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第五章開始 色付きの花束と透明な花  作者: 絢奈
第四章 運命の奴隷
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譲れないモノ

 





「みんな…本当に済まなかった…」



 こじんまりとした真っ白の小部屋…控室で真摯に頭を深く下げるターレア…。



「別にターレアが謝る事じゃねぇ…それにオレの事を庇ってんじゃねぇよ。あんなバケモンだって知っててもオレは同じ事してた。勝手に頼んでもねぇ尻拭ってんじゃねぇぞ」


「そうだぞターレア!!ウチはターレアにあんな風に言えなんて言われてない!あれはウチがそう思って言った言葉だ!!」


「私もだ。…私が思った事を口にしたまでだ」


「…それでも俺が面白そうだからと嗾けたのが原因だ。アーヴェント、ルマ、カレン、ティアも俺の好奇心で危ない目に合わせて本当に済まなかった…」


「俺はターレアに救われた。だから死ねと言われれば喜んで死ぬ…気にするな」


「…怖かった…でも今生きてるのはターレアが見つけてくれたから…だから気にしないで…」


「…私も救われた事には恩も感じてるし感謝してる…けど、正直怒ってるわ」


「…私もティアと同じくターニャとエルダ、キースの礼を失する行動に流石に腹が立った。私達の誰かが礼を失すれば同様に仲間である私達も同様に扱われる。だから私は仲間であるお前達がそう思われないよう常日頃気を付けているんだ。今回の事を教訓として今度から気を付けてくれ」


「…チッ」


「ごめん…」


「…済まない」


「ルマ、ティア、そうやっていつも正直に言ってくれて助かる。もしまた俺が何か間違えそうだったら同じ様に指摘してくれ…」



 ルマとティアの堂々とした怒っているという意思表示にもう一度深く頭を下げたターレアは目を閉じているクルエラに向き直る。



「クルエラさん…こんな俺を庇ってくれて本当にありがとうございました」


「…ええ、アリアとユリは行き過ぎた考えをしていますが根本は仲間の為という考えなんです。みんなだってユリがキースを駄犬と、ターニャを焦げたクソチビと、エルダの事を角欠け白トカゲと貶した時、怒りましたよね?」


「「「「「「「「……」」」」」」」」


「それと同じくいくら相手を乗せる煽りだとしてもアリアやユリにとってイオリ・ユイガハマや生徒達を貶されている事には変わりありません。それにターレア?みんなあなたを慕っているのは確かですがそれに甘えて何でも自分の好奇心に巻き込んではいけません。私達冒険者は好奇心で全員命を落とす事になったパーティーを何十組も見てきました。王族だから、貴族だから、まだ学生で子供だからと無責任な行動や無茶をしていい理由にはなりません。アリアやユリみたいに国同士がどうなろうが、相手がどうなろうが関係なく、自分の大切なモノの為ならどんなに残虐な事でも笑ってする人達もいるんです。…今回は踏まなくていい虎の尾を踏んだと思い全員その事を心に刻み、相応しい立ち振る舞いしてください」



 一生消えない恐怖心と共にクルエラの言葉を心に刻んだターレア達は無言で頷きクルエラとアリアが作った対戦表を見つめ各々の武器の調子を確かめ始める…。



「…なぁ、トーマ…俺達は蚊帳の外だな…」


「…だなぁ…」





 ■





「…たはーっ!ついやっちったっす!」


「たはーっ!ついやっちったっす!じゃないわよ!?咄嗟に色々合わせたけれど国際問題にされてたら唯織達をどうするつもりだったのよ!?」


「ほんっとすんませんっした!!!唯織っち達も必死に我慢してたのに申し訳ないっす!!!」



 ターレアが仲間達に頭を下げている頃…唯織達の方でも控室でユリが深く頭を下げていた…。



「僕が言われる事は全然気にしてなかったのですが…僕も皆を貧弱だとか弱そうだって言われた時はきましたね…」


「イオリが気にしなくても僕達は滅茶苦茶ムカついてたよ?見てよこの手!めっちゃ爪食い込んで血出てる!」


「そうだよいおりん?マジで全員ぶっ殺そうかと思ったし!」


「そうですわね。私も声を上げそうになるのを必死に我慢しましたわ」


「私はユリ先生がやらなければあのキースとかいう男の腕を肩から斬り飛ばしていました」


「リーチェの目が本気…でも私もイオリ君が言われるのもムカついたけどアリア先生にあんな事を言うのにもムカついた…」


「シャルと同感だ。いい女だと見抜く目は認めるがアリア教諭は私達の教諭だ。なのにあ奴…!!!」


「あいつと戦いたかった…ズタボロにしてやりたかった…!」


「わ、私も怒ってます…!」



 ターレア達の反省ムードと打って変わって闘志を燃やす唯織達だったがアリアが場を収めるように手をたたく音を響かせるが…



「はい、思う所があると思うけれど今は気持ちを切り替えて試合に意識を向けてちょうだい」


「…待ってください。最後に一つだけ聞いてもいいですか?」


「何かしら唯織?」


「…何で最後にあんな条件を付けたんですか?アリア先生とユリ先生なら確かに勝利は固いと思いますが…万が一にも僕達の誰かが負ける可能性もありますよね?ターレア第三王子を叩くのとクルエラさんを教師にするだけでも正直…」


「釣り合いが悪いって言いたいのね?」


「はい…」



 唯織の指摘に皆も絶対に勝てる戦いなんて無いと少し俯くがアリアは笑みを浮かべながら言う。



「んなのあなた達を信頼してるからよ。私はあなた達が努力しているのもちゃんと知っているわ。だから私は絶対に勝てると思っているし、絶対に勝てる勝負にどれだけ負けた時の条件をベットしても意味無いわ。クルエラの事を対等だと認めているのは事実だけれどそれ以上にあなた達の事を信頼しているから私は自分すら賭け皿に乗せたのよ。()()()()()()()()()()()()()()()()


