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第五章開始 色付きの花束と透明な花  作者: 絢奈
第四章 運命の奴隷
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エルダVSフレデリカ

 





「ごめん…ごめんターレア…勝てなかった…!!」


「…よく頑張ったねターニャ」


「…ううええぇぇぇぇんん…」



 見た目相応にターレアの胸で試合に負けて泣きじゃくるターニャ…そんなターニャを慰めているとアーヴェントが難しい顔をして呟く。



「…やはりシオリ・ユイガハマが伝説の勇者の生まれ変わりか?」


「…ああ、多分そうだ。ターニャと戦い始める前の幼い姿から戦い始めた後の成長した姿…あんな魔法あり得ないしほぼ詠唱も必要としないのにあの大規模なウォーターウォールとアイスウォール…それを一瞬で溶かすファイヤーウォール…土の魔法のはずなのに鉄のアースウォール…何もかもが規格外だ。極めつけはあの魔色…見た事のない紫色を含めた九色だった。透明の魔色を合わせて九色のはずなのに紫も入れたら十色…多分紫は伝説の勇者が使ったとされる転移魔法の魔色かもしれない」


「そうか…」



 詩織が伝説の勇者の生まれ変わりだと確信し、見た事がない紫色の魔色を転移魔法の色だと見抜くとターレアの胸で泣いていたターニャが顔を上げる。



「うぐっ…何の話だ…?」


「…ターニャが戦ったシオリ・ユイガハマがおとぎ話に登場する伝説の勇者の生まれ変わりかも知れないって話さ。最初からアリアさん、ユリさん、シオリ・ユイガハマ、イオリ・ユイガハマの内、誰かがそうなんじゃないかって当たりを付けていたんだけど、ターニャが戦ってくれたおかげで確信が持てた。試合には勝てなくてもそれ以上の成果を出してくれたんだ…本当にありがとうターニャ」


「ぐすっ…そ、そういえばあいつ…自分の事を創造神エルミスティア様のたった一人の眷属だって言ってた…」


「「創造神エルミスティア様…?」」


「うん…」


「…聞いた事あるかい?」


「いや…神は各種族の主神、人間族のリグルス神、獣人族の獣神メギラ、森人族の精霊神フィーディシー、小人族のルテク神、竜人族の竜神ライドン、鬼人族の鬼神オグリー、水人族の水神シーリーしか聞き覚えが無い。創造神エルミスティア…後で古い文献を改める必要があるな」


「…あいつが言うには伝説の勇者をこの世界に召喚し、たった一人を除いて世界から忘れ去られた誰よりも優しくて慈愛に満ちた女神だって…」


「たった一人…それがシオリ・ユイガハマという事か。これは古い文献を漁っても出てきそうにないねアーヴェント」


「…直接本人に聞くしかない…か…絶望的だな…」


「ああ…本当に絶望的だ…」


「…ウチ、あいつに酷い事をいっぱい言われて…その代わりに試合が終わったら一発殴らせてくれるって言ってた。その殴る代わりに話が聞けるんじゃないか…?」


「…!ターニャでかした!!本当にありがとう!!」


「あ、ちょ…ターレア…もう…」


「…乳繰り合うのもいいが、第四試合…エルダの応援をしなくていいのか?」


「ばっ!?乳繰り合ってなんかねーよ!!」


「…そうだね、今はエルダの応援をしよう…負けたみんなの為に勝ってくれ…!!」



 顔を真っ赤にするターニャ、呆れるアーヴェント、エルダに勝ってくれと熱い視線を送るターレア…



 ………



「…強者の種族である事に胡坐をかき、最強を自負するが故に私達人間族や他種族の事を弱者と見くびる節穴の目を持つ竜人族のエルダ…」


「……第一試合、第二試合、第三試合で戦ったティリア、テッタ、シオリ・ユイガハマは紛う事なき強者だった。そしてあの場での私の立ち振る舞いは自分に正直だったとはいえ確かに愚かだった事、私の目が節穴だった事を認め謝罪する…」


「……」



 フレデリカの棘のある物言いに表情一つ変えずあまりにもあっさりと自分の非だと頭を下げた種族最強の竜人族エルダ…そんなエルダの姿に目を丸くしたフレデリカはつまらなさそうに呟く。



「…拍子抜け。そんな簡単に頭下げるとは思わなかった」


「…自分の非を認めれない者は愚者だ。だが…言わせてもらうがティリア、テッタ、シオリ・ユイガハマは強者と認めたが貴族という地位に胡坐をかき、実力ではなく汚い手段を行使しているかも知れないお前を強者だとは認めていない。それに私の事を角欠けと言ったユリは絶対に後悔させる…」


