第二章 妹との再会と警戒心
数時間後、パートを終え、陸と海を保育園から連れて帰ってきた梨沙と、誠は再会した。
「おじちゃん!」
甥の陸と姪の海が、元気な声で駆け寄る。
誠は彼らを抱き上げ、心から笑った。
その背後で、梨沙が立ち尽くしていた。
三十歳になった彼女は、疲労の色を隠せないパート姿だが、その佇まいには、変わらぬ儚い美しさがあった。
「…お兄ちゃん、お帰り」
梨沙の声は、昔の溌溂としたものではなく、硬く、よそよそしい。
その瞳は、再会を喜ぶものではなく、強い警戒心と、深い恐れを含んでいた。
誠もまた、その瞳を見た瞬間、体が硬直した。
彼女が恐れているのは、誠の存在そのもの、そして、十五年前のあの夜の記憶だ。
「ただいま、梨沙」
誠は努めて冷静に振る舞ったが、二人の間に流れる空気は、触れれば爆発する火薬のように緊迫していた。
梨沙の夫、哲也は零細企業の平社員で経済力は低く、ほとんどが地方への出張で家にいない。
彼は家庭の苦労を顧みず、妻と子供を実家に押し付けている状態だ。
梨沙は、その孤独を抱えながら、母の美津子、そして二人の子供、特に海の特別なケアで心身ともに疲弊していた。
「母さんのことは、俺が全部見る。梨沙は、子育てとパートに集中してくれ」
誠は、そう告げた。
それは献身的な兄の言葉であると同時に、梨沙の警戒心を解き、過去の罪を償おうとする、男としての決意でもあった。




