特待生ルール
「だからほら、アリクイみたいになってないで警戒を解いてちょうだい」
「ぶふっ!…あっははははははは!!!アリア先生…!!ぷははははは!!!」
「「「「「…?」」」」」
突然笑い出したシルヴィアに面食らったアリア以外の生徒達…それでも唯織だけは油断なくアリアを警戒し続けていると…
「シルヴィ…さっきから他人事だからって笑いすぎよ…?」
「だ、だって…アリクイって…ぷはっ…た、確かに似てるけど…くふっ…」
「はぁ…まぁいいわ。イオリ?これ、シオリからイオリに宛てた手紙よ。読んでみなさい」
「っ!?し、師匠からの手紙…?」
胸の谷間から封筒を取り出したアリアはナイフを投げる様に手紙を唯織へ投げ、唯織は驚きながらも手紙を受け取り恐る恐る開いていく…。
……
いおりんへ
やっほー!いおりんが大好きな由比ヶ浜 詩織ちゃんだよ!!
いつもいっぱいお手紙書いてくれてありがとー!!いおりん大好き!!
このお手紙を読んでるって事は近くにシルヴィアちゃんとアリア先生がいると思うんだけどね?その二人は私が特待生クラスに入れたんだよ~!!すごいでしょ~!?
本当はね?ガイウスさんから特待生クラスの教師になってくれない?って言われてたんだけど…せっかくいおりんが一人で頑張ってるのに邪魔したら悪いかなって思って特待生クラスの教師をお友達のアリアちゃんに代わってもらったんだ!どう?びっくりしちゃった?もしかしていおりんの事だからアリア先生を化け物と勘違いして攻撃しちゃってこの手紙を見て青褪めちゃってるかな?
それとね?シルヴィアちゃんの事だからいおりんに何も言ってないと思うんだけど…シルヴィアちゃんは私の弟子二号なの!いおりんからしたら妹弟子になるのかな?だから仲良くしてあげてね?
それじゃあレ・ラーウィス学園の特待生として学園生活を楽しんでね!!
愛しのお姉ちゃん兼師匠の由比ヶ浜 詩織より
………
「…え…え…え…こ…これ…」
由比ヶ浜 詩織…師匠からの手紙を何度も何度も読み返した唯織は手紙に書かれた通りに顔を青くしてシルヴィアとアリアを交互に見ながら言葉にならない声を漏らす。
「…え…し、シルヴィア…さん?…こ、この手紙にか…書かれてる事…ほ、本当…なの…?」
「…?私言わなかった?」
「い、言ってない…ぼ、僕以外に弟子がいたなんては、初めて聞いた…」
「…私、シオリの弟子。イオリは私の兄弟子。…よろしくね?」
「……あ、アリア先生…」
「…まぁそう言う事よ。私はシオリと友達、シオリに頼まれてここにいる…わかってくれたかしら?」
「っ!!本当に…申し訳ございません………!!!!!!」
唯織はそれはもうとても素晴らしい土下座をアリアに披露した…。
■
「はーい、色々あったけれど出席確認するわよー。元気よく返事してちょうだいねー」
生徒名簿と書かれた黒表紙を開きながらアリアは席に大人しく座っている生徒を見渡して出席を取っていく。
「んじゃ…メイリリーナ・ハプトセイル」
「…」
「はい、メイリリーナ・ハプトセイルは欠席ね」
「っ!?い、いますわよ!!貴女の目は節穴なんですの!?」
「はい、担任への暴言、減点ね」
「っ!!いますわよ!!!」
「はい、メイリリーナ・ハプトセイル出席と。次、シャルロット・セドリック」
「…はい」
「はい、不貞腐れて元気がないから減点ね」
「っ!?…はい!!」
「はい、シャルロット・セドリック出席と。次、リーチェ・ニルヴァーナ」
「…はい」
「はい、あんたもシャルロットと同じ理由で減点ね」
「っ…はい!これでいいですか!?」
「それだけ大声出せるんなら最初から出しなさい。リーチェ・ニルヴァーナ出席と。次、テッタ」
「は…はい…」
