仲間をぞんざいに扱う罪
「ねぇ、ターレア?歓迎会の前に学園長とあなた達の担任に挨拶をしたいのだけれど?」
「あぁ…ご心配なく。今回の一件は全て俺に任せると学園長は言っていますし、担任…師匠達も歓迎会の会場で待ってますよ。学園長との時間はこの後予定しているのでその時にでも」
「ふぅん…師匠達ねぇ…」
「まさかっすよねぇ…」
ターレアに導かれるまま生徒達の姿が全く無い巨大な建物の中を進むアリア達…担任の事をわざわざ師匠、それも師匠達と言い直した事に嫌な予感が過るアリアとユリ。
「俺達の師匠もアリアさんとユリさんに会うのを心の底から楽しみにしていましたよ…と、着きました。ここが歓迎会の会場の入り口です」
嫌な予感が確信へと変わるターレアの一言と引き換えに頑丈な鉄製の扉へと辿り着き…重厚な音と振動を生みながら開き…
「俺達、ハルトリアス学園特級流の歓迎をさせて頂きますレ・ラーウィス学園の方々」
無人の闘技場の中央に佇むバラエティーに富んだ九人の姿をあった。
「「げっ…」」
「アリアさん、ユリさん、驚きましたか?同じSSSランクの冒険者三名が俺達の担任達、もとい師匠達です」
「…いい趣味してるわねターレア」
「っすねぇ…また面倒くさい事になりそうっす…」
身体に穴が開いてしまうんじゃないかと思う程熱烈で怒気を孕む刺々しい視線を送ってくるSSSランクの冒険者達を無視して近づくとターレアが笑みで自己紹介を始めた。
「では改めて自己紹介を。俺はムーア王国第三王子、ハルトリアス学園特級を纏めるターレア・ムーアです。学年は三年でアンジェリカさんとフレデリカさんと同い年です」
「同じく特級三年、アーヴェントだ」
既に自己紹介をしていたターレアとアーヴェントが簡潔に自己紹介をすると毛量の多い金色の髪を一纏めにした茶色の瞳と獅子の耳と尻尾を持つ青年が一歩前に出て口を開く。
「初めましてレ・ラーウィス学園の方々。私の名はルマ、特級の三年だ。お会い出来る日を待ちわびていました」
礼儀正しく頭を軽く下げる立ち振る舞いは騎士そのものだったが次に一歩前に出る者…小さく腰辺りまでしかない身長、健康的に焼けた褐色の肌、長くも短くもない金のふわふわした髪、気が強そうに吊り上がった目元に燃えるような赤い瞳を持った少女は見上げながら一瞥しフンッと鼻を鳴らすと唯織の事を睨みつける。
「ウチはターニャ、特級三年。…随分貧弱そうな奴らだな?ちゃんとやれんのか?しかもお前…女みてぇな顔してタマついてんのか?」
「……ええ、ちゃんと男ですし僕の親友達は貧弱じゃありません」
「…フンッ」
唯織の返答が気に食わなかったのかそっぽ向いて列に戻るとアリア程ではないが長身の身体と豊満な胸、顔すらも隠れる真っ黒の長髪、長い前髪から覗く何もかもが億劫そうに見える目元に深海の様に暗い青の瞳を持つ女性が一歩前に出る。
「私…レイカ…特級三年…」
誰よりも短い自己紹介を終えて列に戻ると唯織の染めていない雪の様に白い髪と同じ真っ白の長髪から片方の角が折れた真っ白の竜の角を生やし、凛とした目元に唯織と同じ真っ赤な瞳、腰の後ろに真っ白で強靭そうな竜の尻尾を持つ長身の女性は不服そうな表情を浮かべながら一歩前に出る。
「特級三年、エルダだ。見るからに弱そうなお前達に付き合うのも不本意だがターレアの指示だから仕方なくここにいる。この角について触れたらぐちゃぐちゃに嚙み殺す」
ターニャと同じ様に高圧的な態度で鼻をフンッと鳴らして列に戻るとティリアと同じ水色の髪を腰まで伸ばし、ティリアと同じ紫紺の瞳…ティリアを大人びさせたらこんな感じになるだろうと思わせる顔と身体を持つ女性は一歩前に出てティリアを見つめた。
「私は特級三年のティア。…あなたがティリア?顔も背格好も名前も私に凄い似てるわ…」
「は、はい…」
「…後で二人っきりで話しましょ」
「…?わ、わかり…ました…」
