双子×双子
「空間収納…伝説の魔法と呼ばれるだけあって便利すぎる魔法だ…」
「私達のあの量の荷物を運べるなんて…」
「便利よねぇ。あなた達も使える様に空間収納の魔道具を後であげるわ」
「ほ、本当か!?」
「すごい…!」
「ええ、楽しみにしてなさい」
人も疎らな早朝…アンジェリカとフレデリカの住んでいた寮まで荷物を取りに来たアリアは唯織達が住む寮に向って歩いていた…が…
「…それはそうと…アリア教諭…本当に大丈夫なのだろうか…」
「不安…」
「…?何がよ?」
「私達は三年…二年のリーナ達のクラスに突然混ざって怖がられたり嫌われないだろうか…?」
「無視とか避けられたりされたら…泣ける…」
「…あんなにグイグイ教えてくれって来てたのに意外と繊細なのねあなた達…」
歳も学年も一つ上の二人は急にクラスに混ざる自分達が馴染めるかどうかが不安でさっきまでの笑みを暗くしていた。
「大丈夫よ。世界から嫌われている透明の魔色の唯織だって楽しく過ごしてるのよ?あの子達ならきっと仲良くやれるわ」
「そうだろうか…私は生徒会長でかなり気の強い事を言っているからあまりよく思われていない気がするのだ…」
「私も風紀委員長だし、結構威圧的だし…」
「あー…私達は殆ど学園にいないし唯織の件があるから学園の決まり事とかに一切参加してないのよ。だからアンジェとフリッカが生徒会長という事も風紀委員長だって事も知らないわよきっと」
「…それはそれで寂しいものだな」
「確かに…」
そんな他愛のない会話を交わしつつ歩いていると唯織達の住む特待生寮の門を掃き掃除している人を見つけた。
「おはようございます、セルジュさん」
「おや、おはようございますアリア様。後ろにいらっしゃるのはアンジェリカ・ランルージュ様とフレデリカ・ランルージュ様でしょうか?」
「ええ、今日からこの寮に移る事になったんです」
「すまない、厄介になる」
「よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願い致します。…アリア様、ガイウス様から直々に部屋を二つ用意して欲しいと承っておりましたので既に御用意しております。荷物の運び入れ等もこちらでさせて頂きますので広間に置いておいて頂ければ助かります」
「助かります。でも荷物の運び入れはこちらでやっておきますので大丈夫ですよ」
「かしこまりました。…それとアリア様、その…姉は大丈夫でしょうか…?」
「ええ、ガイウス理事長から既に聞いていると思いますがミネア校長はガイウス様と学園の為に訓練をしているだけなので問題ありませんよ」
「そうですか…姉の為に貴重な時間を割いて頂きありがとうございます」
「いえ。…では荷物を置いたらすぐに出るのでよろしくお願いします」
「かしこまりました、今日も一日お気を付けて」
姉ミネアを心配するセルジュと別れ、アンジェリカとフレデリカの部屋に荷物を置いたアリア達は授業をする為に唯織達のいる魔王領のログハウスへと転移する。
「これが転移魔法…指を鳴らすだけで伝説の魔法を操るとは…」
「たった数日であり得ない物を見たり体験したりでなんかもう色々感覚が麻痺してきた…」
「いい事じゃない?不測の事態に陥った時に冷静でいられるかどうかが鍵になる事もあるわ。だから今のうちにこれぐらい別にって思える程色んな事に驚いて慣れて感覚を麻痺させておきなさい。但し、必要な感覚だけは麻痺させちゃダメよ?」
「「はい!」」
アリアの匂いがする部屋を出てログハウスから出るとそこには…
「縮んでますわね…うん、私の方が大きいですわ」
「うん…めっちゃ縮んでる…私も勝ってる…!」
「本当に不老不死の呪いが解けたんですね…私達の中では私が二番目に大きそうですね」
「うっ!?…成長するし!」
「か、価値はそこではき、決まらないですよ?」
