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第五章開始 色付きの花束と透明な花  作者: 絢奈
第三章 新しい風
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「この決闘、イグニス・ハプトセイルが降参を口にした為、メイリリーナ・ハプトセイルの勝利とする!!決闘の取り決めに従いイグニス・ハプトセイルは今から王族ではなくただのイグニスとなり、国外追放!重ねてレ・ラーウィス学園の退学処分とする!!」



 耳が痛くなる程の静寂の中、ガイウスの声だけが寂しく響くとアリアは観客席を見渡し異常性を改めて確認しながら問う。



「…ではガイウス理事長、いいでしょうか?」


「うむ、頼む」


「…?」



 小首を傾げるメイリリーナを他所にガイウスの許可が下り、アリアが指をパチンと鳴らすとぐちゃぐちゃになった闘技場に唯織達が縄で縛った大量の人物達と共に現れる。



「アリア先生、今回の決闘場に予め魔法を仕掛け、決闘中に妨害をしようとしていた特待生クラスの四年生8人、全員捕まえました」


「よくやったわ唯織」


「僕の方はイグニスの不正を助けていた教師を8人捕まえました。今日、学園に来ていない教師達はミネア校長に任せてます」


「いい手際ねテッタ」


「私はイグニスに協力していた一般生徒を片っ端捕まえましたが…かなり人数が多く、逃げられない様に縛ってその場に放置しています。ミネア校長が後で回収するとの事です」


「いい判断よ、リーチェ」


「私の方はイグニスと癒着して犯罪組織スナッチに資金援助をしていた貴族7人と証拠書類の確保です」


「助かるわ、シャル」


「シルヴィちゃんはリーナが国外追放になった後、殺す様に依頼されていた冒険者とか盗賊とか48人捕まえたよん」


「流石ね、シルヴィ」


「ま、まさか私が決闘している間にそんな事を…」


「こういうのは一気にやるのがいいのよ」



 自分の決闘の裏で大掛かりな捕り物騒動が繰り広げられているなんて思いもよらなかったメイリリーナは苦笑しつつ改めてアリアと友達の凄さを実感しているとアリアが徐にイグニスの髪を掴み上げた。



「…?どうしたんですか?」


「最後の仕上げよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「っ!?」


「…え?どういう事ですか?イグニスの血統魔法は未来予知じゃ…」



 アリアの言葉に首を傾げるメイリリーナだったがイグニスだけは顔を真っ青に染め上げ身体を震わせる。



「未来予知ならこうなる運命が見えてるんだから最初から決闘なんてしないでしょう?」


「…そ、そういえば…」


「それにリーナの話を聞いた時からずっと変に思ってたのよ…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「バレなさすぎる…ですか?」


「最初は未来予知で自分が怒られずリーナだけが怒られる未来を選んでるのかと思ったけれど流石にそんなの不可能だわ。確信に至ったのは決闘での不自然なイグニス贔屓の歓声…リーナが何かする度に静かになってイグニスがしょぼい魔法を披露する度に歓声が上がっていたでしょう?それに今の耳が痛くなる程の静けさと一番信頼していた息子がこんなになっても一声も上げない国王と王妃…おかしいと思わないかしら?」


「た、確かに…」


「こいつの血統魔法は王家伝統の未来予知なんかじゃなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「っ…」


「私の見立てだと…自分に好意的な相手ほどより強く認識を操れるんじゃないかしら?国王と王妃の様にね?だからリーナ以外の前では好青年を演じてたのでしょう?」


「…」


「リーナの話だと10歳の時に血統魔法を発現したって言ってたけれど、実はそれよりもっと前に血統魔法が発現していてリーナの適性の儀…その時に自分より魔力が多い事がわかってリーナが目障りだったんでしょう?この世界は魔法が全てだものね?」


「っ!?」


「そんな…」



 憶測で語っているのにも関わらず面白いぐらいにイグニスの表情がコロコロと変わりアリアの話を裏付けていく。



「シャルへの婚約はリーナへの当てつけかと思ったけれど、シャルから昔の話を少し聞いたわよ?あんた、シャルに一目惚れしてどうにか振り向いてもらおうとしたけれど『リーナと遊びたいから遊びたくない』って拒絶されたらしいじゃない?だからリーナがより一層憎くて仕方なかったんでしょう?」


