後悔
「だからぁ…」
「そこを何とか…」
「だからぁ…!」
「そこを何とか…!」
………
「あっちは滅茶苦茶ヒートアップしてるっすねぇ…」
「あはは…ですねぇ…」
「アリアちゃん尻尾めっちゃ揺れてるけどイライラしてるねぇ…」
「そりゃあ半日あの口論を続けてたら流石の魔王様もイライラするっすよ…」
「あはは…」
ティリアの家の裏庭でティリアと手話で話し合っているテッタとメイリリーナとシャルロットとリーチェ、二人きりで家の中で口論を重ねているアリアとウォルビス、そしてその両方を眺められる位置で唯織とシルヴィアとユリはお茶を飲みながら苦笑を漏らしていた。
「それよりアリア先生は何でウォルビスさんと口論しているんですか?」
「ティリアちゃんの事だったりロストポーションの事だったりっすよ~。魔王様は唯織っち達に材料を集めさせるって言ってんっすけど、ウォルビスはどうしても早くティリアっちを治したくて魔王様が集めてくれって言ってんっすよ」
「そうなんですか…でもロストポーション…あれは…」
「あれは作り話だからね~。私がいおりんの身体の傷を魔法じゃ治せなかったから何でも治る薬を探してたけど賢者の石だけはどこ行っても見つからなくて結局それっぽいので作ったらただのクソまず薬が出来ただけだった~」
「へぇ~?ロストポーションって作り話なんっすかぁ…へ?ろ、ロストポーションって作り話なんっすか…?」
「「…………え?」」
「…それ、マジ話っすか…?」
「…もしかしてアリア先生…」
「…知らなかった…?」
「マジっすかああああああああああ!?!?ちょ!まお…っアリアっちー!!!」
ロストポーションが作り話だという事を知らなかったユリは血相を変えて家の中に慌てて入って行くと…
「なっ!?何ですってええええええええええええええええええ!?!?!?」
「あっちゃぁ…こりゃあ…」
「最悪の場合…僕達ボコボコにされますね…」
「だねぇ…」
アリアの叫び声が響き唯織とシルヴィアは身の危険を感じた…。
■
「…はい、みんなに報告があるわ」
「「「「「「…」」」」」」
箱馬車の中でテーブルを囲む唯織達はもの凄い形相をしているアリアに一言も声が出せずにテーブルを見つめていた。
「実はロストポーションをあなた達に作ってもらってティリアちゃんの身体を治してもらおうとしていたんだけれど…」
「「…」」
「そこの白髪コンビがロストポーションが実在しないと白状したからティリアちゃんの身体を治す段取りが狂ったわ」
「「「えっ!?!?」」」
「「…」」
「…も、もしかしてユイ君…あの時引きつってたのは…」
「え、えっと…じ『実はね?私との修行の時にいおりんが大怪我しちゃってね?私って回復魔法が苦手だからロストポーションでいおりんの大怪我を治そうとしたんだけど賢者の石が見つからなくてさぁ~…頑張って回復魔法で癒したんだよ~!』…」
「そうだったんですか…」
「でね?世界樹アルムの雫と竜の爪は持ってたからしばらく世界中を回って探したけど全く見つからなかったから作り話なんだよね~」
「…という事なのよ。正直、これに関してはしっかりと確認しなかった私のミスだわ。本当にごめんなさい」
「あたしのミスでもあるっす。本当に申し訳ないっす」
「「「「「「!?」」」」」」
長い髪が床に付く程に深く頭を下げたアリアとユリに唯織達は天変地異でも起きるのではないかと思う程に驚き口をパクパクと動かしながらお互いを見合っていた。
「…ど、どうにかならないんですの…?」
「…でも…アリア先生なら治せるんじゃ…?」
「リーナ、シャル。アリア先生は段取りが狂ったという言葉を使っていました。これは私達でも治す事が出来るという意味にも捉えられます」
「確かに…アリア先生が本当に僕達じゃ無理だって言うならはっきり無理だって言うし…どうしたら僕達でも治せるんですか?」
そう言うとアリアは頭を上げ真剣な表情で唯織達でもティリアの身体を治せる方法を口にする。
「私の事よくわかってるじゃないリーチェ、テッタ。私が創り出した回復魔法をあなた達が使ってティリアちゃんの身体を治す方法よ」
「えっ!?あ、アリア先生の魔法ですの!?」
「ちょ、リーナ!?それより創り出したって言う方に驚くべきじゃないの!?」
「もう今更ですよシャル…今まで魔法の基礎中の基礎しか教えてくれなかったアリア先生が魔法を教えてくれるって事の方が驚きじゃないですか?」
「うん!…でも僕、茶の魔色しか持ってないけど回復魔法が使えるのかな~…」
遂に魔法をアリアから学べる嬉しさで四人ははしゃぎ始めるが…
「ちょっと待ってアリアちゃん」
シルヴィアが待ったをかける。
「その格好の時はアリア先生って呼びなさいシルヴィ。何かしら?」
「その魔法…本当にいおりん達で扱える魔法なの?」
「正直言って………かなり難しいし、失敗したらかなりのリスクを伴うわ」
「…それって、私がいても?」
「シルヴィがいても難しいのは変わりないわ。今回のメインは唯織なのだから」
「ぼ、僕ですか…?」
シルヴィアの問いに唯織の名前を出したアリアは隣にいるユリを遠ざけ皆から距離を取りながら説明を始める。
「この魔法は透明の魔色っていう自由に魔法が扱える唯織が主体…核となって発動させる魔法なの」
