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第五章開始 色付きの花束と透明な花  作者: 絢奈
第三章 新しい風
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知識と発想と氷菓子と

 





「はーい、一人ずつ小テストするわよー。まずはシルヴィ」


「あいあい」



 ティリアに惨敗した日から三ヶ月…彩り鮮やかな木々もすっかり緑色に変わり日差しが肌を突き刺す様になった頃、皆は教室で自分の目の前に置かれた美味しそうな氷菓子を見つめていた。



「70を維持したまま火と炎の違いについて説明してちょうだい」


「…火は質量を持った物質じゃなくて可燃性の物質と酸素が反応して熱と光を出す現象で、気体が燃焼することによって発生する激しいものは炎と呼ばれるらしい。煙が熱と光を持った形態で気体の示す一つの姿で気体がイオン化してプラズマを生じている状態。燃焼している物質の種類や含有している物質によって炎の色や強さが変化する」


「シルヴィ合格、食べていいわよ」


「いよっし!」



 アリアの問いに魔力を自分の中で数値化して70の魔力を的確に起こし答えたシルヴィアは目の前に置かれた氷菓子をキラキラした表情で食べ始める。



「次はリーナよ」


「は、はいですわ…」


「45を維持したまま氷と何故氷が水に浮くかについて説明してちょうだい」


「よ、45……えっと、氷は水が固体になったもので温度が0℃になると凍り始め、水から氷になる際に体積が増えて比重が小さくなり水に浮く様になりますわ。補足として固体が氷、液体が水、気体が水蒸気で、温度が100℃になると水から水蒸気になる条件が満たされ水の体積の1700倍程に増えますわ」


「ちょっと手間取ったけど補足も付けているから合格、食べていいわよ」


「やりましたわ…!」



 45という微妙な数値に戸惑いながらも魔力を起こして問いに答えたリーナもシルヴィアと同じ様にキラキラした表情で氷菓子を食べ始める。



「次、テッタ」


「はい!」


「80を維持したままこの世界に存在する全ての種族と特徴を()()()()()()()()()()()説明してちょうだい」


「はい!種族は人間族(ヒューム)獣人族(ビースト)森人族(エルフ)小人族(ドワーフ)竜人族(ドラゴニア)鬼人族(オーガ)水人族(マーマン、マーメイ)神人族(ブレイブリー)の八種族で特徴は順番に人間族は短命で人口が多くて器用貧乏。唯一他種族との交配が可能でこの世界でハーフは人間族×他種族でしか成立しない。獣人族は人間族の次に人口が多くて人間との間に生まれたハーフを毛嫌いしています。純血の獣人族はずば抜けた五感や身体能力を生かして傭兵や冒険者になる人が多く、ハーフは純血より身体能力や五感が劣ります。森人族は500年以上生きている者をハイエルフと呼び、500年以下の者をエルフと呼んでいて人間族と交配した者をダークエルフと呼びます。ハーフのエルフはハーフエルフと呼ばれダークエルフと共にハイエルフとエルフに毛嫌いされていて純血のエルフに聞く事が出来る『樹の声』が聞けません。小人族は小柄で物作りがずば抜けて上手く、魔道具が作れるドワーフを敬意を込めてエルダードワーフと呼びます。見た目に反して筋力が高く、小柄を解消する為に人間族との交配をする事も多いですがハーフドワーフは筋力がドワーフの中でも低くなってしまう為、お互いをフォローし合う事からハーフに対して寛容的です。竜人族は全種族の中で最も優れていると言われていてドランド山脈に住む長のドラゴンに認められ、長の竜の血を飲むと人間族以外の他種族でも竜人へと至ると言われています。ですが認められ血を飲んでも適応する人は極めて稀で人口は集落単位で次に説明する鬼人族と同じぐらい少数です。鬼人族は見た目がほぼ人間族と同じですが戦闘能力がどの種族よりも優れていて戦闘になると額から二本の角が徐々に生えて戦闘能力が上がっていきますが、完全に角が生えると自我を失い四肢が欠損しても戦闘を止めない事から死亡率が高く人口は竜人族と同じごく少数です。ハーフオーガは戦闘時、額から一本の角が徐々に生えるんですが純血のオーガと違って完全に生えても自我は失わず、純血のオーガより半分の戦闘能力と言われ今では純血のオーガは次に説明する水人族と同じぐらい少数です。水人族は唯一水の中で魔法を使わず呼吸が出来て女性9割男性1割で基本的には旅人や冒険者の人間族と交配して種族を維持しています。その中でマーマンは国の中枢に置かれて純血を増やす名誉ある仕事に着くと言われていますが死亡率はかなり高いです。最後に神人族ですがおとぎ話に登場する勇者、由比ヶ浜 詩織様だけです」


