最終章 始まりの朝、そして未来
窓の外はすっかり明るくなり、朝の光が薄いカーテン越しに部屋に差し込んでいた。
誠の部屋のベッドの上、梨沙は彼の逞しい腕に抱かれ、穏やかな寝息を立てていた。
誠は、まだ夢の中にいる梨沙の頬に、そっと唇を落とした。
十五年前のあの夜からずっと、彼の心に重くのしかかっていた罪の意識が、昨夜の愛の結実によって、ようやく昇華されたのを感じていた。
恐怖と混乱に満ちていた梨沙の記憶は、愛と安堵に満ちた新しい記憶によって、完全に上書きされたのだ。
やがて、梨沙がゆっくりと目を開けた。
目覚めのキスを交わした後、梨沙は誠の胸に顔をうずめ、深く息を吸い込んだ。
「…お兄ちゃん」
彼女の声は、朝特有の掠れを含み、どこまでも愛おしかった。
「おはよう、梨沙」
「おはよう…こんな朝を迎えるなんて、夢みたい」
「夢じゃない、現実だよ。俺たちの新しい始まりだね」
誠は、梨沙の細い指に、自分の指を絡ませた。
「昨日のこと、後悔してないか?体が痛くないか?」
誠が優しく尋ねる。
「少しだけね。でも、心が、こんなに軽くて温かいのは初めて。十五年間、ずっと冷たい氷の中にいたみたいだった。でも、もう大丈夫。お兄ちゃんが、全部溶かしてくれたから」
梨沙は、そう言って心からの笑顔を見せた。
その笑顔は、三十歳という年齢の深みと、少女のような純粋な輝きを併せ持っていた。
しかし、現実が、二人の甘い時間に静かに影を落とす。
「…哲也のこと、どうするつもり?」
梨沙が真剣な表情で尋ねた。
「俺はもう、あの男に梨沙を渡すつもりはない。陸と海にとっても、それが一番いい選択だ」
誠の言葉には、迷いがなかった。
「でも、子供たちのこと、世間の目、母さんのこと…」
「大丈夫だ。全部、二人で乗り越えられる。俺はもう、逃げない。過去の罪にも、未来の困難にも。俺がこの家に帰ってきたのは、梨沙と、子供たちを守るためなんだから」
誠は、梨沙の頬を両手で包み、その瞳を真っ直ぐ見つめた。
「梨沙、俺と生きてほしい。この家で、俺と一緒に、母さんと、陸と海を育ててほしい。十五年前に犯した過ちを、これからの人生、愛と責任に変えて償わせてくれ」
それは、兄妹としての情愛を超えた、一人の男性としての求婚だった。
梨沙の瞳から、再び涙が溢れ出した。
「お兄ちゃん…ありがとう」
梨沙は、涙と笑顔を混ぜ合わせ、誠の首に腕を回した。
「私、もうお兄ちゃんから離れない。怖い思いも、辛い思いも、全部お兄ちゃんがいるから乗り越えられたよ。ずっと一緒にいて…」
二人の間に、新たな誓いのキスが交わされた。
それは、過去のすべての罪を洗い流し、未来への希望に満ちた、温かい約束だった。
その後、誠は母に、そして陸と海に、哲也との別居と、誠と梨沙が共に生きていく決意を伝えた。
母は、すべてを察していたかのように、ただ静かに「よかった」と涙を流した。
子供たちは、自分たちに優しく、いつもそばにいてくれる誠の存在を、心から喜んだ。
誠と梨沙の関係は、血の繋がりを超え、魂で結びついた、愛の再生という感動的な物語として、その朝、静かに、そして力強く、幕を開けたのだった。




