B級に生きる
「最近なんだか高いレストランばっかり行ってて金欠なんだ……どうすればいいと思う?」
講義が終わった後の余裕がある時間。
友達が私に相談をぶつけてきた。
「とりあえず高いところを選ぶ理由を聞こうか」
「うーん……SNSの映え狙いかな。あと、高いと美味しいってイメージあるし」
「高いと美味しいねぇ」
その考えに、少しだけ突っかかってみる。
すると友達はすぐに反応を返してきた。
「なにか言いたそうな顔」
「まぁね、私はそういうお店よりも別の場所に行くことが多いから」
「別の場所?」
ふっふっふと笑いながら、解説する。
そう、こういう学生の強い味方……
「庶民的な料理をリーズナブルな値段で提供してくれるお店よ」
「B級グルメってやつだよね。なんだかB級って物足りない響きだけど……」
「B級を侮っちゃいけないよ」
物足りない、という雰囲気をぶつける友人。
これは説明する必要がありそうだ。
「格式があるレストランとかも美味しいけれど、気軽に食べられる強みってあると思うんだよね」
「でも、いつでも食べられちゃうから、そこまで優先する気になれないけど……」
「むしろ逆だって私は思うけどね」
「逆?」
「普段食べられるっていう気持ちがあるからこそ、最近食べてないなぁってなりやすいって」
「言われてみればそれはあるかも……?」
友達がぼんやりと思い浮かんだ食べ物を言葉にする。
「ハンバーガーとかは時々食べるけど、外で焼きそばとかそんなに食べないし、ホットドッグみたいなのもあまり口にしないかな」
「そういうお店に入ってみるのも楽しいと思うんだ。焼きそば専門店とか」
「えっ、そういうお店あるの?」
「あるよ、色々焼きそばにトッピングできたりして美味しいんだ。卵かけにしたり、紅しょうがとか増量したりお得だった」
「興味ある」
「今度行ってみる?」
「うん!」
笑顔で提案を飲み込んでくれた。
ちなみに私が行った場所はおおよそワンコインでお腹いっぱい食べられるような場所だった。
学生にはとてもありがたい値段だ。
「B級って庶民的ってことなのかな?」
「一歩足りないみたいな発想で使われることも多いけど、私はそっちの意味合いが好きかな」
「Bも侮れないからね」
「平均点取ることの大変さはよく実感してるわよね」
「うっ、赤点ギリギリになったりすることがあったわたしからすると耳が痛い」
「……まぁ、勉強はしっかりしようね?」
「頑張ってるもん」
基準を定めるのは人それぞれだけれども、Bという文字もそうそう悪いものではないと思う。
平均的な基準があるから、高級といった考えが作れたりするし、非日常な体験を楽しむことだってできる。
「じゃあ質問」
「どうぞ」
「B級だけど実はS級クラスの実力を持ってるみたいな展開とかどう思う?」
首を傾けて疑問をぶつけてくる友達。
純粋に気になったという様子がなんとなくながらよくわかる。
「私個人の意見で言うなら……」
「うん」
「ロマンのひとつだと思う」
「ロマンねぇ」
「平均を大きく超えた力みたいな展開はやっぱり定番だし、物語にあっていい展開だよ」
「BだけどSみたいなのも美味しいみたいな」
「そうそう。あっ、でも、だからと言ってBが蔑ろになるのはちょっと寂しく思うかな。そういうところは意識したい」
「どうして?」
「日常的、普段何気なく触れているものこそ大切なんじゃないかなぁって思うからかな」
私なりの意見を友達にぶつけていく。
「高級レストランが特別なものに感じるのは、普段食べているものとはまた別のものが出るからという部分も強いと思うの」
「日常が高級だと、平均値が変わっちゃうもんね」
「普段何気なく美味しく食べているものとはまた違う、ゴージャスな風味。そういうのを感じられるのは庶民的な味わいの力だと考えてるの」
「でも、たまに戻っていきたくなるよね。普段食べてるような味に」
「そうだね、そういういつでも戻ってこれるような味わいがB級にあるんじゃないかなって」
「安心感なのかな?」
「きっとそう」
大胆に目立つS級や、凄い象徴みたいなA級があったとしても、B級が霞むわけではない。
それぞれに、しっかり強みがあるからこそ、きっと階級として存在しているんだと思う。
全ての等級に対して、自分なりに向き合っていけば、きっと新しい見解も見えてくるだろう。
じっくり、私なりにこれからもB級に向き合いたい。
「じゃあさ、映画のB級ってどう思う?」
「グルメのB級とはちょっとニュアンスが違うけれど……」
少し考えて、言葉にする。
「私は、映像作品として挑戦しようとした事実が素敵だと思うし、映画のB級巡りも面白いって思うよ」
色々な物語、食事もあって、文化がある。
生きていると色んなB級に出会うし、それより等級が高いようなものにも遭遇する。
その全てを楽しめたらきっと楽しいだろうな。
友達との雑談を広げながら、そんなことを考えていた。