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第五章開始 色付きの花束と透明な花  作者: 絢奈
第四章 運命の奴隷
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ターレアVSリーナ

 





「「「「「「「……」」」」」」」」



 唯織達が魔法談義をして盛り上がっている時…ターレア達は目も合わせず、ただの一言も喋らずに俯いていたがティアは苛立ちを隠す事すらせずに声を上げた。



「…ねぇ?このままうじうじした雰囲気で特に喋る事が無いなら私、ティリアの所に行きたいんだけど」


「なっ…おいティア!!お前だって負けたんだぞ!?」


「私も負けたけどターニャ達みたいに煽り散らして惨敗したわけじゃない。私はティリアと全力で戦ってちゃんと認めて負けを受け入れた。悪いけど負けてそこまで悪い気分じゃないし、ずっとうじうじした雰囲気の中にいたら私だって気分悪い。普通こういう時は反省会とかみんなの悪い所を指摘し合って次に生かそうとするんじゃないの?」


「そ、それは…みんなそんな事出来る精神状況じゃないだろ…?」


「…呆れた。みんながここまで脆いとは思わなかった。結局弱い人を見下してちっぽけなプライドを誇示してただけ。実際に自分達より格上の強者に同じ様にされたらたった一回でボロボロ…今回アリア先生は少なくなった生徒の引き抜きの為に来てる…なら私はレ・ラーウィス学園に行く。この程度で潰れるならレ・ラーウィス学園で最底辺からスタートした方がマシ」


「お、おい!?」



 ハルトリアス学園の校章が刺繍された真っ赤なジャケットを俯き続けるターレアに投げつけ控室を出ようとするティアだったが…



「待ってくれないかティア」


「っ!?」



 瞬きもしていないのに突然目の前に現れたターレアに驚き一歩下がるといつの間にか手には投げつけたはずの真っ赤なジャケットが握らされていた。



「俺のせいでこうなったんだ…だからターニャ達は悪くない。当たるなら俺に当たってくれ」


「……そうやって甘やかすからこうなってる。キースの試合を止めようとした時、アリア先生に言われてたよね?」


「聞いてたのかい…?」


「アリア先生に治療された時に意識は戻ってた。ティリアの傍に居たかったからあのままじっとしてただけ」


「そうか…」


「…それに私はティリアを守れるぐらい…違う…肩を並べられるようになりたい。こんな脆いみんなとじゃ私は強くなれない。どんなに惨めな思いをしたって私は強くなりたい。…だからそこをどいて」


「…それは出来ない。ティアは王都の治安を守るロイヤルナイツの一員でもある。それにこんな時だからこそ俺達は新たに一丸となる必要がある…だからティア、君をレ・ラーウィス学園には行かせられない」


「一丸となる…?この状況でどうやって?口では偉そうに礼儀をとか言っていたのにハーフだとか血の優劣を気にしているルマと?」


「…」


「あれだけ自分は強いと驕って弱者を蹂躙すると息巻いてたのに角を折られかけただけであっけなく完全に心を折られたエルダと?」


「…」


「見栄を張り続けて自分より強い相手にビビッて戦意を喪失して命乞いをしたターニャと?」


「う…」


「ターレアの事しか仲間だと思っていないアーヴェントと?」


「…」


「自分の力を制御しきれずに暴走して相手を殺そうとしたレイカと?」


「…ごめんなさい…」


「不遜な態度を続けてあんなに威張り散らしていたのに手も足も出せずに心を折られて命乞いをしたキースと?レ・ラーウィス学園でSSSランクの冒険者が教師になった事を知って金に物を言わせて三人も雇ってハルトリアス学園は凄いってひけらかしたかった…自分の好奇心で仲間をこんな状況にしたターレアと?一丸になる?無理だよこんなの」


「…」


「前にも言ったけどターレアには保護をしてもらった恩を感じてる…だけど私はターレアの家臣でも駒でもない。確かに今まではターレアの事を頼っていたし指示に従っていた…でもそれはみんなターレアが先陣に立ってみんなを引っ張っていただけ。ロイヤルナイツも階級制を敷いてから治安が悪化したのを抑える為に私達が勝手に火消しをしているだけのマッチポンプ…前も今も本当の意味で私達は一丸になった事なんてない。ターレアという人物がいなくなれば私達は仲間じゃなくなるぐらい脆い。ターレアしか信用しないアーヴェント、自分の興味がある事にだけ意欲的なターニャ、ターレア以外の言う事を頑なに聞かないキース、いつも消極的で誰かに付いていく事しかしないレイカ、傲慢で孤高を気取るエルダ、状況が悪くなってからじゃないと自分の意見を言わないルマと同じくずるい私…結局ターレアがバラバラなみんなを繋ぎとめてるだけの関係…それなら本当に一人一人信頼し合って対等なティリア達と一緒の方が私は成長できる」


