二十四話 鹿眠る、闇の花園で 壱
はっ!と目が覚める。自然と目が覚めるとなると朝なのだろうかと思ったが視界の先に星空が広がっている。
真夜中だった。
なんか、寝てたはずなのにめっちゃくちゃ疲れたな。
「凄い星だ……」
夜空に満遍なく散らばる星々はなんとも素晴らしいものだった。いいものが見れた喜びを感じ、二度寝を試みた。
寝れねぇ……完全に目覚めてしまった。
一度覚めた目は眠ることを知らないようだ。
んー、散歩するか!森に入ったら死ぬから川沿いでも探索しようかな……
テントを立てた場所から草を掻き分けると横幅五メートル程の川が見える。
石がゴロゴロと転がっている為、滑らないように慎重に歩きながら散歩を始める。
カツカツと靴と岩がぶつかる音が鳴る。
川のせせらぎだけ聞こえるこの場所に置いて、その音は目立っていた。
川に視線を移せば、そこには4Kテレビにも劣らない程綺麗な物が映っていた。
川に映るのは空に浮かぶ星だった。それは、まるで川に光り輝く魚が泳いでるようであった。
これを見れるのも、異世界の特権というわけか……でも、こう静かなところで散歩をすると寂しい気持ちが溢れ出るな。
「なんで、こうなったんだろうな!俺の人生……まさか虐められてる方がマシだったなんて。いい皮肉だね」
波乱万丈な俺の人生はきっと異世界に来てから始まったのだろう。
最近は色んなことがありすぎて、忘れていたが孤独はこういうものだったな。
寂しさが心を埋めていく。だが、この
「家に帰りたいよ……こんな不遇な俺を神は一体どうしたいと言うんだ」
嘆いたところでそれを救うものなど誰もいない。虫の羽音と川のせせらぎだけが耳に入る。いつの間にか目から涙が出ていた。
「まただ。俺はまた弱音を吐いてる!俺は強くなるんだろ?今を頑張れ、頑張った分この先は幸せなんだ」
涙を拭い、自分自身を鼓舞する。
びちゃびちゃ
ん?水の音?もしかして……
「ウォォルォォ!!」
「さ、魚!?デカイ、魔物か!」
二メートルぐらいありそうなでかい魚はこちらに向かって飛んでくる。
俺は瞬時にそれを避けようと脳が動くが、体が追いついてないかった。
バコンと体に体当たりされ、地面に叩き付けられる。
「……カッ、ハァ……」
口から血を吐く。
またかよ、このパターン!まだ骨は生きてる。
剣を鞘から抜き、魚に突き刺す。ヒギャァと悲鳴を上げ、ザバーンと川に戻っていく。
安心はできない。とりあえず、川から離れよう
痛む身体を無理やり動かし、助けを呼ぼうと走り出す。しかし、背を見せた途端、背後から水の音が聞こえる。
「やべ、来るぞ」
剣を構える。敵はどこから来るか分からな……
「!?」
目の前から滝のような威力の水の波動が飛んでくる。
一瞬のことに脳も反応できず、食らってしまう。
「ウグゥ……」
俺は吹っ飛ぶ、同時にやつは連撃で尻尾を横に振る。
俺は川に飛ばれた。
お、溺れる。
体はもう川を泳ぐことは出来なかった。このまま、やつの餌になるというのか、これも試練なのかよ神よ!
いや、クソ喰らえ神なんて……あぁ、もう無理だ…
魚の魔物は口を大きく開き、こちらへ突進してくる。
ズバーン
瞬間、魚は空高くへ打ち上げられた。
「????」
「このアホ死にやがったな……この後、死にに行くようなもんなのだぞ?助けられなくなったなこれで」
【開花《溺》】を発動。
能力大幅上昇、バフステータス《背水の陣》を付与、HPの超回復。
《背水の陣》・・・バフ効果:あらゆるものへの適合。デバフ効果:戦闘への逃走が不可
「まぁ、いい!とりあえず、この雑魚を早く片付けて魂を休息せねば」
「グォォォォォォ」
「なんだ、まだ威勢があるのか」
足は水面に立つ。魚の魔物は空中にいながらこちらへ口を開き襲いに来る。
「面倒な奴だ。お前程度にはこれで十分だ!【スラッシュ・I】」
斬撃が飛ぶ。
スパン!と共に魚は真っ二つになった。
魚の切り身はザバンと音を立てて、ぷかぷかと浮いていた。
「こんな奴にやられるとはな。早くこいつを強くしなければ命がいくらあっても足りんぞ……」
直ぐに寝床へと向かい、そのまま魂との接続を切った。プツンと聞こえそうなほどすぐに倒れ、眠りについた。
「ラクさーん!起きてください!」
「ん……?朝……?はっ!?」
目を開けると、目の前には可愛い顔があり、その刺激に目が覚めた。
可愛すぎるだろ……これを朝から見れるなんて幸せだ。そういえば、夜何かあった気がしたんだけど、なにがあったんだっけ?
