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第五章開始 色付きの花束と透明な花  作者: 絢奈
第二章 友情
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依頼完遂

 





「ちょ、シルヴィ!?何があったのよ!?唯織は無事なのかしら!?」



 人が寝静まる深夜…転移魔法で帰ってきたドロドロのシルヴィアとドロドロで意識の無い唯織を見てアリアが声を荒げると箱馬車の中からドタドタと複数の足音が聞こえてくる。



「い、イオリ!?どうしたの!?」


「ユイ君!?」


「えっ!?イオリさんどうしたんですの!?」


「イオリ君…!?」


「おわぁ~…ドロドロっすけどどうしたんっすか…?」


「…誰も私の心配しない」



 同じくドロドロなのに全く心配されないシルヴィアは口を尖らせながらどうしてこうなったのか説明し始める。



「…唯織がカラ砂漠でバジリスクを無傷で倒した。だけど魔力使いすぎてダウン。そしたら足場が無くなってドロドロに落ちた」


「「「「「「…?」」」」」」


「…とりあえず唯織は寝てるだけ。アリア先生、これ返す」



 しっかりとその場で起きた事を伝えているのにも関わらず首を傾けるだけで理解されなかったシルヴィアはドロドロの手で空間収納からアリアに借りたバイクを取り出す。



「ちょ…そんなドロドロの手で触らないでちょうだい…これ、結構気に入ってるのよ…?」


「…後ユリちゃん。バジリスクの血抜きして欲しい。無傷で」



 悲しそうな表情でバイクを服の袖で掃除し始めるアリアを無視して空間収納からバジリスクの頭だけを覗かせるとドロドロの液体が滴り落ちる。



「うぇ!?…な、何でバジリスクもドロドロなんすか…?」


「…唯織がドロドロにした」


「そ、そっすか…と、とりあえず…川にでも行くっすか?流石に風呂場じゃどうしようもないっすし…」


「…ん。唯織もそこで洗う」


「んな物みたいに…まぁわかったっす。魔王様、ちょっと川に行ってくるっす」


「わかったわ…うう…」


「…アリア先生ごめん」



 予想以上に凹んでいるアリアに申し訳なさを感じたシルヴィアはユリと共に森の中へと姿を消すとその場には理解が追いついていないテッタ達と一生懸命バイクを掃除しているアリアだけが取り残される。



「うわ…だいぶ無茶な運転をしたのね…エンジンとタイヤが…うう…」


「「「「………」」」」





 ■





「ユリちゃんこれおねがーい!」


「あいあい……って、めちゃくちゃでけーじゃねえっすか!?」



 ドロドロを洗い流す為に川へと来たのに明らかに川で洗い流す事が出来ないサイズのバジリスクが空間収納から出てきた事に驚いたユリは驚きながらも傷をつけずに口から大量の血を抜き始める。



