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第五章開始 色付きの花束と透明な花  作者: 絢奈
第二章 友情
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友達として

 





「うう…最悪ですわ…」


「まさかおし…汗が必要なんて…」



 ティリアの家には風呂場は無く村の近くに水場がないか聞いて回ったメイリリーナとシャルロットは目的地に向かいながらふと疑問に思う。



「…ねぇ、リーナ?汗が必要なんだよね?」


「そうですわね…」


「…水場じゃ汗かかなくない…?」


「あ…」


「それに…流した汗をどうやって溜める…?」


「うう…頭が回ってませんわ…聖水がまさかこんな作られ方だったなんて…どうしましょう…」



 聖水がまさか聖女の体液だという事にショックを受けて正常な判断が下せなくなっていると二人の視界が森の中からさっきまでいたティリアの家の視界へと一瞬で変わる。



「「なっ!?」」


「…で?何処か汗をかける場所を見つけたかしら?」


「「……」」


「…まぁいいわ。乗ってきた馬車を外に出してあるからお風呂に入ってきなさい。手順は全身を洗って綺麗にしてから白の魔色を起こしつつ汗を溜めるのよ。サウナって言う汗がかける場所も風呂場に作ってあるからしばらくそこに入ってそのタオルで拭ったら絞ってその桶に溜めなさい」


「「……」」



 ティリアの家にいながらメイリリーナとシャルロットを自分の元に転移させたアリアが透明の桶と真っ白のタオルを二人に手渡すとメイリリーナとシャルロットは何も言わずに家を出て行く。



「全く何なんですの…」


「全部お見通しなんだね…」


「…はぁ、どうでもいいですわ。早く呪いを解く為に聖水を作りますわよ」


「そうだね…」



 そう言ってセグリム村に来た時の馬車に乗った二人は一糸纏わぬ姿で大量の汗を集めだす…。





 ■





「…ねぇリーチェ!?このまま走って迷いの森まで行くの!?」


「ええ!時間もありませんから!」


「どっちが迷いの森とかわかってるの!?」


「…多分こっちです!」


「えええ!?!?当てずっぽうなの!?アリア先生が移動は助けてくれるって言ってたよ!?」


「いいえ!頼りません!!」


「えええええ!?」



 メイリリーナとシャルロットが入ったであろう森を当ても無く走り枝と枝を飛び跳ねて移動し始めたリーチェに続く様にテッタが追いかけながら声を上げると…



「なーにやってんすか?迷いの森は逆っすよ?」


「「っ!?」」



 まるで散歩をする様にリーチェとテッタの横を気付かれず飛び跳ねていたユリが現れ二人は枝を踏み外して落下する。



「おっと!大丈夫っすか?」


「は、はい…」


「すみません…全然気づきませんでした…」



 二人を抱きしめ音も無く着地したユリは少し困った様な表情を浮かべながらリーチェに向って口を開く。



「アリアっちも言ってたっすけど移動の手助けはしてくれるっすよ?そんなに昨日言われた事が刺さったっすか?」


「それは……はい…」


「…一応なんっすけど、今回の課外授業がリーチェっち達に人の命の重さを教える為…だからっすか?」


「そう……違います。いつか別れるって言われた事に対して…」


「っすよねぇ…年頃の女の子なんすからあたりまえっすよね…まぁ、素直に言ってくれて感謝っすよ。ちょっと待つっす」


「…?」



 そう言って俯くリーチェの頭を一撫でしたユリはリーチェとテッタに背を向けて独り言を呟き始める。



「アリアっち、今いいっすか?………やっぱりちゃんと言った方がいいっすよ。このままじゃリーチェっち達がもやもやして可哀想っす。………んじゃ、リーチェっちとテッタっちにアリアっちの事を話しておくっすよ?………了解っす」


「…?ユリさん?」


「ああ、お待たせっす。リーチェっち、テッタっち…今から言う事を信じるかどうかは任せるっすけどよく聞いて見ておくっす」



 ユリの言葉に首を傾げるリーチェとテッタだったがユリの背と頭に羽と禍々しい捻じれた角が生えると徐々にその表情は恐れとも怯えとも取れる表情へと変わっていく。



「どうっすか?実はあたし魔族なんっすよ」


「「っ!?」」


「…流石にそれは傷つくっすねぇ…」



 ユリが自分の事を魔族だと伝えるとリーチェとテッタは自分達の武器を抜き放ち一瞬で距離を取って戦闘態勢を取るが…



「別に攻撃したいなら攻撃してもいいっすけど、多分死ぬっすよ?」


「「うっ!?」」



 突然真っ赤な槍が二人の喉を囲む様に現れ少しでも動けば即死するであろう事を二人の頭に刻み付けると真っ赤な槍は真っ赤な球体に変わりユリの手元へと戻っていく。



「ちゃんとこれで話を聞いてくれるっすか?」


「…話って何ですか…?」


「アリアっちの正体についてっすよ。何でいつか別れるって言ったのかそれでわかるっすけど、聞くっすか?」


「「…はい」」


「そっすか。じゃあ迷いの森に移動しながら話すんでこの子に乗ってくださいっす」


「「っ!?」」



 まだ魔族のユリに対して警戒心が解けないリーチェとテッタに笑みを向けたユリは羽と角を消して手に持つ真っ赤な玉で真っ赤な狼を作り出し、狼の背に二人を乗せてアリアの正体について語り始める…。