そんなことを考えていると、鼻腔をくすぐる匂いが漂ってきた。
「いい匂い……」
「パンと目玉焼きとベーコンですよ!」
「ご、豪勢ですね。朝から」
朝ごはんの理想と言える料理が並んでいた。
その見た目に心を奪われる。
グギュルルルとお腹の音がなる。
「そんなにお腹が空いていたんですね。ラクさん」
「お恥ずかしい限りです。」
「しっかり食べて戦闘に備えますよ。これが最後の晩餐になるかもしれませんけど」
姫さんはいたずらに笑う。
笑い事じゃないと思いつつ、俺も苦笑いをする。
準備が終わり、俺たちは森へと足を踏み入れた。
中は至って普通の森であったが、魔素の重さが段違いだった。
待て待て、何だこれめっちゃ気持ち悪い、、、このままだとせっかく隠れてるのに朝ごはん吐いてバレる。
俺は気分が最悪ながら、手を挙げ、姫さまに願った。
「あ、あの......吐き気がやばいんですけど、魔素を緩和できるようなポーションとかありませんか?」
「あ、ここの魔素は今のラクさんだと毒でしたね。これをつけてください。魔素浄化マスクです」
そう言って手渡してきたのは、ペストマスクに近い見た目の仮面を渡してきた。
奇妙なものであまり、着けたいと思わないが背に腹はかえられないため身につける。
すると、さっきまで気分が悪かったが楽になった。
名前の通り魔素を浄化するのだろう。
いつの間にか吐き気は引き、身体の重さも無くなっていた。
「凄い。これなんです?」
「名前の通り、魔素を浄化するマスクです!」
「そして、ラクよ。今から隠れるためのマントもつけてもらう。」
そう言って、騎士さんはフードが付いたマントを手渡す。
それを、俺たちは着ると特に変わったことは無いが不思議と存在感が彼女たちから消えた気がした。
「これで魔物からバレることは無くなったな。先へ急ごう、暗くなってしまったら灯りが使えない分停滞してしまう。」
「とりあえず、山頂へ向かいましょう。そこにきっと鹿王様はいると思います」
俺たちは草木を掻き分けつつ、険しい道のりを歩いていく。気がかりがあるとすれば、魔物がほとんど見当たらない。
危険な場所だと言うのだから魔物の一匹や二匹見てもいい頃合いだと言うのに、進んでも進んでも景色は変わらず。気を抜けばすぐさま迷子と言うほどに…
「魔物が見当たらないですね?何かあったのでしょうか……仕方ありません、あまりこれを使いたくは無かったのですが」
「いいのですか?姫さま、あれはいざと言う時に」
「それが今でしょう?この森は命懸けなの、気を抜けば死ぬわ…」
姫さんはカバンからあるものを探し始めた。あったあったと言い、取り出したものは白紙の紙と羽根ペンだった。
「それは?」
「この魔道具の名前は探索ペン。このペンに魔力を注いで、白紙の紙の上に落とすと、この周辺の地形、生物を描き始めた時の瞬間を写すペンです。注いだ魔力が多いほど描く範囲が大きくなります。」
そう言い、魔力を簡単に込めた。ペンと一緒に取り出した白紙の紙の上に羽根ペンを落とすと倒れることはなく自ら描き始めた。
シャーシャーと音が鳴ると共に、物凄い勢いで地図を描き、みるみるうちに地図が出来ていく。
完成すると羽根ペンはパキッと音が鳴り折れる。
「折れた?」
「このペンは一度使うと折れて、二度と使えなくなります。このペン高価なのに虚しいですよね」
姫さまは肩を少し落とす。
俺はそんな姫さまを横目に地図を見やると、この森の地図と下に赤い点があった。
この目的地は……頂上か?見た感じ、赤い点は生物だろう。
そんな事を思っていると、ふと不信感に見舞われる。
赤い点が生物なら、この地図にいる生物は俺たちを抜いて一点。
「これは……?」
「恐らくその点が鹿王様ですね。しかし、おかしいですね……なぜ、私たちの周りに生き物が一匹も居ないのでしょう?」
「何かから逃げたように思います。姫さま、これを」
そう言って、女騎士は指を指す。その指の先に酷く荒れた、森があった。
荒らされるというより、一目散に逃げている時に邪魔な木々を破壊しているように思える。
「あの木々の荒れ方…キラーベアでしょう。Aランクほどの魔物がそこまでして逃げるのはどう言うことなんでしょうか?」
「何かある」
ここにいる全員が息を飲む。化け物がこの森に住み着いている。その考えが全員の頭に過ぎる。
剣士は体が強ばり、姫は悩ませ、男は震えた。
「とりあえず、鹿王様の所に向かいましょう。あそこならどんな化け物が居ても安全ですからね」
「そうですね。姫さま」
嫌な予感がするが…考えたくもないな。
俺は足を震わせながら、山頂へと足を踏み出した。




