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26 補強

 大聖女の封印を強化する魔石。その一つが、山と山の谷間に設置されており、エヴリーヌたちはそこへ向かった。

 川を跨いで山を登り、沢に沿っていく。


「登山。登山すぎるわね」

「聖女たちは無理をするな! 遅れるようなら先に言え!」


 エヴリーヌの呟きに反応して、ビセンテが後ろにいる聖女たちに声をかける。エヴリーヌも久しぶりの登山で、足が疲れてきた。

 封印の魔石は山奥に設置されていることが多い。普段登る山とは桁違いの距離だ。この付近にも村はあるようだが、さすがにこの山間に人影は見えない。


「魔物が少ないだけマシだな。結界がそんなに緩まってないといいんだけどな」

 魔石の魔力が減っていれば魔物の徘徊も多いと思われていたが、そこまで魔物に遭遇していない。


 結界が緩んでいれば、今まで結界を避けていた魔物が近くまで寄ってこられるようになる。その程度であれば問題ないが、結界を補強している魔石が壊れれば、結界に閉じ込められていた魔物が中から抜け出そうとしてくるかもしれない。


 結界が壊れたことがないため、実際はどうなるかわかっていない。全体の結界が壊れて消えるわけではないため、欠けた封印の隙間から魔物が出てくる可能性があるということだ。布を被せてある場所から、顔を出すような感じだろうか。


(相手をしたことのない魔物だから厄介なのよね。古い時代の魔物って、どうして強力なのばっかりなのかしら)

 普段対峙しない魔物と戦うことになれば、難しい戦いになるだろう。そうならないように対処は学んでいるが。


 ビセンテは遅れはじめた聖女がいるのを見て、一部の聖騎士を置いて足を早めた。エヴリーヌも足を進める。シモンはエヴリーヌの隣を付かず離れず、周囲を鋭く見回して進んだ。


「言ってる側から来たわ。聖女を守れ! 魔物だ!」

 ビセンテの大声に聖騎士たちが臨戦体制に入る。シモンがエヴリーヌを守るように立ちはだかった。

 エヴリーヌは補助魔法をかけて攻撃力や防御力を上げてやる。聖女たちは怪我をした聖騎士に癒しをかけた。


(いないと思ったら、大量に押し寄せてきたわね)


 魔物は普段からこの辺りに生息するものだ。結界から出てきたわけではない。本来ならば封印の魔力を嫌がって、魔石の近くに魔物は来ない。魔物を避ける封印の結界だ。そこから魔物は離れるものだが、これだけ集まっているのだから、封印が弱まっているのは間違いない。


 山場の斜面になった場所での戦いは難しいだろうが、聖騎士たちは慣れていると剣を振るったり魔法を放出したりする。エヴリーヌの近くにいるシモンは率先して前に出ないが、魔法を繰り出して魔物を撃退していた。

 魔石のある場所はもうすぐだ。


「あったぞ。魔石だ」


 地面に埋められた台座の上に、魔石は設置されている。台座自体に魔法がかけられており、魔石を保護していた。その上にある魔石に魔力を注ぎ、封印を強化するのだ。


「エヴリーヌが魔石に集中する間、エヴリーヌを守れ!」

 ビセンテの声に聖騎士たちがエヴリーヌを守るように円陣になる。その中心で、エヴリーヌは魔石に魔力を注いだ。


 ここの魔石の魔力の減りはそこまでではない。魔力が枯渇するとは思っていないが、魔物の量によっては自分の魔力の量を調整する必要が出てくるだろう。

 ここから近い場所にヴォルテール公爵家の領土がある。シモンが言うには、カリスはヴォルテール公爵領に戻ることになっているそうだ。公爵領の中に結界の一部があり、そこも魔石の魔力が減っている箇所になる。


(ここが終わったら、そっちに向かわなきゃ)


 出発前にシモンから耳打ちがあった。

 人為的に魔石を壊す者が現れる可能性。王の体制を崩すために結界を壊す計画がある。そのため魔物以外の警戒も必要だと。


 これを聞いたのはエヴリーヌやビセンテ。一部の聖騎士だけだ。

 王の命令で、カリスがこちらに来なかったわけだ。カリスは公爵領に戻り、もしものために警戒することになったのだろう。この場所から公爵領は近く、次に行く予定の封印の魔石の位置にも近い。

 緊急の場合に備えて、領土に帰ったのだ。


(計画がわかるのが直前だったのよね。そうじゃなきゃ、私にも教えてくれているはずだから。カリスも知らなかったんだわ)


 それを聞いて安堵した。つかえていたものが、重苦しい胸の痛みが、簡単に消えてしまった。

 深く考えたくないが、思った以上に気になっていたようだ。


「終わったわ。次に行けるわよ」

「なにもなさそうだな。怪我人は癒してもらえ! 次の魔石の場所に移動する前に、装備を整えろ!」


 王の兵士もいるため、手を出すのは危険と考えて近寄ってこないかもしれない。台座の防御魔法も念入りにかけておいたので、壊すのは難しい。

 次は公爵領土に近い場所だ。ここからそこまで距離はない。ただ山道なので、移動には時間がかかる。

 次の場所に行くための用意が終わり、一行は再び歩き始めた。


「人影もなかったな。本当になにかある予定だったのか?」

「王の兵を連れてきたから、気づいてここは諦めたかもしれない」


 ビセンテがシモンにささやく。シモンは木陰から山頂の方を確認しながらエヴリーヌを気にした。

 封印の魔石が緩んでいる場所は数箇所に及ぶが、人々に影響があるのが先ほどの場所と、次に行く公爵領土の中にある、二箇所になる。まずはその二つを確認し、そのあと他の場所を確認する予定だ。


 一、二箇所の封印が壊れても、全体が壊れるわけではない。等間隔で封印を補強してあるので、大事には至らない。しかし、人の住む場所に近い場所では、魔物が増えて危険が増す。早めの補強が必要だった。


(領土の端になるから、比較的近くに人が住んでいるわけではないらしいけど)


 先ほど登ってきた沢を下ると、公爵領土に入る。道がないため一度登った沢を下らなければならない。大きな岩場を跨いで降りていき、少しずつ広がっていく川沿いに歩き、なだらかになった山の中腹に封印があるはずだ。

 台座を壊すにもかなりの魔力が必要だ。簡単には壊れないようになっている。前の聖女の能力が力足りず補強することになったので、それだけが不安だ。


(台座の防護魔法も緩まっていなければいいんだけれど)


「エングブロウ卿! 不審者が!」

 突然、王の兵が叫んだ。

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