ターニャVS詩織
「…マ…ルマ…ルマ…!」
「…ったく、起きろ毛だるま」
意識の無いルマを必死に揺り起こそうとするターレアにいがみ合っても腐れ縁であるキースの口が悪くても優しい声色、ルマを心配そうに見つめるターニャ達…。
「別に死んでないし魔力欠乏になってるだけよ。んじゃ、第三試合も頑張ってちょうだい?あんたの頬を思いっきり引っ叩けるのを楽しみにしてるわ」
「「「「「「……」」」」」」
「クルエラ?私達の魔法にうつつを抜かしてていいのかしら?この程度なら第七試合は無さそうね?」
「っ…早く自分の席に戻りなさい!」
「そうさせてもらうわ」
明らかに教師とは思えない底意地の悪い笑みを浮かべ皮肉たっぷりのアリアに睨みを効かして追い返したクルエラは悔しさに顔を歪めて俯くターレアを見つめた。
「…アリアにあんな事を言われっぱなしでいいの?ターレア」
「俺が引き起こした事だから引っ叩かれるのは全然いいです…だけど流石に気分が悪いです。ターニャ…次の試合、絶対に勝ってくれ」
「…わかった。絶対にウチが勝つ!」
ターレアの力強い言葉を胸にターニャは急ぎ足で闘技場へと向かい…
「…ん……」
「っ!?ルマ!?大丈夫かい!?」
「ターレア…?お、俺の試合は…?」
「…チッ!寝ぼけてんじゃねぇぞ毛だるま!!ボロカスに負けたんだよテメェは!!」
「………そうか……負けた…のか…」
「…テメェがここまでよえぇとは思わなかったぜ。血に負けてんじゃテメェはガキのあの頃から何も成長してねぇ。オレはテメェが強くなんのを待つつもりはねぇ。先に行くぜ」
「……ああ、すぐに追いついてやる…精々俺にその尻尾を掴まれない様、後ろを振り返らず全力で走れ…」
「…ケッ」
気分悪そうに皆から離れた位置に腰を下ろし一人で観戦し始めるキースは腕で顔を覆い震える腐れ縁…親友に呟く。
「テメェの仇…ぜってぇ取ってやる…」
………
「やーやー揚げパンちゃん?私に美味しく食べられる覚悟は出来たかな~?」
「…」
「おやぁ…?揚げパンちゃんはお喋りできないのかな~?」
「てめぇ…ウチの事じゃねぇだろうな…?」
「あ?てめぇ以外に誰がいんだよ?よくも試合の煽り合いでもねぇのに私の弟にタマついてんのかとか私の仲間達を侮辱して調子いい事言ってくれたな?手足の一本や二本、覚悟出来てんだろうな?」
「てめぇこそ覚悟出来てるんだろうな?ウチは弱くねーぞ?」
「おーおー上等だぜコノヤロー!てめぇをブチ転がして揚げパンに闘技場の土っつーきな粉まぶして美味しく頂いてやんぜ!!」
「「………ハッ!!!!」」
お互いの額をぶつけながらの舌戦が終わると詩織は黒曜石の剣を抜き放ち、エルミスティアと千夏が力を合わせて創ってくれた魔道書…神書を手に持って油断なく構えるとターニャはニヤリと笑い両腕を突き出した。
「ウチの血統魔法はドワーフの種族由来の血統魔法、物質具現が児戯みてぇに思えるぐらい一味違うぜ?ビビッて濡らすんじゃねーぞ?」
「てめぇはシモに絡めねぇと話せねーのかぁ?ごちゃごちゃ言ってねーでひけらかしたきゃひけらかせ揚げパン!!」
「ハッ!吠え面かかせてやる!!…我が血に宿りし力よ!!我が呼びかけに答え万物を創造する力、ルテク神の加護を与えたまえ!!我が名はターニャ!!創造神へと至る者なり!!!」
「………は?」
