前髪の奥の宝石
「み、み、皆さん、おおおお久しぶりです!こ、こ、この度こ、こ…この特待生クラス入る事になった…てぃ、ティリアでしゅ!?…よ、よ…よろしくお願い…しましゅ…」
「「「「「「えええええええええ!?!?!?」」」」」」
大声で叫ぶ唯織達の声を狼耳を押さえて防いだアリアは盛大なため息を吐き捨てる。
「あなた達ビックリし過ぎでしょう…ティリアはピンピンしてるって言ったじゃない?」
「だ、だって…まさか特待生クラスに…」
「まぁ…その辺はティリアから聞きなさい。私はユリとイグニスの件をもう少し詳しく洗うから今日の授業は終わり。明日も授業があるから遅刻するんじゃないわよ?セリルさんとニーチェさんも今回の事は他言無用でお願いしますね?」
「あ、ああ…」
「わかったわ…」
「んじゃ、みんなまた明日っすー!」
指を鳴らして姿を一瞬で消したアリアとユリを見届けるとメイリリーナ達はドタドタとティリアに駆け寄り捲し立てる様に口を開いていく。
「て、ティリアさん!お身体はもう大丈夫なんですの!?」
「ひゃい!?…え、えっと…メイリリーナ・ハプトセイル王女様…です、よね?」
「わたくしの事はリーナでいいですわ!」
「は、はい、か、身体はアリア先生が…」
「ティリアちゃんは何時こっちに来たの!?」
「しゃ、シャルロット・セドリックこ、公爵令嬢様…?」
「私の事もシャルって呼んで!」
「は、はいっ…こ、こっちに来たの、のは…き、昨日で…そ、それまで、はセグリムで、あ…アリア先生にい、色々…ウォルビスさん…は、先にこっちでお仕事を…」
「私はリーチェと呼んでくださいねティリアさん。ティリアさんも私達が暮らす特待生寮に住むんですか?それともウォルビスさんと一緒に?」
「リー…チェさん、えっ…と、わ、私も寮で…場所をみ、みんなに教えてもらえ…って」
「じゃあ、これからみんなで寮に帰る?必要な物とかなにかあったりするかな?」
「て、テッタさん…です、よね?」
「あ、うん!テッタだよ!もしかしてアリア先生が用意してくれてたりする?」
「ウォルビスさんが、よ、用意してくれました…」
まだ喋る事に慣れていないのか、それともただ単に緊張しているだけなのかたどたどしく皆の問いに答えるティリアの手を取り唯織はあの時の事を思い出しながら言葉を零す。
「ティリアさん…本当によかった…あの時、身体を治せなくて本当にごめんね…」
「…あ、アリア先生から…イオリさんの事…いっぱい聞きました…死んじゃうのかも知れないのに…助けようとしてくれて…本当にありがとうございます…」
目元は隠れていても口元に笑みを浮かべたティリアは唯織の手をぎゅっと握り…唯織の隣に立つシルヴィアの手を取った。
「シルヴィアさん…私の所為で…イオリさんを危険な事に巻き込んで…ごめんなさい…」
「え…あ……あ、謝らないでよ…」
「…私の所為で…アリア先生とイオリさんと喧嘩しちゃった…んですよね…ごめんなさい…う、恨まれても仕方ないのは…わかってます…ごめんなさい…」
「え、えぇ!?う、恨んでなんかいないし何度も謝らないでよ!?それにその事はもう解決したしティリアちゃんも身体治ったんでしょ!?だからもうお互いあの時の事はみ、水に流そう!ね!?」
「し、シルヴィがイオリさん以外の事で動揺してますわ…」
「初めて見たかも…」
「…今度からシルヴィが暴走したらティリアさんに任せましょう」
「そうだね…僕のほっぺもその方がいいって言ってる…」
「あ、あはは…」
泣きそうになるティリアを大げさな身振り手振りで宥めるシルヴィアが珍しく思えた皆は小さく笑うとティリアは暴れるシルヴィアの手をもう一度掴む。
「わかり…ました。…わ、私もシルヴィアさんの事…シルヴィさんって…よ、呼んでいい…ですか?」
「うっ…わ、わかった…私もティリアって呼び捨てにするね?…これからよろしく、ティリア」
「…!は、はい!」
ようやく皆の心残りが解消され新たなクラスメイトが一人加わった事を実感すると皆がティリアの気になる部分に視線を集めていく。
「ティリアさん?少し宜しくて?」
「あ、な、何です…か?」
「何で前髪で顔を隠しているんですの?」
「っ!?え、えっと、こ、これにはわ、わ、訳が…」
「せっかくの可愛らしい顔が台無しですわよ?髪留めがあるので失礼しますわ」
「あっあっ!や、やめ!?」
少し強引にメイリリーナがティリアの前髪を分けて髪留め付け、あの時見た可愛らしい顔をもう一度見ようとした瞬間…
「っ……」
「り、リーナ…さん…?」
「ティリアさん…こんなに可愛らしい顔をしていたんですのね…もっとよく見せて欲しいですわ…」
「きゃうっ!?」
「「「「「っ!?!?」」」」」
メイリリーナは頬を赤く染め荒々しい息を吐きながらティリアを押し倒し、もう逃がさないとばかりに抱きしめてティリアの唇を奪おうと自分の唇を近づけていく。
「大丈夫ですわティリアさん…怖いのは最初だけ…すぐに良くなりますわ…」
「ちょ、ちょ!?リーナどうしたの!?」
「あっ…!シャルさんっ…!」
「っ!?」
メイリリーナの変貌ぶりにキスを止めようとシャルロットが間に割り込んだ瞬間、シャルロットもティリアの素顔を見てしまい…