「ユリ教諭の剣幕にビビってへたり込んでたのに?」


「……………口が過ぎるんじゃないか?そろそろ我慢の限界だぞ」


「我慢しなくていい。本気を出したエルダを完膚なきまで叩きのめして調教してあげる。私ドラゴンの背中に乗ってみたかったんだ。竜化…血統魔法を発現させてるんでしょ?」


「貴様…その減らず口が聞けなくなるまで叩きのめしてやる。強者に蹂躙される恐怖を味わわせてやる…弱者が」


「ユリ教諭に味わわされた様に?」


「……両腕は覚悟してもらう」


「…そう来なくっちゃ。急にしおらしく頭下げたから萎えかけたけど俄然やる気出てきた…!本気で来て。つまらない試合したら…その真っ白で綺麗な角、私が折ってあげる」


「っ!?貴様!!!!」



 角について触れられたエルダは反射的に試合が始まってもいないのに風を切る音がする高速の拳をフレデリカの顔面へ放つが…



「…何?虫でもいた?」


「なっ…」



 エルダの拳は笑みを浮かべて屈んだフレデリカの頭上で虚しく空を切った。



「…フン。その闘志を宿した目は認めてやる。…だが私の角に触れた事を後悔させる」


「言葉じゃなくて行動で示して?今の遅い拳じゃ当たる方が難しいけど」


「…」



 とことん煽り散らすフレデリカを怒りの形相で睨むエルダに全力の本気を出させる為の最後の言葉を口にする。



「…ねぇ、私と賭けをしようよ」


「…賭けだと…?」


「そう。私が勝ったらエルダの欠けた角の秘密を教えて?」


「………私が勝ったら?」


「私の事好きにしていいよ。殺してもいい」


「……いいだろう。竜人族の誇りを穢したのだ…楽に死ねるとは思うなよ?」


「賭け成立ね。…ねぇエルダ、知ってた?」


「…何がだ?」


「絶対に勝てる勝負にどれだけ負けた時の条件をベットしても意味がないって事。もう賭けは成立してるから逃げないでね?」


「…確かにそうだな。遺言を考えておけ。一応聞いてやる」



 距離を取りお互いの開始位置につくとエルダは白い竜の尻尾で地面を一度強く叩き咆哮を上げる様に叫ぶ。



「我が血に宿りし竜よ!!我が呼びかけに答え我に絶対たる力、竜神ライドンの加護を与えたまえ!!我が名はエルダ!!白竜の化身なり!!」


「……凄い……綺麗……」



 エルダの頭から生えていた角は押し出されるように伸び、白い長髪を押し分ける様に背中から真っ白な翼が生え、手足は白く美しい鱗を纏い強靭な爪はまさしく竜の手足へと変化しエルダの瞳は瞳孔が縦に、口からは鋭い牙が見え隠れする。



「全身竜化はしないの?」


「この狭い場所では大きすぎる体躯は不利だ」


「じゃあ全て終わったら綺麗な白竜の姿を見せてね?」


「……お前はここで死ぬんだ。…まぁ、死に際に見せてやるのはやぶさかではない…」


「まぁ、私は負けないけどね」



 部分的に白竜へと変わったエルダに見とれつつもフレデリカはアリアのお守り…黒のゼラニウムを抜き、軽く口づけするとエルリとルエリからもらったモノクルを右目に付け呟く。



「光を求め精霊の園へ迷い込む者は我…光の導くままに精霊を求めるは我…我は光を求め手を伸ばし、園に迷い導かれた者…その名はフレデリカ・ランルージュ」


「…聞いた事のない詠唱…?」



 ゼラニウムを胸に抱き詠唱を始めるとフレデリカの周りに黒い光を放つ粒子が舞い…



「至る事の出来ぬその憧れを、掴む事の出来ぬその背を、共に歩む事の出来ぬ貴女の隣を…どうか…どうか精霊よ…我を憧れの頂に、我を手の届く場所に、我をあの光の隣まで導きたまえ…双生の白黒妖精ツヴィリング・ランルージュ・フェアリー


