表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/15

第6話 火事だと思ったら、ドワーフの集団が乱入してきました

 辺境生活、四日目の朝。

 私は、昨日作ったばかりの露天風呂で朝風呂を堪能していた。


「はぁ〜……最高……」


 朝のひんやりとした空気の中、温かいお湯に浸かる贅沢。

 お湯は『魔力式・瞬間湯沸かし器』のおかげで、いつでも適温に保たれている。


 モコも縁で丸くなってウトウトしているし、平和そのものだ。


「そろそろ上がって、朝食の準備をしないとね」


 今日はパンケーキにしようかな。森でハチミツも見つけたし。

 そんなのんきなことを考えながら、お風呂から上がり、着替えを済ませてリビングへ戻った時のことだった。


 バタンッ!!


 玄関の扉が勢いよく開かれ、アレクセイが飛び込んできた。


 彼の顔は険しい。


「マリエル、伏せろ!」


「えっ、何です!?」


「囲まれた。……数が多すぎる。おそらく、三十人以上だ」


 アレクセイが剣を抜き、私を背に庇うようにして立つ。

 その背中から、ビリビリとした殺気のようなものが放たれている。


(さ、三十人!? 追手? それとも盗賊?)


 心臓が早鐘を打つ。

 窓の外を見ると、確かにガヤガヤという話し声と、土を踏みしめる多数の足音が近づいてきていた。


「おい、確かにここから煙が見えたぞ!」

「急げ! 山火事になったら一大事じゃ!」

「斧を持て! 水を準備しろ!」


(……ん?)


 聞こえてくるのは、殺伐とした掛け声というより、やけに焦ったような、それでいて親切そうな叫び声だった。


 そして何より、声が野太い。


 ドンドンドンドン!!


