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第五章開始 色付きの花束と透明な花  作者: 絢奈
第三章 新しい風
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己の根幹

 





「じゃあ鐘もなった事だし授業を再開するわよ。でもその前にいきなりオリジナルの魔法だとか必殺技だとか言われてもイメージが湧かないと思うから手本を見せるわ」



 鐘が鳴り闘技場へ戻ってきた皆は人型の的に向けて掌を向けるアリアを半透明の箱の中からじっと見つめていた。



「この世界での風の攻撃魔法は自分の周りに風の球とか刃とか槍を創り出して飛ばすでしょう?でも風は言うなれば空気が流れている現象なわけ。そして私達は魔法という手段を持ってその現象を好きに起こすことが出来る…なら空気が流れる現象を最初から対象となるものの周囲に起こして減圧やら圧縮やらその他諸々、色々してあげれば…」


「「「「「「っ!?」」」」」」


「うっわー…えっぐ…即死じゃん…」



 まるで的を握りつぶす様に拳を握るとドンッという腹の底に響く低音と身体を吹き飛ばしてしまいそうな暴風が吹き荒れ、的は木っ端微塵に弾け飛び唯織達がいる半透明の箱に破片がぶつかる。



「こんな感じで風魔法でも疑似空間魔法とか疑似爆発魔法が出来るわけ。これが知識の差ね。じゃあこんな感じで自由な発想を元に実戦で使う事を踏まえつつまずは一人だけで考えてみてちょうだい」


「「「「「「はい!」」」」」」


「あいあい~」



 そう言うとアリアは空間収納から椅子を取り出し黙々と黒表紙に何かを書き込み始め…皆の必殺技開発が開始された。



 ………



「必殺技…流石にアリア先生みたいにあんな芸当は出来ませんが…」



 皆から十分に距離を取ったリーナは掌に火、水、風、氷、光の球を浮かべて一つずつ観察していた。



「火と水で水蒸気爆発…火と風で火災旋風を起こす…氷と風で凍える吹雪を吹かせる…どれも魔力を大きく消費しますし周りの被害がとんでもない事になりますわね…それにしてもわたくしの光はどう扱えばいいんですの…?」



 掌に浮かべた光以外の球を自分用の的に投げつけるとパンッという軽い破裂音が鳴り、追加で光の球を複数浮かべ…



(光…光…光は鏡に当てると反射して水の中に斜めに差し込むと屈折する…光が合わさると光が強くなったり弱くなったりするのが干渉…隙間を作った板とか隙間の無い板に光を当てると後方に回り込む回折…一定の光を変な板を通して変える偏光…光が透明な物に当たった時に一部吸収され透過する…なかなか難しいですわね…)



 アリアから借りた夏休みの自由研究キットの様な物と睨めっこしながらリーナの必殺技開発は続く…。



 ………



「風と雷…魔力の操作は確かに上達しましたがアリア先生達の様な魔法が使えるわけはなく…やはり私は身体を動かしている方が性に合ってますね…」



 身体に風を纏い山茶花に雷を付与したリーチェは居合の構えを取り…



「シッ!!!」



 鋭い雷の斬撃を遠くから飛ばし的を斬り捨て鞘に山茶花を収めると首を傾げながら的の断面を見つめる。



(……ううん…前はこんな事出来たらいいなと思ってた技もこうして見ると下級魔法を放ってるのと同じだし実戦には向きそうにないなぁ…どうしよ…ユイ君はもう…いけないいけない…今は私の方に集中しないと…風と雷…風と雷…)



 その後は何度も風を纏い雷を纏わせ的を斬り捨てては唯織の後姿を見つめ…進捗乏しいリーチェの必殺技開発は続く…。



 ………



「僕は土しか使えないから考える事は一つ…土で出来る事を出来るだけ思い浮かべてそれを磨く…!」



 闘技場の土を手に取り匂いや肌触り、更に恐れ知らずか口に土を含…



「何やってんのよテッタ!!」


「あいたっ!?」



 もうとした瞬間、短距離転移で現れたアリアに黒表紙の角で思いっきり頭を叩かれる。



「あ、アリア先生…もっと土の事を知ろうと思って…」


「い、いやいや…どれだけの雑菌が潜んでると思ってんのよ…確実に腹を壊したり病気になるから流石に口に含むまでしなくていいわよ…焦って角で叩いちゃったじゃない…」


「でもアリア先生の世界では食用の土とかあったんですよね?」


「いやいや…それも様々な処理や加工をして作られているものだから…とりあえず土を食べるのは無しよ」


「はい…」



 少し曲がった黒表紙に手を翳すだけで元通りにしたアリアはそのまま元の場所へ戻ろうとするが…



「…あら?何か落としてるわよ?」


「あ、これ…最近寮で…っ!」



 テッタの足元に落ちていた小さな茶色の袋を指差すとテッタは手に取り…尻尾をピンと伸ばした。



「ああああ!!これ!これだ!!アリア先生ありがとうございます!!」


「…?まぁ、何か思いついたのならよかったわ。頑張りなさい」


「はい!」



 何かに思いついたテッタの必殺技開発は順調に続く…。



 ………



「私の属性は火と雷と土と光…光はリーナが何か考えてるみたいだし、雷はリーチェ、土はテッタ君だし…せっかくだから被らない様に私は火で何か考えてみようかな」



 周りを見て火で必殺技を考えようと思ったシャルロットは今まで使う事の無かった杖…魔杖アルメリアを銀色のブレスレットから取り出し槍術の要領でくるくると回し始める。



(魔杖アルメリア…私の魔力を溜めれて増幅してくれるランさんとアリア先生が作ってくれた私だけの杖…魔力操作の感覚は完全に戻ったし、魔力も最初の頃よりも跳ね上がって知識もある今なら…)