「…」


「だからどいてターレア」



 返されたジャケットをもう一度ターレアに突きつけ押しのけて控室を出ようとした時、



「…みんなお待たせ。…ティア?」


「…クルエラさん、私はレ・ラーウィス学園に行きます」


「えっ!?ちょ、ティア!?」



 クルエラと鉢合わせたがティアはそう言葉を残して控室から姿を消し…



「どういうことなのターレア…?」


「…どうやら不甲斐ない俺達に愛想を尽かしてしまったみたいです。…本当に済まないみんな…」


「そんな…」



 修復しきれない程ターレア達はバラバラに砕け散った…。





 ■





「…そちらのティアさんがこちらの控室に来た時は驚きましたが…仲間のあなた達がその様子だと私達の所へ来たくなる気持ちもわかりますわ」


「…」



 俯くばかりのターレア、観客席に座るターニャ達はクルエラと一緒にただただ見つめるだけ…そんな覇気を感じさせない相手にリーナはガッカリしていた。



「…はぁ、せっかくアリア先生が私の為にと言ってくれましたのに…こんな相手を負かしても何にもなりませんわ。そちらが勝手に蒔いた種ですのにそれを引き摺ってわたくしとの勝負の時間に持ち出すのはどうなんですの?少しはやる気を出して頂いても?」


「…確かにそうだな…すまない」


「ならさっさとその表情を改めてくださいまし。見ていると無性に腹が立ってきますわ」


「…」



 もう何もかもを諦めたかの様に苦笑するターレアの表情に自分でもわからない嫌悪感を感じるとリーナはその気持ちを断ち切る様にエーデルワイスを抜き放つが、ターレアは苦笑したまま剣を抜かずただ立っていた。



「…何故構えないんですの?その腰に吊るした剣は飾りですか?」


「いや、これでいいんだ。俺は()()()()()()()さ」


「運命…血統魔法…?一種の未来予知…?ターレアさんはその状態からわたくしに勝てる運命に従っているんですのね?」


「……」


「ならいいですわ。わたくしはその運命を打ち砕いて勝利を掴み取って見せますわ」



 エーデルワイスの切っ先を背後に向けたまま腕を限界まで伸ばしてクラウチングスタートの体勢…アリアと似た構え方をしたリーナはエーデルワイスに魔力を流し風を纏わせ…



「アリア先生の為に…やりますわよリーナ!!」


「……」


「第八試合、ターレア・ムーア対メイリリーナ・ハプトセイル…試合開始!!」


「っ!!!」



 アリアの開始合図と共に踏み込み、エーデルワイスに纏わせた風を後方に放って加速したリーナはターレアの出方を窺う為に急所を外した突きを腹部に放つ…が…



「………は?何をしているんですの…?」


「……俺の負けだ。()()()()



