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第五章開始 色付きの花束と透明な花  作者: 絢奈
第三章 新しい風
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得手不得手

 





「さてと…まずティリアが使っていた魔法について説明するわよ」



 実力テストが散々な結果で終わった皆はアリアの掌で浮いている水球を食い入る様に見つめる。



「やられたあなた達なら既に察していると思うけれどティリアはあなた達の体内に直接水を送り込んでいたのよ」


「直接体内に…でもただの水なんですよね?いつも水を飲んでるのにあんな状態になった事ないけど…それに魔力を纏ってる状態で直接人体に魔法って効くんですか…?」


「その疑問にもちゃんとした理由があるのだけれど…それを説明するには人の身体について少し勉強する必要があるわね」



 シャルロットの当然の問いに回復魔法がある弊害…人体に対する知識と医学に関しての知識の少なさを埋める為にアリアは空間収納から一体の人形を取り出し…教室を恐怖のどん底へ叩き落とした。



「っ!?ひ、人ですの!?」


「ぐ、ぐろい…」


「アリア先生…流石にこれは悪趣味の域を超えています…」


「うううううっ!?」


「これはえぐいですね…」


「ちょっと落ち着きなさいよ…これは人体模型って言って私とシルヴィがいた世界では魔法なんてないから怪我や病気を治す為に人の身体がどうやって出来ているか勉強する為の教科書みたいなものなのよ。全部作り物だから本当の人間じゃないわよ」


「そうなんですのね…」


「確かに全部作り物だ…」


「アリア先生がそんな非道な事をするとは思っていませんよ」


「で、でも…えぐいね…?」


「うん…人の身体ってこうなってるんだ…回復魔法の参考になりそう…」



 作り物だと分かった途端人体模型に近づいて興味津々に見つめる唯織達。



「ティリアは既に私が教えているけれど…シルヴィは唯織に教えてなかったのかしら?」


「病気の有名どころぐらいなら何となくわかるけど何処に何の臓器があるとか筋肉の名称とか詳細にわかるわけないし、異世界人の誰もがアリアちゃんみたいに博識だとは限らないよ?それに私は回復魔法に無縁だったからさっぱり」


「まぁ…そうよね、私も詳しい事は仲間から教わったわけだし…とりあえず説明するからみんな席に戻りなさい」



 人体模型に群がる唯織達を席に着かせると人型の透明な人形を空間収納から取り出しその人形に七割程の水を満たしていく。



「人の身体は実は約七割程の水分で満たされているのだけれどこの水分量と体格と種族によって変わるからあなた達の基準で話を進めていくわ。この水分が五割を切れば生命活動に支障が出てくるし、水分を取りすぎても生命活動に支障をきたすの。そしてティリアが使った魔法はこの水分量を操作する水の魔法よ」


「水分の取らなさすぎは悪影響だという事はわかるのですが、水分を取りすぎても悪影響なんでしょうか?」


「リーチェの疑問ももっともね。人の身体には細胞外液(さいぼうがいえき)っていうの生命活動を維持するのに必要な物があるのだけれど過剰な水分が与えられるとこの細胞外液の浸透圧…所謂生きる為にバランスを取る身体の機能が上手く働かなくなっちゃうのよ。そうなると血の中のナトリウム…えーっと…血が薄まっちゃって吐き気、頭痛、痙攣、意識障害とかが起こっちゃうのよね。これは水中毒って言う中毒症状なのだけれどティリアはそれを意図的に引き起こしていたのよ」


「なるほど…」


「ちなみにシルヴィの時は空気中にある水分を息をする時だけ増やしてシルヴィの肺…この胸の風船みたいな所に水を溜めたのよ。この肺に水が溜まると肺水腫(はいすいしゅ)という状態になって呼吸困難に陥るわ。最後にダメ押しの魅惑の魔眼で正常な思考を奪って対策されない様にするのと心臓の動きを早めて症状を一気に悪化させた…って感じね。ちなみに何故直接人体に作用したのかは直接人体に触れている、シルヴィは水を自分で吸い込んでいたっていう単純な理由よ」