「っ!?」



 詠唱が終わるとフレデリカは黒い粒子に飲まれ…その漆黒の繭から淡く光を宿した半透明で黒い妖精の羽を背に生やした黒い妖精(フレデリカ)が産声を上げた。



「…んーっ!…っふぅ…そこの綺麗で美しい()()()()妖精さんと踊りましょ(フェアリーダンス)?」


「っ…!!」



 身体を伸ばし恭しくダンスを誘う様に差し出された手を睨みつけたエルダは…



「第四試合、エルダ対フレデリカ・ランルージュ…試合開始!!」


「グルアァ!!!」



 アリアの試合開始の声で必殺の爪を黒い妖精に振るった…。



 ………



「…まさか新しい魔法まで完成させてるとは思わなかったわ…成長率で言ったらナンバーワンね…」


「エルリさんとルエリさん…どちらかというと雰囲気はルエリさんに似てる…?」


「弟と妹という立場だから似たんでしょうねぇ…エルリとルエリは精霊、アンジェとフリッカは白と黒の妖精なのね」



 ………



「ふふ…楽しいね白鳥さん?」


「私は…白鳥じゃない!!!」



 闘技場を目一杯に使った黒い妖精と白竜の鬼ごっこ…エルダの拳と蹴りは闘技場の壁と地面を砕き、分厚い金属で出来た闘技場の門すらも一撃で拉げる破壊力、更には背に生えた羽で飛んだり普通では考えられない挙動をしたり口から白い炎を吐いたりと最強の種族たる所以を遺憾なく発揮していたが、気を抜けば見失いそうになる速度で笑みを浮かべ、更にはダンスを踊る様に優雅に躱し続けるフレデリカには掠りすらしなかった。



「もっと速度を上げて?そんな遅いダンス…私好きじゃないの」


「っ!?このっ!?!?」


「ふふふ」



 一瞬でエルダの背に抱き着き真っ白で美しい角を一撫でして拳を躱し、一瞬で闘技場の端から端まで距離を取りクスクスと可愛らしい笑い声を漏らすフレデリカは悪戯好きの妖精そのものだった。



「エルダの尻尾はつるつるしてて凄く綺麗だね?」


「っ!?触るなァ!!!」


「羽も凄い綺麗だね?どうやってお手入れしてるの?」


「鬱陶しい!!!!」


「手の鱗も綺麗…」


「やめろ!!!!!」


「足も長くて手の鱗と同じぐらい綺麗…」


「近づくなぁぁァァ!!!」


「ふふふ」


「っ…!!」



 尻尾、羽、腕、脚と撫でまわり笑みを浮かべるだけで一切手に持ったゼラニウムで攻撃してこないフレデリカにエルダは叫ぶ。



「虫みたいに逃げ回るだけか!?確かに貴様は早いが私の一撃は鉄すら砕く!!正々堂々かかってこい!!!」


「正々堂々?…ねぇ?エルダは間違ってるよ?」


「…何だと…!?」


「確かにエルダは()()()()()()()()…だけど私は試合じゃなくて()()()()()()調()()してるんだよ?」


「きっ!?…貴様ァ!!!!!」



 屈辱的なフレデリカの言葉に先程以上の拳と蹴り、更には噛みつきまで駆使した乱撃をフレデリカに振るうが…



「いい感じの速さになってきたね?…でもまだ遅い、まだ足りない…何もかもが遅いし足りない。こんなんじゃ満足出来ない」


「っ!?何故だ…!?何故当たらないんだ!?!?」



 まるでここに攻撃が来ると予め知られているのではと疑いたくもなる未来予知に匹敵する回避速度…遂にエルダの口から弱気な言葉が出るとフレデリカは口端を吊り上げ、もう一度エルダの背中に抱き着き角を撫でながら耳元で囁く…。



「ねぇ…ユリ教諭が言ってたでしょ?キースとターニャ、エルダにここで本当の恐怖と圧倒的な実力…抗いようの無い本当の絶望と暴力を教えてやるって。エルダも私に言ったよね?強者に蹂躙される恐怖を味わわせてやるって。だから私が教えてあげる。本当の恐怖と圧倒的な実力…強者に蹂躙される本当の絶望と暴力を」


「っ!?…や、やめてくれ…」



 ゼラニウムの銃口をエルダの白く美しい角に突きつけ…



「終わったら…ちゃんと話してくれる?」


「…は…話す…話すから…やめてくれ…」


「ちゃんと私の言う事聞く?」


「………」


「ちゃんと私の言う事聞く?白鳥さん?」


「ひっ…」



 返事のないエルダを脅すようにもう一度問いかけゼラニウムのスライドの音を耳元で響かせるとエルダはその場にへたり込み震え始め…



「ちゃんとお返事出来ない悪い子にはお仕置き。エルダの角は私が丁寧に飾ってあげる」


「や、やめてくれええええええええええええええ!!!!!!!」



 ゼラニウムの銃声とエルダの悲痛な叫びが闘技場に響いた…。



 ………



「…悪戯妖精じゃないわ。妖精のふりをした悪魔ね…まぁ、私の嫁の悪魔の方が恐ろしいけれど…」


「……」



 ピクリとも動かず倒れたエルダに膝枕をして無傷の角を撫でつけるフレデリカに恐怖を感じつつもアリアは…



「第四試合、エルダ対フレデリカ・ランルージュの試合はエルダの失神によりフレデリカ・ランルージュの勝利とするわ!!」



 黒い妖精の羽が悪魔の羽に見えつつフレデリカの勝利を告げた…。

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