 リーナの突きを躱そうともせず、寸止めされたエーデルワイスを見つめ両手を上げたターレアがそう呟いた…。



「…まだ剣も魔法も交えていないのに降参…?舐めてるんですの…?」


「俺の血統魔法『運命』が負ける、仲間もバラバラになるって言っているんだ。これ以上やる必要はない…降参する」


「……何ですのそれ…何なんですのそれは!?」



 胸倉を掴んでも抵抗する素振りもなく…



「言葉の通りだ…殴りたければ殴ってくれ…」


「…何なんですの…アリア先生が私の為にって…この試合を楽しみにしてるって…この日の為に必死に訓練したのに…!!何で戦いもせずに降参するんですの!?」


「俺が負けるのは運命だ…なら素直に負けを認めるだけさ…」


「ふざ…ふざっ……ふざけないでくださいまし!!!!!」



 やっとアリアに成長した姿を見せれると…やっとアリアの為に何かが出来ると思っていたリーナは思いの丈を吐き出す様に腕を振り上げ…



「リーナ」


「っ!?…だって……せっかく…こんな事で…たかが未来予知の結果だけで…」


「…こんな奴を殴ったらリーナの価値が下がるわ。悔しいと思うけれど私の為にそれだけ頑張ってくれようとして嬉しいわ」


「うっ…うくっ…」



 アリアに止められ抱きしめられると大粒の涙が溢れ出した…。



「第八試合はメイリリーナ・ハプトセイルの不戦勝とするわ。…クルエラ!!」



 悔しさで泣きじゃくるリーナを撫でつけながらクルエラに声を上げるアリア…。



「……何かしら」


「こいつらの教師になって欲しいってやつ、やっぱり無しにするわ」


「…」


「それとこいつとレイカをぶん殴る件も無しにするわ」


「…ごめんなさい」


「何で謝るのかしら?あなたの言うそういう優しさが実った結果よ?よかったわね?あなたの思惑通りこいつらがぶん殴られずに済んで」


「…」


「はいはい!こんなくそったれな茶番はここで終了!時間の無駄だわ!ティア!こいつに代わって学園長室まで案内してちょうだい!」


「わ、わかりました!」


「……なんで…何でこんな…」



 自分が望んだ幕引きとは全く別の後味の悪い幕引きとなった事にクルエラも顔を顰め…ティアを連れて闘技場を去るアリア達の背中をただただ見つめるしか出来なかった…。



「た、ターレア…な…何で戦わなかったんだ…?」


「ターニャ…俺の()()()()()()()()()使()()()()()()()()と一つ目の血統魔法『運命』がそう言ったんだ…そして仲間も全員バラバラになるとも…」


「ふ、二つ目を使っても……ば、化け物だったんだな…そ…それじゃあ仕方…ないな…うん…仕方ないよな…?」



 仲間がバラバラになるという言葉を意図的に避け、負けるんだったら仕方ないと庇う様にエルダ達に目配せをするターニャだったが皆の表情は暗く…



「……ターレア、何故戦わなかった…?」


「…ターニャに言ったじゃないかルマ。運命で負けるのが『そうじゃない…』…」


「何で負けると分かっていても戦いを挑まなかったんだ…?」


「…血に従ったまでさ」


「そうか…」



 ルマは長い沈黙の末、一つの答えを出した。



「なら俺もティアと同じくレ・ラーウィス学園に行かせてもらう」


「っ!?な、何言ってるんだよルマ!?」


「ターニャ、俺はキースと誓ったんだ。実績を積み上げガルフィア獣王国の王を下し王になると…だから諦めたターレアより上を目指せるレ・ラーウィス学園でティアと同じくどんな恥を晒してでも俺は強くなる…拾ってもらった恩は別の形で返させてもらう…」


「…そうか、わかったルマ。今までありがとう…」


「ターレア!?」



 背を向けアリア達を追いかけるルマを見送るとエルダも意を決したのか口を開く。



「…私もだ」


「エルダもか!?…な、なんでだよ!!何でそんな簡単に…!!ウチらは小さい時からずっと一緒だっただろ!?」


「ならターニャ…私の好きな食べ物はわかるか?」


「え…?」


「私の嫌いな食べ物はわかるか…?」


「…」


「私はレイカの事しか知らない…ターニャの好きな物も苦手な物も、ターレアの好きな物や嫌いな物も知らない…ティアの言う通りだ。皆、ターレアという人物がいたからこそ繋がってられた…その唯一の繋がりが戦いもせずに諦めたんだ…もう終わりだ」


「私も…エルダの事しか知らない…ターレアごめんなさい…私も…エルダと一緒に行く…」


「…わかった」


「そ、そんな…」



 ルマと同じ様にエルダとレイカも背を向けてアリア達を追いかけると…



「…おい、ターレア」


「キース…気が付いたんだね」


「…戦いもせずに降参したってのは本当なのか?」


「…ああ、本当だ」


「…チッ…そうかよ…じゃあな、楽しかったぜ」


「お、おいキース!?」



 意識を取り戻したキースもアリア達を追いかけるわけでもなく闘技場を去り、その場にはターレア、ターニャ、アーヴェント、クルエラの四人が残った。



「…俺はどんな事になってもターレアに従う」


「う、ウチもだぞターレア!!」


「…そうか、ありがとうアーヴェント、ターニャ。…クルエラさん、ここまでして頂いたのに本当にすみませんでした。依頼に関してはこれで契約満了、お支払いした依頼料はそのままお持ちください」


「…ねぇ、ターレア…本当にこれでいいの…?」


「…ええ、運命に従うだけです」


「そう…なら依頼料は返すわ。満足のいく結果とは言えないもの…」


「…いえ、依頼料はそのままで大丈夫です。俺達の教室に戻ろう、アーヴェント、ターニャ」


「うん…」


「ああ…」



 そしてターレア達も闘技場を去り…



「なんつーか…後味の悪い幕引きになったなぁ…」


「そうだな…クルエラ、気を落とすな。飯でも食いに行こう…」


「……………ええ…」



 闘技場には誰もいなくなるのだった…。

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