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第五章開始 色付きの花束と透明な花  作者: 絢奈
第四章 運命の奴隷
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和解と絶叫

 





「ムカつきますわ…!ほんっとうに最悪ですわ…!!!」


「「「「「「……」」」」」」


「マジぱねぇ暴飲暴食っぷりっすねぇ…」



 豊穣の宴亭(ハーベスト)…そこにはターレアと戦えず消化不良のリーナが悪態をつきながら暴飲暴食し、高く積みあがった皿を眺めるユリ達の姿があった…。



「にしてもアリアっち達遅いっすねぇ~…挨拶だけって言ってたっすけどなーんか厄介ごとに巻き込まれてる気がするんっすよねぇ…」


「そうですね…何故か私もそんな感じがします…」


「詩織ちゃんレーダーにもなーんかビビッて来るんだよね~…黒髪幼女…合法ロリ的なのがいおりんの近くにいそうなんだよね~…」


「「「「「「「こわっ…」」」」」」」



 ユリ、リーチェ、詩織の第六感が正常に作動している事は誰も知らないが実際そうなっているんじゃないかという謎の確信に皆が声を漏らすと…



「皆さん、アリア先生が先に戻れと言ったので戻ってきました」


「おーティアっち戻ったっすー……何か増えてるっすね?」


「「「…」」」


「す、すみません…ここに来る途中に会いまして…」


「ふぅ~ん?」



 申し訳なさそうな表情をするティア、ルマ、エルダ、レイカの四人が豊穣の宴亭へと姿を現した。



「…まぁ、詳しい話はアリアっちが帰って来てからするっす。あんたらも適当に座ってなんか頼めばいいっすよ」


「わかりました。ティリア、隣いい?」


「う、うん!いいよお姉ちゃん!」


「…テッタ、隣に座ってもいいか…?」


「ルマ……ふぅ、別にいいよ」


「ん、エルダは私とアンジェの間ね」


「わ、わかった…お手柔らかに頼む…」


「シャルロット…隣…いい…?」


「レイカさん…はい、大丈夫ですよ」


「店員さん~!やっぱ人数増えたっす!」


「あいよ!!すぐ行くから待ってな!!」



 ティア達はアリアが来るまでの間…しばしの歓談を交わしていく…。



 ………



「テッタ、本当に済まなかった…」


「…何が?」


「ハーフだのなんだのと…」


「…まぁ、獣人族はハーフを毛嫌いしてるし仕方ないんじゃない?」


「…」



 ルマの謝罪を素っ気なく聞いたテッタは野菜炒めを食べる手を止めポケットから二つの種を取り出しテーブルに並べ、人差し指で触れると片方の種がゆっくりと芽を伸ばしていく。



「僕も自分の事を劣等種でどうしようもないクズだと思ってたし、世界の常識なんだと思って諦めてた…でもイオリやアリア先生に会ったおかげで、色んな人に手を引っ張ってもらって背中を押してもらって常識の殻を破って変わる事が出来たんだ。この種と同じ様にね」


「…それ、どうやっているんだ…?」


「ただ茶の魔色を起こして触れてるだけだよ。ルマも茶の魔色を持ってるならやってみれば?」


「ん…」



 テッタに促されるまま芽が出ていない種に触れ茶の魔色を起こすが…ルマの種は芽を出さなかった。



「無理だ…」


「そりゃそうだろうね。ルマはこの種がどういう栄養を吸って成長するかとか植物に関して何も知識を持っていない…今まで知ろうとすらしなかったんだから」


「…」


「雑草は世間一般では邪魔な草として扱われているけど、見方を変えれば踏まれても抜かれてもどんな環境でも逞しく育つ草でもしかしたら何かに使えるかも知れない。純血だから混血のハーフを嫌う…そんなちっぽけな種族の常識に囚われて混血の事を知ろうともしなかった…だから今日、ルマは未知の雑種に足元を掬われた。僕の話をどう思うかはルマ次第だ」


「…ああ」


「…その種はあげるから育ててみれば?未知を知る一歩としては十分だと思うよ」


「わかった…育ててみよう」



 それ以降テッタは野菜炒め、ルマは胃もたれしそうな大盛りの焼き肉を言葉を交わさずに黙々と食していく…。



 ………



「シャルロット…ごめんね…」


「…血統魔法を使った後の事を覚えているんですか?」


「うん…キリンもごめんって…言ってる…」


「…ふぅ、別に気にしてません。最後の斧がもし直撃していても『不死鳥の炎(リザレクション)』は継続していたので死にませんでしたし」


「あの魔法…凄かった…だって…」


「まぁ…いっぱい訓練しましたから」



 パスタを食べきり5人前ぐらいありそうな大盛りのパスタを隣で食べるレイカに驚きながらもシャルは懐から四角いカラフルな物を二つ取り出しカチャカチャと両手で同時に動かし始めていく。



