実力テスト
「よし、みんな準備はいいかしら?」
アリアがそう言うと唯織達は声を発さずに闘志を宿した目でアリアを見つめる。
「…準備万端みたいね。んじゃこれから実力テストを行うけれど…これも授業扱いでいい動きをしていれば加点するし、動きが悪かったら減点もあるわ。そしてみんなのやる気を出させる為に…私に傷を付ける事が出来たら10点加点してあげるし、何か一つ言う事を聞いてあげるわ」
「「「っ!?」」」
「…おー。アリア先生太っ腹」
「…アリア先生に傷を付ける…出来るかな…」
「…うう…」
アリアに傷を負わせれば何でも一つ言う事を聞かせられると聞いたメイリリーナ、シャルロット、リーチェは目を見開いて笑みを浮かべ、シルヴィアは暢気に手を叩き、唯織はすぐさま頭の中でアリアに傷を負わせる為に作戦を考え、テッタは怯えた様に自分の尻尾を握りしめた。
そして…
「でもこのままやったらみんな私にかすり傷すらつけれないでしょうし…ハンデとして私はこの円の中から一歩も出ないわ。もし一歩でも円の外に出たら傷を負ったと判断して10点の加点と何か一つ言う事を聞いてあげる」
アリアは不敵な笑みを浮かべながら皆を煽る様に足で校庭に円を描いて挑発した。
「っ…何処までもおちょくってますわね…!」
「…本当にムカつく…!」
「…その余裕…絶対に崩す…!」
「ハッ…あんたら三馬鹿娘にはこれでもハンデが足らないかなって思うわよ?どうする?もう少しハンデあげましょうか?」
「「「っ!!いらない!!!」」」
「あっそう。んじゃ…誰が最初?」
「私がやる!!」
「…ん、シャルロットね。…んじゃシャルロット以外の人は理事長と校長の立ってる場所まで離れてなさい」
「シャル…頑張ってくださいまし」
「頑張ってくださいねシャルロットさん」
「任せて。…絶対に倒すから…!!」
シャルロットとアリア以外の皆が遠くにいるガイウスとミネアの場所まで移動していく中…
(あの無色なんかより私の方が凄いって絶対に認めさせます…おじい様…!!)
シャルロットは親しそうに話すガイウスと唯織を睨みつけていた…。
■
「おじい様?シャルロットですがお時間いいですか?」
「…む、少し待ってくれ」
「わかりました」
扉をノックして問いかけたシャルロットが扉の前でガイウスから声がかかるのを待っていると…
「んじゃ、そういう事でガイウスさんよろしくね~!」
「よ、よろしくお願いします…!!」
扉から乳茶の様な優しい髪色の女性と真っ黒の髪色をした少女が出てきて楽しそうに話しながら廊下を歩いていく。
(…?随分綺麗な方々ですね…おじい様の知り合い…?それにしてはかなり親し気な様子でしたが…)
「…うむ、シャルロット待たせて悪かったな」
「あ…いえ…」
二人と入れ替わりに部屋に招かれたシャルロットはソファーに腰を下ろして笑みで書類を見つめているガイウスの前に座り、一枚の紙をテーブルに伏せた。
「随分親しそうな方々でしたが…どちら様なんですか?」
「うむ…あの二人はレ・ラーウィス学園の特待生クラスに迎えようと思ってる人達だ」
「っ!?」
シャルロットの事を見ずに書類を見ながら呟かれた言葉…その言葉に驚いたシャルロットは今ガイウスが手元に持っている書類が二人の情報を記載した書類なのかと思案しながら口を開く。
「特待生クラスに迎える程あの方達は…」
「…そうだな。一人は教師として、もう一人は生徒として迎えるつもりだ」
「っ…そうなんですね。…ちなみにおじい様…私は…」
「…すまぬがシャルロットが特待生クラスに入れるかどうかはわからん」
「…そう…ですか…」
特待生クラスに入れるかどうかわからないと言われて顔を伏せたシャルロットはテーブルに伏せた一枚の紙をガイウスの前まで滑らせる。
「おじい様、これを見てください」
「む…これは…」
「はい…本日、家庭教師の授業でついに私は火、雷、土、光の上級魔法を扱えるようになりました。王宮魔法師の方々にも見てもらい、間違いなく上級魔法を扱えると言ってくださいました…」