「いおりんが傷をつけないで持って帰りたいって言ってたからねー!」


「こりゃあ魔王様がいた方がよかったっすねぇ…」


「洗うのは私がやるから大丈夫!…てかユリちゃんのその血を操る魔法って人間でも出来るの?」


「血魔法っすか?これは吸血鬼じゃないと無理っすよ?多分人間がやったらそっこーで貧血でバタンキューっすね」


「そーなんだー…使ってみたかったんだけどなー」



 川から水を集めて水球を作り出し洗濯機の要領で意識の無い唯織を回すとシルヴィアも制服を脱いで川でドロドロを洗い流していく。



「つーかシルっちはその喋り方で行かないんっすか?魔王様から聞いたっすけど、唯織っちに正体バレたんすよね?」


「いおりんにはバレたけどテッタ達にはバレてないからね~」


「でも結局喋り方を変えたせいでボロを出してバレたんっすよね?」


「うっ…」


「つーか、所々素の喋り方に戻ってるっすよね?」


「うっうっ…」


「だったらもうそのままの喋りの方が気楽じゃないっすか?」


「そうだけど~…」


「ちなみにっすけど、もうテッタっち達は魔王様とあたしの秘密を知ってるっすよ」


「ええええ!?喋ったの!?!?」



 驚きながらもドロドロを全て洗い流し風魔法で乾かしたシルヴィアは制服を着こんでユリに詰め寄る。



「っすよ~。だからこの際っすしみんなに暴露して普通に学園生活を楽しんだらどうっすか?」


「う~ん…でもさでもさ?せっかく出来たみんなの輪にシルヴィアじゃない詩織が入ったら…なんかあれじゃない?」


「ん~?詩織っちはシルっちでシルっちは詩織っちっすよね?何も変わらなくないっすか?」


「まぁそうだけど…でも結局シルヴィアが詩織だってわかったらみんな身構えちゃうと思うんだよね~…」


「んー……じゃあ実際に()()()に聞いてみたらどうっすか?」


「え…?」



 そう言うと誰もいないはずなのに草の踏む音、小石を踏む音が複数聞こえ…



「悪いわね。どうしてもテッタ達がシルヴィと唯織の事が心配だって言うから来たわよ。結果盗み聞きみたいになったけれど」


「え、ええええええ!?全然気づかなかったんだけど!?」



 何も無い空間が揺らめき姿が見えるとテッタ達は()()()()と言う表情を浮かべていた。



「薄々そうなんじゃないかって思ってましたわ」


「うん…シルヴィはいつもイオリ君のベッドにいるし…」


「それに意味深な問いだったり意味深な事をずっと言ってれば流石にわかりますよ」


「そうだね…僕もあんな事を言われたら…ね」


「みんな…」


「ほら、やっぱりいろんな所でボロを出してるじゃないっすか。そういうとこ、魔王様に似てるっすよね~」


「あら?流石に私はこんなにわかりやすくないわよ?」


「「「「「「…」」」」」」


「な、何よ…?」



 アリアの一言で何とも言えない空気に包まれてしまうがユリは場を仕切る様に小さく咳をする。



「んんっ…で、シルっちが詩織っちだってわかってどうっすか?」


「別にいいんじゃないんですの?だってわたくし達の特待生クラスには異世界人で国王で魔王で半天半魔で魔神の担任がいるんですし」


「吸血鬼でサキュバスで魔族のユリさんもいるし」


「伝説の勇者様の弟子もいますし」


「僕は今更伝説の勇者様がクラスメイトでも流石に驚かないかな?」


「らしいっすよ?」


「…そっかー…そうなんだねー…」



 嬉しい様な嬉しくない様な、驚いて欲しかった様な驚いて欲しくなかった様な複雑な気持ちが入り交じるシルヴィアは…



「今まで隠しててごめんねー?いおりんが心配だったから変装してついてきちゃった!由比ヶ浜 詩織だよ!みんな改めてよろしくねー!」



 変装の腕輪を外し由比ヶ浜 詩織として改めて自己紹介するのだった…。



「…ていうか、何時まで唯織を洗濯するつもりなのよ?流石にそろそろ死ぬわよ?」


「ああああ!!いおりん忘れてた!!!」





 ■





「ぁ…」


「あ、いおりん起きた?」


「…師匠…?」


「そうだよ~。いおりんのママでお姉ちゃんで師匠のしおりんだよ~?」


「あはは…あれ…?髪が白くなってる…?」


「いおりんをぐるぐるして洗ったからね~」


「ぐるぐる…?」



 箱馬車のベッドで目を覚ました唯織はシルヴィアではなく詩織が自分をぐるぐるして洗われたという事に疑問を抱きつつ体を起こすと…



「シルヴィ?もしかしてイオリが起きたの?」


「そだよ~テッタ」


「えっ!?テッタ!?!?」



 詩織の声を聞いて気付いたテッタが唯織の部屋に入ってきた事に驚いて咄嗟に詩織を隠す様に壁になり捲し立て始める。



「ち、違うんだテッタ!師匠はシルヴィじゃなくて!あ、あれ~!?シルヴィはどこ行ったのかな~!?って、何でここに師匠がいるんですか~!?び、びっくりしましたよ!?」


