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二十五話 鹿眠る、闇の花園で 弐

俺たちは山頂を目指して歩いていた。周りは神秘的な雰囲気で迷ってしまいそうになるが、幸いけもの道を歩けるおかげで迷子になることは無かった。


しかし、山頂に近づくほどに魔素量が多くなるのが分かる。吐き気がまた(もよお)してきた、マスクを着けていようとそれを気にせず体内に入っていくのが分かる。


姫さんはずっと腑に落ちない顔をしている。騎士さんはずっと体を強ばらせ、剣の持ち手をずっと握ったまま歩いていた。

彼女達もこの魔素量にくらっているのか、苦い顔をしていた。彼女達が苦しむ程の魔素の量に違和感を覚えつつ、命の危険をひしひしと感じていた。


「もうすぐ山頂ですね、姫さん!姫さん……?」

「え?あぁ、ごめんなさい。少し気になったことがあって、やっぱりこれ魔素じゃない気がします」

「へ?」


急な発言に俺は素っ頓狂な反応をするしか無かった。

魔素じゃない?なら、なんだと言うんだ?

その言葉を確信にするかのように、目の前には黒紫の霧が広がっていた。


よく見ようとしてみても、一向に先が見えない濃い霧に鬱陶しさを感じつつ、不意打ちに気をつけるために視線を周りに集中する。


「たしか、魔素は目には見えないはずじゃ?」

「そうですね。しかし、姫さま、鹿王様の姿がありません」

「どこかへ行かれたのでしょうか?」


最初から嫌な予感はしたし、こういう予感は外したことはない……ということは……!!

俺の周りが暗くなる。なんだ?と思い頭上を見上げると、そこには巨大な(ひずめ)があった。


「危ない!!」


俺の咄嗟の言葉に俺は騎士さんに担がれ、俺たちはその場を即座に離れた。

一瞬でさっきまでいた場所は大きな蹄によって大きなクレーターが出来上がっていた。踏み潰した蹄はゆっくりと持ち上がり、消えた。


「今の蹄は……鹿王様!?」


気を抜いた瞬間、目の前から再度蹄が飛んでくる。

咄嗟に騎士さんが剣で受け止める。ギギっと言う音を立てて、騎士さんは飛ばされるが、しっかりと受身を取ったため損傷は一つも無かった。


「「!?」」

この場にいた全員が驚きを隠せないでいた。

蹄が飛んできた方向を見ると、鹿がいた。

全体は1.5メートルぐらいのサイズだが、その佇まいは王を連想させる。


確信したのはこの生き物こそが鹿王 エル・ステラだと言うことだ。

鹿王は大きく息を吸う。直後、鼻息を吹きかけると黒紫の霧は晴れ、花びらが舞う。


ここは、花園だったのだ。霧が晴れ、陽の光を取り戻した花園は薄いピンクの花一面の花畑が咲き広がっていた。教会で見たものに匹敵するほどのものに気を抜けば今にも景色の美しさに見とれてしまうほどに…

――だが、足を止める暇はない。


「避けて!ラクさん!」

「…!?」


俺はその言葉を聞き、横に転がる。

蹄が飛んだ場所は軽く土が抉られ、花が舞った。ヒラヒラと舞う花びらの先には殺気が込められた視線を送る鹿王の姿だった。


「どうして…?鹿王様……まさかこれは!?」

「姫さま!!」


姫さまは腑に落ちた顔をし、驚愕が隠しきれず、体が止まっていた。しかし、その隙が命取りだった。再度飛んでくる蹄に姫さんは避けることが出来ず、飛ばされ、花園に転がる。


「姫さま!大丈夫ですか!!」

「だ、大丈夫。ラクさん!!鹿王は瘴気から邪の反応を感じます!」

「じゃ、邪って、あの!?」


教会のシスターと話していた奴か……

だけど、そんなことを聞いている暇はない。今はただ奴の攻撃から避けるの手がいっぱいだった。一瞬でも気を抜けば、速攻死ぬ!!


