第21話 敵国将軍と、結ばれましたっ! イクシオンside
ラフィーネの身体の上に跨ったイクシオンは、わりと苦戦していた。
(落ち着け……落ち着け……落ち着け……)
深呼吸した後、彼女の身体に近づいたのだけれど……
「きゃっ……」
ラフィーネの身体がどうしても上に逃げてしまうのだ。
「姫様、逃げたら続きができないです」
「ごめんなさい、痛いと聞いたことがあるので怖くて……」
いつになく殊勝な態度の彼女が、少しばかし新鮮で感動を覚えてしまう。
黄金色の瞳を潤ませる彼女は、可愛い。
イクシオンは咳払いして話題を戻した。
「そうだ姫様、キスは途中からでも大丈夫ですか?」
「私に聞かれても、よく分からないので……シオンのやりたいようにお願い致します……今度こそ逃げないように頑張りますから」
顔を真っ赤にして上目遣いしてくる彼女の姿を見て、愛らしいと思う反面、イクシオンは後悔していた。
(やっぱり、娼婦の相手は嫌だと言わずに経験しておくべきだったか……?)
そうしたら、こんなに初夜で戸惑わなかったかもしれない。
しかし、心の中で否定する。
(俺も初めてだと聞いたら、ラフィも嬉しそうだったから、今の考えはなしだ)
とはいえ、部下の話を聞いておかないといけなかったかと再び後悔(略)
気を取り直して、彼女の身体がずれないように腰を掴んだ。
「姫様、俺の背中にしがみついて、首でも良いです」
「は、はいっ……」
彼女がぎゅっとしがみついてくる。
ぞくっとして、今のはかなりまずかった。
(いつになくラフィが謙虚で可愛いせいで……これに耐えながら、完遂に持っていくのは至難の業だ……)
ラフィーネ姫からもたらされる想像以上の強い刺激や罠(?)に耐えながら、今度こそ自身の手の力も借りながら逃がさないように頑張った。
(今度は大丈夫そうだ)
紛らわせるかのように、口づけを施す。
彼女の柔らかな唇と身体と、背に回された細い腕と――何より繋がっていることによる喜びとで、そのまま天に昇る勢いだった。
けれども、ここで意識を失ってはならない。
イクシオンは限界の先に意識を持ってくことにした。
しばらく口づけていると、段々と彼女が落ち着きを取り戻していった。
師のように痛みを緩和できる魔術が使えたら良かったのにと、こんな時に思う。ラフィーネ本人は自分自身に治癒術をかけることが出来なかったはずだから。
彼女の汗をにじませる額や唇に口づけながら、白金の髪を撫でる。
そうして――イクシオンはなんとか最後までやり遂げることができたのだった。
※※※
結ばれ合った後、イクシオンはラフィーネから離れた。
肺に息を取り込む。
かなり緊張していたようで、剣の稽古でも汗をかかないのに、ぽたりと雫が零れ落ちていた。
頑なに目を閉じる彼女に、何度も軽い口づけをおこなった後、声を掛ける。
「もう大丈夫ですよ」
ラフィーネの潤んだ黄金の瞳と目が合う。
「もう、終わったのですか……シオン」
彼女がそっと身体を寄せてきた。
柔らかな感覚が堪らなく愛しい。
「……痛みはどうでしょうか?」
「今は大丈夫のようです……シオンはどうでしょうか?」
「俺は大丈夫です……だけど、姫様の身体に負担がかからなかったか心配で……あ、そういえば、子どもが……」
今更だが、ラフィーネ姫には自分の子どもを産んでもらいたいという思いがあったから、避妊だとかもすっかり忘れてしまっていた。
(ラフィに不誠実だと怒られるかな……)
昨今、色々と便利な魔法は存在するが、こと子どもの誕生に関しては神の領域だと言われていて、触れるのは禁忌とされている。避妊の魔法や魔術といった便利なものは存在しない。
自分の愚かさに落ち込んでいると……
「貴方の妾になった時点で、そういうリスクは承知の上ですけれども……」
――眉をひそめながら自分を見てくるラフィーネ姫の視線が痛い。
自分が情けなくて、イクシオンは眉を顰めた。
「やはり、俺は順番を間違えてしまうようだ」
すると、彼女のすらりと長い指が彼の頬を撫でてきた。
「私も言い方が悪かったです。シオンは子が出来たら、ちゃんと一緒に育ててくださるのでしょう?」
「もちろんです! 誕生日になったら、ちゃんと伝えますけど、貴女を日陰の身には絶対しませんから!」
イクシオンが俄然張り切って答えると、ふわりとラフィーネ姫が微笑んだ。
「ありがとうございます」
ラフィーネ姫から感謝されるなんて、最高の初夜だとイクシオンの気分は一気に高揚する。
これまでに経験したことのない解放感と高揚と力の漲り、心地よいが、全身を襲ってくる。
そうして、彼女と何度も口づけを交わした。
しばらく抱きしめ合って、気怠げな彼女の柔らかな肌にキスの雨を散々降らせていると……
「シオン、どうですか、お身体の方は?」
自分の身体の方がきついだろうに、相手のことを心配してくる彼女の優しさが胸を熱くしてくる。