妙に熱烈な視線を送ってくるティアに困惑しつつも何処となく親近感と安心するような不思議な感覚を覚え、後で話す事を約束すると満足そうな笑みを浮かべて列に戻り…筋肉質で長身、灰色の短髪に狼の耳と尻尾、ギラギラと獲物を狙うような鋭い目元と喰らいついたら離さないとばかりに鋭く伸びる牙を剥き出しにした荒々しい青年がズカズカと唯織に近づき胸倉を掴み上げる。
「テメェが無色の無能かぁ…?」
「…透明の魔色の由比ヶ浜 唯織です」
「…何で振り解かねぇんだ?」
「……」
「…ハッ!ただビビッて振り解けねぇだけかよ!テメェ見てぇな無能がここに居んのは虫唾が走んぜ!!さっさと家に帰って乳でも吸って寝てな!!」
唯織の胸倉を乱暴に離すとテッタ達が明らかな怒りを滲ませるが唯織の笑みの制止とユリに言われた問題を起こすなという言葉が脳裏を過り、きつく拳と歯を軋ませて耐えているとその青年はアリアの目の前に移動し…
「…オレは特級三年のキース。テメェ、いい女だな?オレの女になれ」
「「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」」
「……」
命知らずとしか言えない言葉を平然と口にしアリアに手を伸ばそうとするキースに唯織達の身体に戦慄が走った瞬間、
「…テメェ、あたしらのアリアっちに何汚ねぇ手を伸ばしてんだ?」
「っ!?ぐあぁっ!?!?!?」
「き、キース!?!?」
ゴキゴキという鈍く響く嫌な音が鳴り…今まで笑みを絶えず浮かべ優しく綺麗だった顔を修羅の様に歪め、ターレスの悲痛な叫びを聞き絶対に邪魔されない様に一瞬で唯織達以外の首周りに血の剣を浮かばせたユリによって完全にキースの腕はひしゃげられてしまい、更に追い打ちをかけるように首を掴んで勢いよく地面に叩きつけて馬乗りになってしまう。
「うっ!?」
「お前ら少しでも動いてみろ?一瞬で頭と身体が斬り離されるぞ。…おいこのクソガキテメェ、調子くれてんじゃねぇぞ。テメェの身体を掻っ捌いて市場で狼肉として売られる覚悟は出来てるか?まずは目ん玉からくりぬいてやろうか?それとも下半身からテメェのタマを取り出して食わせてやろうか?あ?自慢の牙を抜いてテメェの目ん玉とタマを串刺しにして食わせて欲しいのか?それとも生きたまま腸を引き抜いて食わせてやろうか?このクソ駄犬」
「ぐっ!?…デメェ…!!!!卑怯だろうが!!!」
「なんだ?よーいドンでやるお遊びだとでも思ってるのか?あたしはいついかなる時でも一瞬で殺す事に躊躇しないし如何に人を殺せるかの実力で張り合ってきたんだろ?その実力って言うのは本当の殺し合いで発揮される力だぞ?あたしなら次、テメェが目を閉じた瞬間にアリアっちと唯織っち達以外の首を落とす事なんざ朝飯前なんだよ。飼い主に首輪を付けられて平和ボケでもしたか駄犬?唯織っちがテメェに胸倉掴まれて何もしなかったのも、リーナっち達が唯織っちの事を無能呼ばわりされても何もしなかったのはあたしが問題を起こすなって釘を刺してたからなんだよ。そんな事もわかんねぇ低能共がそれをビビってる?貧弱?見るからに弱そう?不本意だが?テメェらは何様だ?ここで本当の恐怖と圧倒的な実力…抗いようの無い本当の絶望と暴力を教えてやる。この駄犬の次はそこの焦げたクソチビとそこの角欠け白トカゲの番だ。お前らがこれからどうなるか目に焼き付けろ」
「あがっ!?」
突然の出来事に誰もが驚き硬直する中…ユリの手が突っ込まれたキースの口からミチミチと嫌な音が鳴り、ターニャとエルダは別次元…言い表せない程の恐怖でへたり込んでしまうがユリの肩に優しく手が置かれると一気に空気が軽くなった様な錯覚を覚える。
「ほらユリ、言い過ぎだしやりすぎよ。そういうのは私の役目だわ」
「………わかったっす。感謝しろ駄犬、クソガキ、角欠け白トカゲ」
「っ!?ゴホッゴホッ…う、腕が…」
「キースとか言ったかしら?高嶺の花に手を伸ばす事はいい事だけれど順序を考えなさい。腕力で手に入れたものは同じく腕力で奪われる事を知れてよかったわね。…理より排斥されし魔道の原初よ、我の幻想を叶えたまえ。彼に苦痛なく味わった苦痛と均等な安らぎを与えたまえ…」