「まさか地上で溺れるとは思わなかったなー。正直この中じゃティリアが一番強いんじゃない?」


「そりゃぁ自主訓練をサボって遊んでたあなた達と違って身体が治ってから毎日毎日泣きながら訓練してたものね?」


「は、はいぃ…身体が動かないよりつ、辛かった…です…で、でも、こ、ここまで強くなれ、たのは…アリア先生のお、おかげです…!」


「「「「「「…」」」」」」



 想像に難くない地獄絵図を描きティリアが気の毒だと思うのと同時に罪悪感が湧き上がった皆は黙って俯くがティリアはスカートのポケットから真っ黒の手袋を取り出す。



「そ、それ…と、ランさんが作ってく、くれた『黒百合』のお、おかげなんですっ…」



 そう言って手袋を手に嵌めると青と水色の光るラインが浮き上がり様々な大きさの水球や様々な魚、唯織達の水人形を一瞬で教室いっぱいに作り出す。



「こ、この手袋…頑丈でま、魔法がすごくつ、使いやすいん…です」


「凄いですわね…一瞬でこんなに…」


「うん…ティリアちゃんって青の魔色なの?」


「は、はいっ…い、い一応水のま、魔色…氷も使えま、す。しゅ…に、苦手で…」


「「「「…?」」」」


「あ、そういえばまだ言ってなかったわね?ティリアは水人族、マーメイよ。訳あって魔道具で種族を隠してるのよ」


「っ……は、はい…」


「「「「ええええ!?!?」」」」



 ティリアが水人族だと知っていた唯織とシルヴィアは驚かなかったが知らなかったリーナ達は目を丸く見開いて見つめると耳に光る金色の耳飾りと自分達とお揃いのイヤリングに視線を止める。



「あ、わたくし達と同じイヤリングですわね…という事はこの金色の耳飾りが姿を偽る魔道具なんですの?」


「そ、そうです…うぉ、ウォルビスさんがくれ…ました」


「見た事ない魔道具…イヤリングはアリア先生が?」


「そうよ」


「私達だけお揃いのイヤリングを付けているのはあれでしたのでよかったです。今日にでもアリア先生にお願いしようと思っていたので」


「あ、じゃあ僕もティリアちゃんの人形を追加で作るよ!」


「…え?わ、私がこ、怖く…ないんで…すか?」


「「「「…?」」」」



 自分の種族…水人族だと明かしたティリアは自分が怖くないのかと問うがリーナ達は首を傾げるだけで逆にティリアは目を丸く見開いてアリアを見つめる。



「あれよ。水人族の種族的血統魔法、『()()()()』について怖くないのかってティリアは聞いてるのよ」


「…ああ、そういう事ですのね…確かに悪用されれば怖いですわ」


「でもティリアは悪用なんかしないでしょ?」


「全てはそれを扱う人がどういう人かですしね。ティリアを怖がる理由にはなりません」


「うんうん!ティリアちゃんがそんなことする人に思えないし全然怖くないよ!」


「…!?」



 リーナ達の言葉を疑う様に顔を見合わせるティリアだったがアリアは黒表紙に何かを書き込みながら口を開く。



「ほらね?だからいちいち怯えなくていいのよ?ここにはもう魔色や種族で人を決めつける奴なんかいない…私がそう教えたからね」


「あーだからティリアって怯えてたんだ?水人族が他種族からそういう目で見られてるのすっかり忘れてたから性格なのかと思ってた」


「まぁシルヴィからしたら他種族のいざこざとか興味ないものね」


「まぁねー、私の興味はいおりん優先でその次にここに居る子達だしその他なんてどーでもいい」


「あはは…僕的には僕以外の事にも興味を持ってくれて嬉しいですよ」


「どっちが保護者なのよって感じよねあなた達…そういう事だからティリア?徐々に唯織達に慣れて私とかユリ達と会話する時ぐらいの気さくさで話しかけれる様頑張りなさい。いいわね?」


