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エナの人生初デートはひどいものである。


「ナナリ歩くの速い。もっとゆっくり……」

「えー?」


相変わらずどんどん歩くナナリにエナはヘトヘトである。

二人が歩く姿はデートとは程遠かった。

ナナリは上機嫌でエナの手を引き、エナは小走りでついて行っているのだから。


圧倒的美男子であるナナリは歩くだけで周囲の目線を独り占めにしていた。

その事に気づいたエナは手を放して欲しかったが、ナナリが勝手なのはいつもの事なので我慢するしか無かった。



「おっ、串焼」


エナより背の高いナナリはすぐに大好きな串焼き屋を見つける。


「おばさん、串焼十本」


「はいよ!」


(じゅ、十本!? )


ナナリはそんな調子で美味しそうな食べ物を見つけては買い漁った。

あっという間に両手は食べ物でいっぱいになり、自然と手は放された。


放されたら放されたで、なんとなく寂しく感じてしまう。

エナが人と手を繋いだのは一体いつぶりだっただろうか。

自身の手に視線を落とし記憶を辿る。






エナは小さな歩幅で懸命に歩く。

実家よりはるかに立派な家を前に、今日からこの家が私の家になるのだと、胸に息を吸い込み見上げる。

馬車から降りたエナの小さな手を握って侯爵は歩き出す。

小さな女の子の歩幅に合わせるのが得意なようだった。


ホールには自分と同じくらいの年頃の女の子と美しい女性がいた。

あれが私の母と姉になる人達だと認識したエナは、挨拶するようにひとりひとりと目を合わせた。

姉はにこやかな笑みを返してくれたが、母はエナを見た途端に、柔和な微笑みを一瞬で削ぎ落とした。


「この子がエナだ。今日から家族の一員になる」


侯爵がエナを紹介するが、母は依然として顔の一切の筋肉を断ち切ったかのような表情で呆然としている。

侯爵と繋いでいる手に視線を落とすと、恐ろしい勢いでエナの手を叩いた。

繋いでいた手が離れる。


「ネラ? どうした?」


侯爵が慌ててエナの方を見る。

叩かれて赤くなった小さな手を摩っているのを目に入れると、少し膝を曲げ、再びその小さな手へ手を伸ばす。

エナも手を繋ごうとした——が、「触らないで!」と叫ぶ母に遮られた。


「ネラ、本当にどうしたんだい? 君もエナを引き取ることに賛成してくれたじゃないか」


「その子に二度と触らないで」


「何で?」とエナは呟く。

差し出しかけた手をどうしていいか分からないまま、宙に残した手を下ろした。






それから誰とも触れ合った記憶がない。

幼い頃に強く言われたことは、やはり根深く残ってしまうのだろう。

エナは今でも人と触れ合うことを躊躇してしまう。


エナは今度もまた、宙に残した手を下ろした。




すっかり日が落ち、二人は家の方に足を進める。


デートは買い食い(主にナナリの爆食)で終わってしまった。

デートをしたことがないエナだが、これは違うことは分かる。

ナナリは夕飯も買い込んでいて、まだ食べるのかと呆れてしまう。


「それにしても自分で買えるのはいいな!」


いつもは猫姿故にエナの気が向いた時しか買って貰えなかったが、今日は自由だった。

満面の笑顔のナナリに対してエナは振り回されてフラフラである。


「ナナリ買いすぎだよ……お金なくなるじゃない!」


「しかたねぇーじゃん、美味そうな匂いがすんだもん。んーうまっ! それに金なら俺が持ってく……」


ナナリが突然ピタリと止まる。

エナは小走りでついて行っていたので、急に止まったナナリの背中に思いっきりぶつかった。

エナは文句を言おうとナナリの顔を見たが、思いのほか真剣な顔をしていたので言葉が詰まった。



「エナ、引き返そう」


「え? なんで?」


「あれ見ろ」


ナナリが顎で指すが、大勢の人がいて何を指しているのか分からない。



「あれだよ。あの女……精霊共が避けているだろ?」


そこまで言われて気づく。確かにこの辺りは精霊が少なかったが、あの桃色の髪の女の子の周りには一切居ない。



「え、あの子を避けてるの?」


「そうだ。ああいう精霊が避ける奴には近づくな。……危ない奴だから」


「そ、そうなんだ……人は見かけによらないね」


(普通の女の子に見えるのに……)



「俺も近寄りたくないしな。うぇ〜気分悪ぃ〜」


真剣な様子からいつものふざけた調子に戻ったナナリは、食べ物の入った紙袋を片方エナに押し付け、空いた手でエナの手を取って踵を返す。


「ほら、手繋ぎたかったんだろ? エナったらエッチなんだから〜」


「え!?ち、違っ……」


「熱い視線で火傷しそうだったわ〜」


「そんなに見てないでしょ!?」



「じゃあちょっとは見てたんだ?」


チラッと振り返って微笑むナナリ。

実際は微笑むというより小馬鹿にした笑みなのだが、圧倒的美男子補正がかかり、極上の笑みに見える。


「エナは本当俺のこと好きだよな〜」


「調子に乗りすぎ……」


ナナリの適当な言葉の罠にハマってしまったことに気づいたエナは、恥ずかしいやら悔しいやらで忙しい。


ナナリにはああ言ったが、エナは繋がれた手を見て微かに口角を上げる。

誰かと手を繋いで歩く——エナが恋い焦がれたものが少し手に入った気がした。



この日、エナの中で人と関わる上でのひとつの基準が出来た。


『精霊の寄らぬ人物には近づかない』


精霊が嫌う人物は、悪人やい意地が悪い人。


思い返してみれば、本邸の奥様は精霊に嫌われていた。

奥様の近くで精霊を見た事がないし、精霊は本邸を避けてるようにも見える。

奥様は、エナを旦那様の隠し子と勘違いしているのか知らないが、エナを離れに閉じ込めて本邸に近づけないようにしているし、顔を合わせばいつもエナを罵倒する。

精霊はそういう人物を好むわけないのだ。





——ちゃんとナナリの言うことを守れば幸せになれる。









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