「ちょ、いおりん…?」


「い、イオリ…?」


「い、いや~!びっくりびっくり!これもアリア先生が僕を驚かす為にしたのかなー!あはは!そ、それよりシルヴィは何処にいるんだろ!?お、おーいシルヴィー!」


「「…」」



 唯織の捲し立てに二人が言葉を失っていると複数の足音が近づき…



「あら?イオリさんがなんか騒いでると思いましたがシルヴィなら後ろにいるじゃありませんの」


「あ、イオリ君起きたんだ?」


「ユイ君お身体は大丈夫ですか?」


「っ!?だ、大丈夫だよ!!そ、それよりシルヴィは何処にいるの!?」


「「「え…?」」」


「い、いや~!目を覚ましたら師匠がいてびっくりしたー!シルヴィ何処にいるのかな~!」


「「「…」」」



 冷や汗をかきながらも頑張って誤魔化し続ける唯織に不審な目を向ける三人…。



「なーに馬鹿な事やってんのよ…」


「全部準備終わったっすよー?」


「あ、アリア先生~!突然師匠を呼ぶなんてびっくりするじゃないですかー!し、シルヴィは何処にいるんですかー!?」


「はぁ…?シルヴィ?まだ唯織に言ってないのかしら?」


「いやぁ~…なんかすごい捲し立てて可愛くてつい~…」


「…は?…え?」



 状況が飲み込めず全員の顔を見渡す唯織は最後に後ろにいる詩織を見つめると苦笑している表情があった。



「あのね?アリアちゃんとユリちゃんがテッタ達にも自分の秘密をバラしたみたいで私も流れでシルヴィアって事をバラしたからみんな私がシルヴィアだって知ってるんだよ?」


「…え……そ、そうなんですか…?」


「うんうん。正直アリアちゃんの後に正体バラしたから全然みんな驚いてくれなくてさー…なんか拍子抜け?色々考えてたのが意味なかったみたいな?」


「そ、そうだったんですか…はぁ…焦った…」



 詩織の言葉で状況がようやく理解できる深く深く息を吐き捨てるとアリアは既に空いている扉を何度かノックして視線を集める。



「もしもし相すみませんが茶番が終わったのなら早く呪いを解きに行きたいのだけれどいいかしら?」


「す、すみませんでした…早く呪いを解きに行きましょう。ティリアさんが待ってますから」


「主に唯織とシルヴィの所為だけれどね…?」


「「あはは…」」


「ほら行くわよ。あなた達の頑張りが実を結ぶ瞬間、しっかりと味わいなさい」


「「「「はい!!」」」」


「あいあいっすー!」



 ようやく一つに纏まった唯織達はティリアの家に入ると天井を覆い尽くしていた石の木は何処を見てもその痕跡すらなく初めて見た時より綺麗で少し新しくなっていた気がした。



「あ、アリア先生…?」


「何よ唯織?」


「もしかして…修繕しました?」


「…ついでよついで」


「流石ですね…」



 皆の苦笑交じりの視線を受けつつウォルビスが寝ている寝室へと入るとあれからずっと一緒にいたのか石の手を握り続けているティリアがいた。



「ティリアちゃん起きてるかしら?」


「…」


「起きてるわね。早速だけれどティリアちゃんの依頼を完遂するわよ」


「…!?」


「おっと、興奮しすぎよティリアちゃん」



 まさかたった一日で呪いが解けるとは思っていなかったティリアは車椅子から転げ落ちそうになりアリアがしっかりと抱きとめると…



「さてと、まずは『ぼ、僕達から!』…わかったわ。テッタ、リーチェ、これがあなた達が協力して取ってきたエントの実を飲み物にした物よ。二人で飲ませなさい」


「「はい!」」



 空間収納からテッタ達が取ってきた実をベースにした金色のジュースを手渡しテッタはウォルビスが飲みやすい様に身体を少し起こさせてリーチェは恐る恐る細長い瓶に入った金色のジュースを口に運びゆっくり飲ませて行く。