ひしゃげて力なく垂れる腕を大事そうに抱えて蹲るキースの腕を撫でて一瞬で見るも無残な状態から無傷の状態に治すと皆の目が見開かれるがアリアはターレアを睨みつけ腕を伸ばした。
「ターレア、あんたさっきホープって子を使って私に攻撃しただけじゃなく、キースを使ってまた私達がどれだけ出来るか試そうとしたわね?」
「……申し訳ありません。その通りです」
「素直なのはいい事だわ。ただ…やり方が卑怯よね?」
「…仰る通りです」
「あんたが仲間の事をどう思ってんのか知らないけれど、あんたの思い付きや好奇心で仲間が三人…いや、全員が死にかけたのよ?仏の顔も三度まで…ホープ、ターニャ、エルダは我慢したけれど流石に四度目は看過出来ないわ。まだ何か仕掛けてくるんだったら本気で殺すわよ?覚悟は出来てるんでしょうね?」
「っ…本当に申し訳ございません。全ては俺…私の好奇心を満たす為に皆に芝居を打ってもらいました。ターニャやエルダ、キースの言動は全て私がそう言えと指示しました。ですのでホープを含め三人、残りの仲間達には手を出さないで頂きたい…」
「っ!?ち、ちが…ウチはウチが思った事を素直に言っただけだ!!」
「わ、私もだ…ターレアは何も悪くない!」
「…あぁ、オレもそうだ。あんたをいい女だって言ったのもオレの女になれって言ったのも、あの無色を無能呼ばわりしたのもオレの意思だ。ターレアは何も悪くねぇ…腕を治してもらってわりぃがやるならオレをやれ」
ターレアにゆっくりと近づいていくアリアの腕を必死に止めようと掴むキース、ターニャ、エルダをものともしないアリアの腕は…ターレアに届く前に白金の杖に遮られた。
「白黒狼?鮮血嬢?流石にやりすぎよ」
「…責任を取らせる為に頬を引っ叩こうとしただけよ。クルエラ」
金の髪に凛とした目元にある綺麗な青い瞳、非常に整った顔立ちによく似合う尖った耳、森人族であるSSSランク冒険者、ターレア達の師匠をしているクルエラはアリアを睨みつける。
「あなた…子供達がこんなに必死になって仲間を庇ってるのよ?良心は痛まないの?」
「私は守りたいモノの為なら何だってするわ。その守りたいモノである唯織達の事を先に言葉や暴力で試合でもないのに傷つけようとしたこいつらなんかに良心なんて痛まないわ。それに、今の今まで黙ってキースの腕が折られて嬲られそうになるのを見守ってたくせに今更止めるのかしら?」
「それとこれは違うわ。もうこの子達は十分に自分達の過ちを痛感している…キースの腕が折られるのを見逃したのは受けるべき罰だと判断し、あなたならその腕を必ず治すと判断したまでよ。これ以上は過剰だわ」
「過剰?ならクルエラは大切なモノが略奪者によって傷つけられ奪われようとしてるのに怒り狂わず腕の骨を折っただけで許せる博愛主義者なのね?流石は精霊に愛された精霊女王クルエラ・マリーシア様ね?私はあなたみたいに寛容にはなれないわ」
「だからっ…!あなたの考え方は間違っているわ!!なんであなたの考えはいつも行き過ぎているの!?もう十分この子達も自分が悪い事は理解してるわ!!」
「ならクルエラは略奪者に人の物を奪うのはダメだと説いて上辺だけの返答で反省してると思えるのかしら?それに私は大切なモノを傷つけられた事だけに怒っているわけじゃないのよ?大切な仲間を捨て駒の様に動かして相手を探って好奇心を満たそうとした仲間を束ねるはずの、リーダーのターレアが仲間をぞんざいに扱った事に対しても怒っているの。こういう小手調べは仲間に危険が及ばない様に何重にも策を巡らせ、相手に悟らせない様にするものでしょう?それをどういうわけか自分は策士だとか思いあがったのかは知らないけれど、仲間の安全も確保せずに指示をした首謀者はヘラヘラニヤケ顔を晒してさも自分は何も考えてません、これは自分の意思じゃないですみたいな仲間を切り捨てると同義の振る舞いをしているのよ?その首謀者が何の痛みを感じずに上辺だけではいすみませんでした、私が悪かったです、もうしません何て言ったって信じられるのかしら?あなたは冒険者としてそういう人達を多く見てきたはずよね?あなたの冒険者人生で唯一の汚点を今ここで話してあげましょうか?」