「…元気はないけれど素直に返事したから見逃してあげるわ。次からもっと元気よく返事しなさい」
「はい…」
「テッタ出席と。次、シルヴィア」
「…ん!」
「ん、手まで上げてえらいわねシルヴィア出席、加点と。最後、イオリ」
「は、はい!」
「はい、素晴らしいわね。出席と加点ね」
「「「納得できません!!!」」」
あまりにも偏ったアリアの出席の取り方にメイリリーナ、シャルロット、リーチェが声を荒げるとアリアはとても面倒くさそうな表情を浮かべる。
「…うっさいわね?何が納得できないのよ三馬鹿娘」
「「「三馬鹿娘!?!?」」」
「あら?違ったかしら?」
「あ、あ、貴女ねぇ!?いくらこの学園が身分の違いを考慮しないと言ってもわたくしは王族ですのよ!?そんな口を聞いていいと思っていらっしゃるのかしら!?それにわたくしには暴言だと言って減点したのに何故貴女はわたくし達を馬鹿呼ばわりしてるんですの!?!?」
「そうです!!貴女は仮にも私のおじい様に雇われている立場なんですよ!?そんな態度が許されると思っているんですか!?」
「それにさっきから減点だとか加点って何なんですか?この学園にそんな制度があるなんて聞いていませんが?本当に貴女は教師なんですか?この学園の仕組みを理解しているのですか?」
「…はぁ…ほんっとうっさいわねこの三馬鹿娘…いちいち説明するのも面倒くさいから一回で済ませるわ。テッタ?あんたは何か私に質問したい事はあるのかしら?」
「え!?…え…えっと…僕は大丈夫…です…」
「わかったわ。シルヴィとイオリは何か質問あるかしら?」
「…無い。アリア先生に従う」
「…僕は減点と加点と言うのが知りたいです…」
「わかったわ。じゃあ説明するからちゃんと聞いてなさい」
そう言うとアリアは黒表紙から六枚の紙を取り出して皆に一枚ずつ配り、コホンと咳払いして説明を始める。
「その紙に書いている内容なのだけれど…簡単に言ってしまえば理事長ガイウス・セドリックからこの特待生クラスについて何もかも私の裁量に任せるという内容が書かれているわ」
「「「「っ!?」」」」
「…アリア先生凄いね?」
「ほ…本当だ…特待生クラスの一切を教師アリアに一任するって書いてある…」
「理事長ガイウス・セドリックは学園の法。そしてその学園の法が私を特待生クラスの法だと認めるってちゃんとこの書類に記載されているわ。だから私はこの喋り方をしているし、学園で禁止されている言葉と行動を取ったあんたら三馬鹿娘とテッタを見逃してあげたわけ。これで理解出来たかしら?三馬鹿娘とテッタ」
「「「「…」」」」
「…んで、さっきリーチェとイオリが言ってた減点加点の件なんだけれどこれは私が定めた特待生だけのルールよ」
アリアは後ろの黒板に大きく皆の名前を書いてその下に100、50、0という数字を書き、もう一度口を開く。
「まずあんた達は持ち点50が私から与えられてるわ。そして授業態度や生活態度、授業の成果や色々な要因でこの点数は増減していくの。んで、ここからが大切な所よ?この点数が月一回の持ち点査定の時、20点を下回っていたら即時、特待生クラスから除籍処分にするわ」
「「「「「っ!?!?」」」」」
「…おー。アリア先生大胆」
今度は唯織も驚きの表情を浮かべるが…シルヴィアだけは無表情のままアリアに小さく拍手を送っていた。