 激しくドアが叩かれる。


「おーい! 誰かいるか! 火事だぞ! 逃げろ!」


「……あれ?」


 私はアレクセイの服の裾を引っ張った。


「アレクセイさん、ちょっと待ってください。これ、敵じゃないかも」


「なに?」


「火事って言ってます。たぶん、お風呂の湯気を煙と勘違いしたんじゃ……」


 アレクセイは一瞬きょとんとして、それからゆっくりと剣を下げた。


「……なるほど。そういうことか」


 彼は大きなため息をつき、警戒を解いてドアを開けた。


 ***


 ドアの向こうにいたのは、身長は私の胸辺りまでしかないけれど、横幅は二人分くらいありそうな、筋肉質の男たちの集団だった。

 立派な髭を蓄え、手には斧やツルハシを持っている。


 間違いなく、ドワーフだ。


「な、なんじゃお前さんたちは! 無事か!?」


 先頭にいた、特に立派な白髭のドワーフ(親方っぽい)が、大声で尋ねてきた。


「ええ、無事ですよ。お騒がせしてすみません。あれは火事じゃなくて、お風呂の湯気なんです」


 私が説明すると、ドワーフたちは顔を見合わせ、ポカンとした。


「……風呂? こんな森の奥でか?」


「はい。よかったら見ていきますか?」


 私は彼らを裏庭の露天風呂へと案内した。


 まだ湯気が立ち上る岩風呂を見て、ドワーフたちは「おおぉ……」とどよめいた。


「見ろよ親方、こりゃすげえ。一枚岩をくり抜いてやがる」

「しかもこの石の加工……表面がガラスみてぇにツルツルだぞ。どんな職人がやったんだ?」

「おい、こっちの装置は何だ? 勝手にお湯が湧いてくるぞ!」


 彼らはただの野次馬ではなかった。


 職人肌の彼らは、風呂そのものよりも「どうやって作ったか」に興味津々で、私の作った湯沸かし器や、アレクセイがくり抜いた岩をペタペタと触り始めたのだ。


「あの、これを作ったのはそこの嬢ちゃんか?」


 親方と呼ばれていたドワーフが、私を睨むように(元々そういう顔つきなだけだろうけど)見てきた。


「はい。私の魔法と、そこの彼の力技で作りました」


「ふむ……嬢ちゃん、人間にしてはいい腕をしてるな。特にこの湯沸かし器の配管、継ぎ目がねぇぞ。どうやった?」


「えっと、銅板を魔法で溶接して、一体成型したんです。水漏れが嫌だったので」


「魔法で溶接だと!? バカ野郎、そんな贅沢な魔力の使い方が……いや、合理的か……?」


 親方はブツブツと独り言を言いながら、私の作ったパイプを愛おしそうに撫で回している。

 どうやら、気に入ってもらえたらしい。


「俺たちは、この山の向こうで鉱山を掘ってるドワーフ族だ。俺は親方のガンテツってんだ」


「私はマリエルです。こっちはアレクセイさん」


「おう、よろしくな。……しっかし、火事じゃなくてよかったが、こんな立派なもん見せられちゃあ、黙って帰るわけにゃいかねぇな」


 ガンテツ親方はニカッと笑うと、後ろの仲間たちに号令をかけた。


「おい野郎ども! 火事場見舞いに持ってきた『祝い酒』と『干し肉』があるだろ! ここで宴会だ!」


「「「 おうよ!!! 」」」


 ……なぜ火事場見舞いに酒を持ってくるのかは謎だが、ドワーフというのはそういう種族なのだろう。

 こうして、なし崩し的に「朝から大宴会」が始まってしまった。


 ***


 廃屋の庭に、ドワーフたちが持ってきた樽が並べられる。

 焚き火を囲んで、酒盛り(まだ午前中なのに)がスタートした。


「ほれ、マリエル嬢ちゃんも飲め!」


「あ、ありがとうございます……」


 渡されたのは木彫りのジョッキに入ったエールだ。一口飲むと、芳醇な香りが広がる。意外と美味しい。


「ふん、朝から酒とはな。まあ、悪くはないが」


 アレクセイも苦笑しながら、ドワーフたちに勧められるまま杯を空けている。

 彼は意外と酒に強いらしく、ドワーフたちと「どっちが強いか勝負だ!」なんて盛り上がっていた。


 私はというと、ガンテツ親方に質問攻めにされていた。


「なぁ嬢ちゃん、あの屋敷の窓に使ってるのは雲母か? あんな加工、見たことねぇぞ」


「あれは薄く剥がして、樹脂で固めたんです。ステンドグラスみたいにしたくて」


「ステンドグラス……! なるほど、教会にあるアレか! それを雲母でやるとは、発想が狂ってやがる(褒め言葉)」


 ガンテツ親方は私のDIY話をすごく楽しそうに聞いてくれる。

 前世でも、建築の話をこんなに熱心に聞いてくれる人はいなかった。


 なんだか、おじいちゃんみたいで話しやすい。


「そうだ、親方。私、この屋敷をリフォームしたいんですけど、金属の加工をする設備がなくて困ってたんです」


「あん? 鍛冶場か? ならウチの村に来れば貸してやるぞ。ついでに、余ってる鉄くずくらいなら分けてやらぁ」


「えっ、本当ですか!?」


「おうよ! その代わり、嬢ちゃんのその魔法で、俺たちのツルハシを強化してくれねぇか? 最近、鉱脈が硬くて刃こぼれがひどくてな」


「もちろんです! ウィンウィンですね!」


 交渉成立だ。

 これで鉄製品が作れるようになれば、フライパンも作れるし、釘も量産できる。DIYの幅が一気に広がる!


「……マリエル」


 ふと、横から低い声がした。


 見ると、アレクセイが少し赤い顔で、私と親方の間に割って入ってきた。


「あまり、他の男と楽しそうに話すな」


「えっ? でも、仕事の話ですよ?」


「それでもだ。……君の笑顔を独占できるのは、俺だけの特権だと思っていたのに」


 彼は私の肩に頭を乗せ、スリスリと甘えてくる。

 大型犬モードだ。酔っ払っているのかもしれない。


「かーっ! 若いねぇ! アツアツだねぇ!」


 ドワーフたちが指笛を鳴らして冷やかす。


 私はカァッと顔が熱くなった。


「ち、違いますから! アレクセイさん、重いです!」


「やだ。離さない」


 結局、その日は夕方になるまで宴会が続き、アレクセイはずっと私にくっついていた。


 ***


 ドワーフたちが千鳥足で帰っていった後。

 静かになった庭で、私は大量の「お土産」を見つめていた。


 彼らが置いていったのは、酒樽だけではない。

 鍛冶に使うための鉄鉱石の塊。鉱山で採れたという、七色に光る水晶の原石。

 

 そして、「また来るからな!」という熱い約束。


「……賑やかになりそうですね」


「ああ。だが、悪くない」


 アレクセイは酔いが覚めたのか、いつもの優しい笑顔に戻っていた。


「君の作る場所には、人が集まる。それはきっと、君が楽しそうに作っているからだ」


「そうですか?」


「ああ。……俺も、その引力に惹かれた一人だからな」


 彼はそう言って、私の髪を一房すくって口づけをした。


「っ……///」


 突然の不意打ちに、心臓が跳ねる。


 ドワーフたちとの宴会も楽しかったけれど、やっぱり二人きりの時間が一番落ち着く――なんて、まだ本人には言ってあげないけれど。


 こうして、私は強力な「素材供給ルート(ドワーフの鉱山)」を手に入れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