「っ!?…あ、あれは…」
「あなたは村を襲う盗賊団を退治して欲しいととある村から依頼を受け、いとも簡単に退治したがその中には無理やり盗賊として働かされていた者達がいた。あなたは本来したくない事をさせられていたと判断してその者達にもう二度と人の物を奪わないと約束させて僅かばかりの食料と金品を渡して逃がし、依頼を受けた村を出た数日後、あなたが逃がした者達はまた村を襲い、村が血の海に沈んだ事があるのよね?なのにまた同じ様に上辺だけの言葉を信じて同じ過ちを繰り返そうとしているのかしら?」
「……違うわ。あの時は盗賊、今はこの子達よ。育ちも何もかも違う全くの別人よ」
「別人なのは確かね。でも同じ無自覚な悪意と勝手を持つ人よ?私からしたらこいつらは私達の大切なものを傷つけ奪おうとする盗賊と略奪者にしか見えないわ。王族だろうが貴族だろうが男だろうが女だろうが大人だろうが子供だろうが他種族だろうが関係ない。自分の好奇心を満たす為なら平気で仲間も友達も利用する狡い人間にここできっちり躾けておかないとまた間違えるわよ?」
「っ…」
「少しでも私の言っている事が理解出来たのならどきなさいクルエラ。今度こそターレアを引っ叩くわ」
長い間冒険者として活躍してきたクルエラはアリアの言葉通り、平気で人を蹴落としたり奪ったりする者達や汚い部分、黒い部分を数多く見てきた…何も反論出来ずに目元に小さな雫が浮き出すと更にアリアの腕を掴む手が二つ増えた。
「おい白黒狼、もうやめてやれ。クルエラだってずっと引きずって悩んでいるんだ。古傷を抉ってやるな。五人しかいないSSSランク冒険者の仲間だろ?」
「そうだぜ?お前さんだって抉られたくねえ傷の一つや二つあんだろ?数少ない同じ仲間だし一緒に戦ったこともあんじゃんか」
「さっきはあんなに身体に穴が開くんじゃないかって程の熱烈な視線を送ってきたのに仲間面とはどういう風の吹きまわしかしら?黒龍バルアドス、百鬼トーマ」
アリアやユリ、クルエラと同じくSSSランク冒険者でターレア達の師匠、エルダとは対照的に黒い竜の両角と尻尾、真っ黒の髪と少し長めの前髪から覗く金色の瞳を持ち、身の丈程の大剣を背負う竜人族のバルアドスと赤黒い髪に黒い瞳、和服をわざと着崩し傷だらけの上半身を晒し腰に棘が無数についた棍棒を差す鬼人族のトーマを睨みつける。
「そうカリカリしなさんな白黒狼。ここはおいらの顔に免じてその腕を引いちゃくれんか?」
「あんたの顔に免じて?何処で私に対してあんたが恩を売ったのよ?そんな覚えないわよ?」
「おいおい…白黒狼と鮮血嬢に甘いもん食わせてやっただろ?数日営業が出来なくなるまで鮮血嬢が根こそぎ食った時の支払いはおいらだぜ?」
「あれはあんたが私達と話をしたいって食い下がってきたからでしょう?食べれるだけ食べて良いって言ったのもあんたよね?それの何処が私達に対しての恩なのよ?恩と言えば私達の方が恩を売ってるわよね?あんたが血統魔法を使って制御しきれなくなるまで暴走して被害が出た村への補填を私達がした事を覚えてないのかしら?」
「…あん時は本当に助かった。…よし、おいらじゃ無理だ。バルアドス何とかしてくれ」
「お前そんな事を…はぁ、白黒狼、俺の顔に免じて何とか落ち着かないか?」
「あんたにも恩を売られた記憶はないのだけれど?あんたもトーマと同じく血統魔法で竜化して吐いた火が森についた時の消火、あんたの竜の姿を見てパニックを起こしてしまった村人達をケアを誰と誰がしたと思っているのかしら?」
「………あの時は本当に助かった」
「お前さんもかい…」
「だからその手を離しなさい。新人に尻ぬぐいされてばっかの古株に先輩面されるのが一番腹立つわ」
「「……」」
何も言い返せないバルアドスとトーマは渋々アリアの腕から手を離したが…まだクルエラの白金の杖はアリアの腕を阻み続けていた。
「クルエラ?一発引っ叩けばこの茶番はもう終わりなのよ?」
「…恩」
「…何よ?」
