ティアVSティリア
「ティリアさんのあの構え…アリア先生と瓜二つだ…」
「へぇ…遂にモノにしたのねティリア」
「…ティアさんが持っているのはアンジェさんとフリッカさんが持ってる魔道銃と同じ物ですよね?」
「そうね。でもティリアなら問題ないわ。ぶっちゃけ、素手での近接戦闘なら唯織達よりおどおどして弱く見えるティリアが頭一つ抜けて強いし私が言うのも何だけれど最強の武器は自分の身体よ」
「…流石にアリア先生を見てると否定できませんね」
ティリアとティアを見守る唯織とアリアは自分達の感想を口にし…
「第一試合、ティア対ティリア…試合開始!!」
………
(…大丈夫、私なら出来る…!見えてる時より視えてる!!)
閉じた目をそのままに迫りくるティアの魔力弾の嵐を視界に頼らず魔力の気配だけで感じ取ったティリアは…
「突破します!!」
「っ!?!?!?う、嘘!?!?」
青と水色のラインが浮かぶ黒百合で殴って相殺、弾いて受け流し、握って消し、独特な足捌きと柔らかすぎる身体でスルスルと魔力弾の嵐を一直線に突っ切ってティアへと肉薄していく。
「視えました!!いきます!!!」
「やばっ…!?」
防ぐ事も避ける事も出来ないと思った魔道銃の乱射を難なく突破し5m程手前で腕を引き絞るティリアに危険を感じたティアは、ターニャにもらった身体能力を上げる魔道具とクルエラ達に教えてもらった戦闘中だけ魔力を身体に纏う技術で目を閉じ続けるティリアから無理やり距離を取るが…
「えいっ!!!」
「っ!?あがっ!?」
まるでお見通しだと言いたげにティリアの背後を取ったティアへ身体の捻りまで加えた拳を距離を取られた状態、当たるはずのない距離のまま拳を振り抜くと耳を劈くバンッという破裂音とティリアの可愛らしい掛け声と共にティアの身体はくの字に折れ曲がり闘技場の壁へと叩きつけられた…。
………
「…わーお。何よあれ?凄いわね?」
「あれは絶対に食らいたくないですね…」
「唯織は今の技どう見るかしら?」
「…多分ですが、空気中の水分を自分の拳に乗せて魔道銃で放つ要領で放った…様に見えました」
「私もよ。…やっぱり自分の身体が最強の武器って言うのはあながち間違いじゃなさそうね…ティア…お腹に穴…開いてないわよね?」
「ええ……多分大丈夫…だと思い…たいですね…」
………
「…っ!?げほっ!?…な、何…今の…私…何されたの……?」
一瞬意識を失っていたティアは咄嗟に魔道銃で庇った腹を大事そうに抱えて血と朝食が混じった液体を吐き出し目を閉じ続けるティリアを見つめていた…。
「私は魔力が元々少ないのですが…それは私の魔眼に魔力が常に使用されている所為だったんです。だから私は魔眼に魔力を盗られない様に目を閉じて遮断する事で本来使えるはずの魔力を使ってティアさんが使う魔道銃と同じ様に拳に…正確には力を入れる軸足の爪先から足首、膝、腰、背中、肩、肘、手首、指と瞬間的に魔力を流して拳に水滴を乗せて放ちました。私はアリア先生やイオリさんが助けてくれるまでずっと目が見えず暗闇の中で必死に何処に何があるのか、何がどんな形をしているのか、今話をしてくれている人の顔はどんな顔なのか、魔力がどう流れてどう漂っているのかを探ってきました。…だから私は今、目で物を見るより空間に漂う魔力も自分の魔力の流れもティアさんの魔力の流れも自分の事の様に、手に取る様に視えています。…まだやれますよね?」
「魔眼…ごほっ…何それ…目を閉じて魔力を視るなんて人間族にそんな事出来るはずない…!どうやってるの…!?」
「私は人間族ではありません。水人族…マーメイのティリアです。ティアさんも水人族なら水の扱いは長けているはずです。イオリさんなら私と同じ事が出来そうですけどね」
「っ!?す、水人族…てぃ…ティリア…」
同じ芸当を唯織なら出来ると目を閉じたまま微笑むティリアが水人族だとわかるとティリアの名前を呼ぶ声が震え始め…
「…ね、ねぇ…もしかして…お母さんの名前…アミュカ…?」
「っ!?ど、どうしてお母様の名前を!?」
「…そっか…そっかそっか…そっかぁ………」
ティアの中でずっと嵌る事の無かった歯車が嵌ったのか安堵しきった声と共に大粒の涙を次々と零し始め嗚咽を漏らす…。
「やっと…やっと会えた…生きててくれて…本当によかったぁっ…」
「ど、どういう事…ですか…?」
「…ティリアは知らなくて当然…だよね…わ、私…ね?ティリアのお姉ちゃんなんだよ…?」
