第8.5話 魔王と勇者
今回は、8.5話です。
魔王と勇者のお話です。
ちょっといつもとトーンが違いますがゆるく読んで頂けると嬉しいです
夜明け前、闇は深まり暁を迎える準備をしていた。
魔王は自室で紅茶を飲み、物思いにふけっている……世界征服は進まない。しかし魔王はそれで良かった。
「あなたの世界征服がずっと見ていたいわ」
魔王の脳裏に、彼女の言葉が浮かんだ。
「見てくれているかの……」
かつて、魔王は力を振るい、世界を従わせていた。恐怖で心を縛り付けることは簡単だった。
「そんなのって、楽しくないじゃない。もっと優しく世界征服しなさいよ」
彼女の笑顔が、彼女の優しさが、彼女の間抜けさが、魔王を変えた。
「はは、優しい世界征服ってなんなんじゃ、まったく…」
思い出の中で笑う彼女につられ、魔王も笑った。魔王の心には、小さな光が灯り続けていたーーー
夕暮れ。空は赤く染まり、深い青へと姿を変える。
少年は剣を振るっていた。迷いを振り払うように、一心不乱に。
「お前は特別だ。世界を救ってくれ」
「お前しかやれない」
人々の期待は、時として彼の自由を奪っていた。
「魔を滅することが出来るのはお前だけだ」
そう教えられてきた。疑ったことはない。疑う余地は与えられてこなかった。
「お前、ちょっと世界を見てこい。俺の飲み仲間が考えた修行だ。『可愛い弟子には、冒険をさせよ』ってやつだ」
昨日の事だ。師匠は言葉とは裏腹に、真剣な表情で言った。
魔王討伐。
その使命だけを胸に《勇者》は旅立とうとしていた。その碧い瞳に、夜に染まった影を携えて。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
この後も続きますので、引き続き読んで頂けると嬉しいです。
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