「よく分からないけれど、異常に充ちる感覚があります」
「充ちる感覚ですか……?」
彼女の中で動くたびに、仄かに温かい活力がみなぎるのが分かった。
「鱗は?」
シャツを捲り上げて覗く。
「痣に戻ってるみたいです」
「良かった、じゃあ、成功でしょうか? 私でも貴方の役に立てることがあって、本当に良かった」
「竜に覚醒した者」と「番」。
伝承の通り、「番」の純潔を喰らったことで、「竜に覚醒した者」の力が安定したのだろう。
「姫様のおかげです。貴女がいなかったら、俺は……本当に、ありが――」
イクシオンの言葉が詰まる。
気づけば、涙が零れていた。
「すみません、情けないな……」
ラフィーネがそっとそれを拭う。
「そんなことはありません。シオンがアモルから連れ出してくれなかったら、こんな幸せな初めてを迎えることは出来なかったはず」
心臓を掴まれたかのように、どうしようもない幸せが胸に去来した。
「俺はすごく幸せです、ラフィーネ姫」
「私も幸せです。ありがとうございます、シオン。子どもの頃からの夢が叶って嬉しいです」
微笑むラフィーネの姿をイクシオンは見つめる。
(俺は……ラフィーの夢を叶えて……)
――心の中で、彼自身が叫んだ。
違う。
本当は、彼女はちゃんと誰かの妻になって、相手に捧げたかったはずだ。
彼女自身の夢を知っていたはずだったのに、自分の意気地がなかったがために――本当なら今以上に幸せな初夜になったかもしれないのに……
言わなくても察してくれる彼女の優しさに甘えすぎたのだ。
「ラフィーネ、やっぱり祝賀まで待てそうにない。貴女に、もう先に伝えてしまいたい」
――愛している、と。
だけど、彼女が先に、不安になる言葉を紡ぎはじめた。
イクシオンの全身がざわつく。幸せの絶頂にあったはずなのに、どうしてだか手指も震えはじめる。
「私も、すごく幸せです、シオン。だけど……」
ラフィーネの白金色の睫毛が震える。
「もしこの先、私に何かあったとしても、シオンは誰か別の女性と結婚して……どうか、幸せに過ごされてください。貴方がアモルを追放されてからずっと……私は貴方の幸せを祈っていました。貴方が幸せなら私も幸せですから」
一気にまた不安になる。
どうしてラフィーネは急にこんなことを言い出したのだろうか?
(全部、俺が悪い)
きっと自分のこれまでの不甲斐ない態度のせいに違いない。
「それは出来ない約束だ。貴女が俺の番だというなら、なおのこと俺には貴女以外ありえない。これまでもこれからも、俺は貴女がそばにいてさえくれれば、他には何も要らない」
「シオン」
イクシオンは眼差しを強くする。
「だから……俺から離れようとしないで、ずっと一緒にいてください、ラフィ」
「……シオンったら……分かりました」
ラフィーネの答えが嬉しくて、イクシオンの胸が幸せでいっぱいになる。
ふと、彼女の頬を撫でていると、アモルの村で購入したイヤリングが目に入った。
アメジストに似た宝石は、購入時に比べると精彩を欠いているようだ。
「ところでシオン……」
けれども、ラフィーネに声を掛けられ、意識を引き戻される。
「なんでしょう、ラフィ?」
「その、シオンが良いと思うまで、どうぞ」
恥じらいながら告げられると、一気に気分が高揚していく。
「ラフィ……!」
結局、彼女の言葉に甘えてしまい、「眠いです」と言われるまで、何度も彼女のことを求めてしまったのだった。
※※※
夜半。
眠る彼女に向かって、今度こそ伝えるのだと……ポムウルフを数える代わりに、イクシオンは求婚の言葉を何度も練習していた。
眠る彼女の肌は、まるで死者のようにひどく白くて美しい。
「俺は、ラフィーネ姫を愛……」
今度こそ、絶対に成功させるのだ。
目が覚めて一番に気持ちを伝えたら、彼女はどんな反応を返してくれるだろう。
「俺のラフィ。俺は、ラフィーネ姫を愛……」
今更だと呆れるだろうか。
祝賀まで待つと言ったのにと怒るだろうか。
それとも、嬉しいと笑うのだろうか。
「俺は、ラフィーネ姫を愛……」
だけど、きっと悪い話にはならないはずだ。
イクシオンは生まれてから一番幸せな夜を過ごしていた。
「俺は、ラフィーネ姫を愛……」
求婚の練習をしながら、とても、すごく、かつてない幸せの中に彼はいたのだ。
「ラフィーネ姫、俺の最愛の……」
そう。
翌朝になっても。
どれだけ待っても……昏々と眠り続けるラフィーネ姫が目を覚まさないことに気づくまでは。
お読みくださってありがとうございます!
第4章はこれにて完結です!次の第5章で本編完結となります!
※初夜回は全年齢に応じてだいぶ改稿していますが、イクシオンの気持ちが結構面白いので、良ければムーンライトノベルズやアルファポリスさん側の作品も読んでみてくださいませ(*'ω'*)