 火を明確にイメージして目の前に自分と同じ大きさの火を起こすと更に自分のイメージを重ね…



「…一応人型だけど…私なのかなこれ…?やっぱりテッタ君の血統魔法みたいに人っぽく動かすのはちょっと無理あるかな…?」



 火を人型…直立のまま動く自分の火人形を苦笑しつつ試行錯誤を重ねシャルロットの必殺技開発は続く…。



 ………



「私の必殺技…」



 黒百合を両手に嵌め拳や蹴りを的に向って放つティリアは当てた部分から滴り落ちる水をじっと見つめていた。



(魔力が少ない私がここまで強くなれたのはランさんが作ってくれたこの黒百合と、魔力が少ないのなら少ない魔力で最大の効果を発揮させる為に触れればいいって言って教えてくれたアリア先生の体術と魔法の知識のおかげ…そして()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()…)



 右手に薄く氷を纏う様に魔力を起こすとまるで骨が徐々に凍り付いていくような冷たさと痛みに眉根を寄せ右腕にまで上ってくる霜を擦って落とす。



(…こんなのじゃダメ…もっと工夫して氷を使えるようにしないと…液体の時は水分子がエネルギーを持って運動している状態…氷は分子が運動をやめて安定した結晶構造になった状態…)



 眼鏡の奥に隠れた目をスッと細め目的を遂げる為、並々ならぬ決意でティリアの必殺技開発は続く…。



 ………



「私の必殺技ね~…覚えきれない程あるからなぁ~…この前だって氷の翼創ったし…私もティリアみたいな魔眼の魔法創ろっかな~…」



 伝説の勇者、由比ヶ浜 詩織…1500年も世界を守り続けていた故に必殺技と呼べる魔法を忘れるぐらい持っているシルヴィアだったが前回ティリアに手も足も出ずに負けた事が脳裏に過っていた。



(でも魔眼ってどうやって創ればいいんだろ?ティリアの魅惑の魔眼は相手に性的興奮をさせる…それは性ホルモン、男ならアンドロゲン、女ならエストロゲンを強制的に高めているわけで…ならその魔法を目で発動させて人体の何かしらに作用すればそれは魔眼…?見つめるだけで相手が燃えたり凍ったり痺れたりしたらかっこいい…!?)



 そう思い目に魔力を集中させて的を見つめイメージを膨らませるが…



「…まっ、そう簡単にはいかないよね~もっと明確に…」



 燃えたり凍ったりしない真新しい的に苦笑をしつつもシルヴィアの必殺技開発は続く…。



 ………



「僕の必殺技…復元魔法は必殺技というより回復魔法だし…必殺技かぁ…」



 皆が的に向って必殺技を考える姿を見つめる唯織は悩んでいた…。



(実戦で使う事を考えると相手を殺す必要のある魔法…?それとも無力化?そもそも人相手に使うのか魔獣相手に使うのか…復元魔法は傷を治すっていう明確な目的があったからよかったけど透明の魔色は自由過ぎるからそこのイメージがはっきりしていないと十全な効果は期待できない…)



 順調に必殺技の開発が上手く行っているのか一人だけテンションの高いテッタを見つけ自然と笑みが零れるがその笑みはすぐに消えてしまう。



(テッタは順調そうだね…この授業で一番伸びしろがあるのはテッタだって言ってたしやっぱり魔色が一つだからこその発想もあるんだろうな…アリア先生と初めて戦った時に使った魔法は準備に時間がかかり過ぎるし大型の魔獣には効果的だろうけど人相手の実戦には正直隙だらけで使い物にならない…そう考えると僕の魔法は大掛かり過ぎるのか…?さっきのアリア先生の魔法も複合じゃなくて風に絞って使ってたし発動も早くて隙もなかった…)



 今まで育ってきた場所…詩織と暮らしていた魔王領では大型の魔獣が多く普通の魔法じゃ傷一つ付ける事も出来ず、詩織という勇者が訓練相手だったが故に一撃が強力な魔法しか使った事が無かった唯織は更に思考の海へと潜っていく。



(一回魔色の掛け合わせじゃなくて一つの魔色で考えてみよう…赤なら全てを燃やし尽くす火…って、何で大味な魔法が思いつくんだ…青なら全てを飲み込む…違う違う…全てを吹き飛…違うって…全てをどうにかするんじゃなくてもっと限定的に…茶なら土の壁じゃなく鉄の壁を作るとか…そう、こういう思考だ…黄なら雷を落とす…これは上級魔法で既にある…水なら仮死状態にする氷の棺…これは師匠の魔法…紫は空間収納と転移魔法、簡単な空間操作がギリギリ出来るレベルだから下手に使えないし…白なら…ダメだ、回復魔法のイメージが強すぎる…黒…闇で目くらまし…?実用性があるけど必殺技と言えるのか…?透明は…()()()()()()()()()使()()()…?…ん?)



 頭を振る度に顔に髪が当たるのを感じ、自分が持つ透明の魔色について考え始めると…その動きはピタリと止まる。



(透明の魔色だけ透明の魔色の魔法が…()()?復元魔法は透明の魔色だから出来る魔法だと思っていたけど回復魔法の延長線…白の魔色があれば誰でも使える可能性がある…なら復元魔法は白の魔色の魔法だと言える…アリア先生と戦った時の魔法も赤、緑、紫の複合だから透明の魔色じゃなくても三種類の魔色を持っていれば扱える魔法だ…()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()…)



 今まで自分が扱っていた魔法が透明の魔色の魔法じゃないと気付いた唯織はハッとした表情を浮かべ…



()()()()()()()()()()()()()()()…?)



 己の根幹である透明の魔色に疑問を持つのだった…。

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