出来すぎた偶然
「うん…似合ってるわね。流石私ってところかしら?」
「っすね!いい感じっす!」
高速で景色が流れていくアリア特製の豪華な馬車の中…一ヶ月の訓練を終えた唯織達は装いを新たにしていた。
「この制服…アリア先生の手作りですの?」
「凄いぴったり…それになんか魔力が纏いやすい…?」
「確かにそうですね…でも少し派手じゃないですか?」
「というよりアリアちゃんの趣味丸出しだよねー…」
「わ、私はいいと思います…!」
「ああ…!これはすごく着心地がいい…!」
「うん…!それにかっこかわいい…!」
金の刺繡が施された丈の短い長袖の黒いジャケットに赤いシャツ、黒のベストと黒いネクタイ、黒いスカートから覗くガーターベルトに吊るされた黒のオーバーニーと黒い手袋に黒いブーツ…まるでアリアがいつも着るスーツにそっくりな新しい制服に浮足立つ成長したリーナ達。
「手袋ってなんか違和感あるけどお揃いだねイオリ?」
「そうだね。最初は慣れないと思うけど慣れたら気にならないよ?」
スカートをズボンに変えた制服をかっこよく着こなす身長の伸びた唯織とテッタ。
「その制服には魔法が流しやすくなるのと耐性と防刃を付与してあるわ。剣で斬られても私達ぐらいの技量が無ければ当てられても棒で殴られた様な痛みしか食らわないわ。それとムーア王国では空間収納や無詠唱を披露するつもりはないから詠唱を考えて武器はあなた達の身体に合わせて調整したベルトを使って吊るしておいてちょうだい。リーナのはこれよ」
「…至れり尽くせりですわね」
「それとサリィからプレゼントよ」
「羽のネックレス…これ、サリィさんの羽ですわね。大切にしますわ」
怖いほどに自分の身体にぴったりと合う真っ黒のベルトを腰に付けエーデルワイスを吊るし革紐とサリィの天使の羽で作られたネックレスを大事そうにするリーナ。
「これはシャルのよ。アスターは伸縮機構があるから穂先は鞘に納めて縮めて腰に吊るしてアルメリアはこの袋に入れて担いでちょうだい」
「っ!すごいしっくりくる!しかもこのままアスターに魔力を流せば身体能力強化の魔法もかかる!」
「それとフィーからのプレゼントよ」
「フィーヤさんから…赤い紐?フィーヤさんが着ていた服と同じデザイン?」
「それはこうやって…首に付けるチョーカーよ」
「わ…可愛い…!」
柄を掌サイズまで縮めてストラップの様に腰に付けアリアに付けてもらったフィーヤからの不死鳥をモチーフとしたチョーカーを鏡で眺めるシャルロット。
「リーチェのはこれよ。流石に三本も腰だけで吊るすとだるいと思うから肩から腰までのハーネスベルトにしてみたわ。ジャケットの下からつけておきなさい」
「こんな剣帯見たことありませんがすごくつけやすいですね…」
「それとフィオからよ」
「紫色のリボン…?」
「これはこうして…リーチェの三つ編みに混ぜてあげるといいわよ」
「可愛い…ありがとうございます」
ジャケットの下にハーネスを付け腰の後ろで交差させるようにアネモネとアイリスを吊るしいつも通り山茶花を腰に差すと今までの重さはなく、フィオからもらったリボンをアリアに編み込んでもらった髪型を鏡で見つめるリーチェ。
「ランのじゃなくて申し訳ないけれどティリアだけ何もないのは可哀そうだから私が作ったナイフ、『カトレア』をあげるわ。このベルトでジャケットの下に隠しておきなさい」
「カトレア…あ、ありがとうございます!…で、でも…このベルト…胸が強調されて恥ずかしい…」
「立派に育ってるんだから恥ずかしがる事はないわよ?カトレアは黒百合と同じで魔力を流しやすくするのと同時に氷と雷に対して耐性を付与してあるわ。ルノからもらったそのマフラーと一緒にお守りとして持ってなさい」
「…!ありがとうございます!」
