0~プロローグ~
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「せんせい何やってるの」
デスクワークをやっている俺に幼い声で少年は聞いてきた。
「お仕事ですよ」
「ふーん。お医者さん大変?忙しい?」
少年は机に向かっている俺の顔を覗き込む。
少年が着ているのは青い色の病院服だった。
「大変だし忙しいよ」
少年の問いに俺はパソコンのキーボードを叩きながら片手間で答える。
「おしごといつごろ終わる?」
そう幼い声で聞いてきたのは、少年ではなく今度は少女。
少女の顔がどことなく悲しそうな顔をしている様に見えるのは気のせいだろうか。
この子たちの表情は余り変わらないからよく分からない。
「あと少しだよ。終わったら遊んでやるからお部屋で待ってなさい」
今度の表情は分かりやすい。幼い少年と少女は俺の答えに嬉しそうにはにかんだ。
「うん。待ってる」
二人とも声を揃えてそういうと、ぱたぱたと仲良く足音を合わせながら駆けていく。
俺は仕事にもどると、さっきよりもキーボードを打つ手を速めた。
少年と少女がどうして懐いたのか俺には分からない。
少年と少女がいつ出会ったのかも知らない。
勿論、少年と少女がどうして仲良くなったのかも俺には分からない。
でも、俺が少年と少女に出会ったときの事は覚えている。
俺が二人に出会ったのは俺がまだ医者の仕事に慣れきっていない、今から丁度五か月前のまだ風が肌寒い冬の季節のことだった―――
続く