「はい、説明ご苦労様。合格だから食べていいわよ」


「はい!」



 魔力をスムーズに起こし指折り数えながら全種族の説明を終えたテッタは尻尾を高速で振りながら氷菓子を食べ始める。



「次、リーチェ」


「はい」


「100を維持したまま種族的血統魔法について説明してちょうだい」


「はい。種族的血統魔法は各種族の血が濃い時に発現するもので獣人族は『獣化』。獣化は五感強化、第六感発現、身体強化、身体の獣化の四つの効果があります。森人族は『精霊召喚』。精霊召喚はその名の通り精霊を召喚する事が出来ます。また精霊は基本的に目には見えず、精霊との親和性が高い人しか姿を見る事は出来ません。小人族は『物質具現』。物質具現は一瞬で城や武器を具現化出来ますが、それは血統魔法を発現している間だけで血統魔法を解除すればその物質は消えます。竜人族は『竜化』。竜化は空を飛んだりブレスを吐いたり爪を強化したり身体を竜化させて戦闘能力をあげるというもので、一言で言ってしまえばドラゴンに出来る事が出来る様になる血統魔法です。鬼人族は『鬼化』。身体超強化と自己再生能力の血統魔法です。ただ自己再生能力は無限ではなく限りがある為、自我を失った状態だと自己再生が出来ない事に気付かなく命を落とす事があります。水人族は『精神支配』。対象の五感に対して自分の容姿や匂いや声等で働きかける事によって相手の精神を支配し、思い通りに指示する事が出来る血統魔法です。ただこの魔法は外部からの強い衝撃を受ける事によって解けるので信頼出来ない水人族の方と一対一で二人きりになるのは避ける必要があります。神人族の血統魔法は神から与えられた魔法なのでその正体を知るのは由比ヶ浜 詩織様だけです。そして人間族の血統魔法ですが種族的血統魔法というものは無く、ガイウス理事長の様な真偽を看破する『真贋』、テッタ君の『生命』、私の『神速』等統一性は無く、全て一芸に秀でた血統魔法が発現します。ただ人間族の血統魔法は偶然に発現するものでその偶然性を高める為に貴族は優れた血を持つ者と政略結婚を行い血を高めるという方法を取っています。最後に補足ですが各種族のハーフは種族的血統魔法を発現するか、人間族の様に別の血統魔法を発現するか、もしくは一生発現しないかの三パターンに分かれます」


「…完璧ね。リーチェも合格だから食べていいわよ」


「ありがとうございます」



 全力で魔力を起こしても辛そうな表情を見せず血統魔法について説明を終えるとリーチェは机の下で小さく握り拳を作り氷菓子に手を付け始める。



「次、シャル」


「はい…」


「10を維持したまま紫の魔色、空間属性の魔法について説明してちょうだい」


「10…空間属性…えっと、空間属性は座標というのを正確に理解しその座標に対して何らかのアクションを起こすもので…例えば転移魔法は現在いる座標から目的の座標をこう…紙に書いた点と点を線ではなく折り曲げてくっ付ける様なものでその間の距離を切り取って一瞬で目的地に移動する…ただし実際にその場所に行って座標を確認しなければ長距離の転移は出来ず、行った事の無い場所でも目視が出来れば発動可能…空間収納は収納している異空間と今の空間を無理やり繋げて収納していて…すみません、これぐらいしか…」


「そうねぇ…なら空間属性に対する対処法はどうかしら?」


「対処法は相手が座標を把握する前にその座標から離脱する事と相手の座標認識を誤らせる事です。簡単な方法は氷や陽炎等で目視での空間認識をずらしたり、相手の三半規管にダメージを与えて正常な思考を奪うです」


「合格ね、シャルも食べていいわよ」


「ありがとうございます!」



 魔力を起こしているのかすらわからない曖昧さと空間という難解な問いに頭を悩ませ対処法まで答えたシャルロットは満面の笑みを浮かべて氷菓子を食べ始める。



「次、ティリア」


「は、はい!」


「60を維持したまま種族的に扱い辛い属性と扱い易い属性を全種族分答えてちょうだい」


「え、えっと、獣人族の扱い辛い属性は氷と雷、扱い易いのは土と風です。森人族は火と氷が扱い辛く、土と風と光が扱い易いですが風と光に関してはどの種族よりも得意としています。小人族は水が扱い辛く、土と火が扱い易いですが土はどの種族よりも得意としています。竜人族はどの属性に対しても得手不得手はありませんが好んで使う属性は火です。鬼人族は火が扱い辛く、扱い易いのは土と闇ですが、魔法より肉体に信頼を置いているのであまり魔法は使いません。水人族は氷と雷が扱い辛く、水を全種族の中で得意としています。人間族は扱い辛い魔色は無いですが他種族の様に扱い易い属性も無ければ親和性もありません。神人族はシルヴィさんなのでシルヴィさんが苦手な属性が苦手でシルヴィさんが得意な属性が得意です」


