信頼と甘えは紙一重
これにて第三章完結です。
「ねえ、アンジェとフリッカはどんな魔法を使うの?気になるよね?エルリ」
「そうねルエリ。アンジェとフリッカがどんな魔法を使うか気になるわ」
「……私は白の魔色しか授かっていないので光魔法を使うが…」
「私は透明の魔色程じゃないけど気味が悪いって嫌われてる黒の魔色しか授かってない。闇魔法を使う」
「「ふぅん?」」
立ちながら地面を滑る様に飛ぶエルリとルエリ、それを追う様にアンジェリカとフレデリカは自分達の魔色を明かすとエルリとルエリは興味深そうに二人を見つめて笑みを浮かべる。
「光り輝くアンジェを影からフリッカが支えてるんだね?」
「そうね?でもアンジェもフリッカの事を守ってあげてるのね?」
「っ…そんな風に言われたのは初めてだ…」
「…光の姉、闇の妹…天使の姉、悪魔の妹だっていつも言われてた…」
エルリとルエリの何気ない一言…まだお互いの事を詳しく知らないのに私達をそう評価してくれたのは両親を除いてこの二人だけ…。
「光が無いと闇は生まれないし、闇が無いと光は生まれない。どっちかが強すぎても光が闇を塗りつぶしちゃうし、闇が光を飲み込んじゃう。対等じゃないと成立しないんだよ?」
「光と闇はお互いの存在があってこそ光り輝けるし優しく包み込むことが出来る。朝と夜、天使と悪魔、絶対に切っても切れない関係。だからアンジェとフリッカも切っても切れない関係。とても素敵な事よね?」
「対等じゃないと成立しない…か…」
「素敵な事…」
私達の人と形を知らないからこそ紡がれるエルリとルエリの本音は何よりも温かくて、何よりも希望をくれる一言だった。
「そんな風に自分達の事を考えた事は無かったな…」
「うん…こんな風に言われるなんて思わなかった…」
「…いい笑顔になったねエルリ?」
「そうねルエリ。可愛くなったわ」
「「っ…」」
いつの間にか笑みを浮かべていた事に顔を真っ赤にするアンジェリカとフレデリカ…そんな二人をからかいつつも距離を取ったエルリとルエリは空間収納からベルトに繋がれた真っ白な鞘に収まったレイピアと双剣を取り出した。
「それじゃあ気分も解れたし訓練しよっか?」
「そうねルエリ。訓練をしましょうか」
「…エルリ教諭は二本の剣…」
「…ルエリ教諭はレイピア…」
ベルトを腰に巻き付けるエルリとルエリを見据えつつ髪で隠していた背中のホルスターから魔道銃を抜くとベルトを巻き付け終わったエルリとルエリの視線がスッと鋭くなる。
「へぇ?アンジェとフリッカは銃を使うんだね?」
「楽しくなりそうね?」
「「っ…」」
得物を持っただけで首を絞められたと錯覚する程の視線…今すぐ逃げろと訴え震える足…抵抗するなと力を入れさせてくれない手…額から自然と落ちて目に入りそうな汗を拭おうと腕で視線が途切れた一瞬…
「「私達から目を離しちゃダメだよ?」」
「「……え…?」」
後ろから肩を抱き寄せる様にエルリの双剣がアンジェリカとフレデリカの首に添えられ、手に持っていたはずの魔道銃がルエリの両手に握られていた。
「な、何が起きた…?」
「あ、アリア教諭と同じ転移魔法…?」
「違うよ?ぴょんと跳ねただけだよ?」
「違うわ?ひゅんって飛んだだけよ?」
「「…」」
時間を止めたと言われた方がまだ納得出来るエルリとルエリの速度に恐怖を感じるのと同時にアリアの言っていたこの二人に攻撃を掠らせるという一人では到底超える事が出来ない不可能な壁にぶつかった…。
「今ので僕達の実力は伝わったと思うけど、これじゃあ攻撃を掠らせるのは不可能だよね?」
「だから私達はすっごくすっごくすーっごく重い重りを付けるから当てられる様になったらどんどん軽くして速くするわ。きっと当てられる様になるから頑張って?」
「……ああ、わかった」
「……うん、わかった」
二人の首から双剣を退かし二人の手に魔道銃を握らせたエルリとルエリは空間収納から細身のブレスレットとアンクレット取り出し苦しそうな表情を浮かべながら付けていく。
「うー…すっごく重いね?」
「うー…すっごく重いわ…」
「…?その細身のブレスレットはそんなに重いのか…?」