「っ…」


「え…?そ、そうなのシャル…?」


「う、うん…小さい時にすごいしつこくされた覚えがあって…だから偶にリーナにお兄さんの話を聞いて問題ないか確かめようとしてたんだけどずっと話してくれなくて…」


「そうだったのね…」



 醜い嫉妬が招いた悲劇…その悲劇の理由がわかったメイリリーナは俯き溢れそうになる涙を堪えてきつく拳を握りしめ…



「…!!!私の親友にちょっかいかけないで!!!!!」


「ぶっ!?」



 感情が籠った一撃をイグニスの鼻っ面に叩きこみサンドバッグの様にアリアの手の中で揺れた…。



「…今度はスッキリしたかしら?」


「…はい」


「許すつもりは?」


「ありません」


「わかったわ。…それにしても厄介な血統魔法よねぇ……このまま国外追放にして他国で同じ様な事をしでかしても困るし…どうしようかしら…」


「「「「「「…」」」」」」



 メイリリーナの一撃で気を失っても解ける気配の無いイグニスの血統魔法に皆で首を傾げていると唯織が何かに気付いたように声を上げる。



「あ…ユリさんに何とかしてもらうとか…どうですか?」


「ユリ…?どういう事かしら?」


「ユリさんは血を操る血魔法を使えるじゃないですか?その魔法で血統魔法を使えなく出来ないかなと…」


「ふむ…可能性はありそうだけれど…血統魔法の原理は血そのものが魔法だから全部抜くしかないと思うのよね。そんな事をすれば確実に死ぬ…結局この手足で国外追放になったらどの道死ぬけれど出来る事なら勝手に死んで欲しい所よね」


「そうですね…」



 再び皆でイグニスを囲みながら頭を悩ませているとメイリリーナは小さく息を吐き捨て口を開く。



「…ふぅ、国外追放は止めにして王国の地下牢に犯罪者として幽閉でどうでしょう?この状態での国外追放は死そのもの…死刑と同義です。死刑より刑が軽くなる分には問題も無いでしょうし、それにこの状態でいきなりイグニスが国外追放になったとガイウス理事長の口から説明しても血統魔法で操られていた間の記憶があるかもわかりませんし納得してもらえるかもわかりません。犯罪の証拠は既にシャルとアリア先生が集めてくれてますし、国民にも波風が立たないかと」


「…それでいいのかしら?」


「…ええ、思う所が無いと言えば嘘になりますがもうこの小物に時間をかけているのが馬鹿らしいです。私がちょっと折れて全て丸く収まって上手く行くならそれでいいです」


「そう…わかったわ。ガイウス理事長、その方向性で如何ですか?」


「…そうだな、そうして折れてくれるのであれば事後処理は容易いのは事実だ。だが本当にそれでよいのか?こ奴はメイリリーナの大切な物を多く奪い傷つけたのだぞ?国外追放になって野垂れ死のうが文句は言えん程の事をしでかした。…メイリリーナの心の傷は本当にこ奴を生かせと言っておるか?」


「…」



 ガイウスの言葉を目を閉じ何度も何度も頭の中で反芻したメイリリーナは静かに呟く。



「……はい、国外追放にして万が一生き延びた場合、この国の汚点が他国に迷惑をかける可能性があります。ならここはこのはた迷惑な血統魔法が誰かの手によって悪用されない様監視する必要があります。…それにその方が苦しんでいる顔をいつでも見れて気分がいいですし、私をいっぱい虐めてくれたのでそれぐらいは覚悟してもらいます」


「…相分かった、ならその様にしよう。改めて確認するがイグニスは国外追放ではなく犯罪者として牢へ幽閉、王家からの離脱、学園からの退学でよいな?」


「はい、お願いします」


「うむ。ではこの場は儂が処理する故、皆はゆっくり休んでくれたまえ。詳しい事が分かり次第アリア殿に伝えよう」


「わかりました、お手数おかけしますがよろしくお願いします」



 全員でガイウスに頭を下げ観客席でオロオロしている二人…セリルとニーチェも含めて指を鳴らし自分達の教室に転移したアリアは…



「…ぶはぁ~…流石に疲れたわぁ~…」



 近くにあった椅子に腰を下ろし四肢を投げ出すように天井を仰ぐ。



「あー…そういえば私の婚約の件、まとめて片付いちゃったね?」


「あ、確かに…」



 婚約が勝手に破棄になった事に唯織とシャルが苦笑を浮かべていると引きつった声色が聞こえてくる。



「ど、どういう事だ…?な、何がどうなったんだ…?」


「さ、さっき…私達は何を見せられていたの…?」



 リーチェの両親、セリルとニーチェが状況が掴めず朗らかな笑みを浮かべ合っている娘達を見てそう言葉を漏らすと気だるげな答えが返って来る。



「これがこの特待生クラスの授業ですよセリルさん、ニーチェさん。他にも同学年200人と一日で決闘したり冒険者として人助けしたりこういう出来事に対処したりと座って魔法を勉強するだけが授業じゃないですよ」


