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本邸のお嬢様が第二王子殿下の婚約者に秘密裏に内定したらしい。

本邸のお庭がお散歩コースのナナリが情報を仕入れてきた。

どうやらあの王家主催のお茶会がうまくいったらしい。


「なんか庭でパーティーしてるからさ肉をくすねてきた!」


スリルがたまらないと楽しそうに話すナナリ。

細いしっぽがゆらゆら揺れている。


「あ、しまった。エナの分忘れた」


「別にいらないよ……」



(本邸のお嬢様——姉が第二王子殿下と結婚……結婚か。私はどうなるのかな)


約十年、この屋敷で人と話さず暮らしてきたエナは、すっかりコミュ障だ。

下町に出ても、買い物をするだけで仲のいい人はいない。

要するに猫だけと十年話してきたわけだ。

圧倒的に人間力が欠けている。


エナが将来に思いを馳せていると、ナナリが足元に擦り寄ってきた。


「エナ、侯爵家に殿下が婿入りしてきたらエナはどうすんの?」


「え? 殿下は公爵位貰ってお嬢様が嫁ぐんじゃないの?」


「俺もそう思ったがどうやら違うらしい」


娘二人の内、一人は病弱で離れの屋敷から出れない設定(もちろん病弱なのはエナの方)のサフィール家は、姉を嫁がせる訳にはいかないらしい。

殿下にサフィール侯爵家を継いでもらうことで、公爵家に陞爵もあり得る。

ここまで思い至って、急にある問題が浮上してくる。


「……私の衣食住が!?」


完全に追い出されるだろう。

オンボロの屋敷でも広々としていて住めば都なのだ。

姉夫婦の代になっても、何もしないの義理の妹を置いておける程、世の中は優しくない。

今でも本邸の奥様に追い出されそうでギリギリなのだ。



「追い出されても、エナには俺がついてるじゃないか! 大丈夫だって。過酷な修道院でも、どっか利益のあるクソオヤジのところに嫁に出されても俺がついていってやるって!ナッハッハ!」


ナナリが本当に励ましているのか怪しい笑い声でバカにしてくる。

エナはため息が漏れそうになるのを我慢して答える。


「……ナナリは役に立たないよ。猫ちゃんだもの」


「おいおい、俺は大精霊様だって言ってんじゃん。高貴な身分なんだって」

手を器用に操って身振り手振りをし、肩をすくめて見せるナナリ。


「ほんとかなぁ……?」


「ほんとほんと、精霊界では偉いのよ俺」



高貴な精霊様とは言っても、長年一緒にいるため家族のような感覚だ。

ナナリが精霊として役に立った試しがないので精霊ということをついつい忘れがちになってしまう。


エナにとってナナリは、いつもただの猫ちゃんなのだ。

エナは、前足を腰に当ててふんぞり返っているナナリに猫じゃらしを向ける。


「エナ……さすがにそれには靡かないぜ。……オラァ猫じゃないんだって」


そう言いつつもエナが猫じゃらしを左右に振る度、視線が追っていることをエナは見逃さなかった。

エナが買った猫のおもちゃで、ナナリが時々こっそりと遊んでいることをエナは知っている。






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