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第五章開始 色付きの花束と透明な花  作者: 絢奈
第三章 新しい風
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手紙

 





「…水辺も近いしこの辺でいいかな。シャルちゃん、使ってる杖とかある?」


「あ、はい!これです!魔杖アルメリアです!」



 透き通った川辺に移動したフィーヤとシャルロット…空間収納から魔杖アルメリアを取り出し渡すとフィーヤはゆっくりと杖を眺めて笑みを浮かべる。



「やっぱりユーランが作った杖は凄いね。でも魔力は溜まっているみたいだけど真新しいって事はあんまり使ってないのかな?」


「ユーラン…あ、ランさんですね…アリア先生からは今まで体術とか槍術、魔力の扱い方を教わっていたのであまり出番がなくて…」


「なるほどね。魔法使いは接近されたら弱いから先に弱点を潰して魔法を学ばせる…アリアらしいね。私も初めてアリアに会った時ね?アリアにボコボコにされたんだよ?」


「そ、そうなんですか…?」


「実際にボコボコにされたわけじゃないんだけど…自信があった魔法を撃ち込んだらぜーんぶ斬られて一瞬で首に剣を添えられちゃって…今思えば魔法を使える私最強って思ってた自分を説教したいぐらい」


「そうなんですね…私の時は地面の円から出せたら合格って言われて自信のある魔法を撃ち込んだら無傷で…正直泣きそうに…というより泣きました…」


「ふふ…っと、話が逸れちゃったね。授業の話をしよっか」


「は、はい!」



 魔杖アルメリアをシャルロットへ返し、腰帯に差した扇子を抜くとゆったりとした動作で川へと近づきシャルロットもフィーヤの後について行く。



「アリアから聞いてるけど、シャルちゃんは火で必殺技を創ろうとしてるんだよね?」


「え…?な、何で知ってるんですか…?アリア先生には言ってないんですが…」


「まぁアリアだからね…それだけちゃんとみんなを見てくれてるんだよ」


「そうですか…えっと、はい。火で自分の姿をした人形を創り出して操作しようとしたんですけど難しくて…」


「なるほどね。もう発想が出来てるなら後は練習するだけだから…ちょっと見ててね?」


「はい!」



 そう言うとフィーヤは扇子を川に向けて魔力を高めると川の上に炎の塊が10個程浮かび上がり、扇子を動かす度にグニャグニャと蠢きその姿を鳥へと変えると鳥としか思えない動作で扇子に合わせて空中を飛び回る。



「っ!?す、すごい…!」


「鳥の飛ぶ動きは単調だから見た目を真似るだけなら凄い簡単なんだよ。いきなり人とかの複雑な動きを難しいと思うから、一旦こういう単調な動きの動物を一体だけそれっぽく動かす練習をしてみよっか」


「はい!」



 隊列を組んで優雅に空を飛ぶ火鳥達をキラキラと見つめたシャルロットはアルメリアをくるっと回し川へ向けると鳥の形の炎が一個だけ浮かび上がり、ぎこちない羽ばたきで空を飛び始める。



「うっ…どうしてもやっぱり不自然…」


「ふふ。魔力の操作は完璧だし魔力量も十分…多分今は観察不足なだけだから深呼吸してよく見てて」



 自分の鳥の動きに落胆するシャルロットの目の前に扇子を広げて火鳥の二羽を呼び寄せたフィーヤは広げた扇子の上で羽ばたかせる動きと毛繕いする動きをさせる。



「本当の鳥だったら羽ばたいて飛ぶ姿なんて間近で見れないでしょう?」


「確かに…鳥の羽はこんな風に動いているんですね…」


「確か…フェイナと一緒に居るテッタ君だよね?生命の血統魔法って言うのが使える子」


「そうです。すごい魔法ですよね…昨日、土の猫の動きを見せてもらったんですが本当の猫みたいで…」


「そっかそっか。…でもシャルちゃんはそんな魔法が使えない…だからじっくり観察してその動きを真似るしかない…アリアから聞いてるけどシャルちゃんは魔力操作に自信があるんでしょ?」