13歳とは思えない程育った胸を上下で挟み込むようなベルトに恥ずかしがりながらもアリアのナイフ、紫色の刀身のカトレアを鞘に納めてジャケットの下に隠すティリア。
「アンジェとフリッカは…って、そんなもの欲しそうな表情をしなくてもちゃんと用意してあるわよ…」
「そ、そんな表情をしてたか…?」
「気のせいだと思う?」
「…まぁいいわ。今使っている魔道銃のホルスターと…仲間が私のお守りとしてくれた魔道銃をちょっと私なりに改造した『ゼラニウム』よ。ちょうどよく銀と黒で色が分かれてるから銀はアンジェ、黒はフリッカにあげるわ」
「っ!?…そんな大切な物をもらっていいのか…?」
「アリア教諭のお守り…ゼラニウム…」
「ええ。アンジェとフリッカが持ってる魔道銃みたいに光刃は出ないけれどゼラニウムはこの弾倉に魔力を込めれば撃てるわ。それとアンジェとフリッカのジャケットの裏にはポケットがあるからジャケットの裏にこの弾倉を差しておきなさい」
「七つ…?」
「多い…こんなに必要?」
「その弾倉は魔力変換をする魔道具よ。今ゼラニウムに入ってる弾倉はあなた達の魔力を込められる普通の弾倉だけれど、この赤いラインが入っている弾倉は魔力を込めれば火属性の魔力弾が撃てるようになってるの」
「「っ!?」」
「ただしアンジェとフリッカが持ってるその魔道銃みたいに魔法は放てないわよ?各属性の魔力弾が撃てるだけだけれど、込める魔力によっては威力も上がるから状況に応じて使い分けなさい」
「「はい!!」」
「それとエルリとルエリからもプレゼントよ」
「これは…モノクル?」
「これもかっこかわいい…」
元々持っていた魔道銃をアリアからもらったホルスターに差して腰の後ろに吊るし、ジャケットの裏に赤、青、緑、茶、水、黄、紫のラインが入った弾倉を差して片手で持ちやすい銀と黒の拳銃、ゼラニウムとエルリとルエリからもらった右眼用のモノクルを大切そうに眺めるアンジェリカとフレデリカ。
「テッタのはこれね。いつも通り太腿に付けられる剣帯と…フェイナからのプレゼントよ」
「っ!?こ、これ…フェイナさんがつけてたガントレット…!」
「このガントレットはとにかく頑丈で盾としても使えるのよ。だから必要な時に使いなさい」
「はい!」
両の太腿にアンドロメダを吊るしフェイナからもらった漆黒のガントレットを腕に嵌めて笑みを浮かべるテッタ。
「詩織のはこれよ。流石にデスサイズを往来で引っさげれないからランに作ってもらった剣だけでも下げておきなさい。それと…エルミスティアと千夏からプレゼントよ」
「え?エルミスティア様とセッテ様から…本?」
「魔道書よ。新しい身体になってから魔力もかなり減ってるし魔力の扱いもまだ慣れてないでしょう?千夏との訓練を見てたエルミスティアが少しでも力になれる様にって千夏の力を借りて二人で用意したのよ。剣帯に魔道書を留めとくベルトも用意してあるから大事にしなさい」
「…そっか。ありがとうございますセッテ様、エルミスティア様…」
アリアからもらった剣帯に黒曜石の剣を吊るしエルミスティアからもらった緑色の魔道書を大切そうに抱く詩織。
「最後に唯織。詩織と同じでアコーニトも薊も往来で引っさげれないけれど全部吊るす事が出来る剣帯にしておいたわ。ジャケットの裏にトレーフル、腰に魔王の剣を吊るしておきなさい」
「わかりました、ありがとうございます」
「それとユリスからよ」
「白兎のネックレス…幸運の白兎ですか?」
「ええ。ユリスは私達の国で幸運の聖女って呼ばれてるのよ?きっといい事があるわ」
「…はい、何となく僕もそんな気がします。ありがとうございます」
リーチェと同じハーネス型の剣帯をジャケットの下に着込み魔王の角で作られた剣を腰の後ろ、トレーフルをジャケットの裏に吊るしてユリスからもらったネックレスを付ける唯織。
「さてと、装いも新たに気分も変わったところで一つ報告があるわ。ユリ?」
「あいっすー!」
