第一章 帰郷の重さ
宮沢誠、三十三歳。
都心の高層マンションから、都心近郊の古い実家に戻ったのは、母の要介護という現実と、十五年前の過去の記憶という二つの重荷を背負うためだった。
誠の父は四年前、ガンで他界した。
その一年後、妹の梨沙が、夫の哲也と二人の子供、陸(五歳)と海(三歳)を連れて実家へ戻っていた。
海は生まれつき軽度の障害を持っており、また、夫の哲也も仕事柄出張が多く、ほとんど家にいないため、美津子の手助けが必要だったからだ。
そして一カ月前、母・美津子が軽い脳梗塞で倒れ、左半身に麻痺が残った。
リモートワーク主体の誠が、介護の主たる担い手になるのが最良の選択だった。
玄関の扉を開け、誠は深く息を吸い込んだ。
古びた木材と、かすかな埃の匂い。
そして、心の奥底で感じたのは、梨沙という存在が放つ、禁断の情熱の残り香のような、張り詰めた空気だった。
「ただいま、母さん」
リビングに向かうと、美津子はロッキングチェアに座り、庭を眺めていた。顔色はまだ優れないが、誠の呼びかけに、ゆっくりと微笑んだ。
「おかえり、誠。無理しなくていいのに。あなたの生活を壊しちゃうんじゃないかって、そればかりが心配よ」
誠は母の前に屈み込み、その弱々しい手を握った。
「大丈夫だよ、母さん。仕事はどこでだってできる。任せてよ」
誠の瞳に宿るのは、献身と、過去への贖罪の決意だった。