「合格だから食べていいわよ」


「あ、ありがとうございますっ」



 一切のムラなく綺麗に魔力を起こして答えたティリアは戸惑う事はあってももう前の様な怯えは無く、皆と同じ様に笑みを浮かべて氷菓子を食べ始める。



「最後、唯織」


「はい」


「回復魔法について熱心に勉強していたから人体について質問するわ。まず100を維持したまま臓器は何種類か答えてちょうだい」


「臓器は肝臓、心臓、肺臓、膵臓、腎臓、胃、小腸、大腸、膀胱、胆嚢、脳、副腎、脾臓の13種類です」


「なら15を維持して神経系の器官は?」


「脳、脊髄、神経です」


「40で呼吸器官は?」


「口、鼻、喉頭、咽頭、気管、気管支、肺です」


「90で感覚器官は?」


「目、耳、鼻、舌、皮膚、粘膜、筋紡錘です」


「最後、5で人体を構成する主な骨を答えてちょうだい」


「頸椎、胸椎、腰椎、舌骨、骨盤、寛骨、腸骨、坐骨、恥骨、尾骨、恥骨結合、胸骨、胸骨柄、胸骨体、剣状突起、肋骨、肋軟骨、浮肋、肩甲骨、上腕骨、尺骨、橈骨、大腿骨、膝蓋骨、脛骨、腓骨で更に細かく分類すると200種類余りの骨で構成されています」


「…完璧、全員合格ね。唯織も食べていいわよ」


「ありがとうございます」



 アリアの問いに自分の身体を指差しながらスムーズに魔力も起こして問題なく答えられた唯織は胸を撫で下ろしてホッと息をつくと拍手が鳴り響く。



「イオリさんすごいですわね?何を言っているか正直わかりませんでしたわ」


「うんうん…指差しながら言ってくれなかったら全然わからなかった…」


「私も人体についてはある程度詳しいつもりでしたが訳が分かりませんでした…」


「お医者さんみたい!イオリが回復屋やったら世界一の回復屋になりそう!」


「す、すごいです!私もきゅ、急所ぐらいしか!」


「いおりん普通に頭いいからねー。私が教えた事すーぐ出来てたし」


「あはは…みんなありがとう」



 手放しで褒められ気恥ずかしさを紛らわせる様に氷菓子を食べ始めるとアリアは黒表紙を開き少し悩む様に口を開く。



「確かに三ヶ月でここまで覚えるとは思わなかったわ。…まぁ、みんなに言える事だけれど魔力の調整、瞬間的な増減も出来ているし…これなら次のステップに進んでも良さそうね」


「次のステップ…ですか?」


「そうよ。基本的な知識から各分野の興味ある知識はあなた達に与えたけれど魔法に関しては調整と増減だけで何もしていないでしょう?今度は実際にその知識を元に魔法を練習するのよ」


「知識を元に…」


「例えばそうねぇ…」



 そう言って教室の窓を開き空間収納からから小さな金属を取り出すと掌に乗せ遠くの木を指差す。



「この金属を投げないで早く遠く勢いよく飛ばしてあの木に当てるならみんなはどうするかしら?」


「えーっと…弓みたいな道具を使って飛ばす…?」


「指で思いっきり弾き飛ばすとかどうですの?」


「み、水で勢いよく飛ばす…とか?」


「私は風で飛ばすかな?」


「私なら剣で弾き飛ばしますね」


「僕なら血統魔法を使って飛んでってもらうかな?」


「あー…()()…私はわかったから言わないでおく」


「シルヴィはわかったみたいだけれどみんなのやり方も間違いじゃないわ」


「「「「「…?」」」」」



 首を傾げる皆に見える様金属を握り込み狙いを定め拳を調整するともう片方の手を添え…



「よく見てなさい?知識さえあればこの金属はこうすると早く遠く勢いよく飛ぶのよ」


「「「「「っ!?」」」」」



 バンッという爆発音と火薬の臭いが教室に充満し始めアリアの手からは煙と形が変わった金属が現れる。



「今の金属には火薬が仕込まれていたのだけれど火薬が仕込まれているってわかっていたらみんなも火で爆発させていたでしょう?知識が無ければどうやるのが一番効率がいいのかわからないってのは今のでわかったかしら?」


「なるほど…」


「ただ、正解ばかりを追い求めるのはダメよ?みんなが今出した柔軟な発想の中に新たな正解があるかもしれないわ。でも正解が分かっていないとどう思考を変えてみるかも分からない…ほんと難儀なものよねぇ…」


「あはは…」



 今だ手から立ち上る煙を握って消すとアリアは黒表紙を閉じ…



「という事で次の授業からあなた達のオリジナル魔法…いわゆる必殺技を開発してもらうわ。みんなの柔軟な思考が求められるからそのアイスを食べてしばらく頭を休めておきなさい。次の鐘が鳴ったら開始よ」



 自分だけのオリジナルの魔法を開発させる為に氷菓子を追加した…。

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