「『聖光(アーク)』!!」

「『炎斬』!避けろラク!!」


姫さまは本を取り出して、手のひらから光を放った。騎士さんは前に見せた技とは違い、剣に炎が纏っていた。

俺は言われた通り、しゃがみこみ逃げつつ、避けた。


どちらも命中した。

纏った炎と光が鹿王の体に移り激しく燃え、包み込んだ。時間が経つと光と炎は力を弱め消えた。


だがしかし、現れた姿は傷一付いていなかった。

反撃とばかりに、彼女達の頭上に魔法陣が展開され、そこから蹄が召喚された。

しかし、彼女達も馬鹿では無く、すぐさま避ける。

騎士さんは走り出し、剣を抜き、鹿王に戦いを挑みに行く。激しく、ぶつかる、剣と蹄は大きな波動を生み、空気が揺れる。


一つ一つの蹄の威力は剣で受け流さなければ、受けきれないほど大きな力だった。

流しても流しても現れる蹄に対応しているが、少しづつ彼女の息が荒くなっていく。

騎士さんが鹿王の気を引いている内に、こちらに近づき話し始めた。


「ラクさん、よく聞いてください。鹿王様は瘴気に取り込まれ、見ての通り私たちを敵とみなしています。ラクさんに頼みたいことがあります。【聖樹海】には【聖の滝】という場所があります」

「た、滝?もしかして聖水みたいなやつですか?なら急いで汲みに」

「魚です。詳しく言えば【空魚】と呼ばれる魚です。その魚が持つ、浮き袋を持ってきて欲しいんです」


こう言った場合大抵、聖水だの浄化できるものを持ってこいみたいな流れというのに目的は魚……予想外の事に戸惑っていた。

戸惑っている俺を置いて、彼女はさっき描いた地図を取り出し、指を刺した。


「ここです。この場所に行って、魚を取ってきてください。私たちは鹿王と戦い時間稼ぎをします。この地図を持って行ってください!さぁ!」

「は、はい!!」


俺は彼女に渡された地図をポケットに突っ込み走り出す。彼女の顔は少し寂しげな顔をしていたが、それを気にしている暇は無いほどに必死に目的地まで走る。

不幸中の幸い、鹿王のおかげでこの辺りに魔物が居ないことが分かっているため、安心して目的地に迎える。


「これが【聖の滝】!凄い高さ……」


ゴーゴーと激しい音を立てている滝は全長100mにも届きそうなほど高い滝だった。驚いてる暇はない一刻を争う自体だ…急いで空魚とやらの魚を見つけなければ。どこにいるんだ……?

三分が経った頃


「こんな急いでる時に!見つからないんだ!」


川に入り、魚を探す。しかし、一向に見つからず、これ以上行けば川に流されて死ぬだろう。それほどまでに川の流れは速く、俺の足を持っていこうとしていた。陸に上がり、一向に見つからないことにイラつき、俺はしゃがみ、焦りと絶望に見舞われ正常な判断が出来なくなっていた。


一向に見つからない魚にイラつきながらもどこまで行っても無能な俺に嫌気が指す。

ポケットから地図が落ちた。


「やべ、地図が飛ばされたら戻れなくなる!ん?紙がもう一枚ある…?」


俺は地図に挟まっていた小紙を広げる。

「……!?」

そこに書かれていたのは


ラクさん、これを見ている時がいつかは分かりませんが安全に滝に着いている事を願います。

もし、10分が過ぎていたら逃げてください。急いで下山し、冒険者ギルドへ向かい任務失敗と同時に鹿王が瘴気に犯されましたと。お願いします。あなたなら大丈夫ですラクさん


なんだよこれ……俺を逃がす口実じゃないか……

俺は毎度毎度、守られてばかりだと悔やむ。手を強く握った為か、手から血が滴る。今までなにも出来なかった自分が悔しく、強くなろうと決心しても結局なにも変われない。そんな考えが心を徐々に空虚にしていく。


「逃げようかな……」


不意に口から出た弱音は心までも支配する。

無理なんだ、弱いから仕方ないよな、このまま探してても無意味じゃないか?


頭の中はもうそれしか無かった。今までの強がっていた考え、思いを全て否定するように頭はそんな思いで重くなり、顔を真っ直ぐむくことすら難しく、見える景色は徐々に川や木々から石や岩に変わる。


『なぁ?ほんとにそれでいいのか?』

「お前、誰だ!?」

『なぁ?聞いてんだよ…必死こいて強くなるって豪語してたのによ、弱音なんか吐くのか?』


目の前に黒い影が現れた。

顔は黒く、目と口だけが見える。男は歩み寄り、俺との距離を縮めていく。

そして、黒い影は俺の胸ぐらを掴んだ。近距離まで顔が近ずいても顔は見えなかった。

彼の掴んできた手は怒りに満ち溢れていた。握る服が裂けてしまいそうになるほどに力強い。


そんなこと言われてもと弱くなった心がまだ呟き、俺を現実から遠ざけようとする。

前いた世界でも同じだった。思春期からか大人や友人に反抗し、誰にも助けを求めなかった、現状を変えようとしなかった、そんな弱さを異世界にまでも連れ込んでしまった。


「仕方ないだろ……」


ボソッと呟いた言葉が彼の逆鱗に触れ、握る力が強くなる。今にも殴り殺してきそうなほどに空いている左手は力強く握りしめられていた。


彼の目つきは冷淡としていた、今にも殺す勢いだ。俺は萎縮した気持ちでそれでも負けまいと睨む。彼は手をパッと離す、持ち上げれた身体はニュートンのりんごのように落ちていき、尻もちをついた。