「…それ…何…?」


「ルービックキューブと言って、六面の色を全て揃えるアリア先生が作った知育玩具です。頭の体操に丁度いいんです」


「知育玩具…シャルロット…両利き…?」


「以前は右利きでしたが訓練したので今は両利きですねっと…」


「同時に…凄い…」



 両手同時に六面を揃えると次は十二面体のルービックキューブを取り出し素早い手つきでカチャカチャと動かしていく。



「私の魔法は全て頭を使いますし、それを同時に扱うのに更に頭を使うんです。こういう隙間時間でも訓練が出来るので重宝してますが…レイカさんが正直羨ましいです」


「…え?…羨ましい…?」


「だって今もキリンさんと喋れて入れ替わっていても記憶があるという事は私みたいに何も訓練をしなくても()()()()()()()()()()()()()()()わけじゃないですか。戦っている最中だって身体を動かすのはキリンさん、魔法を構築するのをレイカさん…逆でもいいですけどそうすれば私はきっと苦戦してたと思います」


「っ!?」



 当たり前すぎて気付きもしなかった事に億劫そうな目元を見開くレイカを無視しつつシャルロットはルービックキューブを徐々に揃えていき…



「今まで無意識に出来てた事だから疑問を持つのも難しい…これはアリア先生の言葉です。なので私は何に対しても当たり前だと思わずに疑問を持つ様にしています。例えば…何でエルダさんはレイカさんと一緒に居てくれているのかとか、キリンさんが何でレイカさんの中に居るのかとか…だからレイカさんも今まで当たり前だと思っていた事に疑問を持って目を向けてみたら何か変わるかも知れませんよ?」


「当たり前…疑問を持って目を向ける…エルダ…キリン……」


「但し、疑うんじゃなく疑問を持つだけです。それだけ気を付ければ大丈夫だと思いますよ」


「疑うじゃなく疑問……わかった…キリン…」



 十二面全てを揃え、次は真っ赤な炎の糸で遊び始めレイカはパスタを食しながら独り言の様にキリンと会話をし始めた…。



 ………



「ん~!エルダの角綺麗…尻尾も綺麗…」


「あ、あまり人前で触らないでくれ…」


「済まないな…フリッカは魔色が黒という事もあって白くて綺麗な物に目が無いんだ。ちなみに私は黒くて綺麗な物に目が無いんだ。その点アリア教諭の白黒は私とフリッカの心を同時に揺さぶる…」


「わかる~…」


「…ならバルアドス殿の角と尻尾に興味があるのか?」


「いや…言葉は悪いが美しいとは思わなかったな。今私の目を惹いているのは…」



 角や尻尾を撫で続けるフレデリカに顔を赤くするエルダ…そしてアンジェリカは徐に両手を伸ばし…



「これだな」


「みぎゃっ!?!?!?」



 隣に座るテッタのゆらゆらと動く艶やかな猫尻尾とピコピコ動く猫耳を握った…。



「な、なにすんのアンジェ!?いつもやめてって言ってるじゃん!?」


「いやいや済まない…こう、動いてるのを見るとついな?」


「ついな?じゃないよ!?びっくりするからやめてよね!?」


「ははは…とまぁ、こんな感じだ」


「そ、そうか…」



 喋り方も雰囲気も違うのに何処か似通った所があると感じたエルダはフレデリカとの試合を思い出し身震いするが同時に約束も思い出し折れた角を触りながら静かに口を開く。



「この角について話すと約束したな…」


「うん、その角どうしたの?」


「その前に我ら竜人族にとって角がどれだけ大切な物なのかを説明させてくれ…後流石に撫でるのはもうやめてくれ…」


「…仕方ない、で、どれだけ大切なの?」


「…竜人族にとって角は誇りだ。人が人である為の尊厳と同じ…フレデリカがフレデリカでいる為の誇りと同じ物なのだ。それを無くせば奴隷と何ら変わりないんだ…」


「尊厳…ふむふむ」


「私は幼い頃、かなり活発で好奇心旺盛な子供だった。よく里を抜け出してはドランド山脈の山々を遊び場にしていたのだが…そこで私はとある冒険者のパーティーに出会ったんだ。その冒険者達はドランド山脈に生息するワイバーンの群れに襲われ傷つき仲間を失い迷い…心身共に疲弊しきっていたのだ。だから私はその冒険者達を助ける為に竜人族の里へと招いたのだが…その冒険者達は事もあろうことか竜人族の長、竜帝バーパルセル様の竜血…竜人へと至る竜血を盗んだのだ…すぐに殺されていたがな…」