「「「「「「「「…?」」」」」」」」
アリアと同じ赤いシャツのスーツを着込んだユリは胸元から赤い眼鏡を取り出しかけるとスーツが弾けてしまうのではないかと思う程に胸を張り言う。
「あたしみんなの副担任になったっす!これからはユリ先生って呼ぶといいっすよ!」
「「「「「「「「ええっ!?」」」」」」」」
「まぁ、そういう事だから私が居ない時はユリに居てもらう様にするから遠慮なく頼りなさいね」
「よーろしくっすー!」
そして新たなクラスメイト?を加えた唯織達は目的地であるムーア王国、ハルトリアス学園へと向かっていく…。
■
見るからに高級品の長めの机が置かれた豪華な部屋で席に着く真っ赤な制服を着た七人と空白の一席…そして突然乱暴に開かれる扉。
「っくあぁ~~…ったくよぉ…呼び出しってンだよ?せっかく気持ちよく寝てんのに…」
「遅れて来て貴様は…何だその態度は?少しは悪びれたらどうだ?キース」
「あぁ…?オレに指図出来んのはターレアの野郎だけだ…ルマ、テメェに指図されんのは気に食わねぇなぁ?ここでブッ殺してやろうか?あぁ?」
「いいだろう…吐いた唾は吞めんぞキース」
「上等じゃねぇか!」
凶悪な笑みを浮かべるキースと呼ばれた灰色の髪色を持つ狼型の獣人の青年と、整った顔を歪めて敵意を剥き出しにするルマと呼ばれた金色の髪色を持つ獅子型の獣人の青年はお互いの赤い制服の胸倉を掴み上げるが…
「キース、ルマ、挨拶は済んだかい?」
「…チッ…ああ、バッチリ済んだぜターレア」
「…ターレア、これのどこが挨拶に見えるんだ?目が悪くなったんじゃないか?」
「俺からしたらいつものじゃれあい程度の挨拶にしか見えないよ。君達は仲がいいからね?」
涼しげな笑みを浮かべるターレアと呼ばれた赤髪の青年に諫められお互いの胸倉から手を放し席に着く。
「…ハッ!こんな暑苦しい奴と仲がいいわけねぇだろ」
「不本意だがキースの言う通りだ。こんな粗野な獣と仲がいいわけあるか」
「ンだとこの毛だるま?」
「何だ野良犬?」
「…ほら、そこら辺にしてくれ。キースも来たことだし今日来るはずのハプトセイル王国、レ・ラーウィス学園について話そうじゃないか。アーヴェント、お願いしていいかい?」
「わかった」
もう一度火が付きそうな二人を睨みつけて黙らせたターレアは如何にも真面目そうな緑髪の耳が尖った森人族の青年、アーヴェントに目配せすると静かに語り始める。
「みんなも知っているとは思うが5ヶ月前、ハルトリアス学園にレ・ラーウィス学園から生徒の受け入れを提案された。その理由はハプトセイル王国第一王子、レ・ラーウィス学園のイグニス・ハプトセイルが妹のハプトセイル王国第一王女、レ・ラーウィス学園のメイリリーナ・ハプトセイルと決闘をしてイグニスが負け、学園を去るのと同時にイグニスが関わっていた不正が色々と明るみに出てその不正に関わっていた教師や生徒全員を学園から追放したのがきっかけで生徒が少なくなってしまったかららしい。今回はいわゆる引き抜きだ」
「…ハハッ!レ・ラーウィス学園もそろそろ潮時なんじゃねぇか?つーかハプトセイル王国が潮時だろーな?」
「おいキース…思っても口に出すな」
「ンだよルマ?素直に言って何がわりぃんだよ?ここにハプトセイル王国の王族がいるならいざ知らず、ここに関係者はいねぇだろ?テメェもそう思ってんじゃねぇのか?」
「キース?一応俺は王族だし、友好を結ぶ国の悪口を笑顔で聞き流すわけにはいかないんだけどね?」
「…チッ、わーったよターレア。続けろよアーヴェント」
「…それで一ヶ月前、学園長がその申し出を受け入れ今日、レ・ラーウィス学園から生徒が何名か来るのだが…その名簿さっき学園長から渡されたんだ。見てくれ」
アーヴェントが差し出す紙を乱暴に取ったり丁寧に受け取ったりと性格が様々な者達に紙が行き渡ると皆の表情が曇っていく。