「い、一応…数ヶ月前は全く魔法を使ってなくて全然出来なくてアリア先生に滅茶苦茶怒られましたけど…」


「ふふ。だからまぁ…じっくりと観察しながら自分の鳥を動かしてみて」


「はい!」



 シャルロットの目の前に火鳥を浮かしたまま扇子を閉じ腰帯に差し直すと近くにあった大き目の岩に腰を下ろして熱心に火鳥を観察しているシャルロットを見つめ…フィーヤはポツリ呟く。



「シャルちゃんは素直だねぇ…」


「…へ?ど、どうしたんですか?」


「んー…普通ならついさっき会ったばっかりの人からあーだこーだ言われたらムカつかない?」


「あー…確かに一年前の私だったら貴族という立場もあって高圧的になってましたね…」


「普通公爵家なんて王族の次にえらいじゃん?そう簡単にプライド的な物を捨ててよかったの?」


「んー…」



 そう問われたシャルロットは少し微妙そうな笑みを浮かべて小さな火鳥を手の中に作り自然な羽ばたきで空へと放つ。



「どうなんでしょう…正直よくわかりませんが…公爵家としての私よりは今の私の方が格段に楽しいって思ってます。きっと公爵家の私ならプライドが邪魔して人に聞く事すら出来ずにこんなに早く鳥の動きを真似出来なかったでしょうし…でも数年後には公爵家の私に戻らないといけないんですけど…よくわかりません」


「素直だねぇ…ならもう一つ素直なシャルちゃんに聞いてもいい?」


「はい?」


「まだご両親の復讐をしたいって思ってる?」


「っ!?」



 フィーヤの言葉を聞いて魔力操作が乱れたのか優雅に飛んでいたシャルロットの火鳥は弾け火の粉がちらちらと舞い降りる…。



「…アリアから聞いてるけど、小さい時にご両親がバルドス神聖帝国との戦争の最中に亡くなっちゃったんだよね?それで貴族のシャルちゃんは復讐の為にいっぱい魔法を勉強して上級魔法を使えるようになった。そして特待生クラスに入ってより強力な魔法を習得して来るべき時に備えようとしていた」


「…」


「でももう復讐出来るだけの実力はアリアに付けてもらっている…その力を使って復讐をまだしたいって思ってる?」


「それは…」



 アリアや唯織達とずっと過ごしている間、考えない様にしていた事…否、考える事すら忘れていた事に気付いてしまったシャルロットは表情を暗くし俯いてしまう…。



「ごめん、流石に嫌な事を聞いちゃったかな?」


「いえ……聞かれるまで忘れてしまっていた自分に嫌気が差して…」


「そっかそっか。それだけアリアと唯織君達と過ごす日々が楽しかったんだね」


「っ…?」



 俯くシャルロットに後ろから覆い被さる様に抱きしめたフィーヤは…



「ねぇシャルちゃん?お父さんとお母さんは好きだった?」


「…はい」


「おじいちゃんは?」


「…好きです」


「アリアは?」


「……はい」


「唯織君達は?」


「……はい」


「じゃあ…その好きな人達がもし、危険な事に巻き込まれそうになっていたらシャルちゃんはどうする?」


「…助けたいです」


「そっかそっか。じゃあ…守りたい大切なモノが出来たシャルちゃんにプレゼントだよ」



 巫女服の袖から既に封の開いた手紙を取り出しシャルロットの手に乗せた。



「…?これは…?」


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「なっ!?」



 フィーヤの言葉に目を見開いたシャルロットは手紙に捺された封蝋を見つめ…その印がセドリック公爵家の紋章だとわかり手を震わせる…。



「な、何で…?」


「昨日、アリアがシャルちゃんのおじいちゃんと飲みに行ったって聞いた?」


「は、はい…」


「その時にシャルちゃんの話になったみたいでね?シャルちゃんのおじいちゃんからこの手紙を受け取ったんだって。封が開いてるのはおじいちゃんが読んだからで私とアリアは読んでないよ?」


