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私、へっぽこ魔術師のエナ!

大変大変〜! 大精霊のナナリとの平穏な学園生活を過ごしていたのに、第二王子の婚約者になっちゃった!

更に私のことを心配したお父様が侍女を送ってきちゃった! 

ナナリのことは絶対秘密なのに、私どうなっちゃうの〜!


——閑話休題。



「本日よりエナ様にお仕えするマリー・バイオレットと申します」


「ラナ・ファスターと申します」


「アンジェ・ラワンドと申します」


「基本はアンジェと共に行動して頂き、生活面のお世話をラナ、淑女教育を私が担当いたします。

誠心誠意お仕えいたしますのでどうぞよろしくお願いいたします」


「お願いいたします」


簡素なお仕着せをきた淑女三人はしなやかに首を垂れる。


「あ、お願いします……」


(と、とうとう侍女さん来ちゃったよ!)



なんの解決策も無いまま当日を迎えるのはいつもの事だが、今回はピンチ度合いが違う。

ナナリが大精霊という秘密を守らなくてはならないのだ。

ナナリが絶対バレたくないと言うのだから精霊界特有の決まりとかがあるのだろう。


すなわち、ナナリはただの執事ということになるので、いつも通りの距離感で接することが出来なくなるわけだ。学園寮で猫を飼うわけにはいかない為、猫の姿でいることも難しい。

だからといって、人型、しかも成人男性の姿で、エナとベタベタするわけにもいかない。


特に後者の方は確実に避けなくてはならない。

エナは王族の婚約者なのだから。


そもそもナナリのヘンテコな敬語で執事になりきることができるのだろうか。

綺麗な敬語で話し、美しくお辞儀をする彼女らは、侍女としてレベルが高いのが見て取れる。

へっぽこ魔術師とヘンテコ執事ではお話にならない。

ナナリをチラリと見ては『これが敬語だよ!』と念を送ってみたが、ナナリは気づく様子もない。



「そちらの執事の方のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」



ナナリが人と話す時が来た。

ナナリが人と話しているところなんか、屋台のおっちゃん以外見たことがない。


エナは妙に緊張して手に汗をかく。

バレたくないとナナリが言っているのだから、怪しまれないようにこなすはずではあるが——



「ナナリだ」



『え、終わり?』という顔でポカンとナナリを見つめる侍女達。

あまりにもナナリらしい態度に、エナはまぁそうだろうなと思った。

ナナリが人によろしくなんて言うわけないのだ。

名乗っただけで大健闘である。



「で、ではよろしくお願いいたしますね」


侍女は何とか場を締めくくり気まずい空気が漂う部屋から退出した。



「——ナナリ!」


「あ? なんだよ」


「取り繕うんじゃなかったの!?」



ナナリは小指で耳をほじりながら、目線だけエナに向ける。



「は? もしかして俺に敬語使えって言ってる? 

俺様と話が出来るだけであいつらは光栄なんだよ?」


(どんな価値観で生きてきたんだ……)


額に手を当ててため息をつく。


「それにさ、俺がへりくだるのはエナだけって言ったよね? 忘れちゃった? 

俺が敬語使うのも、大事にするのもぜーんぶエナだけ」



さっきまでダルそうで治安の悪い顔だったのに、今は圧倒的美を誇る顔を美しい笑みに変えエナに向けている。


こういうことを言うナナリは決まって己の顔の良さを利用するのだ。

ナナリの顔に慣れていたはずなのに、なんとなくあのキス未遂事件がチラつき、しどろもどろになる。



「そもそもなんで俺が協調しなきゃなんねーんだよ。ただバレなきゃいいんだし適当にやろうぜ」


「なるほど……?」



態度のでかい執事と思われても精霊とバレなければなんでもいいようだ。

それなら割と簡単かもしれないとエナは思う。


人間の姿のナナリは、見た目だけは完璧で、どこからどう見ても人間だ。

精霊と結びつくことはないだろう。



「あとね、嘘をつく時は自然体が一番なんだよ。変に取り繕ってもすぐボロが出るもんなの」


「それもそうかも……」



ナナリに言いくるめられ、何も言えなくなる。

ナナリの言葉は妙に説得力がある。



「でしょ?じゃ、そういうことで〜エナが侍女共を何とかしておいてね」


「え、なんとかって具体案を……」



そんなエナの言葉を無視して、ナナリは「今日から自室で寝るのか〜」とボヤきながら部屋を出ていった。








「邪魔なんだけど」



上からかかる不躾な物言いに眉を顰め、アンジェはドアの前から無言でズレる。

隣の部屋に入っていくまで視線で追い、いなくなったことを確認して一息つく。


侍女は見た。

見たというかガッツリ聞いた。

あの異次元にイケメンな執事とエナの会話を。


侍女のアンジェの主な仕事は、共に行動していただくとしか言わなかったが、その実、護衛なのだ。

他の二人は部屋に戻ったが、当然の事ながらアンジェは主の部屋の前で護衛として待機していた。



(あの二人の関係性はなんだ!)



ドアから漏れ聞こえる会話から、二人がただの主従関係では無いことは明らかだ。


あんな執事がいてたまるかとアンジェは悪態をつく。

あんな顔がいい——いや態度がでかい執事などいない。


エナ様は、幼少期から別邸で過ごされていたそうだが、執事がついているなんて聞いたことがない。

あんなにカッコイイ執事がいるなら、使用人の間で確実に話題になるはずなのに。


となると、あの執事はエナ様が本邸を通さず、どこかから引き抜いてきたと考えるのが自然。

あの立ち振る舞いからして、元々執事をしていたわけでも貴族でもなさそうだ。


つまり——


(恋人を執事って体で傍に置いているってこと?)



『大事にするのもエナだけ』なんて軽くイチャついていたのでもう確定だ。



(王族の婚約者に決まったのにヤバすぎるでしょ……)


何とかしなくては、このままではアンジェの侍女としての評価まで下がってしまう。

この事実が公になったら、もちろん婚約は破談になるし大騒ぎだ。



(内密に別れさせてあの執事を追い出す──)



アンジェは決意した。








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