「…イグニスが決闘で負けたんだから妹のメイリリーナ・ハプトセイルがくんのはわかっけど、公爵家が三人だぁ…?どうせシャルロット・セドリックっつー奴とこのアンジェリカ、フレデリカ・ランルージュってーのはコネだろ?」
「シャルロット・セドリックはレ・ラーウィス学園の理事長ガイウス・セドリック様の孫娘だ。ガイウス様はそういうコネなどを一番嫌う人だからあり得ん」
「ルマの言う通りガイウス殿は不正を嫌う人だから今回大規模の学園の追放をしたんだ。それが身内であろうが王族であろうがガイウス殿は容赦しないよ」
「…ケッ、なら男爵で公爵と並んでるこのリーチェ・ニルヴァーナってーのはつえーんだろうな?」
「この名簿に載っている生徒は全員特待生…俺達でいう特級クラスだから相当出来ると思うよ」
「ターレアがそう言うだったら楽しみだぜ…!早くやりあってみてえなぁ…!」
「…それよりキース、話はそこじゃないんだ」
「…あぁ?」
強者と戦える事を楽しみにするキースにターレアが待ったをかけた。
「気になるのはこのシオリ・ユイガハマとイオリ・ユイガハマ…それと担任のアリアと副担任のユリだ」
「…ンだよ、平民なのに家名持ち?どっかの没落貴族か?つーかランルージュと同じで双子か?てか教師もか?」
「いや、ハプトセイル王国にユイガハマなんていう家名の貴族はいなかったはずだし双子じゃないよ。…そうだよねアーヴェント?」
「ああ、ターレアに言われて調べたがいなかったし双子ではない。シオリが姉でイオリが弟のようだ」
「ありがとうアーヴェント。まぁ、家名や双子はどうだっていいんだ。…この四人だけ魔色が記載されていないんだよ」
「…書き忘れかぁ?」
「いや、意図的に隠しているんだろう。実はアーヴェントにレ・ラーウィス学園を調べてもらった結果…シオリ・ユイガハマと担任のアリアはおとぎ話に出てくる勇者の生まれ変わりの可能性があるんだ」
「ハァ!?ンなのあり得ねぇだろ!?!?」
「いや…このシオリ・ユイガハマとアリアは何もかもが謎なんだけど…伝説の勇者が使ったとされる転移魔法が使えるみたいなんだ」
「なっ!?それマジかよ!?」
「噂程度だけどシオリ・ユイガハマがいる特待生クラスはいつも学園に居ないのに突然学園に現れたり、一瞬で姿を消したなんて噂があるし、アリアは明らかに常軌を逸した速度で各国の冒険者ギルドに出没するらしいんだ。…そして、弟のイオリ・ユイガハマは透明の魔色らしい」
「無色の…無能だぁ…?なんでそんな奴が特級なんだよ?」
「そんな怒るなよキース。勇者の生まれ変わりかもしれない姉のシオリ・ユイガハマ…世間では無色の無能と蔑まれている透明の魔色を持つ弟のイオリ・ユイガハマ…そして担任と副担任は最速でSSSランク冒険者になった白黒狼と鮮血嬢と呼ばれている二人…この四人が姉と弟として生まれてくるのも、その勇者の生まれ変わりと思われるアリアが担任になるのもかなり出来すぎてるしちょっと面白そうだし調べて見ようと思うんだ」
「…ケッ、オメェのそのワリィ顔…久しぶりに見たぜ。…いいぜ?無色の無能でもつえぇやつとやれんなら何でもいい」
「別に陥れようとしてるわけではないんだろう?」
「その通りだよルマ。本当に勇者の生まれ変わりなのか、透明の魔色は本当に無色の無能なのか、担任と副担任は偶然そうなったのか調べるだけさ」
「…わかった。ターレアの言う通りに動いてやろう」
「ありがとうルマ。アーヴェントもいい?」
「ああ、引き続き調べてみよう」
「よし。じゃあ、ターニャ、レイカ、エルダ、ティアもよろしくね?」
そして一言も喋らなかった残りの四人もムーア王国の王族、第三王子ターレア・ムーアの言葉に静かに頷き…
「伝説の勇者の生まれ変わりと思われる人物が二人…これは魔王が復活するという破滅の始まりか、それとも…」
そう小さく声を漏らした…。




