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28 ドラゴン

 関わった反乱分子を葬る。せっかくシモンが情報を提供したのだ。裏付けもあるのだから、一掃できる時に一掃した方がいいに決まっている。しかし、そのために、聖女を危険に晒すとは。


「彼女を守ると約束したのに」


 エングブロウ侯爵の計画は、大聖女の結界が緩んでいる場所を部分的に壊し、魔物を町へ誘導するというものだった。巣を破壊し結界を壊れれば、そこから魔物が溢れて町に混乱を呼ぶことになる。

 破壊が行われる場所は、二箇所。エヴリーヌはそれ以外にもいくつかの結界を補強しなければならない。そして、二箇所のうち一箇所の魔石が、公爵領に設置されている。その場所を狙うのは、エヴリーヌが公爵家に嫁いだからだろう。王の体制を崩すために公爵領を狙うに違いない。


(最初は立入禁止区域を狙ってくる。あそこはどこの領土にもなっていないから、人に会うこともなく侵入できるからな)


 結界の破壊がされる前に、公爵領に侵入した者たちを捕らえなければならない。

 このことを知っているのは、シモンや王の兵士たち。聖女や聖騎士たちには知らされていない。どこにスパイがいるかわかっていないからだ。


 なぜ、もっと早く教えてくれなかったのか。言いたいが、わかったのが直近だったという。それが本当なのか疑いたくなった。


「聖女は結界を補強すればいいだけだからと言って、なにかあればどうするつもりなんだ」

 だからこそシモンが行ったのだと言われると、堪えようのない怒りが湧いてくる。


 直近で起きた地盤沈下の事件はその予行練習だ。あの時は繁殖期でまだ卵がすべて孵っていない時期だった。だが今は、魔物の繁殖期で魔物が増えている状態になる。地盤沈下を起こさせて、巣穴が壊れれば、前回のように聖騎士たちの戦いが苛烈を極めるだろう。そしてそこで山の頂上で地滑りを起こしたとしたら。


 背筋が凍りそうになる。エヴリーヌがまた魔力を使い切ってしまったら?

「とにかく早く、奴らを捕らえなければ」







 魔物避けの魔道具はいくつかある。全員分はないため部隊を分けて魔道具を渡し、その組織ごとに固まって移動をする。

(魔物に気を取られている余裕はない。先に侯爵の手下を見つけなければならない)


「魔物の巣穴が近くにあるはずだ。足を踏み入れるなよ!」


 巣穴に落ちれば、魔物避けを持っていても襲われる。今時期は生まれたばかりの魔物が巣穴にいるかもしれない。凶暴で集団で固まっているのだから、相手をしないように気をつけなければならなかった。

 公爵領にある結界の補強の魔石は山の中腹にあるが、厳しい山に登るわけではない。馬で森を抜けていく。

 谷を横目にして、山腹の方向を見上げていれば、赤い煙が上った。不審者を見つけた合図だ。


「逃すな! 必ず全員捕まえろ!」

 人数は目視で確認して四人。魔石を破壊するために魔物の巣穴を探していたのか、相手は草むらに隠れて移動している。獣を追うように追えば矢を射ってきた。外れた矢が後方で爆発をする。


「気をつけろ。爆発物を持っている。地下を爆発させる道具だ!」

 人数はこちらの方が多い。一人二人と捕えれば、あっという間に四人を捕らえることができた。


「まだ他にいるかもしれない。周囲を探せ!」

 油断は禁物だ。魔物の巣穴はこの辺りには見当たらないが、爆発が起きれば魔物が出てくる。地面を揺るがしてから大地を不安定にし、山の頂を破壊すれば、地滑りが起きる。そんなことをすれば魔石の台座ごと流れる。結界に破損ができれば、古の魔物が結界を抜け出してくるだろう。


「魔石は無事です!」

 山間の中腹に鎮座する魔石の台座は無事だ。魔石は動いておらず、魔物の巣も爆破されていない。高台からエヴリーヌがいる方向を確認したが、そちらにも異常はなさそうだった。


(エヴリーヌは無事だろうか。早くこちらを終えて、向こうに合流をしなければ)

 そう思いながらも、王の言葉を思い出す。


『公爵領が近いからあの場所を狙うのだろうが、気になることがある。古書によると、あの場所に封じられているのは、』


 ドオン。地面が揺れて、地響きと共に谷間に砂煙が舞った。

 捕らえた者たちの他に別動隊がいたのか。男たちがニヤリと笑う。


「爆発です!」

「頂上から崩れる可能性がある。ここから離れろ!」

(くそ。むざむざ奴らの手に)


 地面を壊して、大地を不安定にし、山の頂を破壊して地滑りを起こさせる気だ。

 陥没した地面から、魔物が溢れてくるのが見えた。巣穴を壊したため、魔物が逃げてきたのだ。あの多さ、しかもこの距離では魔物避けが効きにくい。魔物が避けるにも逃げる方向に人がいるのだから、ぶつかってくる。


「魔物は相手にするな! 早くこの場から離れろ!!」

 まごまごしていれば山が崩れるかもしれない。仲間が頂近くにいるかはわからないが、山が崩れて巻き込まれるわけにはいかない。


 騎士たちが急いでその場を離れようとするが、魔物が溢れ出てきて、それを対処しながら下がるのが難しい。カリスは魔法を放ち、魔物を攻撃する。その時、山の上の方でなにかが動いたのが見えた。


「地滑りが起きるぞ! 下がれ! 巻き込まれる!」


 轟音と共に山の頂から木々が薙ぎ倒されていく。土は波のようになって魔物を呑み込んだ。

 騎士たちは唖然とその場に立ち尽くした。一瞬で斜面を呑み込んで流れていってしまった。魔石がはめられた台座は見当たらず、先ほどの地滑りで地面ごと流されたことに気づく。


「結界が壊れた! 魔物が出てくるぞ! 各自、臨戦体制にはい、れ」


 巨大な何かが、土の中から出てくるのが見えた。黒く広げたそれに、誰もがその姿を見上げて唖然とした。

 巨体から伸びる黒の羽。手は短く、足は柱のように野太い。その足で地面を蹴れば、流れていた岩が飛んでいって森の中に騒音を立てて落ちていく。

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