「ティリア…庇ってくれるのは嬉しいけど一番大きいティリアに言われても悲しくなるっ…!」
「僕は出来る…僕は出来る…出来る出来る出来る出来る…僕は出来るんだ…僕は出来る出来る…」
「て、テッタ大丈夫…?」
「「「……」」」
不老不死の呪いが解けて幼くなった詩織と胸の大きさで勝負するリーナ達、フェイナとの訓練で自己暗示をずっとかけ続けるテッタと心配する唯織と…
「…んあーっ…ねんむー…」
「寝ぐせぐらい直しなよフェイナ…」
「そういうフィーヤこそ寝ぐせついてるよ?」
「そういうルノも寝ぐせついてるんだよねー…でも眠いのは同意…」
「そこはフィオも寝ぐせを付けとくべきじゃないのー?私はばっちり直してるけどね!」
「あらあら…私がみんなの寝ぐせを直してあげますよ」
「ふふふ…女の子は髪を大事にしなくちゃいけないんですよ?」
眠そうな目を擦るだらだらとマイペースなフェイナ達と甲斐甲斐しく寝ぐせを直す千夏達がいた。
「…あ、アリア教諭…?」
「人いっぱい…」
「…まぁ、慣れるわよ。ほらほらみんなこっちを向いてちょうだい!新しい生徒を紹介するわ!」
全員の視線を集める様に大声を出して手を叩くと一斉に皆アリア達の方を向き、リーナとシャルロットは目を丸くして驚き、フェイナ達は呆れた様に目を細める…。
「な、何故ここにアンジェとフリッカがいるんですの!?」
「あ、アンジェとフリッカが新しい生徒…?」
「ちーちゃんさぁ…どれだけ女の子捕まえれば気が済むの?」
「ふふふ…これは少しお説教をしなくてはいけませんね?」
「ちょ…落ち着きなさいよ…ほら、アンジェ、フリッカ、自己紹介してちょうだい」
「わ、わかった…」
「うん…」
アリアの後ろにいたアンジェリカとフレデリカはアリアに突き刺さる視線を断ち切る様に前に立ち…爆弾発言をする…。
「レ・ラーウィス学園三年特待生生徒会長のアンジェリカ・ランルージュだ。…決してアリア教諭が私達を捕まえたわけではない…私達がアリア教諭に無理を言って指導をして欲しいと願ったのだ」
「レ・ラーウィス学園三年特待生風紀委員長のフレデリカ・ランルージュ。私達が一目惚れしてアリア教諭を捕まえた…アリア教諭は悪くない…」
「「「「「へぇ…?ちょっと話そうかアリア」」」」」
「っ!?………とりあえずアンジェとフリッカはリーナ達からどんな授業をしているのか聞いて交流を深めておいてちょうだい……リーナ達は私の事をアンジェとフリッカに教えておいてちょうだい……」
「ああ…?」
「うん…?」
「わかりましたわ…」
自己紹介をしただけで異様に殺気だったフェイナ、フィーヤ、ルノアール、ユリス、千夏に尻尾を引っ張られ引きずられる様に連れて行かれるアリアを気の毒そうに見つめるリーナ達と何故こうなったのか分からず小首を傾げるアンジェリカとフレデリカ…。
「あらあら…生きて戻って来れるのでしょうか…?」
「わかんない…けど、無事じゃないのは確かだね…」
そしてアリアの嫁ではないサリィとフィオはアリアが五体満足で帰って来るように祈る…。
■
「げほっ…ごほっ…み、みんな…待だぜだわね…」
「「「「……」」」」
「僕は出来るんだ…僕はもっと出来る…!!そうだ…僕はもっと出来るんだよ…!!やれる…!僕はもっとやれる!!!」
「て、テッタ…」
無事な部分が見つからない程にフェイナ達にボコボコにされたアリアは身体を擦りながら魔法で傷を癒していると申し訳なさそうな表情のアンジェリカとフレデリカが深々と頭を下げる。
「あ、アリア教諭…申し訳ない…まさかフェイナさん達がアリア教諭の奥方とは知らず…」
「ごめんなさいアリア教諭…私が紛らわしい事言ったから…」
「いいわよ…私が異世界人で魔王だとかも聞いたかしら?」
「あ、ああ…俄かには信じられないが…」
「でも信じた…」