「…その責任を取らされて角を折られたの?」


「ああ…何もわからぬ子供でも盗人を里に招き入れてしまったからな…私の首を落とす事で鎮まるはずだったが両親は私の命だけはと懇願し、代わりに両親の首と私の片角を落し放逐するという事になったのだ…」



 涙を落とし両手で顔を隠すエルダ…その姿は見た事のないフレデリカでさえその当時の姿を彷彿とするもので…



「そっか……軽々しく角を折るとか言ってごめんね」


「っ…」



 自然と抱きしめ頭を優しく撫でつけていた…。



「ねぇ、折れた角は持ってるの?」


「…ああ、フレデリカには手も足も出せずに負けたからな…無事な角を折られるより折れた角を渡そうと思って持ってきたが…」


「そっか。…ねぇ、アンジェ…()()()()()?」


「そうだな…()()()()()上手く扱えるとは思わんが二人でやれば何とかなるかも知れないな」


「…?」



 白く艶のあるエルダの角を受け取りアンジェリカとフレデリカはまじまじと観察し…



「…うん、私は大丈夫」


「…私も問題ない」


「な、何だ…?」


「エルダじっとしてて」


「動くと手元が狂うかも知れない。済まないが固定させてもらうぞ」


「がっ!?」



 片手でエルダの顔を固定しもう片方の手で折れたエルダの角を添えて二人で手を当てると小さく呟く。



「「…欠けた尊厳を、欠けた誇りを、欠けた己を今ここに…()()()()」」



 唯織が創り出した復元魔法の名を呟くとアンジェリカとフレデリカの手は淡く光り…



「全て元通りとはいかんが…」


「…エルダの尊厳と誇りは取り戻せた」


「…は?」



 手を離すとそこには傷一つない純白の竜角がエルダの頭にあった。



「なっ!?く、くっ付いてる!?!?」


「角も大きく成長するなら私達じゃ無理だったけど大きさも変わらなかった。欠けて失った細かい部分は補った。完璧」


「ど、どういう事なんだ!?い、今の魔法は!?」


「イオリが一から創った凄くて優しい仲間を守る魔法。…余計な事した?」


「…だ、誰も治す事が出来ないと言っていた私の角を…あのむ…透明の魔色のイオリ・ユイガハマの魔法…?こんな魔法が使えるのか…?」


「イオリは私達より凄い。だって透明の魔色だから」


「透明の魔色だから…?どういう事なんだ…?」


「まぁそれより…角は元通りになったけど感想は?」


「…」



 今まで忘れていた重みが加わり無傷の角に触れたエルダは…



「ありがとう……後で私の背に乗せてやる……」



 そう呟き俯きながら静かに涙を零した…。



 ………



「…ティリアの仲間は凄いね…エルダの角を元に戻しちゃうなんて…」


「うん、あの復元魔法はイオリさんが創った魔法なの。白の魔色があれば扱えるんだって」


「そうなのね…透明の魔色って本当は凄いんだね。…そういえばティリアは青と水の魔色なの?」


「そうだよ?お姉ちゃんは青と黄の魔色だよね?」


「うん、ターニャの血統魔法で作った魔道銃と魔道具のおかげで使えてたから今は使えないけど…二人とも種族的に苦手な魔色を持つなんて笑っちゃうね?」


「そうだね?」



 最初の険悪さが無くなった面々を見つつ姉妹の会話を楽しむティリアとティアの手元には血の様に赤いスープと真っ赤な実とソースが乗るパスタが置かれていた。



「試合の時に言ってたティリアのとっておき…他にどんなのがあるの?」


「えっと…水の魔法で雲を作って氷の魔法を合わせて雷を降らせたりとか、氷の形を工夫して光を一点に集めて燃やしたりとか?」


「え…?な、何それ…?赤と黄と白の魔色も持ってるの…?」


「さっきも言ったけど持ってないよ?雷が落ちる原理は氷の粒が雲の中でぶつかり合って静電気が起きてるからだし、氷を鏡みたいにして光を反射させて一点に集めれば光の熱で物が燃えたりするんだよ?工夫次第で自分の持つ魔色以外の事が出来るんだよ?」