 すると…



「あ、あれ…?」


「効果が…ない!?」


「焦るんじゃないわよ。もうすぐよ」


「「っ!?」」



 見る見るうちにウォルビスの生命力を吸って育っていた木々が枯れ枝の様に細くなりパラパラと崩れ落ちていき…ウォルビスの肌色が見える。



「まずはエントの呪歌、解呪成功ね」


「「やった…!」」


「次は…わかってるわよ。リーナ、シャル、聖水は出来てるのよね?」


「もちろんですわ」


「ずっと白の魔色で浄化してたので大丈夫です」


「なら…ユリ?これに抜いてちょうだい」


「りょうかいっす!血を抜くんでこっち来てくださいっす!」



 アリアに次は私達だと言わんばかりの視線を向けていたメイリリーナとシャルロットは淡くキラキラした水が入っている細長い瓶を用意し、同じくアリアから細長い瓶を二つもらったユリは二人の白い腕に鋭い爪を小さく刺し血を抜き取っていく。



「んー…こんなもんっすかね?」


「全然痛くないですわね?」


「うん…もっと痛いかと思った」


「あたしにかかればこんなもんっすよ!伊達に毎日アリアっちの首筋に噛みついてないっすからね!」


「「…」」


「んじゃ、その血を聖水に入れて一緒に飲ませちゃいなさい」


「「わかりましたわ(わかりました)」」



 淡く光る血を聖水に入れて混ぜると宝石の様にキラキラとした液体が出来上がりシャルロットが身体を起こしメイリリーナが口元に運ぶと…



「っ!?な、何ですの!?」


「わ!?何が起きてるの!?」


「ただの呪いよ。そんな慌てる必要ないわ」



 ウォルビスの身体からどす黒い霧が噴き出し寝室を埋め尽くしアリアが指を振って窓から霧を全て流していくとウォルビスの体に血の気が戻ったのか赤みが差していく。



「…問題ないわね。ちゃんと解呪出来てるわ」


「「よかったですわ…(よかったです…)」」


「んじゃ、最後は唯織とシルヴィ…詩織?ややこしいわね…どっちでいくのかしら?」


「んーまぁ、シルヴィでいいよ?学園にいる間はシルヴィアだしね~」


「そう、なら腕輪をちゃんとつけてなさい。ユリ?」


「あいっす!これがバジリスクの血っすよ!」


「ありがとうございます」



 ユリからキラキラとは程遠いどす黒い血が入った細い瓶を受け取った唯織は一人でウォルビスの身体を抱き起こしゆっくりと口の中に流し込むとピシッとヒビが入る様な音が連続で響き…遂に石化した部分にも赤みの差した肌色が見え呪いが全て解けるのであった。



「ウォルビスさん…ウォルビスさん?聞こえますか?」


「………ん…君は…?」


「唯織です。ウォルビスさん、呪いは全て解けましたよ」


「呪いが解け…?…っ!?呪いが解けている!?」


「はい。…ティリアさん、呪いは完全に解けました」


「……!!!」


「てぃ、ティリア…!!!」



 目が見えなくても人の肌と温もりが戻ってきたのがわかったティリアはウォルビスと涙を流し合いながら抱き合い…



「…よし、これにてティリアちゃんの依頼は完遂ね。みんなよくやったわ!お疲れ様!!」


「一件落着っすね!」


「おつおつー!!」


「「「「「…はい!!」」」」」



 全員で満面の笑みを咲かせて依頼を終えたのだった…。

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