「っ!?!?」
他人とは思えない程そっくりな容姿に何か親近感を感じていたティリアだったがティアが自分の姉だという事に閉じていた目を見開き眼鏡をかけてティアの元に駆け寄った。
「ど、どういう事なんですか…!?」
「わ…私…ティリアの一個上のお姉ちゃんで…ティリアは魅惑の魔眼を持って生まれてきたせいですぐに目を潰されて…逃げれない様に…喋れない様に足も舌も切られて…たった一人で閉じ込められてたんでしょ…?私…望まれて生まれてなくても私の妹だし妹だけは助けたかった…だからお城から抜け出して何処かに連れてかれそうになってるティリアの事を助けようとしたら…男の人がティリアが乗ってる馬車を襲って攫って行っちゃって…頑張って追いかけたんだよ…?でもまだ小さい私は当然追いつけなくて…無我夢中で追っかけたから迷ってお城にも帰れなくなって…森を彷徨っていた時にターレアに保護してもらったの…ずっと…ずっとずっとずっとティリアの事を探してたんだよ…?」
「う…嘘…」
「本当だよ…おっきくなったんだね…ティリア…」
「っ…!」
生き別れた姉…自分をきつく抱いて胸で泣きじゃくるティアが本当に自分の姉なんだと、存在していた事すら知らなかった姉なんだと実感したティリアも自然とティアを抱きしめ涙を流していた…。
「ほ、本当にお姉ちゃん…なの…?」
「そうだよ…そうだよティリア…生きてて本当によかった…また会えて本当によかった…っ」
「…うん…うんっ…お、お姉ちゃんが見た私を攫った男の人は…お母様が本当に愛していた人なの…名前はウォルビスさん…私達のお父様になるはずだった人…そしてこれから私達のお父様になるかも知れない人なの…」
「ウォルビス…お母さんから聞いたことある…そっか…あの人がそうだったんだ…なんだ…私のした事は意味なかったんだ…」
「っ!?い、意味ない何て事ない!そんな事ないよ!あの時追いかけてくれてたからここでこんな形になっちゃったけど…こうして出会えたんだよ…?意味ない事なんて無いよ…」
「……そうだね…ごめんね…?お姉ちゃん嫌な事言っちゃったね…」
「…うん…」
「……ねぇ、ティリア?試合が終わったら…二人っきりでもう一回話そう?」
「……うん、約束…だよ?」
「わかった…」
出会う事がなかったはずの姉妹は涙でぐしゃぐしゃになった顔のまま笑みを浮かべお互いの身体から腕を退かし涙を拭いあうとティアが呟く。
「ねぇ、大きくなったティリアの全部を私に見せて欲しい…ダメ?」
「…ならお姉ちゃんも見せて?次は私のとっておきの魔法を見せるから」
「わかった…すっごく痺れるから気を付けてね?」
「うん…お…お姉ちゃんもすっごく冷たいから気を付けてね?」
「「…ふふ」」
とっておきを見せ合うと約束し微笑みあうとティアとティリアはゆっくりと立ち上がり開始位置までゆっくりと戻りまた試合開始前と同じ様に構えた…。
「…今はお互いの大切なモノの為に全力を出すよティリア…!」
「…うん!全力で行くよお姉ちゃん!!」
眼鏡を外しマフラーでまた顔を隠したティリアは暗闇の世界でティアが持つ二丁の魔道銃がバチバチと帯電していく音と詠唱を聞きながらルノアールと共に創り上げた魔法を構築していく。
「凍てつく我が心を優しく包み溶かす彼の者達…その腕に抱かれる我が名はティリア…」
「聞いたこともない詠唱…お姉ちゃんとして負けられないよね…!雷よ!我が名はティア!!黄色の信徒なり!!」
ティリアの周りがキラキラと光りティリアの足元に薄い氷が張るのと同じくしてティアの周りにも小さな雷が生まれ地面を所々焦がし始める。
「決して晴れる事の無い暗闇を、決して歩む事の無い脚を、決して届く事の無い想いに眩い光を、歩き出す力を、想いを届ける声くれた彼の者達よ…」
「我が呼びかけに答え迸る稲妻の姿を持ち!!我が道を切り開く神罰の神杖へと至らん!!!」
ティリアの吐く息が白く変わりアリアが作った制服が凍り始め、ティアが持つ二丁の魔道銃が耳を塞ぎたくなる様な雷鳴を轟かせ…
「安らぎと温もりを我が身に与えた腕でもう一度…もう一度我が身を抱いてと願う我が想いが為にもう一度…自ら凍てつく我が罪を赦したまえ…」
「神罰の神杖を振りかざす我が名はティア!!神罰を下す代行者なり!!!!」
ティリアの髪が水色から雪の様に真っ白に変わると詠唱を終えたティアは二丁の魔道銃をティリアに向け…
「いくよティリア!!最上級魔法!!ラル・ライトニング・ディヴァイン!!!!」