「…?…?てぃ、ティリアが何を言ってるかわからないけどそうなんだね…?」



 アリアの授業のおかげで多彩な奥の手が出来た事に笑みを浮かべながらパスタに口を付けるティリアだったが…



「…うぅん…」


「…どうしたの?辛かった?美味しくない?豊穣の宴亭のパスタとスープは結構美味しいと思うけど…」


「あんまり辛くない…」


「え?ティリアも辛いのが好きなの?」


「うん…お店の人には失礼になっちゃうけど…」



 見た目より辛くない事に表情を暗くし、懐から赤黒いドロッとした液体が入った小瓶を取り出してパスタとスープに垂らした…。



「…?何それ?」


「アリア先生が作ってくれた調味料だよ。お姉ちゃんも食べてみる?」


「う……うん…」



 同じはずの真っ赤なスープとパスタが数滴で真っ黒に変わり、恐る恐るティリアが差し出すスプーンに口を付けた瞬間、



「っ!?!?お、美味しい!!!!!」


「ほんと?パスタも食べてみる?」


「う、うん……っ!!美味しい…!!!」



 あまり表情を変えないティアも目を見開き美味しいと声を荒げた事に驚いたのかレイカやエルダ、ルマも興味深々に見つめていた。



「ティアがそこまで美味しいというのは初めて聞くな…よかったら俺も一口構わないか?」


「わ、私も一口味見をしていいか?」


「私も…」


「ど、どうぞ…」


「「「「「「「「あ~…」」」」」」」」



 小さな小皿に黒くなったスープを一口分乗せて三人に差し出すが…ティリアがいつも使っている調味料が何なのか知っているリーナ達は…



「ぐあっ!?!?!?!?」


「ひっん!?!?!?!?」


「あんっ!?!?!?!?」



 想像を絶する辛さに叫び悶絶するエルダ達に静かにご愁傷様と手を合わせた…。



 ………



「おいおい精霊女王…何時までぶつくさ言ってるんさね…」


「だって…アリアが…私が間違ってたの?…言ってる事わかるけど…だって…」


「…トーマ、とりあえず飯を食わせるしかない…辛い物でも食べさせれば意識でも戻るだろう…」


「なら豊穣の宴亭か?あそこの激辛スープパスタは味もいいしな…って、それはお前さんが辛い物を食いたいだけだろ?」


「…辛い物を食べるとブレスの具合がいいんだ」


「竜人は面白い造りしてんだなぁ…」



 俯き落ち込み続けるクルエラの背を押すトーマとバルアドスはユリ達がいるとは知らず豊穣の宴亭へと向かっていると…



「…あら?奇遇ね?」


「「白黒狼!?」」


「アリア…」



 ()()()()()が曲がり角から姿を現した。



「…その様子だとターレア達の師匠になる依頼は終わったのかしら?」


「ああ。精霊女王が落ち込んでるから飯をと思ったんさ」


「そう、私は生徒達を待たせてるから失礼するわ。楽しんでらっしゃい」


「ちょちょちょい待ちちょい待ち!!」


「…何よトーマ?私は先を急ぎたいのだけれど?後、痛いから手を離してくれるかしら?」


「すまんすまん…白黒狼の生徒さんらが待ってるならおいら達も一緒してもいいか?」


「は…?」


「おいトーマ…今はクルエラが…」


「……」



 トーマの提案に声を漏らしたアリアは気まずそうに顔を背けるクルエラを見つめ…



「はぁ…今回の飲食代を全員分出してくれるならいいわよ。どうせターレアからたんまり依頼料もらってんでしょ?」


「なっ………わ、わかった…だけど依頼が少なくて今回の依頼料が頼みの綱なんだ…店の食べ物を全て食べつくすとかはやめてくれよ…?」


「なら私の生徒達にそうやってお願いしなさい。SSSランク冒険者の見栄が許すのならね?」


「うぐっ…わ、わかった…」



 トーマが代金を支払う事を条件に共に歩みを進め始め…



「みんな待たせたわね…って、何よこの状況…」



 リーナ達とティア以外、店にいる店員も客も何故ここにいるかわからないエルダ達も全て顔と口を真っ赤にしながら絶叫する豊穣の宴亭へと到着した…。

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