「重そうには全然見えない…」
「このブレスレットとアンクレットは魔道具でちーちゃんの重力魔法が込められてるんだよ?」
「「重力魔法…?」」
「付けてみる?すっごく重いわよ?」
「あ、ああ……んぐっ!?!?」
「う、うん……んんっ!?!?」
一つ手に持たされた瞬間、地面に縫い付けられる様な重みが全身にかかりアンジェリカとフレデリカは地べたに寝そべった…。
「…大丈夫?」
「…怪我しなかった?」
「ああ…こんなに重い物を四つも…」
「無理…四つも付けたら地面に埋まっちゃう…」
「この状態で掠らせたら一つずつ外して僕達の速さに慣れれば…」
「…きっとこれを全部外した私達に掠らせる事は出来なくても動きくらいほんの少しだけ見えるかもね?」
「「……」」
重りが無ければ当たらない、姿すら見せないというエルリとルエリの絶対な自信…これが強くなれば強くなる程離れていく憧れの人と共に歩む人なのかと思った時…アンジェリカとフレデリカは少しでも追いつく為に決意する。
「…エルリ教諭、ルエリ教諭、そのブレスレットの余りはあるだろうか?」
「…?もう少しハンデが欲しい?」
「私達も訓練になるから別にい『違う、私達にもそのブレスレットを一個ずつ貸して欲しい』…持てなかったのに?」
「ああ、確かに一人では持てなかった。だが私達は二人で一人だ」
「一人で出来なくてもアンジェと一緒なら出来る」
「「…?」」
突然の申し出に首を傾げてお互いの顔を見合わせるエルリとルエリ…その疑問に答える様にアンジェリカとフレデリカは手を繋ぎ声をあげる。
「「我らが血に宿りし絆よ!!我らの呼びかけに答え我らの真の姿を顕現させよ!!我が名はアンジェリカ・ランルージュ!!分かたれた半身は今ここに!!我らは二対一体の体現者なり!!」」
「…わぁ、綺麗だね…え?」
「…ええ、素敵だわ…え?」
光と闇の片翼を生やし、瞳の色を変えたアンジェリカとフレデリカは感嘆の声を漏らすエルリとルエリの手に残った一つずつのブレスレットを奪い…
「…私達の血統魔法『共有』はお互いの全てを共有するのだ」
「…そしてその効果はお互いの絆が強ければ強い程その効果を倍増させる…魔力は私達の魔力を合わせた上で倍増。身体能力も私達の合わせた身体能力の上で倍増…気持ちも痛みも何もかもが全て倍増される。だけどあれから更に絆を深めて訓練を重ねたおかげでお互いが不利になる共有と倍増を無くす事が出来た」
自分達の腕に嵌め、全身を押しつぶす重みを感じながらも動ける事を確認する様に軽い動作で調子を確かめていく。
「…よし、倍増した身体能力と魔力があればこの重さでも通常時と同じ様に動ける」
「ここまでしないとダメだけどね…」
「へぇ…アンジェとフリッカは二人で一人なんだね?僕達とは大違いだ」
「私達とは大違いね?」
「…?それはどういう意味だろうか?」
「…どういう事?」
瓜二つの双子同士のはずなのに私達とは大違いというエルリとルエリに疑問を感じると二人は空間収納から新しいブレスレットを取り出し優しい声色で語る…。
「僕達はね?ずっと昔、姉は出来るのに弟は出来ない、弟は出来るのに姉は出来ない、半人前だってずっと後ろ指を指されてたんだ。その気持ちはアンジェもフリッカもわかるでしょ?」
「…ああ」
「うん…」
「一緒に生まれてきたけど私達は性別も違えば顔も全然違った。性格だって得意な事だって好きな物だって嫌いな物だって何もかも全てが違ったわ。ルエリがいるから私が比較される…私がいるからルエリが比較される…正直憎み合った事もあった」
「「…」」
「だから僕達は半人前と半人前で一人になるより、半人前が一人で一人になれる様に頑張ってきたんだ」
「その時にちーちゃん、アリアと出会って色んな事があったけど…どんどん私達は似てきて二人で二人…他人から私達になってたの。それからはとても仲のいい一人前…二人前の双子になったわ。だから最初から双子としてお互いを受け入れて足りない部分をお互い手を取りあって一緒に進めるアンジェとフリッカは私達とは大違いだわ。…ただ」
「「…?」」
優しかった声色は冷たく突き放す様な声色に変わり…アンジェリカとフレデリカにエルリとルエリは言う。