ターニャの周りに剣や槍、特殊な形状をした見た事もない様々な武器が50本程現れるとターニャの周囲に浮遊しその全てが詩織に切っ先を向け、詩織の口から小さく声が漏れるとターニャは気分よさそうに高笑いするが…
「あっはっはっはっはっは!!どうだウチの力にビビッて濡らしたか!?謝っても許さねーぞチビ!!」
「……」
「…ハハッ!?ビビッて声も出なくなったかチビ!?」
「…ターニャ…お前、何て言った…?」
「…は?ビビッて声も出なくなったかチビっつったんだよ」
「その前だ」
「…ビビッて漏らしたか?あやま『もう一個前だよ馬鹿』…創造神へ至るか?」
「…それだ」
「っ!?」
まるで親の仇とでも言いたげな濃密で息をする事を忘れてしまう…ユリと同種の殺気を詩織から向けられ後ずさるターニャ…。
「お前は小人族だろ?小人族の主神はルテク神のはずだ。何故創造神を騙った?」
「…ウチの力は何でも思い通りに創造出来る…この世界で一番創造神に近いんだ!!アーティファクトだってウチなら再現出来るし復元だって出来る!!ウチを捨てた小人族共のその場限りの具現なんざお遊びだ!!ウチの『万物創造』で世界に発展をもたらしてウチを捨てたあいつらを見返して創造神ターニャの名前を世界に刻むんだ!!!」
「…そうか。…お前は私の琴線に三度も触れた」
「お前の琴線…!?そんなのどうだっていい!絶対に叩きのめしてやる!!」
「…私がお前に感じた罪の数は三つ。三撃でお前を裁く」
「…やれるもんならやってみろ!!!」
黒曜石の剣をターニャに向け、ターニャも魔力を纏い臨戦態勢を取ると…
「第三試合、ターニャ対由比ヶ浜 詩織…試合開始!!」
「行け!!!!!!!」
アリアの試合開始の声が響いた瞬間、ターニャの周りに浮遊していた武器から様々な魔法が放たれ追撃する様にその身をもって詩織へと突き刺さる…。
………
「…詩織、ブチ切れてるわね」
「はい…エルミスティア様と同じ創造神の名を使ったターニャさんが許せないんですね…」
「詩織が唯織以外の事でブチ切れる日が来るとはねぇ…やっと人間らしくなれた様ね」
「ええ…本当にありがとうございます、アリア先生」
………
「…絶対に油断しねえぞ。追加で創っておくか」
もくもくと煙る土埃で詩織の姿が見えなくてもターレアに勝つと言ったターニャは油断なくまた様々な形状の武器を創造して浮遊させる。
「…第一試合のティリアも第二試合のテッタもバケモンみたいな強さだった…あのチビがこんな攻撃で終わるはずない…集中しろターニャ…!絶対に負けられない…!!」
どんな奇襲にも対応出来るように盾や剣を身体の周りに浮遊させて辺りを見渡していると徐々に土煙が晴れ…
「…っ!?て、てめぇ…何で大人になってんだ!?!?」
「…私も驚き過ぎて反撃を忘れちゃった。このお母様達から頂いた神書を使うのは初めてだったし」
詩織の姿は転生した時の詩織とエルミスティアの面影を残しつつ、アリアとユリの様な立派な大人の女性の姿に変わっていた。
「18歳の時の身体じゃない…20歳前半ぐらい?しかも全盛期だった時以上に魔力があるし身体の調子も良すぎて怖い…髪も膝裏まで伸びてるし…うわ、胸とお尻きっつ…」
小さい身体に合わして作られた制服は悲鳴を上げるように張り詰め成長した胸で押し上げられる様にシャツが持ち上がり、穢れ一つない真っ白な肌と華奢なくびれたお腹を胸下まで晒していて女性でも釘付けになる様な煽情的で蠱惑的な雰囲気…更には誰の目で見ても明らかな赤、青、緑、茶、水、黄、白、黒、紫の魔力が周囲の風景をぐちゃぐちゃに歪ませる程濃密に漂っていた。