「ならいいわ。…じゃあ唯織達はユリス達と訓練を始めてちょうだい…」
「ん!じゃあいこっか!」
「「「「「「「は、はい…」」」」」」」
「あ…それとティリア?」
「は、はい?」
「準備してるからもうちょっとだけ待ってちょうだい。必ず叶えてあげるわ」
「っ!…ありがとうございます…!!」
誤解が解けたからか、それともボコボコにしてスッキリしたのか人当たりのいい笑みを浮かべているフェイナ達とこの場を離れていくティリア達を見送ったアリアは空間収納から銀色のブレスレットを二つ取り出す。
「アンジェ、フリッカ、このブレスレットをあげるわ。魔力を流せば空間収納が使える様になるわよ」
「っ!空間収納の魔道具…大切にさせてもらう!」
「ありがとうアリア教諭!!」
「それと、あなた達の先生を紹介するわ」
「「私達の先生…?」」
銀色のブレスレットを受け取り嬉しそうにしていたアンジェリカとフレデリカはアリアが直々に指導してくれると思っていた故に別の先生がいると言われて少し悲しげな表情を浮かべるが…
「エルリ、ルエリ、来てちょうだい」
「「はいはーい!!」」
「「っ!?よ、妖精!?」
アリアの声に答える様に淡く光る半透明の羽を生やした瓜二つの双子が空から現れアリアの首に抱き着き頬擦りする光景に驚きを露わにする。
「僕達は妖精じゃなくて精霊だよ?ね?エルリ」
「そうねルエリ。私達は妖精じゃなくて精霊よ?」
「「精霊様…」」
「瓜二つで見分けがつかないと思うけれど、私って言うのがエルリで僕って言うのがルエリよ。後は声が違うのと扱う武器が違うわね」
「「よろしくね?アンジェ、フリッカ」」
「よ、よろしく頼む」
「お願いします」
人形と見間違うほど整った顔立ちと人間の子供と同じ小柄で華奢な体躯、金色の瞳に淡く発光している白の髪をツインテールに纏めたエルリとルエリはアリアの首から腕を解くと、フリルがあしらわれた純白のミニドレスに合わせた真っ白のパンプスを汚さない様にアンジェリカとフレデリカの周りと飛びながら笑みを浮かべる。
「僕達と同じ双子だね?エルリ」
「そうねルエリ。私達と同じ双子ね?」
「姉のエルリと弟のルエリはこんなに可愛い見た目をしているのに魔王軍の特攻隊長で目にも留まらぬ速さでばっさばっさと敵を斬り伏せる『疾風迅雷』って言われてるのよ?速度に関しては私が全力を出しても敵わない程よ」
「「特攻隊長…疾風迅雷…アリア教諭より速い…」」
可愛らしくふわふわしたエルリとルエリの裏に魔王軍の特攻隊長、更にはアリアですら敵わない速度で敵をばっさばっさと斬り伏せていく攻撃性が隠れている事に背筋に冷たいものが流れていく感覚を覚えつつも…
「で…アンジェとフリッカの訓練なのだけれど、正直戦闘の最中だけ魔力を起こして纏うだけじゃダメだからこれからは常に、ご飯を食べる時もお風呂に入る時も寝る時も魔力を起こして纏い続けなさい。その状態でエルリとルエリから双子ならではの戦闘技術を学びつつ、二人だけの必殺技を開発しつつ、エルリとルエリに攻撃を掠らせられる様になるのを目標にしてちょうだい。夜は私と近接戦闘の訓練と座学…唯織達よりハードなのはそれだけの差が今の唯織達とあなた達の間にあるからよ。折れず、腐らずちゃんと付いてきなさい」
「…ああ、わかっている。元よりリーナ達との差を埋める為に夜も教えを乞うつもりだったから願ったり叶ったりだ。エルリ教諭、ルエリ教諭、指導のほどよろしく頼む」
「うん…間近で見てどれだけ私達が劣っているかわかった…だから少しでも追いつく為に全力で頑張る。エルリ教諭、ルエリ教諭、よろしくお願いします」
「やる気十分ね。…それじゃあ私は授業と両陛下との話し合いをしてくるわ。エルリ、ルエリ、頼んだわよ」
「「はいはーい!任せてちーちゃん!」」
精霊の双子と人間の双子の訓練が始まるのだった…。