「…は、はい!」



 お揃いのイヤリングをそっと撫でて一安心したのかティリアは目元に小さく浮かぶ涙を拭い満面の笑みで立ち上がり…



「す、水人族のティリア…です!あ、改めて…よろしくお願いし…ます!あうっ!?」


「「「「「「!?」」」」」」



 勢いよく頭を下げて机に頭突きをお見舞いした…。



「何コントみたいな事してるのよ…とりあえず、仲良くなったところ悪いのだけれど授業を再開していいかしら?」


「ご、ごめんなさい…」



 赤くなった額を撫でながらティリアが席に着くと皆もティリアを心配しながら席に着きアリアの授業が再開される。



「えっと…そうそう、種族的に魔法の得手不得手があるのはみんな知ってるわよね?」


「例えに出して申し訳ありませんが水人族の方々は氷と雷が不得手…とかですわよね?」


「そうね。水人族は水との親和性が高すぎて雷の魔法を使えば自分にもダメージがあるし、氷の魔法を使えば身体がどんどん冷えて凍っていくわ。でも逆に考えれば水人族は水さえあれば他者を寄せ付けない程の強者…それはもう体験したわよね?これが自分の得意を相手に押し付けるっていう事と、テッタにも言った一芸を極めるという事。それ体現したのがティリアで私があなた達のテスト相手にティリアを選んだ理由よ」


「納得ですわ…でしたらわたくし達も一つの魔色を極めるのが今回の授業の目的なんですの?」


「テッタとティリアに関してはそうだけれどリーナやシャルみたいに複数の魔色を操れるのはテッタやティリアにはどうしても覆せない長所よ。そして自分達の長所を伸ばしつつ自分が扱えない魔色の魔法でも知識さえあれば対処が出来る様になるからあなた達はこの一年で知識を溜め込んでもらう…言ったでしょう?毎日頭が沸騰するんじゃないかって思う程に頭を使うから頑張りなさいって」


「そういう事ですのね…わかりましたわ」


「という事でこれから魔法を学ぶにあたって一つ()()()()()()()()


「「「「「「「っ!?」」」」」」」



 そう言ってアリアがパンッと手を叩くと一瞬で濃密で息苦しくなる様な魔力が教室に満たされ窓ガラスや扉がガタガタと震え始めるがもう一度手を叩くと一瞬で教室に満たされていた魔力が霧散する。



「訓練を重ねてきた今のあなた達なら()()()()()()()()()()()()()と思うけれど、今みたいに私が手を叩いたら全力で魔力を起こしてもう一度叩いたら一瞬で魔力を寝かせなさい。これが出来る様になれば上級魔法やその上の最上級魔法を一瞬で発動する事も出来るし魔法の発動を誤認させる事も出来る。一気に魔力を消す事によって何処に自分がいるか相手に悟られ辛くなるし不意も突ける。0から100、100から0をスムーズに切り替えられる様、特訓してもらうわ。…多分死ぬほど辛いわよ?」


「アリア先生えぐ~…まぁやるけど…」


「そんなにティリアに負けたのが悔しかったのね?」


「何度も負けたって言わないでくれない!?すっごいムカつく!」


「こうやって煽んないとあんたはやる気出さないでしょう?という事で…」


「「「「「「「っ!!」」」」」」」



 手を叩くと全員一斉に魔力を起こし…シルヴィア、ティリア、唯織、シャルロット、リーナ、テッタ、リーチェの順番で魔力が教室に満たされていく。



「一番早いのはシルヴィで同じぐらいでティリアと唯織…流石ね。シャルとリーナも家で魔法の勉強をしてたから早いわね。やっぱり魔力の扱いはテッタとリーチェが不得意そうね」


「は…い…っ…元々…魔力もすくっ…ないですし…いまいち魔力…というものが…」


「僕も…0にするのは…得意…なんですけどっ…」


「なるほどねぇ…」



 もう一度手を叩くと今度はシルヴィア、テッタ、リーチェ、ティリア、唯織、シャルロット、リーナの順番で魔力が霧散していく。



「シルヴィは当然として魔力を消すのはテッタとリーチェ…リーチェは剣で精神を落ち着かせる訓練をしてるからか上手いわね。逆にシャルとリーナは自分の魔力を抑えるのが苦手みたいね」


「そうですわね…魔法を扱う時も必要以上に魔力を注いで上手く発動しなかったりと魔力を減らす調整が苦手でしたわ」


「私は得意だったけどアスターに魔力を食べさせるので自分で魔力を抑える感覚が少し狂っちゃったかも…」


「なるほどねぇ…」



 皆の得手不得手がわかったアリアが黒表紙に何かをスラスラと書き留めたかと思うと不敵な笑みを浮かべ…



「ある程度個別の授業内容は決めたわ。…楽しい楽しい新学期の始まりね?」


「「「「「「「…」」」」」」」



 別の意味に聞こえる言葉を残し鐘の音と共に教室から出て行く…。

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