「ふむ…そのようだな…」
シャルロットから差し出された書類を読み進めていくガイウスの表情は…二人の書類を見つめていた時の様に明るいものではなかった…。
「…あの、おじい様…?これでも私は特待生クラスに入れないのでしょうか…?」
「……そうだな…シャルロット…何故シャルロットは魔法を学ぶのだ?」
「…え?…ど、どういう意味ですか…?」
「そのままの意味だ。何故シャルロットは魔法を学ぶのだ?」
「…それは…お母様の様に…」
「…シャルティーナの様に…なんだ?」
「…お母様の様に凄い魔法を…」
「凄い魔法を扱ってどうする?」
「…お母様とお父様を殺したバルドス神聖帝国との来るべき時に備えたいと…」
「…そうか」
シャルロットの意思を聞いたガイウスはシャルロットから受け取った書類をテーブルに伏せてまた二人の書類を見始める。
「…あ、あの…おじい様…?」
「…すまないがシャルロット、この話はこれで終わりだ。儂はあの二人以外まだ決まっていない特待生を選ぶのに忙しいのでな。家庭教師の授業を全てこなしたのであれば入学までの間、好きに過ごしているといい」
「っ…わかり…ました…」
唐突に話を終えられてしまったシャルロットはもやもやした気持ちを抱えてガイウスの部屋を後にする…。
「…こんなに頑張ってるのに私は…あんな能天気な二人より劣ってると言いたいんですか…?おじい様…っ」
唇を噛みしめて口の中に広がる鉄の味を感じながらシャルロットは目から雫を零した…。
■
(絶対に認めさせる…!私はお母様とお父様の仇を絶対に取る…!!だから戦争で活躍出来るって事を絶対におじい様に認めさせる…!!!)
「さて…準備出来たかしら?」
「…はい、いつでも」
「そう、じゃあ何処からでも好きなように攻撃してちょうだい」
「っ…何処まで人をおちょくるつもりなんですか…ならお望み通りそうさせてもらいます!!」
教室で持っていた黒表紙を見つめながらまるで眼中にないという態度を取り続けるアリアに限界を感じたシャルロットは自分に与えられた四つの魔色のうち、茶色の魔色を起こして淀みなく詠唱する。
「土よ!我が呼びかけに答えかの者を捕えよ!!フル・アースウォール!!」
詠唱が終わると土の壁が地面からせり上がってアリアを包み隠すとシャルロットはすかさず赤、黄、白の魔色を同時に起こし多重詠唱を始める。
「火よ、雷よ、光よ!!我が呼びかけに答え槍の姿を現しかの者を貫け!!オル・ファイヤーランス!!ラル・ライトニングランス!!ニル・ホーリーランス!!」
同時に火の槍、雷の槍、光の槍を生み出したシャルロットは土の壁で動きを止めているアリアに向って魔法を放つと三色の槍は土の壁に突き刺さり、更にその槍の姿を爆ぜさて土の壁を吹き飛ばす程の爆風が生まれる。
「…ふぅ。流石に少しやり過ぎましたかね…回復魔法をかけてあげますか…」
気が荒れて少しやり過ぎたと思ったシャルロットはボロボロになっているであろうアリアに近づいて回復魔法をかけようとした時…
「ふぅん?意外と器用なのね?これは加点ね」
「なっ!?!?」
何事も無かったかのように黒表紙にペンで何かを書いている無傷どころか汚れすら付いていないアリアが土煙から姿を現した。
「初級魔法とはいえ防御魔法のアースウォールを四枚同時に作って更に逃げられない様に形状変化させて上を塞ぐ…これは加点。更に防御魔法を足止めの魔法として使う応用力も加点。しかも複数の魔色を同時に起こして中級攻撃魔法のランス系の多重詠唱…これも加点ね。…だけれど最後、相手の状態がどうなってるのかもわからず無警戒に近づいてきたのは減点…と、こんなもんかしらね」
「な…何で無傷…!?」
「…?シャルロット?もう終わりかしら?これで採点終了するわよ?」
「…くっ!!ならこれならどうですか!!!」
アリアの悪気の無い言葉はシャルロットに突き刺さり、もう一度シャルロットは白の魔色を起こして自分が扱える最大火力の上級魔法を詠唱する。
