零れ落ちた感情
「夕日坂」をイメージした小説です。
変わることが怖かった。変わらないものなんてあるはずがないのに。
変わらないものがあるのだと信じていたくて。ずっと友達でいられると思っていたくて。
変わりたくなんてなくて。この関係を壊すなんてことできなくて。
夕暮れが迫る白い月が浮かんだ綺麗な水色の空と吐く息の白さが、私に冬が近づいている事を暗に示していてもう少しで受験なのだと嫌でも思い知らされる。私の前を無言で歩く彼は何を思っているんだろう。
「なぁ、」
「何?」
背の高い彼に合わせて歩くといつも歩幅が大きくなる。
もう少しで上りきるこの坂を登りきってしまったらもうわかれ道がすぐそこで知らず知らずのうちに手に力が入る。
「あと少しで受験だな。」
「そうだね。」
志望校が違う私達はこのまま高校にいったらほとんど会えなくなる。彼は県外の全寮制に受験するのだ。
「もう少ししたらこんな風に帰ることとか出来なくなるんだよな。」
寂しそうに――――――何かに耐えるような声。と、そこでかくんと膝が崩れ落ちた。
「・・・・・お前なにやってんだよ。」
どうやら何もないところでつまずいたらしい。あきれたような声。ほらと差し出された手を握り締める。
握り締めた手のひらは大きくて骨ばっていて―――――――優しくて暖かくて離したくなくて。
ぎゅぅっと握り締めると彼が肩をびくりと揺らした。触れた指に伝う鼓動がただ愛しくて。
「なぁ好きな奴っている?」
思わず彼の顔を凝視すると、決まり悪そうに眼をそらされる。
「そういうのあんまり考えたことないんだ。」
嘘だ。そんなの嘘。本当は気づいてる。
私は彼のことを友達以上に思ってることに。彼が好きで好きで世界で一番大切なことに。
それでも私は友達でいたいのだ。友達だったらずっと隣にいられると思ってたから。ずっとずっと隣に。
「俺はお前の事「私達って友達だよね」
彼の言葉にかぶせるように言葉を遮った。それ以上聞いたら友達でいられなくなるから。
聞いてしまったら関係が壊れることが怖くて。この関係に甘えていたくて。
「だよな。悪い。変なこと聞いて。」
彼の顔が泣きそうに歪む。彼は手を私の手から離すと私の髪の毛をクシャリと撫でた。
涙が目に滲みそうになる。離れた手のひらの喪失感が体の中に蔓延して。体が震えた。
「俺達は友達だよ。ずっと、ずっとな。」
目の前にはいつもの分かれ道。私達は坂をいつの間にか上りきっていて。
「じゃあな。」
いつの間にか沈みかけていた夕日を背景に彼は切なそうに微笑んだ。
唇を噛み締める。噛み締めていないと何かがが零れ落ちてしまいそうで怖くて。
彼が後ろを向く。
好きだ。彼が。いつのまにか彼だけを見ていた。彼がいれば笑っていられた。隣にいられる時間がずっと続く気がしてた。何もかもが初めての思い出で大切だった。どんな時も君だけをみていた。
君の手が離れてしまう事が――――――――――怖かった。
夕日を背にむけて歩きだす。当分涙は止まりそうになかった。