表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

3兄弟転生 ~今世でも3人兄弟だったけど、お助けキャラ、悪役令息、主人公な異母兄弟でした。

作者: 桂木真依

 どうして、こんなことになってしまったのか。

 計画は万全のはずだったのに。

 今頃は、俺がクラルヴァイン公爵家の当主になっていて、今まで俺を蔑ろにしてきた奴らを見返してやるはずだったのに。


「と思っているのではないでしょうか」

捕らわれた父親を見下ろしながら、俺が冷ややかに言うと、

「この不孝者が!お前のためにやってやったのに!」

父、エッケハルトは激高する。よく言うよ。

「自分のことしか考えていないくせに、そんなことを言わないでほしいですね」

そんなことを言われても全く響かないと冷ややかに言ってみせると、

「なっ……」

父は言葉を失っている。そんな父にとどめを刺そうと、

「それに何もやってやれていませんよ?」

と告げた。


「どういう……」

意味だと尋ねようとした父は、この世で一番会いたくなく、そして二度と会うことはないと思っていた人物が部屋に入ってくるのを見て言葉を失った。

入ってきた人物、お祖父さまは、父に、

「よくもやってくれたな」

力を込めた低い声で言った。父は、クラルヴァイン公爵家の当主の地位を唯一の子であるにもかかわらず自分に譲ろうとしないことを恨み続けてきた自らの父を呆然と見上げた後、

「お前を殺すことも失敗していたとはな」

憎んできた父を殺した企みが露見しただけでなく、そもそも企みが潰えていたことを知って、憎々し気に言い捨てた。


 そんな父に対し、俺は、

「どうして成功すると思っていたのか不思議ですよ」

殊更に愚かな父を刺激するように言葉を選ぶ。ま、前世で読んだ小説の中では成功してたんだけどな。そう思いつつ、さらに言葉を続けようとしたとき、

「後はわしがやろう」

お祖父さまが俺の肩にそっと触れた。

「お祖父さま」

最後まで自分でやろうと思っていた俺は、戸惑ってお祖父さまを見返したけど、お祖父さまの向こうにいる兄ヴィルマーがかすかに頷いたのを見て、

「わかりました」

素直にその場を祖父に任せることにした。


「すまなかった」

立ち去る間際に祖父に言われた謝罪の意味が俺にはわからなかったけど、父を閉じ込めた部屋から出ると、今度は兄さんから労わるように頭を撫でられる。

「どうしたの?」

首をかしげたけど、

「何でもない」

兄さんは首を振って微笑むだけだ。

「変なの」

はぐらかされて不満だったけど、

「さあ、エルヴィンのところへ行ってやろう」

末の弟の名前を出されると、ぱっと気持ちが切り替わる。


「そうだね、きっと気にしてるよね」

行こう、行こうと兄さんの手を急かすように引いて、足早に階段を上り、そこで待っているようにと強く言いつけた弟の部屋へと向かう。

「大人しく待っているかな」

「……待たざるを得ないだろう」

……確かに。


 弟をあの父との対決から遠ざけるために、俺は万全の策を講じたのだ。母方の祖父と開発した登録者の指紋の認証でのみ扉を開くことができるようにする魔道具をドアと窓に設置し、最近末弟エルヴィンが大層懐いていて、しかもまだ振り切ることができない力の持ち主である専属侍従候補に一緒にいてもらっている。

 年齢に全く見合わない力を持つ末弟と言えど、どんなに抜け出そうとしても不可能だと、兄さんが苦笑している。その苦笑を見て見ぬふりで、指紋を識別させてドアを開くと、

「にぃに!」

エルヴィンが飛びついてくる。まだ3歳の小さな体は、やっと幼児を抜け出したところの俺でもまだ受け止めてあげられる。


 ついでにぎゅっと抱きしめて、

「もうあいつは捕まえたから大丈夫だ。あとはお祖父さまが引き受けてくれたよ」

まずはと説明すると、エルヴィンはほっとしてぱっと笑顔になったが、すぐに不満を思い出したらしい。

「どしてつれてってくれなかったの?」

「それは……」

今世では俺達兄弟の母はそれぞれ違い、エルヴィンの母は、3人の父エッケハルトの正式な妻で、エッケハルトの父オスヴィンが決めた政略結婚だ。


 エッケハルトの企みでは、オスヴィンを亡き者として当主の座につき、正妻を排除してアンゼルム、つまり俺の母である愛人を後妻に迎え、我が世の春を謳歌する予定だった。そして、俺が前世でたしなんでいた小説ではそれは実現し、アンゼルムは、主人公であるエルヴィンを苛め抜く悪役令息として登場するのだ。

