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 とうとうこの日が来た。

エナはこれでもかというくらい着飾られ、王城へと続く道を馬車に揺られている。

おそらく今日の主役はエナと第二王子殿下になるだろうからこれくれいしないと霞んでしまう。

あの神の寵愛を受けたかのような美貌の殿下の隣に立つのだから、ここまで着飾ったとしても結局霞んでしまうだろうが、かろうじて認識されるレベルにはなっていると信じたい。


 身体中にあった痣はあれから新たにつくことはなく、時間をかけて綺麗に消えていた。

いじめてくるご令嬢達も、夏休みにエナが実家に帰り露呈することを恐れたのかもしれない。



「エナ最高に可愛い」


「はいはい、何回も聞いたから……」



先程からナナリが何度も褒めちぎっていて、流石に呆れ気味のエナ。

エナの腰に手を回してニコニコとしているナナリに普通の感覚ならクラクラしそうなものだが、エナは普通ではないので軽くあしらっている。


エナとて少しはマシになったと思っているが、流石にナナリの言葉を手放しで喜べるほど馬鹿ではない。

自分の見た目が普通なことは分かっているし、ナナリの可愛いは親が子に言う可愛いと同じだと分かっている。

ナナリはエナが五つの時から見守ってくれているし、エナを育てたと言っても過言ではないのだから。



「エナはいつも可愛いけどね。ラナもそう思うでしょ」


「はい本当に素敵でございます!」


「あ、ありがとう」


(ナナリがラナに話しかけた……)



エナは密かに驚く。

これまで執事という体を崩さないための最低限の返事くらいしかしていなかったナナリが、初めて明確に名を呼んで話しかけた。

ラナにももちろん初めてだが、エナ以外の人間初なのではないだろうか。

店の主人とかに注文で話しかけることはあったかもしれないが、雑談のような、話しかけなくてもいい内容で人に声をかけたのは初めてな気がする。



(ナナリ、ラナのことまあまあ気にっているのね)



エナもラナのことが好きだったので少し嬉しくなる。

ラナは、ナナリがエナと親しくしていても何も言わないしあまり干渉しない為、ナナリも心を開いたのだろう。



「もうすぐ着きますよ」


もう王城がそこまで迫っている。


(もう逃げられない……)



このパーティーで婚約発表されてしまったら、婚約破棄はなかなか難しいだろう。

ここから逆転さよなら婚約破棄に持っていくには、もうこっちがドヘマを踏んで婚約者の資格なしと判断され追放されるしかないだろう。

この場合平穏と幸せからはかけ離れてしまうが。



 王城に着いた。

白を基調とした荘厳で美しいお城。

鮮やかな緑が茂る庭園。

中央に見える大きな噴水。


エナが初めて見るそれらに圧倒されて見入っている間に馬車は城門の前に着き一時停止した。

馬車の家紋を見た門兵はお辞儀をして入っていいとジェスチャーする。

馬車が再び動き出し、城門をくぐろうとした時——



バチッ



「おい止まれ」



何か大きな音がして、ナナリがいつになく真剣な声で言う。

馬車を止めたナナリは、足先を不自然に引っ込めていた。



「エナ。俺ちょっと用事ができたから抜けるわ。その辺にいるから一人で頑張れよ」



ナナリがエナの頭を優しく撫でる。



「え、なんで?」


「うーん。あのさー、なんでとかどうでもいいじゃん。でしょ?」



ナナリと目が合う。

ジロリと睨め上げるような視線で、エナはナナリが不機嫌なことを悟る。

頭の上にあるナナリの手に力が入り、エナは慌てて頷く。



「あ、そうだね……分かった」



ナナリは馬車を少し下げさせてから降り、「エナも気をつけろよ」と言い残して離れていった。




 いくらなんでも不自然だ。

鈍感なエナでも流石に分かる。

ナナリは先程まで確かにご機嫌だった。

エナの時間のかかる準備も横でじっとと見ていたし、パーティーでの食事をどうやて掠め取るか、楽しそうに作戦を立てていた。

行く気満々だったことは間違い無いだろう。

本当に用事があるとは流石のエナも思ってない。

急に気が変わったのか、何かあったのか。

理由を言ってくれなかったのも、ラナに聞かれてはまずいことだったからかもしれない。

エナは能天気に理由を尋ねてしまったことを後悔した。



「ナナリどうしたんだろ……」


「えっ……?」



エナが独り言のように呟くと、ラナが驚いた顔でこちらを見ていた。



「え? 何?」


「あ、いえ! なんでもありません。元々侍女だけで問題ないですし行きましょうか!」



ラナはすぐに出してくださいと御者に言い、話題を切り替えるように、今日の予定の確認をしだした。



「痛っ」



再び馬車が動き出して門をくぐる時、チリッとした感覚がエナの体に走る。



「いかがいたしましたか?」


「あ、いや静電気かな……大丈夫」



うなじがやけに熱い気がした。






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