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40 事実

「総神殿の聖騎士は力が違うな」

 都の聖騎士に対するビセンテの指導ぶりに、王は感嘆の声を上げた。実戦を繰り返しているだけあって、ビセンテの隙のない速い動きは都の聖騎士では相手にならない。隣でフレデリクも興味深そうにながめては、ビセンテの剣の動きに身を乗り出した。


「都の近くにある村に魔物が現れた。この付近では長い間なかったんだがな」

「それで総神殿の聖騎士をお呼びに? 今から鍛えても遅いと思いますが」

「聖騎士たちを動かすのはエングブロウ侯爵だ。無理ならば先に言ってくるだろう。あの男は狡猾だからな」

「狡猾な方に言われましても」


 フレデリクと王がお互いに笑い合っているのを横で目にしながら、ビセンテを上から見ていれば、こちらに気づいて一瞬睨みつけてきた。神殿にいることはエヴリーヌから聞いていたが、どこかぎこちなく話すので、二人になにかあったように思える。

 そうであろう、ビセンテの睨みはいつもより鋭かった。


「それで、子爵夫人は問題なかったのか?」

 王はビセンテの視線を辿るようにカリスを横目で見ながら問うてきた。


 今日、集まったのはその話をするためだ。神殿で調べていることは王に伝えられているようだが、別途公爵家でも調べを行っていた。公爵家の問題でもあるため、その報告を聞きたいと、テラスから離れて席に着く。


「エヴリーヌが治療したので、子爵夫人は体力も戻ったという連絡がありました」

「子爵家に行く途中の動物の襲撃については?」

「公爵家に現れた老婆らしき者と関わりがあるかと思いましたが、動物の死体だけでは確認ができませんでした。ただ、その老婆が病の発端である可能性が出ています。公爵家に恨みがあるか、エヴリーヌに恨みがあるか、それともどちらかなのかを調べております」


 子爵家に行く途中で襲ってきた動物が操られたのか、そうでないかもわからなかった。付近に怪しい者はおらず、調べようがなかったからだ。

 エヴリーヌが得た神殿からもらった地図を元に公爵家で調べたところ、動物が現れた付近で病がはやっていた。また、病の多い場所で老婆らしき者を見たという目撃者もあった。何者かはわかっていないが、出没地を考えると、呪いを振りまいている可能性が高い。


「シモンも似たようなことを言っていた。しかし、それが何なのか、お前はわかっていないと」

 王は含むように言ってくる。


 関係性はわかっていない。ただ原因に近いものは調べ終えている。それを黙っていると、王はまるですべてを知っているかのように、眇めた目を向けて口端を上げる。


「シモンから調査書が届いた」

 王から渡された書類に目を通して、フレデリクに渡す。フレデリクには前々から話をしていたので、知っている話だと、一度頷いてみせる。


「カリス、お前も確認したのか?」

「まだ確かではありません。証言だけで、本人が見つからないからです」

「シモンは、お前の責任を問うた方がいいと言ってきた」

「はっ」


 笑ったのはフレデリクだ。王がちろりと斜に構えるのを咳払いで誤魔化す。

 鼻で笑いたいのはこちらも同じだ。そんな言いがかりを付けてくるとは。


「地図では都の北。ここは特に病が蔓延している。下水処理場もあるため、地価価値が安い。都でも特に低賃金の収入者が住む辺りだな。もう一つがここから少し離れた地区。こちらは森と川が近く、大地が低いため水が溜まりやすい場所だ。こちらも同じように地価が安い。病が蔓延するのは想像に難くない」


 そして、貴族が住む場所で二ヶ所。こちらは距離が離れていて、病がはやった理由がわからない。一つは男爵家を中心にしており、エヴリーヌの実家である子爵家も近かった。もう一つは侯爵家を中心にしている。

 その侯爵家というのが、オールソン侯爵家。ヘルナ・オールソン侯爵令嬢の屋敷だ。


「オールソン侯爵家では、侯爵と夫人、息子も無事だが、メイドと騎士が数人重症。オールソン侯爵家については、ヘルナが関連しており、その原因を作ったのがお前だと、シモンは発言している」


 王の言葉に、歯噛みしそうになる。シモンは今回の病の発生にはヘルナが関わっており、その理由が、カリスがヘルナに無礼を働き、傷心のまま過ごすうちに呪いをかけたのでは、と訴えた。

 公爵家に老婆のような者が来たのも、子爵夫人が倒れたのもその一環ではないかということだ。


「子爵家を狙ったのは怨恨だとしても、戯言が甚だしいですな」

 フレデリクは呆れ声を出す。


「一体、いつ、カリスがヘルナに手を出したのか。出したのならば、オールソン侯爵は喜んでヘルナを差し出してくるでしょう」

「聖女を娶っているカリスがヘルナに手を出したところで、私が侯爵家を潰しにかかると考えたやもしれんぞ?」

「ご冗談を。潰す前にヘルナを殺して葬式を出す方では?」

「お前な」


 フレデリクは冗談めかして肩をすくませる。王の政策で聖女を娶ったのに、他の女に手を出すとなれば、王の面目丸潰れだ。カリスだけでなくヘルナ、オールソン侯爵まで罰が及ぶ。そんな真似をさせるならば、娘を死んだことにするだろう。オールソン侯爵はそんな性格だと、フレデリクは言い切る。王も頷いて、カリスがヘルナに手を出すところから無理があると、呆れ顔をした。


 しかし、実際にヘルナはそんな証言をしたそうだ。

(シモンがヘルナが原因とするのは、本人が行方不明になったからだろうか)


 ヘルナは今現在、行方がわからなくなっていた。

 公爵家の調べでわかったのは、ヘルナが家を追い出されて行方不明になったというものだ。


 ことの発端は、ヘルナの虚言からだった。

 なにを考えたのか、ヘルナは父親のオールソン侯爵にカリスとの交際を始めたと虚言していた。オールソン侯爵は王の政策を理解していることもあり、あり得ないことだと否定した。


 しかし、その後ヘルナの妊娠が発覚する。

(その相手が、私だと言い張るとは)

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