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第3話 クレーマーには毅然とした態度(物理)で

状況を整理しよう。


私の店に突然現れた魔王は、本物の魔王で間違いなさそうだ。


あの勇者への恨みは相当なものね。

きっと世界征服を邪魔されたことを根に持ってるんだわ。


さっくりとした衣をつけて揚げた豚カツを土鍋で味噌と一緒にコトコト煮込んだこの店の名物料理、味噌煮込みカツ定食ができるまでの間、ホールの片付けをしたり他のテーブルに料理を運んだりしながら魔王をチラ見していた。


ん?


そこで私はあることに気づいた。


労役組ろうえきぐみはその罪の重さで作業着の色が変わる。

一番重罪が赤、一番軽微なのが水色だ。

さっき私のお尻を触ろうとしてきたゴミクズ共は、全員赤い作業着を着ている。


でも魔王は若草色だ。


……おかしくない?

若草色って、「ちょっとした器物破損」とか「不法侵入」レベルの罪よ?

相手、魔王だよ? 世界を滅ぼそうとしたラスボスだよ!?

何? 破壊しようとしたのが「世界」じゃなくて「近所の植木鉢」くらいだと思われてるの!?


「リジー、6番テーブル持ってって」


6番テーブル。つまり魔王が座るテーブルだ。

トレーに入った味噌煮込みカツ定食がおいしそうな匂いと湯気を出している。


震える手をなんとか抑えてトレーを運ぶ。


机の上に置くと魔王の表情がぱっと明るくなった。


「おお! これが『勇者の——」

「お待たせしましたあ。ごくごく一般的な味噌煮込みカツ定食です!」


私はそのままテーブルを離れた。


「リジーちゃーん! こっちが頼んだものまだ届かないんだけどー!」

「すみません、確認します!」


赤色作業服のクズ共がこっちを見ながらニヤニヤしている。

絶対ろくなこと考えてない。

そもそもあんたらが頼んだものはさっき持って行ったでしょうが!


「ご注文の品はすべてお出ししてるようですが、何か届いていないものがありますか?」


私はプロの営業スマイル(ひきつり気味)で対応する。


「いや、あれだよあれ」

「あれって俺たちが頼んだ料理だろ? なんであいつが食ってんだよ」


クズ共が指さしたのは魔王の目の前にある味噌煮込みカツ定食だった。

案の定ただのイチャモンだ。

だが相手は凶悪犯だ。私はぐっとこらえる。


「すみません、お客様。注文が通っていなかったみたいです。すぐに作ってきますね」

「嫌だね。俺はあれが食いてえんだよ。あいつから取って来いよ」

「申し訳ありません、あれはあちらのお客様に提供したものなので、新しいものを」

「嫌だっつってんだろ。あれ以外駄目だ!」


わがまま言ってんじゃないわよ!

実際頼んでなかったでしょ! そういうのちゃんとわかってるんだから!


「だいたいさあ、魔王だか何だか知らねえけどよ。あいつまじでうるせえんだよ」

「だよな。今日だって俺らのやり方にケチつけやがって。新入りのクセによ!」


雲行きが怪しくなってくる。

これは俗にいう、新人いびりというものだろうか。


「だいたい、なんだよ魔王って。中二病かよ!」

「あんな優男が魔王なわけあるかよ! ダッサ!」


ギャハハハと下品な笑い声が店に響く。

私は拳を握りしめた。

お前らみたいなクズ共より、魔王のほうがよっぽどまともじゃないか!


「なあ、リジーちゃんもそう思うだろー?」


私に話しかけてくるな!

不愉快だわ。

これを解決するには……暴力しかない!

こういうこともあろうかと、私はいつもメリケンサックを持っているのよ!

喰らえ!


私が拳を振り上げた、その時。


「黙って聞いておれば言いたい放題言いおって」


低く静かな声が喧騒を鎮めるように響き渡った。


魔王がゆっくりと、圧倒的な威厳をもって立ち上がったのだった。


次回、『お客様は魔王様です!』

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