「別にこれは私に取り入れって言ってるわけじゃないわ。さっき私がメイリリーナを減点したのは出席確認をすると言ったのに返事をしなかった、暴言を吐いたという点で減点2。シャルロットは不貞腐れながら元気よく返事しなかったから減点1。リーチェも同じ理由で減点1。テッタは元気はなかったけれど素直に返事をしたし、出席確認の流れを止めなかったから減点無しで加点もなし。シルヴィはちゃんと手を上げて元気よく返事したから意欲ありと判断して加点1。イオリも元気よく返事して意欲ありと判断して加点1。…この採点に私の気分何て一切介在してないのがわかるかしら?あくまで指示に素直に従っているか、更には意欲的に、積極的に参加しているかが鍵なのよ。あんた達が私の事を嫌いだろうが何だろうがどうでもいいし、私は三馬鹿娘とテッタみたいに自分の気分であんた達に嫌がらせしたり罰を与えたりとかそんな子供みたいな事しないわ。…わかったかしらメイリリーナ、シャルロット、リーチェ、テッタ」
「「「「…」」」」
「…わかったかしら?」
「「「「はい…」」」」
「…まぁ不服ならいくらでも突っかかってくるといいわ。ただし授業中とかじゃなく、休み時間だけにしなさい?授業を下らない理由で止めたら容赦なく減点するわよ」
「「「「はい…」」」」
「よし、イオリもこれで減点加点の流れはわかったかしら?」
「はい…別の事を聞いてもいいですか…?」
「ん?何かしら?」
「えっと…他にもアリア先生が決めた特待生クラスだけのルールはあるんでしょうか?」
「今の所ないわ。もし追加しなくちゃいけない様な事が出てきたらその時ちゃんと説明するわよ」
「わかりました…ありがとうございます」
「…よし」
全ての説明を終えたアリアが黒表紙をパタンと畳むと笑みを浮かべ…
「んじゃあ、まずはみんなの実力を把握したいから校庭に集合よ」
そう言葉と唯織達を置いて教室を出て行ってしまう…。
「…まったく…全く何なんですのあの教師は…!」
「…本当にムカつく…絶対に驚かせてやる…」
「そうですね…私も久々に本気を出してあの教師に恥をかかせたい気分です…」
特待生クラスの教室から校庭へ渋々向かって行くメイリリーナ達はアリアに対して思う事を愚痴り合いながら向かい…
「…イオリ?」
「え…あ…ど、どうしたのシルヴィアさん…?」
「…シルヴィ」
「え…?」
「…シルヴィって呼んで」
「あ、ああ…うん…シルヴィ…どうしたの?」
「…ん。イオリ、本気出す?」
「…うん。自分なりに本気を出すつもりだよ?」
「…そっか。頑張ってね?」
「…うん。頑張るよ」
唯織とシルヴィアは同じ師を持つお陰か笑みで校庭に向かい…
「…うう…」
テッタは唯織の背中を見つめながら校庭に向かった…。
■
「あ、あの…アリア先生?その格好は…?」
「ああ、これ?私の正装みたいなものよ」
学園の広い校庭の真ん中…アリアはスーツ姿ではなく、大胆に足を露出した真っ黒のシスター服を身に纏って白黒の手袋と白黒のブーツを履いて仁王立ちしていた。
「そ…そうなんですね…それと…もう一ついいですか?」
「ん?イオリ何かしら?」
「な、何故理事長と校長がいらっしゃるんですか…?」
そして仁王立ちしているアリアの横にはガイウスとミネアが立っていた。
「理事長と校長は私の実力を見せる為に呼んだだけよ」
「アリア先生の実力を…ですか?」
「ええ、そうよ?私はシオリに特待生クラスの担任を押し付けられただけで理事長達と顔を合わせたのは昨日が初めてなのよ。だから私がイオリ達の実力を見るのに合わせて理事長と校長にも私の実力を見てもらおうと思ったわけ。特待生を預かるのに私が弱かったら話にならないでしょう?」
「なるほど…」
「うむ…イオリ君?儂はまだイオリ君の技術しか見ておらん。だから今度は実力を見せてくれたまえ」
「は、はい…」
「イオリ君、頑張ってくださいね?」
「はい…頑張ります」
ガイウスとミネアから受け取った期待は唯織の中で温かいものを宿してくれたが…
「…おじい様もミネアも…何で私じゃなくそいつの事を…!」
遠くから四人を見つめるシャルロットには冷たくどす黒い何かを宿した…。