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39−2 原因

 エヴリーヌは大きな息を吐いてから、アンの家を出た。騎士たちを外に出しておけばよかっただろうか。聞かせて良い話だったか、判断しかねる。口止めはして、もう一度大きくため息をついた。


「屋敷に戻って、カリスに話して、それからね」

「侯爵家の問題でもありますからね」

 騎士に言われて、ただ頷く。


 ビセンテのことがあって、屋敷でじっとしていたくないからと、病の原因を自分で探ることにした。魔物が都に近づいているという話もあり、早めに病の流行を終わらせたいこともあったが、予想外の話を聞いてしまった。


「頭が痛いわね。どこまで彼女が悪いのかわからないけれど、早めに彼女を探す必要はあるわ」

 それにしても、ヘルナが黒魔法を学んでいたとは。


 黒魔法を学ぶと言っても、独学で、しかも本だけで学ぶには限界がある。貴族の男子ならばアカデミーで学ぶことは可能だが、女性がアカデミーに行くことはない。そのため本で学んでも、中途半端な知識でしかないため、そこまで脅威のある真似はできない。


(できて簡単な幻覚を見せるとか、悪いものを呼び込んだりとか、その程度だけれど)

 不浄を呼び込んで、それを増加させて呪いまで発展させられるだろうか。それができたとして、ヘルナは、


「エヴリーヌ聖女様! どうしてこちらに?」

 声をかけてきたのはシモンだ。病の原因を探しているのか、聖騎士たちを伴っている。シモンはエヴリーヌに会えたことが嬉しいのか、周囲の雰囲気には似合わない笑顔を向けてきた。


「病の原因を探しているところよ。あなたは?」

「さすが、エヴリーヌ聖女様ですね。このような場所に足を向けていただくなんて。僕も、病の原因を探しているところでした、が」


 シモンはちろりとエヴリーヌがやってきた方向を見やる。先ほどの家より離れたが、道は一本道だ。シモンはなにか知っているのか、迷うように言葉を止めると、申し訳なさそうに眉を下げる。


「実は、こちらでわかったことがありまして。エヴリーヌ聖女様に関わりのあることなのですが」

 そう言って、ちらりと騎士たちを見やる。騎士には聞かれたくないことなのか、聖騎士たちも手を振って下がらせた。エヴリーヌも騎士と距離をあけるように指示すると、シモンは近づいて腰を折り、耳元に顔を寄せた。


「エヴリーヌ聖女様には残念な話ですが、ヴォルテール公爵との離婚が早まりそうですよ」

 今、なんと言った? シモンはエヴリーヌの顔の側で、不敵に微笑む。


「公爵は責任を取ることになるかもしれません。病がはやった理由に、公爵が関わっているかもしれないので」

「ヘルナ・オールソン侯爵令嬢のことを言っているの?」

「おや、ご存知でしたか? ヘルナは公爵と関係を持ったのに、屋敷を追い出されたと証言したそうです。しかし、父親のオールソン侯爵に激怒され、修道院行きに。その途中行方不明になったようですが、この辺りで目撃されました。オールソン侯爵家の前にも現れて、呪いを発したとか。父親の侯爵は倒れて、夫人も病に」


「そんなこと、信じられないわ」

「そうでしょう。ですが、ヘルナがおかしくなったのは公爵の不義があったと言わざるを得ません。エヴリーヌ聖女様と婚姻関係を続けることは許されないでしょう。離婚が早まりますね」

「エングブロウ侯爵。言葉を謹んでください。カリスがそのような真似をすることはないわ」

「ですが、ヘルナが証言したのですよ。公爵のせいで病が蔓延したとなれば、責任は免れません。聖女様との婚姻は続けられません。責任は追及されるべきです」


「それを明らかにするまでは、このような場所で口にすることは許されないでしょう。エングブロウ侯爵、発言に責任を持ちなさい!」

「エヴリーヌ聖女様」

「ここで失礼するわ。エングブロウ侯爵、発言には十分に注意することね」

「エヴリーヌ聖女様!」


 シモンの声をよそにして、エヴリーヌは騎士を連れて道を足早に歩いた。


 ヘルナは、オールソン侯爵家を追い出されて、アンに会いにきていた。いや、前々からアンに会いにきて、魔法をもっと学びたいと懇願していた。メイドをクビになって、男爵家も追い出されたアンに。

 一人で生きていかなければならず、途方に暮れたアンにとって、ヘルナが持ってくるお金はアンにとって今後を左右する物だ。手に入れなければのたれ死んでしまうかもしれない。だから、ヘルナに魔法を教える代わりにお金を受け取っていた。占いも得意だったため、彼女に占いも行っていた。

 黒魔法は本がなければ教えられない。できることも限られてヘルナは飽きていたが、占いにはいつまでも興味を持っていた。


 アンはヘルナの願いをわかっている。だから、彼女に大丈夫だと言った。

 大丈夫。カリスはあなたを好きになるでしょう。

 メイドでヘルナの側にいたアンは、カリスがヘルナを嫌悪していることを知っていた。だから、夢だけでも見せてあげようと、ヘルナの望みに沿う結果を教えた。


 それなのに、ある日突然、ヘルナがやってきた。

 ひどい姿で、見るもむざんな、ぼろぼろの服を着て、生臭いほどの異臭を放って。

『カリスとの子供ができた』と。


 アンはあり得ないと思った。そんなはずないと。その時にはカリスがエヴリーヌに付きっきりで、討伐に行ったことまで噂になっていた。王に命令されて娶った聖女を蔑ろにし、別の女性に手を出すことはあり得ないと思った。


 だから、それを口にしてしまった。あり得ない。と。


 ヘルナの形相はみるみるうちに変わった。薄暗い部屋が真っ暗になり、ヘルナが黒いモヤに覆われたのがわかった。

 その後はどうなったのかわからない。ヘルナはいなくなり、それから体調が悪くなると、周囲に病がはやりはじめたのだ。

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