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7−2 お茶会

「エヴリーヌの今日のドレス、素敵ですわ。公爵閣下がお選びになったのでは? あなたの美しさを際立てる方法をご存知なのね!」


(いや、メイドが選んでくれただけよ)


「仲睦まじいと、よく耳にしているの。約束もなく寂しさで訪れた私に優しくしてくれた時、公爵閣下もいらしたでしょう? すでに聖女の儀式のための離れの屋敷までいただいていて、私驚いてしまったわ。あなたに尽くしてくださっているのね!」

 大きく出てきた。概ね間違っていないが、大げさに言い過ぎである。


「討伐についてきてくれたとも聞いているわ。危険な場所に、わざわざ、公爵閣下がいらっしゃるなんて。あなたを大切にしていることがひしひしと伝わってくるわ!」


 その話をどこで聞いたのか。アティはカリスが騎士を連れて魔物討伐にやって来たことを、強調して言ってくる。君狙いで来たんだよ。いなかったけどね。とは言えない。軽く笑ってお茶を口にして誤魔化すと、照れる必要などないわ。と追い討ちをかけてきた。アティは内心、令嬢たちを鼻で笑っているのだろう。勝ち気を出さずに微笑んだ。強者だ。


「そ、そうなのですね。公爵閣下が、討伐に、」

「まあ、それは、」


 嫌味を口にしていた令嬢たちが、居心地悪そうに言葉を濁す。

 アティは敵に回さない方がいいぞ。強いからな。アティも、勝ったな。みたいな顔をしなくていい。

 令嬢たちからは微笑んでいるように見えるだろうが、エヴリーヌはアティの心の内がよくわかった。


 アティのおかげで、令嬢たちはそれ以上エヴリーヌをいじってこなかった。いじったが最後、アティに返り討ちにされてしまうので、正解だ。アティが嫌味を返したとは気づいていないが、アティと仲が良いエヴリーヌをバカにする余裕もない。


 本日の招待は、カリス大好きっこたちの集いだったわけだ。カリス大好きっこたちが、嫌がらせをしたいがために、エヴリーヌを呼んだが、アティも呼んだのが運の尽き。


(私は面倒だから相手にしない方だけど、アティは勝ちにいくから、アティを混ぜたのが敗因ね)


「あの、ヴォルテール公爵夫人。公爵家に入られてから、聖女様のお仕事をなさったのですか?」

「大掛かりな魔物討伐があったので、参加したんですよ」


 席が離れていた令嬢が、ためらいながらエヴリーヌに声をかけてきた。悪口に混ざっていなかった、おとなしそうな女の子だ。


「わ、私も、実は、聖女様に助けていただいたことがあって!」


 アティの話か。アティは嫌味を言ってきた令嬢たちとまだ舌戦を続けている。続けているのはアティだけか。令嬢たちは戦意喪失して、アティの話を苦笑いしながら聞いていた。


「アティに助けてもらった方は多いんじゃないかしら」

「い、いえ。私は、ヴォルテール公爵夫人に助けていただいたのです! あの時のお礼を、言えなくて。聖女様のお名前も知らず。今お会いして、私を助けていただいたのは、ヴォルテール公爵夫人だったのだと」


 その令嬢は父親の領の町にいた時に、魔物によって起こる地震にあった。

 地面を潜る魔物は大地を揺らすことがある。穴蔵に隠れ住まう魔物は、地下から人々を襲うのだ。その襲撃にあい、町の人々が逃げ惑う中、逃げ遅れて足を挫いてしまい、道に放置された。


「平民の格好をしていたので、私に覚えはないと思いますが。町に入った魔物に襲われそうだった私を、聖女様が助けてくれたんです。もう、八年ほど前の話ですが」


 町で魔物に襲われそうになった女の子を助けた覚えはある。魔物が領土に近寄っているから討伐してほしいという依頼があった。エヴリーヌはその年で討伐に参加していたので、町の方向に逃げた魔物を追っているところだった。


「平民の格好をなさっていたのですか!? まあ、なんてはしたない」

 アティの話から逃げ出せると思ったか、アティの相手をしていた令嬢が口を挟んできた。


「め、目立たないようにですわ。お父様の領地を見てまわりたくて。ですが、共の者たちと離れ離れになってしまい、足が痛くて移動もできなくて、怖くて怖くて。領主の娘だと言っても信じてもらえなくて、誰も助けてくれず」

 道行く者たちが走って逃げいく中、一人残されて、絶望しそうな時、魔物が現れた。


「長い黒茶色の髪の聖女様。聖騎士を伴わず、魔法で撃退されて、一体何が起こったのかと。私と同じくらいの年の女の子が、何倍も大きな魔物を前に、堂々と立ちはだかり、一瞬で魔物を倒したのです。そして、私に手を差し伸べてくださって、怪我した足も簡単に治されて。なんという奇跡だと」

 その時のことを思い出したか、令嬢はほんのり涙目になって、胸元を押さえた。


「あの時のお礼を申し上げたいのです。聖女様のおかげで、今日まで生きてこれました。あれほどの力を持った聖女様ならば、公爵閣下のお相手になるのは当然だと思います。ブラシェーロ公爵夫人にも病気を治していただいたことはありますが、ヴォルテール公爵夫人に助けていただいた時、女神様がいるのだと確信しました」

 そこまで言われると、なんだか恥ずかしくなってくる。隣でアティがニヤけ顔を我慢しながら頷いた。


「それが聖女の仕事ですから。無事でよかったわ」

「聖女様……」


 感無量と、令嬢が泣き出してしまった。急いでハンカチを出して、涙を拭いてあげる。

 嫌味を言ってきた令嬢たちはもう何も言えないと、下を向いてしまった。伏兵のおかげで、このまま平穏に帰られそうだ。


「あら、」

「まあ、」


 劇場となったその場から離れた場所で、女性たちの歓喜の声が聞こえた。アティが耐えきれず、肘でエヴリーヌを突いてくる。


「カリス!? どうしてここに?」

「迎えにきました。近くに寄ったもので、そろそろ終わりの時間かと思い」

「まあ、素敵。迎えにきてくださるなんて。エヴリーヌ、そろそろ帰るところだったわよね!」


 アティが空気を読まず、エヴリーヌの株を上げようとする。カリスが迎えにくるほど愛されている。と言いたげだが、それは間違いだ。アティに会いにきたに違いない。

 こんな一瞬会うだけのために、わざわざ茶会の席に現われるなど、少しの時間でも会いたいのがよくわかった。


「エヴリー、こっちは私に任せておきなさいよ」

 こっそりアティが耳打ちしてくるが、声がからかう気満々だ。アティが小躍りしているのが見えてくる。


 周囲のざわめきをよそに、カリスが手を伸ばしてきた。まるで本物の夫婦のように。

(その手を取るのは、私じゃなければよかったのにね)

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