「光よ!我が名はシャルロット・セドリック!!白色の信徒なり!!我が呼びかけに答え聖なる光で悪しき者を照らし、その聖なる光を持って悪しき者を浄化せよ!!ニル・ホーリーバースト!!!!」
胸の前で組んだ手を空に向けるとシャルロットの呼びかけに答える様に光の柱がアリア目がけて突き刺さり、皆の視界を聖なる光が塗りつぶしていく。
「はぁっ…!!はぁっ…!!こ、これなら…!!」
魔力を使いすぎた事による脱力感を歯を食いしばって耐えるシャルロットは徐々に色を取り戻していく校庭の一部…アリアが居るはずの場所を睨みつけ…
「…へぇ?シャルロットは上級魔法まで使えるのね?これは大幅加点ね?あー…でも視界を塗りつぶして状況把握が出来てないからちょっと減点かしらねぇ…でもこれだけ大規模な魔法なのに私の周り以外被害を出してないのも大幅加点だわ」
「っ!?…そ、そんな…!?な…何でまた無傷…!?」
しゃがみながら自分の周りの被害状況をのんびり確かめているアリアが姿を現し…シャルロットは膝から崩れ落ちた…。
「…あら?流石に魔力の限界の様ね?まだやれるなら続けてもいいけれど…どうする?もうやめる?」
「………はい…もう…撃てません…」
「…よし、んじゃあシャルロットの実力テストは終了ね。…以外にやるのね?口だけだと思ってたわ」
自分で定めた円から出たアリアは制服が汚れるのもお構いなしに膝をついているシャルロットに近づいて横抱きに抱き起こす。
「…降ろして…ください…」
「ん?何言ってんのよ?魔力使いすぎて足がふらふらでまともに歩けないでしょう?別に重くなんか無いわよ?」
「違います…惨めなんで降ろしてください…」
「…ふぅん?シャルロットは今の状況が惨めだと思うのね?」
「……」
「まぁそりゃそうよね。あんだけ私に一泡吹かせてやるって息巻いてたのに掠り傷どころか服すら汚せないんだもの」
「っ…わかってるなら降ろし『でもね?』…」
「たかだか最初の実力テストでいい結果が残せなかったからってそれをいつまでも引っ張って私はダメだ、私は誰々より劣ってるってうじうじしてる方がよっぽど惨めよ?」
「っ…」
「今は自分が出せる全力を出し切ったんだからそれで良しとしなさい。ここがシャルのスタートラインよ」
「っ!?…スタートライン…」
「ええ、だからこんな所で折れてないでしっかり私についてきなさい。きっちり育てて一人前にしてあげるわ。…身も心もね」
「……はい…」
自分を支える為に今まで積み上げてきたものが何も通用しなかった事に崩れてしまったシャルロットはアリアが言ってくれたスタートラインという言葉を何度も何度も頭の中で繰り返し…声を押し殺して涙を流した…。
■
「な…何で無傷なんですの…!?上級魔法をぶつけられて何で無傷なんですの!?」
「わかりません…あの人は確かに自分が決めた円の中から一歩も動いてません…直撃しているはずなのに…」
「……」
シャルロットとアリアの戦闘を見ていたメイリリーナ、リーチェ、テッタは化け物でも見たかの様に目を見開いていた。
「が…ガイウス様…」
「う、うむ…シオリ殿が連れてきてくれた者だからある程度覚悟していたが…これ程とは思わんかった…」
そしてガイウスとミネアも同じ様にシャルロットの実力を知っているからこそよりアリアの恐ろしさを痛感して言葉を失っていた。
だが…
「…ねぇ、イオリ?どう?」
「うん…多分…あの円から出す事は出来ると思う」
「…おー。流石イオリ」
「…って、シルヴィはどうなの…?」
「…ん、よゆー。円から出すだけならちょーよゆー」
「まぁ同じ師匠に鍛えられてるんだからそうだよね…じゃあ傷を付けるのはどう?」
「…出来る。でも学校が壊れる」
「…だよね。僕も傷を付けるとなるとここら辺が大変な事になっちゃうし…はぁ…師匠…なんて人を教師にしたんですか…」
唯織とシルヴィアだけはアリアに対して勝算を持っていた…。