 ■





「やっぱり唯織とシルヴィがバジリスクの石化を解くのね?」


「…ん」


「はい、それでここからだと全力で走り続けて一週間以上かかるので…」


「移動手段が欲しいわけね。なら…あ、ちょっと待ちなさい」


「「…?」」



 バジリスクのいるカラ砂漠までの移動手段をもらう為に寝室の外で待機していたアリアに話しかけるとアリアは耳に手を当て二人に背を向けると独り言を呟き始める。



「………何かしらユリ?………………はぁ…わかったわ。それで納得するならユリに任せるわよ。………なら私もリーナとシャルに話しておくわ。………それじゃあね」


「「……?」」


「悪いわね。移動手段は…とりあえず外に出てちょうだい」



 首を傾げた唯織とシルヴィを連れて外に出たアリアは人目に付かない様に家の裏に回り空間収納から二つの車輪がついた真っ黒の鉄の塊を取り出すとシルヴィアが興奮気味に声を上げる。



「おおおおお!!!バイク!?バイク!?」


「バイク…?」


「そうよ。私と詩織の元いた世界の乗り物なんだけれど魔力で動く様に改造してあるわ」


「へぇ…アリア先生と師匠がいた世界の乗り物…」



 バイクと呼ばれる乗り物に過剰に反応を示すシルヴィアに何かを感じ取った…いや、今までの疑惑が確信に変わった唯織はゆっくりと目を閉じ…



()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」



 そう問うとシルヴィアは目をキラキラと輝かせて唯織に詰め寄り…



()()()()()()()()!?このハンドルっていう部分を『ちょ!?シルヴィ!?』…あっ…」


「…はぁ…やっぱり師匠だったんですね」


「…ったく、何やってんのよ()()…」


「あ、あはは…ミスっちゃった…ごめんアリアちゃん、隠しててごめんねいおりん…」



 興奮した気持ちに引っ張られたシルヴィア…もとい勇者、由比ヶ浜 詩織は舌を小さく出して謝るが唯織は困った表情を浮かべながら呟く。



「…今は時間が無いのでカラ砂漠に移動しながら話を聞かせてもらいますけどいいですよね師匠?」


「う、うん…い、いおりん怒ってる…?」


「怒ってませんし納得いく説明をしてくれると思ってますから」


「わ、わかった…アリアちゃん?このバイク借りるね…?」


「…壊さないでちょうだいね。唯織?私も黙っててごめんなさいね…」


「…いえ、アリア先生は師匠のわがままを叶えて頂いてたのでこちらこそご迷惑をおかけしました。…流石に初めての物を僕は運転?出来ないのでお願いしていいですか?師匠」


「おっけー…えっとじゃあ…とりあえず行ってくるね?アリアちゃん」


「ちゃんと説明するのよ…」


「はいはーい…」



 シルヴィアがバイクと呼ばれる物に跨り魔力を流すと内臓を揺らすような低い音と振動が生まれシルヴィアに覆い被さる様に唯織がバイクに跨ると大きな音を立てて走り始める。



「わっ!このバイクって言う乗り物振動が凄いですね!?アリア先生がもう見えない…」


「私も初めて乗ってみたんだけどアリアちゃんが転ばない様に改造してくれたのかこんな事しても大丈夫だよ!」


「わぁあ!?」



 一際大きな音が響くと背中が地面と平行になるほど前輪が持ち上がるが転げ落ちる感覚が全くなく、前輪が地面に着地する重厚な音が響く。



「し、師匠!?危ないですよ!?」


「あはは!!…ていうかいおりん!?思いっきり胸を揉んでるんだけど!?」


「っ!?すみません!!」


「別にいおりんだったら揉んでもいいけどね!!」


「馬鹿な事言わないでください!」



 詩織の腰ではなく胸を触ってしまった唯織は顔を赤らめる事なく慌てて腰を掴み直し気持ちを落ち着けると風に棚引く詩織の銀髪を躱し耳元に顔を近づけて問う。



「それで師匠…ちゃんと説明してくれますか?」


「…うーん、何から聞きたいの?」


「全部ですよ全部。アリア先生との関係だったり入学式で僕の事を投げ飛ばしたりその姿とかです」


「あー、いおりんを投げた事もあったね~。アリアちゃんとの関係はもうアリアちゃんから聞いてるんじゃないの?」


「…夢の中で殺し合ってとかは聞きましたが…」


「そうそう!アリアちゃんほんっとうに強くてさー!70回以上も殺されたんだよ!?すごくない!?」


「ななじゅっ!?」


