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あれからナナリはたまに人型になるようになった。


現に今も人型になっており、本を読んでいるエナをナナリが後ろから包み込むように抱きしめている。

コミュ障のエナは距離感もバグっており、ナナリに普通だと言いくるめられると、すっかり信じてしまい、人型のナナリがベッタリなのも許すようになっていた。



貴族としてお茶会に出たり、領地の民と交流したりしなくていいエナは、基本暇である。

そのため多趣味になっていた。

街に出かけては本を買っているので、家にはそこそこ本がある。

自力で勉強しないといけないため難しい書籍も読むが、そんな本ばかり読んでる訳ではく、むしろエナが一番好きなのは料理本である。


後ナナリに内緒で猫の気持ちについての書籍も集めている。

読書の他には、料理、掃除、天体観測、インテリア、外国語などである。


身の回りの事を自分でしないといけなかった故の趣味が多いが、それなりに楽しんでいた。



「エナ〜」


「んー? なにー?」


「本邸のお嬢様がさ、王都学園に行くんだとさ」


「……あ、そっか。凄いね」



国立王都学園はこの国の秀才たちと貴族が集まる最難関校である。


貴族の子女は基本学園に通う。

学園は八年制になっており、十歳から十八歳の子供たちが通っている。


大きく五年次と三年次に分かれており、前半の五年次までは、基礎を万遍なく学び、六年次からは専攻科目に絞って専門的に学ぶ。

そのため、五年次の十五歳までは学園に行かないで、各家庭で家庭教師をつけ個人で勉強をする人もいるが、十五歳になったら社交界の前の交流として、必ず学園に通い勉強しなければならない。


高位貴族になればなるほど、五年次から通う人が多くなる。

高位貴族に入る本邸のお嬢様もその一人だった。

ちなみに言うまでもないが、エナは家庭教師すら付けられていない。

お嬢様と同い年で十五になるエナだったが行けるのか分からない状態だった。

病弱設定はどこまで影響があるのか分からない。



「エナも行きたいよね? お友達欲しいんだっけ?」


「そうだけど……」


「うん、そうだと思った〜」



ナナリはエナを強く抱きしめる。

ナナリだってエナが学園に行けるか分からない微妙な立場にいることを理解しているはずなのに明るい声で聞いてくることを不審に思いつつも、行きたい気持ちはあるので正直に答えた。


「エナ〜学園に行くなら俺も連れてってね?」


「分かった」


学園に猫を連れ込めるわけが無い。

分かってはいたが、エナは既に学園行きを諦めていた故にそう答えたのだった。


「じゃあ学園に行く準備しよーよー」


「え? 無駄だよそんなの」


「侍女も連れていかないとでしょ? んー居ないよねー俺がやるか、執事的な?」


ナナリはエナの言葉を無視してあれこれ計画する。


「どう? エナ」


「や、どうとか……」


「執事とか今までやったことないな。何するんだろ。俺が人に尽くすとか有り得ねぇー」


ケタケタと楽しげに笑うナナリ。

エナもこの傍若無人なナナリが執事なんて有り得ないと思ってしまった。

執事というよりナナリは王様である。もちろん暴君であるが。



「まぁでもエナの為なら執事悪くねぇーかもなー」


「え、本気?」


「そーだ! 本邸の執事見てくる」


そう言ってナナリはあっさりエナを離し、猫になり出ていった。




「遅いな……ナナリ」



外はとっくに暗くなり、灯りの少ない離れの屋敷は夜の闇に包まれる。

食卓には肉が好きなナナリのために作ったスペアリブ。

猫に食べさせるためだけにエナは毎晩凝った料理をするのが好きだった。

料理と言っても、質より量、見た目より味の男飯のような感じだが、最近のエナは香辛料に凝っていて、今日も三種類のスパイスを調合していた。

スパイシーな香りが鼻腔をくすぐり、エナの腹の虫を鳴かせる。


「もう食べちゃお……」


久しぶりにエナは一人で食事をした。




深夜、エナが窓から外を見ていると黒猫がフラフラと帰ってくるのが見えた。

ナナリ用に作った入り口から入ってくる。



「お、まだ起きてんの?」


「待ってたに決まってるでしょ。遅かったね」


「まぁな」



それだけ言うとナナリはエナの膝の上に来て丸まった。



「うわっちょ……ナナリ汚れてるじゃない。先に風呂入ってよ」


ナナリを撫でようと背中に触れたら指先に赤い汚れが付いた。


「ん〜ありゃ、しくじってた」



ナナリは毛繕いする猫のように丁寧に体を舐める。

綺麗になり満足したのか、風呂に入る様子はさらさらなく、自堕落にエナの膝で溶けていた。



「ナナリお腹減ったでしょ? 食べる?」


「いや今日はいいや。疲れた〜執事の一日密着してたけどこんな時間までやってんだもん〜」



珍しいこともあるものだと、エナは内心驚いたが話題が逸れたので、特に反応できなかった。

頑張って作ったものを食べてもらえなかったのは少し寂しい。



「……そんなに面白かったの?」


「んーいや別に。ただ必要な事はちゃんとやる方なの俺」


「いやでも学園は……」



ナナリはエナが学園に行くと信じているようだった。エナも一応貴族の子女にあたるため、学園に行く義務は発生するが、本邸の奥様に決定権があるなら病気を理由に学園に行くことはないだろう。



「あ、見てよエナ! 執事完コピーしてきたから!」


ナナリはエナの膝からしなやかなジャンプで降りると、人型になる。

だが、いつもと違って不遜な態度は影を潜め、うっすら微笑みを浮かべていた。


「え、怖い」


「怖いとは何事ですか、お嬢様。たいがいにしやがれでございます」


「……」


見た目は完璧な分、喋った時との落差が酷い。


「ナナリ……何を学んできたの……?」


「うるせぇ」



すっかりやる気をなくしたナナリは、不貞腐れて寝てしまった。

この日からしばらく、執事観察がナナリのマイブームとなり、毎日夕食が冷えてエナがぷりぷり怒るのだった。







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