 この世界での兄の転生先ヴィルマーのほうはと言えば、あの作品では、虐待がさらに命の危機に発展する前に、隣国の母方の祖父母のもとへと逃れる際に主人公を助け、終盤で実は父が若いころにひそかに設けていた子であったことが判明するキャラクターだった。


 つまり今回潰した父の陰謀は、俺や兄さんはともかく、可愛い末弟を傷つけるものだったのだ。そんなことを企む父との対決に、前世の記憶があると言っても、まだ幼いエルヴィンを立ち会わせたくなかった。前世だってまだ子供だったんだし。

 それをどう伝えようか考えていると、

「エルヴィン」

兄さんが先に口を開いた。


 兄さんは、腰をかがめてエルヴィンと視線を合わせると、

「アンゼルムは、お前を守りたかったんだ」

諭すように言った。それでもエルヴィンは、

「ぼくだってにぃにたちをまもりたいのに!」

子ども扱いされたと憤慨している。こうなりそうだと思って言葉を探したんだけど、案の定だ。何て言おうか。


 俺が迷っていると、

「それはまだ俺達に任せてほしい」

目をあわせたまま、兄さんが続けた。

「エルヴィンはすぐに大きく強くなってしまうのだから、お兄ちゃんたちにまだもう少し守られてほしいんだ」

「むー」

兄さんの言葉にもエルヴィンは唇を尖らせて拗ねたけど、

「もうすこしだからね!」

兄さんの言葉を受けいれていた。……さすがの長兄力だ。俺にはまだできない。


 兄さんの感銘力に感心していると、

「じゃ、つぎはぼくのぼうけんだね!」

エルヴィンがとんでもないことを言い出した。

「「まだ早い!」」

思わず兄2人で声をそろえて言ってしまった。当然、エルヴィンは、

「なんで!」

またぷりぷりと怒り出す。


 そんなエルヴィンにも、兄さんは慌てることなく、

「いいか、エルヴィン。アンゼルムが前から言っていただろう。話の中では、あの父親の陰謀は数年後のはずだし、お前が隣国に逃げることになるほど追いつめられるのはさらにその後だった」

言い聞かせている。

「それに、何より、エルヴィン。お前はまだ幼い」

続けた兄さんのあまりに説得力のある言葉に、

「むー」

エルヴィンも自分の小さな小さな体を見下ろして、

「わかった」

最後は納得していた。が。

「いや、そもそも幼いことだけが問題じゃない」


 エルヴィンは僕の冒険だね!なんて可愛いことを言っていたが、あれは中々に試練の旅なのだ。最初の難関は回避できるように既に動いたけど、その後も試練は続く。

「そんな旅に……」

行かせたくないと言う前に、

「ぼくはぜったいいく!」

エルヴィンに断言されてしまう。

「みんなをたすける!」

そうなのだ。


 エルヴィンは旅の途中の試練の中で人々を助けて行く。エルヴィンの旅の部分は、病床で暇を持て余す前世の弟のために冒険の旅として語り聞かせてしまったから、エルヴィンは自分が旅に出ないとその人達が救われないと、以前から頑なに旅に行くと主張している。

「そうだな。俺も一緒に行こう」

兄さんも旅に出ることには反対していない。

「だったら、準備は万全にしなくちゃ」

前世では体を動かせなかったから、今の剣術体術に才能のある体を喜んでいるエルヴィンのために、小説では出会うのはまだ先な良き師を早く迎えなければ。


「あとは、身を守る魔道具だな……」

「……ああ、あんにいちゃんがべっせかいにいっちゃった」

「ああなったら、止められないな」

兄と弟が何やら言っていて、しかも俺のことを言っている気もするが、それどころではない。小説通りにエルヴィンを旅立たせるとしても、もう数年しかない。


「俺が万全の態勢で旅立たせてやるからな。もちろん俺も一緒に行く!」

あの話の中では長兄しか共に旅立たないが(俺は悪役令息だからな)、もちろん俺も一緒に行く。

「う、うん」

「それは心強いな」

兄と弟が一歩俺から引いた気もしたけど、気にしない!今世こそ、兄さんを助け、兄弟3人で幸せに長生きをするのだ。記憶を取り戻したあの日からの決意を新たにする。


「絶対にみんなで幸せになろうね!」

唐突かもしれない俺の言葉に、それでも兄と弟は、

「うん!」

「もちろん!」

力強く頷いてくれた。まだまだ乗り越えなければならないことはたくさんあるけど、3人でならきっと乗り越えられる。そう思った。

ブックマーク登録や下の☆をクリックしていただけたら、連載版に向けて、大変励みになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