「痛った!何すんだよ」

『寄越せ』

「は?」

『体、寄越せよ』


男の唐突の発言に俺は無言になる。

意味がわからない。何を言ってるんだこいつはと、脳内で言いつつも、こいつならやりかねないと心が言う。恐怖を感じた手足は酷く震え、目の前にいる大きな怪物に命の危険を感じる。


『弱いやつがこの世界で生きていけるはずないだろ?だから、変われよ体?俺なら上手く生きていける』

「……」

『なに黙ってんだ?』

「あげない…」

『なんだって?』

「あげるわけねーだろ!」


俺は大声で否定する。尻もちをついたまま、男に目線を離さず恐怖を隠すように威嚇をする。

男の殺意が弱くなった気がする。

俺は必死の為気づかなかった。目頭に涙を浮かべ、力を込め、声を張り、意志を強く持つ。


「なんで、お前なんかにこの先の人生決めつけられなきゃならないんだよ!これは俺の体だし、俺の人生だ!」

『何が人生だ…結局、強くなるって言っておいて何も実行できずに、現実逃避をするやつに何ができる』


淡々と男は正論をぶつけてくる。その言葉に怯んだが、反抗心を駆り立てて、そんな言葉に耳を塞ぐ。

男はしゃがみこみ、俺と同じ視線まで持っていく。


『人生ね…そのまま逃げてどうする?彼女たちを見捨てて、お前は生き残る。確かに、お姫様の意思だお前が気に病むことは無いな?だが、罪悪感、後悔は残るんじゃないのか?それを背負ったまま生きていくのか?』

「……」

『弱いだ?現状を変えようとしないやつに明日は来るのか?周りの環境は変わるがお前の人生は止まったままだ。本当に強いやつは現状を嫌うはずだ』

「止まったままじゃない!日々、経験をつけ、強くなるんだ。大人になれば、今よりも強くなる!」


男は俺の言葉に落胆したように見えた。

ため息をつき、男は立った。その顔は見えずとも、期待すらも無くなったように思えた。

俺は、そんな顔に萎縮し、声が出なかった。耳を塞いでいた手は、無理やり剥がされた。


『確かに強くなるな…自分を守るだけなら。現状維持だよ結局は…体は強くなるさ。だが、体なんてそのうち年老いて弱くなるもんだ。でも、心はな、年老いても強いままなんだよ』

「それは…確かにそうだけど」


確かにその通りだ…体なんて年老いれば徐々に弱くなる。人は弱い、強いやつがいても結局死ぬのは一緒だ。


俺は問う。

良くない、守られて生きるのなんて俺は嫌だね…楽かもしれない…それで人生楽しいのか?俺は人生は楽しむ為にあると思ってる、楽しくないなら楽しくするだけ……そんな甘い考えだから強くなれない。


「俺はこんな人生を送るために、生まれてきたんじゃない。幸せに生きるため?違う。俺の人生を価値づけれないくらい生きる事だ」

『それと強くなる意思は関係あるのか?』

「ないね」


俺の即答した言葉に驚いたのか、男の目の瞳孔は大きく開いていた。

その後、男は大きく笑った。


『ハハハ!面白い!なら、なぜ強くなる?』

「俺の人生は俺が決める。邪魔するものを無くすために強くなるんだよ」

『いい心意気だ!体を取るのはやめだ、良かったな。自分の意思がまだ強くて…やめだ、体を乗っとるのはやめよう!』


俺は深呼吸をする。

荒々しかった俺の心は落ち着きを取り戻す。正常な判断を取れるようになってきた。


『一つ助言をしてやろう。お前のスキルはこれからも強くなる、スキルを頼れ。それはお前の力なのだから…絶対に負けるなよ楽…』

「強くなるために全部を使って生きるよ!お前のおかげで目、覚めたわありがとう」


男はフッと笑って、男の体は霧となって消えた。

そうこうしてる間に時間が迫っている。

俺は俺の人生を創る。


「忘れてたな…ほんとにすっかり…【鑑定波】」


スキル波が大きく広がる。

どこだ…どこだ…!いた!!