「な…何なんだよそれ!?」
「んー…私のママの加護かな」
「ふ…ふざけやがって…ふざけやがって!!!!やれええええええ!!!!!」
精神が身体に引っ張られていた幼い印象が全くなく、今度は大人の身体に精神が引っ張られ掴み所のない飄々とした詩織に怒りを露わにしたターニャは全力で全ての武器を詩織に嗾けるが…
「何となく力の使い方がわかる…神書・第二章・第三節・水の壁。第五章・第三節・氷の壁」
「っ!?!?!?!?」
神書を開きそう呟くだけで闘技場の隔ててしまう程の分厚い水の壁が天井まで吹き上がり一瞬で氷の壁へと姿を変えターニャの全力攻撃を全て難なく防いでしまう。
「わーお…滅茶苦茶抑えてるんだけどちょっと強すぎるな…神書・第一章・第三節・火の壁」
自分のイメージを遥かに超える魔法に内心ひやひやしつつ氷の壁を火の壁で溶かすと血統魔法で創り出した武器の残骸が砕け光の粒子となって散っていく光景と、自分の目が信じられないと茫然自失にへたり込むターニャの姿があった。
「戦意喪失しちゃった?」
「…何なんだよお前…何者なんだよお前ぇ…」
「……流石に弱い者虐め見たいで気分悪いし、これで赦してあげる。…神書・第四章・第三節・鉄の壁、十字架」
「っ!?!?」
へたり込むターニャの四肢を意思を持った土の触手が絡めとり空中に吊り上げるとその触手は鉄の十字架へと変わりターニャを十字架に張り付けた。
「…流石に怒ってたとはいえ、試合の中の煽り合いでも酷い事言い過ぎたねターニャ。ごめんね?」
「な…何をするつもりなんだよ…!?やめろ…降参するからやめてくれ…!!」
「酷い事を言った私は後でターニャに殴られてあげる。…でもね?ターニャの三つの罪…私の仲間達を侮辱した事、私の大切ないおりんを侮辱した事、創造神エルミスティア様の名前を騙った事…たった一人の眷属として、姉として、仲間としてターニャに裁きを下すよ」
「け…眷属…!?え、エルミスティア…?」
「伝説の勇者をこの世界に召喚し、たった一人を除いて世界から忘れ去られた誰よりも優しくて慈愛に満ちた女神の名前だよターニャ。罪三つ分の三撃…いくよターニャ。歯を食いしばって」
「っ!?」
目の前に立つ詩織が腕を限界まで引き絞るのを見たターニャは痛みとその光景から逃げる様に目元に涙を浮かべながらぎゅっと目を閉じ…
「ていっ!!」
「あぐあっ!?」
「それっ!!」
「がっ!?」
「ラスト!!」
「あっ!?………」
詩織のデコピン三発と反動で十字架に頭を三回打ち付け意識を失い頭を力なく垂らした…。
「アリアちゃん終わったよー!」
「はいはい…第三試合、ターニャ対由比ヶ浜 詩織の試合は由比ヶ浜 詩織の勝利とするわ!!」
十字架に張り付けにしたターニャを開放しお姫様だっこで観客席に飛んで戻ると額が腫れあがったターニャをアリアに預け大人の姿のまま唯織を抱きしめる。
「どおどおいおりん!?凄いっしょ!?」
「す、すごかったです!流石師匠!!」
「違うでしょー?今は師匠じゃなくてお姉ちゃんなんだからお姉ちゃんって呼んでほらほら!?お姉さんボディだよー!?」
「…そう言われると言いたくなくなりますがお疲れ様です…ね…姉さん」
「……っうっくっ~!!いい響き!!いい響き過ぎるよ姉さん!!!」
勝利の余韻に浸るより唯織に姉さんと呼ばれた嬉しさに身を悶えさせる詩織だった…。




