第4話 初めての共同作業と、キラキラ光る窓ガラス
森から大量の資材(と、一匹のモフモフ)を持ち帰った私たちは、さっそく屋敷のリフォームに取り掛かることにした。
「よし、まずはこのリビングを完璧に仕上げましょう!」
私が気合を入れて宣言すると、アレクセイが腕まくりをして応える。
「了解だ、現場監督。俺は何をすればいい?」
「アレクセイさんには、あの腐った床板の撤去と、新しい木材のカットをお願いします。私が指示した寸法通りに切ってほしいんですけど……」
「任せろ。剣の修行の一環だと思えばいい」
彼は森で拾ってきた手頃な丸太を一本掴むと、腰のダガーナイフを抜いた。
本来ならノコギリでギコギコやる作業だ。
しかし、彼は丸太を空中に放り投げると――。
ヒュン、ヒュンッ!
目にも止まらぬ速さでナイフを一閃。
ドサドサッと地面に落ちた木材は、定規で測ったかのように正確な板材になっていた。
「……こんなもんでどうだ?」
「す、すごすぎます……! 大工さんが泣いて逃げ出すレベルですよ!」
「はは、おだてても何も出ないぞ」
アレクセイは謙遜しているけれど、彼の剣技は明らかに達人の域だ。
傭兵というのは世を忍ぶ仮の姿で、本当は高名な騎士団長とかかもしれない。
まあ、今の私にとっては「超優秀な加工マシーン」としていてくれるだけで十分ありがたい。
***
強力な助っ人のおかげで、下準備はサクサク進んだ。
私は【創造】のスキルを全開にして、壁の穴を埋めていく。
森で採ってきた粘土質の土に、石灰と藁を混ぜ、水を加えて練り上げる。
普通なら数日寝かせて発酵させる漆喰も、魔法で時間を短縮すれば一瞬で完成だ。
「えいっ、えいっ!」
コテを使って、壁に漆喰を塗っていく。
灰色だった剥き出しの壁が、温かみのあるクリーム色に変わっていくのは見ていて気持ちがいい。
「メアッ!」
足元では、新入りマスコットのモコが、私の真似をして尻尾で壁をペシペシ叩いている。
邪魔可愛い。
あ、しっぽに漆喰がついちゃった。あとで拭いてあげないと。
「マリエル、床板の張り替えは終わったぞ。次は何だ?」
アレクセイが額の汗を拭いながら声をかけてくる。
見ると、穴だらけだった床は、真新しいオーク材で綺麗に塞がれていた。
木のいい香りが部屋に充満している。
「ありがとうございます! 次は一番の問題、あの『窓』です」
私はリビングの大きな窓枠を指差した。
ガラスはとうの昔に割れ落ちて、今はただの四角い穴が開いているだけ。
ここを塞がないと、夜風は寒いし、虫も入り放題だ。
「板で打ち付けるか?」
「うーん、それだと部屋が暗くなっちゃうんですよね。せっかく南向きで日当たりがいいのに」
私は腕組みをして考えた。
ガラスなんて高度な製品、辺境の森には落ちていない。かといって、王都から取り寄せるお金もない。
(……待てよ。森の奥の川辺で、キラキラ光る石を見かけたような)
私は採取してきた袋の中身を漁った。
あった。半透明の、薄い層が重なったような石。
「これです!」
「……ただの石に見えるが」
「これは『雲母』ですよ。薄く剥がせるし、熱にも強いんです。これを加工すれば……」
私は雲母の塊を手に取り、集中する。
イメージするのは、ステンドグラス。
一枚の大きな透明ガラスを作るのは難しいけれど、小さな欠片を繋ぎ合わせれば、光を通す窓ができるはずだ。
「――【創造】!」
手の中で雲母が薄く剥がれ、六角形のピースに変わっていく。
それを何枚も何枚も作り、鉛の代わりに樹液を固めたフレームで繋ぎ合わせていく。
パズルを組み立てるような細かい作業。
額に玉のような汗が浮かぶ。魔力の消費も激しい。
「……よしっ!」
最後のピースがハマった瞬間、淡い光と共に一枚のパネルが完成した。
完全な透明ではないけれど、磨りガラスのような優しい風合いの、ハニカム構造の窓だ。
「アレクセイさん、これを窓枠に!」
「任せろ!」
彼が軽々とパネルを持ち上げ、窓枠に嵌め込む。寸法はぴったりだ。
その瞬間。
西に傾きかけた太陽の光が、雲母の窓を通して室内に差し込んだ。
光は六角形のモザイク模様を描きながら拡散し、部屋全体を黄金色に染め上げた。
「……綺麗だ」
アレクセイが、呆然と呟いた。
彼が見つめる先には、ただの廃屋だった場所が、光に満ちた幻想的な空間へと変わっていた。
「雲母の結晶が光を乱反射してるんです。これなら、外からの視線も遮れるし、明かり取りとしても十分でしょう?」
「ああ……王宮のどんな宝飾品よりも美しいよ」
彼は眩しそうに目を細め、それから私を見て、優しく微笑んだ。
「君は本当に魔法使いだな。何もなかったボロ屋に、こんな温かい光を灯してしまうんだから」
「……っ」
直球の褒め言葉に、顔が熱くなる。
夕日のせいにして誤魔化そうとしたけれど、彼の蒼い瞳に見つめられて逃げ場がない。
「メア〜(お腹すいた〜)」
その時、空気を読まないモコの声が響いて、私たちはハッと我に返った。
「そ、そうね! 夕飯にしましょうか!」
「そ、そうだな! 働いた後の飯は美味いはずだ!」
私たちは慌てて視線を逸らし、台所(といっても石を組んだだけのスペースだが)へと向かった。
なんだか、心臓がトクトクとうるさい。
その日の夕食は、森で採れたキノコと香草をたっぷり入れたリゾット。
綺麗になったリビングで、手作りの窓から差し込む月明かりを見ながら食べる食事は、今まで食べたどんなフルコースよりも美味しかった。
「明日は何を作る?」
食後のハーブティーを飲みながら、アレクセイが楽しそうに聞いてくる。
もう「いつ出ていくのか」なんて聞く野暮なことはやめた。
「そうですね……お風呂、欲しいですよね」
「風呂か! それはいい。俺がでかい岩を掘って浴槽にするか?」
「ふふ、それなら給湯システムも作らないとですね」
やりたいことは山積みだ。
でも、焦ることはない。
ここでの生活は、まだ始まったばかりなのだから。
こうして、リフォーム初日は大成功のうちに幕を閉じた。
……ちなみに、翌朝起きたらモコが雲母の窓を舐めてベトベトにしていたので、後でしっかりと躾をしたのは言うまでもない。