「そう…ですか…」



 震える手で中の紙を取り出そうとするシャルロットの手に触れ…



「私は少し離れておくから…この手紙を見た後、さっきの答えを聞かせて。もし気持ちが変わらず復讐したいのなら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「…」



 そう言いシャルロットの頬に口付けするとフィーヤはまた大きな石に腰を下ろし背を向けた。



「お父様とお母様の手紙……」



 どれだけ押さえつけようとも震え続ける手で恐る恐る二枚の紙を取り出し、中を確認すると紛れもなく母シャルティーナと父ロイドの筆跡で書かれた文字が目に映る…。



 ………



 この手紙を貴女が読んでいるという事は私とロイドはきっとシャルの傍に居ないでしょう。


 シャルは大きくなって大切なモノを見つけましたか?お友達もいっぱいで毎日楽しい日々を送っていますか?


 きっと頑張り屋で優しいシャルの事だから私やロイドが傍に居ない今、私は公爵家の娘だからって怖い顔をして無理をしていませんか?私とロイドの為に魔法を無理して学んだりしていませんか?


 シャルは私に似て可愛い顔をしているから笑顔の方が絶対に可愛いと思います。ロイドはレ・ラーウィス学園の同級生で入学式で特待生として壇上で話す私の笑顔をたった一回見ただけで好きだと言って、自分の平民の身分も私の公爵家の身分も関係無しに雨の日も風の日も、茹だる様な暑い日も雪が積もる凍える日も、門番に痛い目に会わされて追い出されてもお家の前で毎日毎日告白してくれたんですよ?愛想笑いだったのにおかしいですよね。


 あの時の私は…身の程知らずだと思っていましたし、毎日毎日私の名前を叫ぶ迷惑な人…いっそ不敬罪で裁こうとすら思っていました。でも…私に会えないのに会いに来るロイドが日に日にボロボロになっていくのが気になって思い切って声をかけたら…君に見合う男になる為に君よりすごい男になるんだって…それからも毎日毎日ボロボロの姿で会いに来て三年後、ロイドは一般生徒から特待生になり、更には私よりも上位の成績を勝ち取り主席にまでなってしまったんです。正直、滅茶苦茶悔しかったです。でもそれより…ロイドのそんな一途でかっこいい所に惹かれてしまったんです。嫌な思い出がいい思い出になったんです。


 それから私は表面上では悪態をついてロイドを遠ざけようとしましたがそれでもロイドは毎日告白してくれて…ああ、この人の愛は本物なんだな、この人はきっと権力が目当ての他の貴族とは違うんだなって思って…お父様に反対される覚悟で卒業と同時にロイドを連れて婚姻を結びたいと言ったら何て言ったと思います?やっとか、なら今すぐに披露宴を開催する準備をするって言ったんですよ。私とロイドは驚いちゃってどうしてそんなにあっさりと納得してくれたのですかって聞いたら…お父様はロイドと同じ様に平民の女性…私のお母様でシャルのお婆様のシリカお母様に毎日お忍びで会いに行って告白をしていたんですって。そんな話を一回も聞いたことが無いですし、お母様に尋ねてもあの人が恥ずかしがるからって教えてくれなかったので本当に驚いちゃって…。何の取柄もない平民の私がガイウス様に見合うはずもありません。もっと素敵でガイウス様に見合う女性がいるはずですのでお断りしますと怯えながら言われた事はお父様のトラウマらしいので何か嫌な事があったら使ってくださいね?