「…わかりました。全力を尽くします」


「…私の為…ですか…ふふ、全力で期待に応えて見せますわ」


「…っしゃー!いっちょやったろーじゃん!!全勝したら何かご褒美ちょうだいね!」


「はいはい、ご褒美を考えておくわ」



 アリアからの全幅の信頼…押しつぶされてしまいそうな程に重く、何よりも暖かい信頼に答えたいと気持ちを新たにした唯織達は目つきを鋭くして対戦表を見つめる。



「気合入ったみたいね。…んじゃ、初戦だけれど相手はティア、こっちはティリアでいくわよ」


「…はい!」


「ルノとの特訓で何処まで強くなれたかはルノからは一切聞いてないわ。…だから特訓の成果をこの試合で私に見せて驚かせてちょうだい」


「わかりました…絶対に驚かせますっ!」


「…ふふ、第二試合はルマ対テッタよ。フェイナからも一切聞いていないから驚かせてちょうだいね?」


「任せてください!」


「第三試合はターニャ対詩織ね?期待してるわ」


「ばっちこい!」


「第四試合はエルダ対フリッカよ。一人で何処まで出来るか楽しみにしてるわ」


「絶対に勝ってアリア教諭に勝利をプレゼントする!」


「嬉しいわね。…第五試合はアーヴェント対アンジェよ。フリッカと同様勝利をプレゼントしてちょうだいね?」


「ああ。必ずプレゼントしよう」


「第六試合はレイカ対シャルよ。どんな魔法を使うのか楽しみだわ」


「期待しててください!」


「ええ。…第七試合はキース対リーチェ。…間違えて首を斬らないでちょうだいね?」


「勢い余ってそうならない様に気を付けますね」


「本当に頼むわよ…?…第八試合はターレア対リーナよ。先に自分は切れ者だって思いあがってる馬鹿にキツイのを食らわせる権利をあげるわ」


「わかりましたわ。任せてくださいまし」


「そして…第九試合、SSSランク冒険者の百鬼ことトーマとやるのは唯織よ。十中八九透明の魔色と学生って事で初手は舐めてかかってくるわ。だから試合が始まった瞬間、脚か腕を斬り飛ばしなさい?どうせ血統魔法の鬼化で死ぬまで生えてくるから遠慮はいらないわよ?」


「わかりました。全力でやります」


「で…第十試合はバルアドス対ユリね。あなた達もユリの実力をしっかり見ておきなさいね?」


「うっす!ちゃっちゃと倒して汚名返上っす!!」


「最終試合はクルエラ対私…語るまでもないわね。勇者でもないクルエラに魔王が討てるわけがないんだから」



 アリアの皮肉たっぷりな言葉に笑みを浮かべ全ての対戦表を読み終えると唯織達は自分の武装を入念にチェックし…



「…準備はいいみたいね?行くわよあなた達。徹底的に、完膚なきまでに、私達の仲間の絆がどれだけ強固なものかあの第三王子共に見せつけてやりなさい」


「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」


「っすー!!」



 無人の闘技場へと戻るのだった…。





 ■





「…まさかこんな形で戦う事になるとは思わなかったわ。もっと楽しい感じの試合になると思ってたのに…」


「…私もです」



 両陣営に分かれて観客席から見つめる唯織達とターレア達…そしてその全ての視線は闘技場に降りるたった二人のティリアとティアに注がれていた。



「ねぇ…ティリア?さっきは私の仲間達がごめんなさい。ティリアの大切な仲間達を悪く言って…でもね?私達が先にちょっかいをかけたり酷い事を言ったのもわかってる…わかってるけど、ティリアの大切な仲間が私達の大切な仲間のキースとターニャ、エルダの事を悪く言った事は怒ってるの」


「…それは私もです。私達の仲間がキースさんとターニャさん、エルダさんを悪く言ってごめんなさい。…でもイオリさんは命をかけて私を救おうとしてくれて、アリア先生は眼を犠牲にして私を助けてくれた素敵な人なんです。そして私の大切な人を呪いから救ってくれたリーナさん達…そんな素敵な人達を悪く言ったキースさんやターニャさん、エルダさんに怒っています」


「…ティリアの先生、アリアさんが何でもしてくれるなんて条件正直いらないしティリアに恨みもないけど…私達の仲間に謝らせる為に本気でやるよ」



 そういうとティアの目はスッと細まりアンジェリカとフレデリカが持っている魔道銃を一回り小さくした銃を二丁抜き…



「私もティアさんに恨みはありませんがアリア先生の為に、イオリさんの為に、リーナさん達の為に全力でやります。…覚悟してください」



 ティリアも目をスッと細め、ルノアールからもらったマフラーで口元を隠し胸元に隠したアリアが作ったカトレアの存在を感じつつ、黒百合をしっかりと手に嵌めて眼鏡を外しジャケットの裏側にしまうと目を閉じたまま一瞬アリアと見間違う様なアリアと同じ構えを取る。



「…魔道銃、アーティファクトですか?」


「正解。ターニャは失われた技術って言われてるアーティファクトの()()()()()()()()()の。他にもターニャが作ってくれた魔道具で身体能力も上げてるし、正直素手のティリアに逃げて距離を取りながら攻撃出来る私に勝てないよ」


「それはやってみないとわかりません」


「…すぐにわかるよ」



 時間が引き延ばされていく様な静寂が両者に訪れ…



「第一試合、ティア対ティリア…試合開始!!」



 アリアの声と共にティアの怒涛の魔力弾の嵐がティリアに吹き荒れた…。

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