「私も瀕死までは追い込んだんだけどさ~…今やっても勝てる気がしな…いやいや、今なら勝てるけどね?でも正直何ていうか~…滅茶苦茶怖かった!だって72体の悪魔を召喚したり神龍を召喚したりするんだよ!?しかも左腕を斬り落としたらそこ踏んずけて顔面キックだよ!?えぐすぎ!!マジ鬼畜魔王!!」


「え、えぐいですね…」


「でもまぁ~…アリアちゃんにいおりんの事を自分の心を癒す道具として見てるって言われて最初はキレたけど…アリアちゃんと戦った後にいおりんの寝顔を見てたらそうなのかな~って思って色々考えて…それでいおりんを学園に入れて色んな世界を見せた方がいいのかなぁ~って。んで、かなり昔にガイウスおじちゃんのお父さんとお母さんをたまたま山賊から助けた事があってその時に何でも褒美をくれるとか言ってたけどすっかり忘れちゃっててさ?そのおかげでその時子供だったガイウスおじちゃんがいおりんを学園に入れてくれたんだよね~」


「な、なるほど…そんな事があったんですね…」


「でね?最初はいおりんの事を遠くから見守ってようと思ったんだけど…ガイウスおじちゃんから特待生の教師をやらないかって言われていおりんと離れるのはやっぱり寂しいから受けようかなーでもそれだと意味ないかなーってアリアちゃんに愚痴ってたらいい事思いついちゃってね?」


「…それがアリア先生に教師を頼むきっかけになったんですね?」


「そそ!アリアちゃんに教師をやってもらって私も学生になっていおりんと居ればいいじゃん!みたいな?でも同じ姿だとあれだなーって思ってたらアリアちゃんからこれを貸してもらったの」



 今までの種明かしをする様にバイクを運転しながら語る詩織は右腕に通された銀色の輪っかを唯織に見せる。



「それはランさんからもらった空間収納が付与されたブレスレットですか?」


「似てるけど違うよ~。そのブレスレットは左腕に通してるんだけどこのブレスレットは変装の腕輪って言ってこれを付けてると獣人族に見せたりとか出来るんだって」


「凄いですね…そんな魔道具が…」



 変装の腕輪を外して元の乳茶の様な髪色、綺麗な青い瞳、身長もシルヴィアの時より高く身体つきも大人の物に変わった詩織は両手をハンドルから離し長い髪を束ねると悲し気な笑みを浮かべる。



「…ずっと騙しててごめんねいおりん。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「え…?」



 詩織の口から告げられた言葉に無意識に声を漏らした唯織は詩織の悲し気な笑みを見つめる。



「私の不注意とはいえいおりんに正体バレちゃったしずっと私が傍に居るのは監視されてるみたいで嫌でしょ?」



(あぁ…そっか)



「いい友達もいっぱいいるからもう心配する事もないし!!」



(自分の事でいっぱいいっぱいでわからなかったけど…)



「寂しいけど子離れ?しないとダメだなーって私も思ってたし」



(師匠も僕と同じで寂しかったんだ…)



「…いおりん?どうしたのってええ!?」



 話しかけても全く反応が帰って来ない事に振り返った詩織は唯織が顔を真っ赤に染めている事に驚きバイクを止めると小さな声が零れる。



「…シルヴィは僕の妹弟子です…」


「…へ?」


「だからシルヴィは僕の妹弟子です…」


「そ、それは私だってバレない様にする為についた嘘で私の弟子はいおりんだけだよ?」


「違います…シルヴィは師匠の二番目の弟子で僕の妹弟子で…友達です。それにテッタだってリーナ達だってシルヴィを友達だと思ってます」


「…」



 そう言うと唯織は赤い顔のまま目を丸くしている詩織を見つめ…



「だからシルヴィ、早くバジリスクの血を採ってウォルビスさんの呪いを解いてまた特待生クラスでアリア先生の授業を一緒に受けよう。まだ入学して一年も経ってないのに退学するのは勿体無いよ?」


「いおりん…」


「それにシルヴィがいないとこれからの学園生活が寂しくなるし…だからこれからもよろしくね?シルヴィ」


「………あはっ…もーしょうがないなー!いおりんの寂しん坊めー!!」


「それはシルヴィもでしょ?…あはは!!」



 弟子と師匠は目の端に小さな涙を浮かべ友達として満面の笑みで笑い合うのだった…。

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