 …話がだいぶ逸れてしまいましたが、それだけ色々な深い愛情があってシャルロットが生まれました。そして私達は貴族である前に人です。そしてハプトセイル王国に住む国民も身分何か関係なく人なのです。まずはシャル、貴女だけの幸せを見つけてください。そうすれば幸せの為に何をするべきか、貴族として貴女は民の為に何をするべきなのか自ずと見えてくるはずです。


 私とロイドは私達の幸せと民の幸せを守る為に戦います。シャルとシャルが愛した人の子供の顔を間近で見られないのはとても残念ですが…シャルの綺麗な目では見えない遠くからずっとずっと見守っています。


 ロイドと同じぐらい…いいえ、ロイド以上にシャルロットとこれから生まれてくるシャルロットの子を愛しています。愛し続けています。だから…私達が傍に居なくてもずっと一緒だから寂しがらないで。本当に愛しているわシャルロット。


 シャルティーナ・セドリックから愛する我が子達へ。



 ………



 既にティナが俺の分までシャルにどれだけ愛しているか伝えていると思うが…俺からも伝えさせてくれ。


 俺は平民のくせにティナに何度もしつこく告白してきっと不敬罪か何かで死ぬと思っていたがこうして幸せを勝ち取った。あの時の事を反省する事はあったとしても後悔した事は今まで一度もなかった。だからシャル、お前も俺の様に反省したとしても後悔する事の無い様に自分に正直になって幸せを勝ち取ってくれ。そしてその幸せの為に自分がなすべき事を見つけて欲しい。俺達の為に生きるんじゃなく自分の為に、自分の成したい事の為に生きてくれ。


 生涯でたった一人、ティナだけを愛すると誓ったのにシャルやシャルの子達をティナ以上に愛している浮気者の俺の事を許してくれ。俺達はずっとお前達の事を見守っている。


 ロイド・セドリックから愛する我が子達へ。



 ………



「おとう…さま…おかっ…さま…」



 自然と流れてくる止めどない涙…心臓を何かに掴まれている様な苦しくて窮屈で何故か嫌じゃない痛みと温かさ…今は亡き母シャルティーナと父ロイドが残してくれた愛情で溢れている手紙が涙で濡れぬよう封筒に仕舞おうとした時…もう一枚、紙とは違う一回り小さな何かが入っていた。



「これ…っ…お父様…お母様…うくっ…―――――!!」



 封筒から出てきたシャルティーナとロイドに挟まれる様に両頬をくっ付け満面の笑みを浮かべる自分達の写真を見たシャルロットはその場に蹲り…生まれたばかりの赤子の様に声にならない声を上げ……温かい何かに抱きしめられた気がした…。





 ■





「さてと…どうなるかな」



 後ろから近づいてくるシャルロットの鼻を啜る音を聞きながら扇子を弄るフィーヤは…



「フィーヤ…さんっ…」


「ん、聞かせてくれる?」


「私っ…ふく…復讐…しないっ…ですっ…アリア先生からも…もらったこの力もぎじゅっ…技術も知識も…大切なモノを守るっ…為に使いま…すっ…」


「…本当にいいの?この世界は人を殺す魔法が全てなんでしょ?私の魔法があれば復讐も一瞬で出来るし、この世界を支配して自分の思い通りに動かす事だって出来るよ?何だって欲しい物が手に入るよ?それでも本当にいいの?」


「はいっ…そんな事したら…私の欲しい物は一生手に入りませんし…お父様とお母様に胸を張って会えません…」


「…シャルちゃんは何が欲しいの?」


「…家族全員が願ってくれた私の幸せです」


「そっか…そっかそっか…」



 パシッと扇子を閉じ、太陽にも負けない程の眩しい笑顔を浮かべ…



「じゃあシャルちゃんの魔法が完成したら国を一撃で滅ぼす魔法じゃなくてその幸せを絶対に守り切れる私の魔法を教えてあげる!滅茶苦茶厳しく指導するけどちゃんとついてくるんだよ?」


「…はい!お願いします!!」



 シャルロットも負けじと泣き笑いの笑みを浮かべるのだった…。

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