「それじゃあ何時まで経っても私達に攻撃を掠らせる事は出来ないし、ちーちゃんに追いつく事も唯織君達にすら追いつく事も出来ないわ」
「っ…何故だ…?」
「…私達が力を合わせれば絶対に追いつける…!」
「だってアンジェとフリッカは二人で一人、半人前と半人前で一人前なんでしょ?なら一人で一人前の僕達やちーちゃん、唯織君達に勝てるわけないよね?二人一緒じゃなきゃ一人前にすらなれないんだから」
「「っ!?」」
「他の人が聞いたらきっとこういうでしょうね?素晴らしい姉妹愛だ、双子愛だ、流石双子だって。私達もアンジェとフリッカの関係は素晴らしいと思うし素敵だと思うわよ?」
「でもさ?それでもさ?同じ双子の僕達からしたら一人前になれない言い訳、逃げにしか聞こえないんだよね」
「逃げ…っ」
「言い訳…」
「アンジェが出来なくてもフリッカなら、フリッカが出来なくてもアンジェなら。じゃあ一人になったらどうするの?アンジェがいないから無理、出来ない、フリッカがいないから無理、出来ないって言うの?アンジェには出来ないからフリッカに任せてって庇うの?フリッカには出来ないからアンジェに任せてって庇うの?自分達が出来ない事を助けてってずっとお互いに甘え続けるの?」
「僕達ならエルリがいなくても僕が何とかする、僕がいなくてもエルリが何とかするって安心して任せられるよ?だって僕達はお互いを超えるべき壁だと、負けたくないライバルだと思ってお互いを高め合って一人前になったし、エルリがどれだけ頑張ったかも僕はわかるし僕がどれだけ頑張ったのかもエルリはわかってくれてる。だから僕達は信用して、安心して協力し合えるけどアンジェとフリッカは協力し合っているんじゃなくて最初から甘え合っているんだよ」
エルリとルエリの口から飛び出る言葉は最初にくれた温かく希望をくれる言葉ではなく…心を深く、ズタズタに抉るような言葉の刃…それでもアンジェリカとフレデリカはエルリとルエリをきつく睨みつけ言い返すが…
「…私達は甘え合ってなどいない…!」
「私達だってお互いを高め合ってる!」
「…甘えている証拠がそのブレスレット。私達はアンジェとフリッカみたいに素敵な血統魔法が無くても自分の力だけで立ってる。ルエリの力なんて貸してもらってないわ」
「「っ!?」」
「二人で一人より二人で二人の方がいい事ぐらい流石にアンジェとフリッカならわかるよね?」
「「……」」
私達の全てを否定されているかの様な言葉に何も言い返せず顔を伏せるしか出来なかった…。
だが…
「…だから私達がアンジェとフリッカの事を一人前にしてあげる」
「「…え?」」
全否定されたと思っていたアンジェリカとフレデリカが顔をあげるとエルリとルエリの満面の笑みを浮かべていた。
「別に僕達はアンジェとフリッカの事を否定したいわけじゃないよ?協力し合わなきゃ前に進めない人だっているのはわかってるし、一口に双子って言っても僕達みたいな双子がいればアンジェとフリッカの様な双子がいる。お互いを助けて補い合って成長する事も出来るってわかってる」
「だけどアンジェとフリッカは出来るだけ早く目標に追いつきたいんでしょう?ならアンジェとフリッカの今までのやり方じゃ成長するのが遅いから何時まで経っても前を走って進み続ける唯織君達やはるか先にいるちーちゃんに追いつけないわ。…だから私達が歩いて進むアンジェとフリッカに走り方を教えて走って追いかけられる様に一人前にしてあげる」
「それに全てを共有出来る血統魔法があるならアンジェとフリッカの成長速度は普通の人の二倍…唯織君達ぐらいにならすぐに追いつけるようになるよ?ただ…死んだ方がマシだって思える程辛いよ?それでも今すぐ追いつきたい?」
「っ!?ほ、本当か!?追いつく手段があるのなら…!」
「…追いつきたい…!」
「…そっか。流石はちーちゃんが見込んだだけはあるね?エルリ」
「そうねルエリ。楽しくなりそう…折れないでねアンジェ?フリッカ?」
「「はい!!」」
そして誰よりもキツイ地獄の訓練が幕を開け…皆、各々のやるべき事に邁進する…。