「いくよお姉ちゃん…氷牢獄の白雪姫」
視界を焼き尽くす稲妻の奔流がティアの持つ二丁の魔道銃が放たれるのと同時にその場の時間を丸ごと凍らせてしまう極寒という言葉が暖かいと思える程の吹雪がぶつかり合い闘技場にいる皆の視界に姉妹は純白の世界を創り出した…。
………
「はぁぁぁぁっ…はぁぁぁぁっ…か…勝った…?」
鳴り止まない耳鳴りと白く焼け付いた視界、身体の芯から凍らせようとする極寒の空気に身体を震わせ、吐いた傍からキラキラと氷の粒になる白い息を吐いたティアは焼け爛れ破損した魔道銃を持ち続け…今にも折れてしまいそうな震える二本の弱々しい自分の脚で立っていた。
「し…死んで…ないよね…?」
真っ白の視界で何も見えず、一歩たりとも前に出せない脚のまま辺りを見渡すと…
「お姉ちゃん…最上級魔法が使えるなんて凄い…」
「っ!?!?う、嘘…」
冷気の霧が晴れ、ティアの視界に映ったものは自分が放った稲妻の奔流が凍り氷柱に変わった姿と白と水色が入り混じった…否、雪と氷で出来たドレスを身に纏ったティリアの姿だった。
「何その魔法…聞いた事も…見た事もないよ…」
「この魔法はね…私の大切なモノを守る為に創った私だけの魔法なの」
「つ、創った…?ティリアだけの…魔法…?」
「うん…本当は水人族を殺せる魔法…お母様をアトラス海王国という檻から救い出す為の魔法だったの。でもね…?アリア先生は私達のお母様を救ってくれるって約束してくれた。…だからこの魔法は命を奪うんじゃなく、大切なモノを守る為の魔法になったの。『氷牢獄の白雪姫』の効果範囲に入ったものは全て凍り付く…魔法もね。…まだ私のとっておきがあるんだけど…二人で話す時に教えるね?お姉ちゃん…今は冷たくて優しい氷…お姉ちゃんの力でも裁けなかった私の罪に身を任せて眠って…」
「そっか…私の…負けだね…」
壊れた魔道銃を手放し倒れそうになるティアの身体支えるように足元から優しく凍らせていく氷が首まで到達するとピタリと止まり…
「第一試合、ティア対ティリアの試合はティアの気絶によりティリアの勝利とするわ!!」
「…やった…!わたしがんば…」
アリアの声を最後にティリアも意識を手放した…。
「…滅茶苦茶驚かせてもらったわティリア。よく頑張ったわね…唯織!ティアを氷から助け出してちょうだい!」
「はい!!」
満足げな表情のまま眠るティリアの元に観客席から飛んだアリアはティリアを抱き、氷に包まれたティアを同じく観客席から飛んだ唯織の手によって解放されたのを見届け観客席に戻り、完全に四肢が凍り付いている二人の看病を始めると…
「な、な、な、何よあの魔法!?!?あんな魔法見た事も聞いた事も無いわ!?」
「…何よ?私の生徒が一から創り出した魔法に文句でも言いたいのかしら?クルエラ」
「ちがっ…そうじゃなくて!?何なのよあの魔法は!?最上級魔法が凍るなんて…!!一から創り出したなんて…!!」
「…確かにびっくりよねぇ。私も凄く驚いたわ。あの氷が溶けたら中の雷はどうなるのかしらね?」
「薄!?反応薄!?…ああもう!!ティリアちゃんが起きたら聞かせてもらうわ!!」
「はいはい、好きにしてちょうだい。私はティアとティリアの看病をするから第二試合は任せたわよ」
「…わかったわ」
心配そうに見つめてくるターレア達の視線を感じつつ氷の溶けたティアとティリアの手を繋がせたアリアは待機していた唯織の何か言いたげな表情を察した。
「…ティアがティリアのお姉ちゃんだって初めから知ってたんじゃないかとでも言いたげな顔ね?」
「はい…教えてあげてもよかったんじゃないですか…?」
「…まぁ、確かにティリアを治してユリにアトラス海王国を調べてもらった時、ティアというお姉ちゃんがいる事は知ってたわ。でももしよ?何も出来ないティリアとティアを引き合わせた時、ティリアがお姉ちゃんに守られるだけの存在に、ティアはティリアだけを守る存在になるかも知れないと思ったのよ。…唯織はわかるでしょう?」
「…僕と師匠みたいに…ですか…」
「そうよ。だからティリアを成長させてから会わせてあげたかったのよ。ティアには悪い事をしたと思っているわ…」
「そうですか…なら僕は何も言いません。ティアさんとティリアさんにバレない様にしてくださいね…?絶対に怒りますから」
「…忠告感謝するわ」
再会を果たした姉妹の試合は妹の勝利、そして妹に出会えた姉の勝ちだった…。