「…本当だ…ティリアちゃんこんなに可愛かったんだね…?大丈夫だよ…?私達が優しくしてあげるから…」
「あうっ!?」
まるでティリアの匂いを堪能するかの様にシャルロットもティリアの首筋に顔を埋めて荒々しい息を吐き出し始める。
「ちょ、二人とも何しているんです!?おかしいですよ!?」
「「ああっ…!!」」
本能的に…それよりも他の人が見ているのにこんな痴態を晒す二人を無理やり引きはがしたリーチェは悲しげな声と共に後ろに転がる二人から距離を取ってティリアに手を伸ばし…
「大丈夫ですかティリアさん?もう…だい…」
「あ、ありが…とう、リーチェ…さ…ん?」
「可愛い…食べてもいいですか?」
「ひゃぅ!?」
無事にリーチェもティリアに抱き着き膨らんだ胸に顔を埋め始める。
「え、え、え!?ど、どうなってるのイオリ!?」
「わ、わからない…だ、だいじょ『待っていおりん!テッタと二人で教室の外に出て!』えっ!?」
「いいから早く!セリルさんとニーチェさんも連れてって!」
「わ、わかった!行こうテッタ!セリルさんニーチェさんこっちです!」
「う、うん…!」
「あ、ああ…!?」
「よくわからないけどわかったわ!」
「ほらリーチェも離れて!!」
「ああっ!?私のティリアさんが!?」
ティリアの助けに入ろうとした唯織とテッタ、リーチェの両親を教室の外に逃がしたシルヴィアはリーチェをティリアから引きはがし…
「っ…やっぱり…っ…」
「ご、ごめん…なさい…わ、わざとじゃ…」
前髪を退けるとティリアの紫紺の宝石の様にキラキラとした瞳が露わになりシルヴィアは興奮しそうになる自分の胸に何度も拳を叩きつける。
「わかってる…魅惑の魔眼…しかも…めっちゃ強力…だね…私こういう系…全然効かないのに…!」
「ご、ごめんなさい…まだ…制御でき…出来なくて…ごめんなさい…」
「だ、大丈夫だから…はぁ…えっと…まずは目を閉じて…」
「は、はい…!」
「次はゆっくり深呼吸して…身体全体の魔力の流れ…わかる…?」
「はいっ…」
「わかるならその魔力の流れを目に流れ込まない様…意識的に外して…はぁっ…」
「っ…」
今すぐティリアの唇を奪いたくなる衝動を何とか抑え込むと徐々にその気持ちも薄れ…
「…大丈夫だね。もう前髪で隠していいよ」
「あ、ありがとう…ございますっ…」
魅惑の魔眼の効果が切れた事を確認し前髪に付いた髪留めを外し目を隠すとメイリリーナ達が勢いよく身体を跳ね上げる。
「ハッ!?い、一体何があったんですの!?」
「わ、私なんかすっごくいい匂いを…」
「柔らかかった…?」
「同性にも効いて何をしてたかわからない程に強力なのか…」
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
「生まれつきのものはしょうがないでしょ。…アリア先生から何かもらってたりしない?」
「あ…えっと…魅惑の魔眼がぼ、暴走して…シルヴィさんに止めてもらったら…これを見せてって…」
「…私がこの事態を止める事まで想定済みとか何なのアリアちゃん…」
こうなる事がアリアには予めわかっていたのかティリアから渡された物は黒い眼鏡と小さな紙だった。
「……そういう事ね。全部掌って何かムカつくけど…まぁいっか」
「…?」
小さな紙に書かれた文字を読んだシルヴィアは呆れた様にため息を吐き、黒い眼鏡をティリアにかけ前髪を退かし魅惑の魔眼を露わにする。
「わっ…ま、また…」
「もう大丈夫だよー。この眼鏡が魔眼の効果を打ち消してくれるみたい」
「そ、そうなん…ですか…?アリア先生は何も…」
「いーのいーの。アリアちゃんはそういうやつなの!とりあえずみんなで服を買いに行ったり髪切りにいこっか?今回は女の子だけでね!」
「「「え…?」」」
「ほらほら三人とも行くよ!何があったかはその時教えてあげるから!」
「わっ!?」
座り込むティリアの手を引いて強引に教室の外へと出ると身構えている唯織達が見えシルヴィアは…
「あ、いおりん!テッタ!もう大丈夫だけど今回は女の子だけでティリアの髪を切ったり服を買ったりしてくるね!夜には帰って来るから!」
「わわっ!?い、いってきますっ!?」
「「え…?」」
「ま、待ってくださいまし!先に説明して欲しいですわ!」
「私ティリアちゃんに何したのシルヴィ!?」
「あの柔らかいのは何だったんですか!?」
「「……え?」」
(きっかけは作ったわよ?仲良くなれるかしら?…か。こんなお膳立てされなくてもなるっつーの!)
アリアのメモを思い返し笑みを浮かべながらティリア達と街に繰り出した…。
「…え?ぼ、僕達は…?」
「あ、あはは…ど、どうしますかセリル・ニルヴァーナ様、ニーチェ・ニルヴァーナ様…?」
「そ、そうだな…飯なんかどうだ?ユイ君の事や学園の事をもっと知りたいんだ」
「そうね…失礼な事をしたお詫びにお家へいらっしゃい、そこでゆっくりお話しましょ。テッタ君もね?」
「「は、はい…お邪魔させて頂きます…」」
そしてセリルとニーチェにニルヴァーナ家へ招待された唯織とテッタは根掘り葉掘り色々な事を聞かれるのだった…。