涙を拭う。


「久々に開きますか!【ステータスボード】展開!」


目の前にステータスが現れる。俺はすぐさまスキルツリーに移り、迷わずタップする。


【捕縛】・・・物体を捕まえる。レベル差があるほど解ける時間は短くなる。

スキルポイント 100pもしくは生き物を10匹捕まえる。


そんなことが書かれていた。俺はすかさずスキルポイントを使用する。

『スキル:【捕縛】を獲得を確認』

ステータスを確認すると、しっかりと反映されていた。


「【捕縛】!」


手をかざし、鑑定波によって見えるようになった空魚に向けてスキルを打つと、魚は謎の輪っかに封じ込まれ浮いてくる。水に入り、回収する。意思が強くなった分怖いものが無くなった。


「【分解】!こんなスキルもあったな初期から貰ってたやつ」


スキルを発動すれば、魚は瞬時にして各部位によって分解された。

血すらも残らず、分解された。

人間に使えるのかと一瞬脳裏を過ぎったが吐き気がするためやめた。


「これか、浮き袋。【鑑定】」


空魚の浮き袋・・・空魚が持つ浮き袋。他の魚とは違い、空へ浮かぶための袋である。古くから病気や呪いを吸い込み、浄化すると言われている。


「浄化……やっぱり!……時間が無い、急がないと。【身体強化】!スキルポイントがあと少ししかない…スキルでの戦闘は難しいな」


体に身体強化をかけると、体が軽くなる。どこまで走れるような軽さだ。俺は走り出す!間に合え……

山を駆け上る。一直線に進んでいるため、草に当たり足に切り傷を受ける。

しかし、気にしない。ここで痛いと言う俺じゃない…山頂へ向かい。彼女たちを助けないと!


死に物狂いで走った足はボロボロになったが、山頂へ直ぐに着くことができた。10分など等に過ぎているだろうが、まだ死んでいない可能性を信じて。


しかし、目の前に映る光景は大きな怪我を追って、死にかけた二人の姿だった。

心がキュッと締め付けられるほどに、酷い姿だった。俺が遅すぎた…でも、もう来たからには覚悟を決めた、いや決めていたんだ…

大声で二人に叫ぶ、まずは安否確認だ…


「姫さん!騎士さん!」

「な、なぜ、ラク、さんが?逃げてください。無理です、もう浮き袋を使う体力もありません」

「僕がやります…!」


姫さんは最後の力を振り絞りながら、俺に逃げるように諭す。覚悟を

浮き袋を持つ。弱音はもう吐かない、誰かが傷つく姿はもう見たくない。


「こ、ここで、死なせるわ、訳にはいきません。ラクさんはただ私たちの目的についてきただけなんです。あなたが死ななくてもいいんです!」

「誰が死ぬもんか!ついて行くと決めたのは俺だ!さぁ!どうすればいいですか!!」


姫さんは驚いたあと安心したような顔をし、痛いであろう体を上半身だけ起こして、浮き袋の使い方を教えた。


浮き袋は常に空気で満たされており、内部の空気を押し出したあと、再度取り込もうとする動きに空気と一緒に瘴気を吸い込ませる。

吸い込ませられる距離は二メートル以内か…厳しいな。


今の距離、ざっと二十メートルは離れているだろうが奴から見れば些細な距離だろう。やはりあの蹄が厄介と感じる。一瞬にして、どこからか現れる巨大な蹄は避けるのは非常に難しい。


「了解…やるしかないですね。姫さん達は今は回復を癒すことに集中してください」

「頼みました、ラクさん…!【回復(ヒール)】」


彼女の周りに緑色の魔法陣が展開され、彼女の顔が柔らかくなっていった。安心した俺は本題の鹿王に目を向ける。律儀に待ってくれているのは奢りかそれとも俺に気づいてないだけか…後者はありえないか。


身体強化が続く間に鹿王に一気に近づき吸い込ませる。簡単なように思えるが、かなりキツイ…近距離まで近づく隙が無さすぎる。

鹿王は今もなお見下すような目をしている。


身体強化が切れる残りリミットは三分、まだ全身の神経が研ぎ澄まされるのが分かる。身体強化は体の動きを軽くし、俺でも鹿王と戦える程にまで戦闘力を引き上げることができる。

俺は浮き袋の空気を押し出し、吸い込ませる準備をする。


鹿王は雄叫びをあげる。

鼓動が高鳴り、ビリビリと肌に痺れを感じ、全身の産毛が逆立つ。

「悪あがきだが、もう諦められないのでね……お前の瘴気吸わせてもらうよ!」

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