「…私はあなた達に恩を売られていないわ」
「そうね。クルエラは他の二人と違ってちゃんと周りの状況を判断して最善だと言える行動をしてきたわ。唯一私達と対等って言っても過言ではないわね」
「だから対等な私からもう一度言うわ。これ以上は過剰よ。手を引いてくれない?」
「無理ね。私はターレアを一発引っ叩いて仲間の大切さを教えるまで絶対に引かないわ」
「…なら、試合で決着を付けましょう。私が負ければ目を瞑るわ。私が勝ったらターレアを引っ叩くのは諦めて欲しいの」
潤んだ瞳で必死に睨みつけてくるクルエラ…誰もが固唾を飲んでどうなるか見届けていると…
「……はぁ…クルエラ、あなたは他の二人よりよっぽど教師に向いていると思うわ」
「…?」
「あなたの心情的に許せないのもわかっているけれど、こんな状況で私が引っ叩いたらターレアは自分の好奇心で仲間達を危ない目に合わせた自責の念に駆られきっとこの歓迎会は流れて企画していた模擬試合は無くなる…どんな形であれ生徒達に経験を積ませようとしてるものね」
「…わかっているなら提案を飲んで欲しいわ」
「冒険者を一時的に休止してターレア達が間違って成長しない様にあなただけでも教師を続けるならその提案に乗ってあげるわ」
アリアに正式に教師になれと言われたクルエラは軽く目を見開くが…すぐに表情を改め呟く。
「…わかったわ。なら早速『待ってちょうだい』…?」
ターレアに伸ばしていた腕を引きクルエラも杖を引いて試合を始めようとするがアリアは待ったをかけた。
「私とクルエラの試合じゃなく、私達とクルエラ達の試合にしないかしら?」
「…どういう事?」
「こっちは私とユリ、唯織達を含めて11人。そっちはポンコツの先輩二人とクルエラ、ターレア達で11人。丁度同数で奇数なんだから全員一対一で戦って勝ち星の多い方が勝ちって言うルールでやりましょう。いいわよね?」
「…待ってちょうだい。それだとそっちの生徒の誰かがバルアドスかトーマと戦う事になるわ。ポンコツでも一応SSSランクの冒険者よ?」
「おいおいお嬢さん方…あんまりポンコツポンコツ言わんでくれ。威厳が無くなっちまう」
「トーマ受け入れろ…実際助けられているのは事実だ…」
「バルアドスのそういう理解の良さは素敵だと思ってるわ。私が教えてきた生徒なら誰でも勝てるって信じているから構わないわ。…そうよね?」
無言で頷く唯織達に気分を良くするアリアとユリ…学生に負けると思われ表情を変えるバルアドスとトーマ…
「…わかったわ。命のやり取りじゃなくちゃんとした試合よね?」
「そうよ。即死しない限り私が治してあげるわ。それとそっちの生徒達がやる気を出す為にもう一つ譲歩してあげるわ」
「…?」
「私達が負けたらキース、私を好きにしていいわよ。それにユリが吐いた暴言の謝罪とあんた達の願いを何でも一つ叶えてあげるわ。王様になりたい、国を滅ぼしたい、億万長者になりたい、何でもいいわよ。…ただしやるからには私達は力の限り徹底的にやるわ」
アリアの条件追加で目を落とす勢いで見開くターレア達と絶対に負けられないと意を決する唯織達…
「…そんな条件に見合う対価を私は支払えないわ」
「いいのよ。クルエラの時間をターレア達に使ってもらうんだからこれでも釣り合わないと思うぐらいよ?この条件は私が対等な存在だと認めているクルエラの時間をもらう事に対しての気持ちだわ」
「…そんな風に思われてるなんて思っても見なかったわ」
「クルエラに対して私はあんた何て呼んだ事は無いわよ?」
「っ…そうね。私も今度からあなたの事をアリアと呼ばせてもらうわ」
「別にいいわよ」
「ならあ…アリア、早速対戦表を作りましょうか」
「…何恥ずかしがってんのよ?そんなんじゃ友達いないでしょう?唯織達は準備しておきなさい」
「う、うるさいわね!?友達の一人や二人ぐらいいるわ!ターレア達も準備しておいてください!」
そしてアリアとクルエラ以外の皆は絶対に負けられないレ・ラーウィス学園とハルトリアス学園の模擬試合を始めるべく入念に準備を始める…。