「僕が核…?」
「そうよ。唯織を魔道具と見立てて発動する魔法って言った方がわかりやすいかしら」
「なるほど…」
「でも正直…この魔法はお勧めしないわ」
「え…?お、お勧めしないんですか?」
「ええ…。まずあなた達の誤解を生まない様に先に言うけれど、この件に関してはあなた達に強要するつもりも全く無いし私が解決するべきだと思っているわ。あなた達だけで解決する場合の方法を今伝えているって言う事を忘れないでちょうだいね」
「「「「「「…?」」」」」」
十分に皆と距離を取った事を確認したアリアはこれから起こるであろう出来事に備える為、白黒のグローブを空間収納から取り出し両手に嵌めて…言う。
「今回のこの方法を実行する場合、成功率は20%。成功すればティリアちゃんの目も脚も舌も元通りになる…けど、失敗すれば核になる唯織が死『アリア!!!!!!!!!!!』…」
「「「「「っ!?」」」」」
一瞬で空間収納からデスサイズを抜きアリアの首を刈ろうとしたシルヴィアは同じく一瞬で移動してきたユリの真っ赤な剣に刃を受け止められながらもアリアを睨みつけ渾身の力を込めていく。
「アリアちゃんさぁ…?私の前でいおりんが死ぬかも知れない方法をよく口に出来たねぇ…?覚悟は出来てるのかなぁ…?」
「逆に聞くっすけどあたしの前で魔王様を傷つけようとした事…覚悟出来てんっすか?マジでぶっ殺すっすよ?」
「話をちゃんと聞きなさいよ…唯織達だけで解決する方法って言ったでしょう?ユリも落ち着きなさい。こうなる事がわかってたからユリを遠ざけたのよ?」
「魔王様…」
「シルヴィ!!アリア先生の話をちゃんと聞いてから反応しようよ!!アリア先生は今回の件に関して強要しないって言ってたでしょ!?」
「いおりん…チッ…」
お互いの大切な人の言葉でようやく矛を収めるとシルヴィアはアリアの顔を覗き込みながら睨みつける。
「で?」
「…だから、失敗すれば唯織が死ぬ可能性があるのよ。だからこの件については強要しないし私が解決してもいい。どういう魔法なのか知りたいのならちゃんと教えてあげるし、それでもやりたいのなら最大限のバックアップはするつもりよ。私は今二つの手段を用意しただけに過ぎない…どちらの手段を使うかはあなた達に任せるわ」
「…そうですか。もしよければどういう魔法でどうやって発動するか教えてもらってもいいですか?」
「いおりん!?やるつもりじゃないよね!?」
「…全部聞いてからでも遅くないよシルヴィ。それにアリア先生は僕達の手でも人を救える手段を用意してくれただけだよ?」
「でも…」
「アリア先生は何時までもこの世界に居てくれるわけじゃない…それなら学べるものは学んでアリア先生が元の世界に帰ってもどうにか出来る様にするべきだと僕は思う。大切な人…シルヴィやテッタ達が傷ついた時に手を差し伸べる手段が増えるなら僕はアリア先生の魔法を自分の物にしたい…って思うかな」
「いおりん…」
シルヴィアの心配をよそに唯織はアリアの創り出した魔法を習得したいと言うとメイリリーナが徐に立ち上がり口を開く。
「ちょっと待ってくださいまし。流石に今回ばかりはアリア先生に任せるべきだと思いますわ」
「え…?」
「私も…そう思うかな。イオリ君の命までかかる魔法なら方法すらも知らない方がいいと思う」
「シャルも…?」
「…ごめんなさい、さっきと言っている事が違うのはわかっていますが今回ばかりは私もリーナとシャルの意見に同意です…ユイ君がその魔法を知ればこの中の誰かが傷ついた時、必ずそれを使おうとするはずです。その度にユイ君の命が危ないのであればその魔法は知らない方がいいと思います…」
「リーチェ…」
「…ごめんイオリ、僕もリーチェ達に賛成かな…イオリは優しいからその魔法を知ったら…僕達以外の人にも絶対に使うと思う。その度にイオリが死んじゃうかもって思うと…辛い…かな」
「テッタ…」
この場にいる仲間達が全員反対の意を示しめした事に驚いた唯織は皆が悲しそうな表情を浮かべているのに気付きそれだけ自分が心配されているのかと思うのと同時にそんな心配をしてくれる仲間の為にアリアの魔法を習得して仲間を守りたいという気持ちが募っていた…。
「…じゃあ、どういう魔法なのか説明せずに私がティリアちゃんの身体を治す…でいいわね?」
「当たり前でしょ?いおりんが死ぬかも知れないのに私がやらせると思ってんの?」
「わたくしはそうして欲しいですわ」
「私もです…」
「はい…お願いします」
「お願いしますアリア先生…」
「…唯織もそれでいいかしら?」
「…わかりました。お願いします」
「わかったわ」
自分達ではティリアを救えないと判断を下した皆の頭を一撫でしたアリアはパチンと指を鳴らし…いつもの教室の風景へと変わる。
「私とユリはしばらくあっちに残るからあなた達はまたしばらくの間、自習をしててちょうだい。それじゃあね」
そしてそれだけを言い残してもう一度指を鳴らしアリアが姿を消した後の教室は静寂が支配し…
「僕達はティリアさんの事を救えなかったんだ…」
「「「「「…」」」」」
自分達の手で人を助けれなかったという後悔と居心地の悪さが全員を蝕んだ…。