼女の恋の物語があるの。

 

「……その石碑は昔のお姫様の伝承があるんです」

 

「へぇ、そうなんだ……ぁっ……!?」

 

 一瞬、驚いた表情を見せる彼。

 元雪様はその石碑に触れて何かを感じているように見えた。

 どうかしたのかな?

 

「……元雪様?どうかなさいました?」

 

「いや。うっかり、石に触ったら、手にコケが……気持ち悪い」

 

「もうっ。元雪様ったら驚かせないでください。何かあったんじゃないかって思ってしまいました。手を洗いに行きましょう」

 

「悪いね。あはは……」

 

 でも、去り際に横目で石碑を見つめる元雪様の姿はどこか気になる様子に見えたの。

 私は気になりながらも、その場を立ち去る事にする。

 

「……俺、ここに来た事があるような気がする」

 

 ポツリと独り言のように呟いた元雪様。

 私達はまだ知らない。

 これもまた、私達にとっての縁であったことを――。

 

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