「こ、この国の命運を左右する出来事がじゅ、授業だと…?」


「逆にそんな事に今のうちに関われるなんて最高な経験じゃないですか?」


「最高な経験って…王族の悪事を暴く事が最高の経験…?」


「いつかこの子達は世界に羽ばたき世界に名を刻む人物になる…だって私が教えてるんですから」


「そ、その確信めいた自信は何処から…?」


「私SSSランク冒険者ですしこの子達も全員Sランクですよ」


「「なぁっ!?」」



 担任が世界最高峰のSSSランク、娘とその友達が12歳という若さでSランクだという事に顎が外れてしまう程驚くがアリアはひらひらと手を振りながら話題を変える。



「私の教育方針が聞きたいのなら全部教えますがそれは後にしてください。…リーナ、みんなに言う事があるんじゃないかしら?」


「…はい」



 アリアに促され静かに頷いたメイリリーナは黒板の前に立ち皆を見渡すと…



「今回、私の兄だったイグニスの所為で皆にご迷惑をおかけしました。本当にごめんなさい」



 そう言って深々と頭を下げた。



「「「「「……」」」」」


「…え?み、皆さん…?」


「…はぁ、言う事が違うでしょっ!」


「あだっ!?な、何するんですか!?」



 何も反応しない皆にオロオロとするメイリリーナの頭に手刀を落としたアリアは頬を両手で挟み込んで持ち上げる。



「きゅっ!?ほ、ほろひへふははい(おろしてください)!」


「リーナ、私が今までリーナに言ってきた言葉をちゃんと理解したのかしら?理解していたのならこの場面でごめんなさいなんて言葉、出て来ないわよ?」


「っ…」


「もう一度やり直しなさい。唯織達がどんな気持ちでリーナを助けてくれたか…今のリーナならちゃんとわかるでしょう?そんな唯織達がどんな言葉が欲しいか…もう一回よく考えなさい。…後口調も戻しなさい、そっちの方が私達の知ってるリーナらしくて可愛げがあるわ。もうリーナに影を落とすものは何も無いんだから」


「…」



 ゆっくり下ろされ椅子に座りながらニヤニヤと見つめてくるアリアに顔を真っ赤にしたメイリリーナは軍服の裾をぎゅっと握りしめ…



「み、皆さん…本当に助かりましたわ…今回はわたくしが助けられましたがもし皆さんに何かあったら今度こそわたくしが皆さんを助けます…だからもし、またわたくしだけじゃどうしようも無くなったら…助けてくださいまし…」



 絞り出される様に吐き出されたメイリリーナの言葉…その言葉を聞いた唯織達は満面の笑みを浮かべる。



「うん、僕達友達だしね。僕に出来る事なら何でも手伝うよリーナ」


「うん!僕も出来る限りがんばるよ!」


「ええ、困った時はお互い様といきましょう」


「面倒くさいけど…友達の為なら仕方ないよね~」


「私は何時でもリーナの味方だからね!」


「…ありがとう…ございますわ…」



 ポロポロと涙を零すメイリリーナを抱きしめるシャルロット…そんな心温まる姿を見て全てが終わったわけではないが自分達のやれる事が終わりを迎えた時…



「よし、まだ全部終わったわけじゃないけれど一件落着って事でみんなに連絡事項よ。()()()()()()()()


「「「「「「……?」」」」」」



 アリアはパンッと手を叩きそう言うと教室の扉が開きユリと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



「おいっすー!みんな久しぶりっすねー!つーかアリアっち、待たされたと思ったらいきなり色々調べて欲しいとか流石に人使い荒いっすよー!」


「悪かったわユリ。でもあなただったから安心して任せたのよ?後で好きなだけあげるからそれで許してちょうだい」


「仕方ないっすねぇー…んじゃ、自己紹介するっすよ」


「は、はい!」


「「「「「「ま、まさか…」」」」」」



 何かを察した唯織達は目を見開き何度も深呼吸を繰り返す少女に自分達の心残りだった少女の面影を重ね…



「み、み、皆さん、おおおお久しぶりです!こ、こ、この度こ、こ…この特待生クラス入る事になった…てぃ、()()()()でしゅ!?…よ、よ…よろしくお願い…しましゅ…」


「「「「「「えええええええええ!?!?!?」」」」」」



 新たなクラスメイト…ティリアの登場に涙も忘れて叫んだ…。

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