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第五章開始 色付きの花束と透明な花  作者: 絢奈
第二章 友情
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聖女とは

 





「…これはまずいわね…」


「ティリアっちが泣いてたって事はここまで浸食されてなかったって事っすよね?」


「多分ね…」



 両手から青白い光を放ちながら体の半分が石、もう半分が木になっている黒髪の男…ウォルビスの身体を触診していたアリアは真っ赤な液体が入った小瓶を空間収納から取り出しウォルビスの口へ少しずつ流し込んでいくと苦悶に歪んでいた顔がほんの少しだけ和らぎゆっくりと瞼が持ち上がっていく。



「ぐ……あ、あんた…誰…だ…?」


「ティリアちゃんの依頼を受けた冒険者よ。この状況で間違えるはずないけれどあんたがティリアちゃんの兄代わりのウォルビスでいいわね?」


「あ、ああ…?ティリアの…依頼って…なんだ…?」


「今のあんたを助けて欲しいって依頼よ。どうしてこんな状況になったのか詳しく聞かせてちょうだい」


「…ティリアは…文字も声も…どうやって…」


「私には優秀な仲間がいるのよ。…それよりあんたが喋れるうちにどうしてこうなったのか聞かせてちょうだい」



 そう言うとウォルビスは目を丸くして信じられないといった表情を浮かべたと思ったら諦めた様な表情をしつつ口を開く。



「俺は…もう助からない…だからそれより…俺の依頼の…ティリアを治せるかもしれない…ロストポーションを…」


「…はぁ?私はティリアちゃんの依頼を受けてここにいるのよ?あんたの依頼なんか知らないしさっさと何処で何の呪いをもらったのか、呪いをもらってどれぐらい時間が経ったのか喋りなさい」


「だから…俺はもう…っ!」



 もう自分の命を諦めているウォルビスに苛立ちを隠せなくなったアリアが冷たく言い放つと小さな手がウォルビスの石になった手を握りしめる。



「……!!」


「てぃ…ティリア…」


「あんた、ティリアちゃんがこんなに泣いてんのに諦めるつもりなのかしら?」


「だが…俺はもう…」



 大粒の涙を流しながら冷たくて固い手を握りしめるティリアの頭を満足に撫でれないウォルビスは儚げにそう呟くと…



「………っ!!!ぐちぐちぐちぐち小さい事言ってんじゃないわよ!!!」


「「っ!?」」


「ありゃー…アリアっちキレたっすねぇ…」



 今まで座っていた椅子を蹴り砕いて怒声を響かせるアリアの表情は今まで見た事が無い程に怒りに染まり、後ろで見ていた唯織達に少なからずの恐怖を与えていた。



「私はティリアちゃんの依頼であんたを助けに来たのよ!!そんなあんたがティリアちゃんの気持ちを無視して生きる事を諦めたらこれからティリアちゃんはどうなるのよ!?あんたの事をここまで心配して目も見えなくて歩けなくて声も出せないのに片道数日かかる王都に依頼を何度も何度も出して!!!その心配と頑張りをあんたのちっぽけなプライドの所為で無駄にするつもり!?ふざけんじゃないわよ!!!」


「あぐっ…!」


「…!」


「ちょ…ちょっとアリアっちおちつ『ユリ!!!』っ…」



 身体から生えた枝を掴み体を無理やり起こしたアリアは落ち着かせようとするユリにまで声を荒げて続ける。



「あんたは自己満足で一人死ねるかも知れないけれど残されたティリアちゃんにはあんたって言う傷が一生残るのよ!?何でティリアちゃんに手を差し伸べたのよあんたは!!何でそんな中途半端な覚悟でティリアちゃんを育てたのよ!!人の命を預かるって言う事はそんな生半可な覚悟でやるもんじゃないのよ!!!自分が死んでもその人を守るって言えるぐらいの覚悟が必要なのよ!!!!あんたの自己満足でこれからのティリアちゃんの一生に影を落とすつもり!?」


「そ…それは…」



 捲し立てる様なアリアの自論にウォルビスは震えながらまだ石になった手を握り続けて泣いているティリアを見つめる。



「…私はね、どんな犯罪者でもこんなに誰かに生きて欲しいと思われてる人が寿命以外で死ぬのが本当に許せないのよ。こんな可愛い子のたった一つのお願い…生きてっていう願いすら叶えらんないの?あんたは」


「ティ…リア…」


「…!」



 ミシミシと音を立てながら木になった手を無理やり動かしティリアの頭を撫でたウォルビスは小さく目元に涙を浮かべるとアリアは小さく息を吐き蹴り砕いた椅子と傷ついた部分の時間をさり気無く戻し…



「あんたが知らずに背負ったものの重さを知ったんならさっさと何処で呪いを受けてどれだけ時間が経ってるのか私の後ろにいるみんなに言いなさい。何時までも守りたい人を泣かせるもんじゃないわよ」


「あ…待つっすよアリアっち」


「…」



 そう言い残して寝室をユリと共に出て行ってしまう。



「…すみませんウォルビスさん。早速ですがウォルビスさんにかかっている呪いを解く為にお話を聞かせてもらってもいいでしょうか?僕の名前は由比ヶ浜 唯織、Sランクの冒険者です」


「え…Sランク…!?」


「同じくSランクのテッタです」


「…同じくシルヴィア」


「同じくメイリリーナ・ハプトセイルですわ」


「同じくシャルロット・セドリックです」


「同じくリーチェ・ニルヴァーナです」


「え、Sランクが…ろくに…は?ハプトセイル…?せ、セドリック…?ニルヴァーナ…!?」



 唯織の自己紹介に乗る様に皆が紹介するとウォルビスはただでさえ悪い顔色を更に悪くして歯の根が合わないのかカチカチと歯を鳴らしていく。



「…申し訳ありませんがウォルビスさんのお身体を見るにほぼ時間が残されていないと思われます。ですのですぐに呪いについてお伺いしたいのですが宜しいですか?」


「へ…あ…ああ…わかった…わかりまし…た…」



 そしてウォルビスは唯織の落ち着いた声色に秘められた危機をしっかりと感じ取ったのかゆっくりと話し始める…。





 ■





「…大丈夫です、今は眠ってるだけだから安心してくださいティリアさん」


「…」



 相変わらず辛そうな寝顔だが規則正しい寝息を立てているウォルビスの状況をティリアに伝えた唯織はウォルビスの話を頭の中で転がしながら呟く。



「やっぱり呪いはバジリスクの石化、エントの呪歌、レイスの邪視の三つで間違いなさそうだね」


「うん…イオリから事前に聞いてたけどバジリスクの石化以外即効性は無いんだよね?」


「即効性と言っても一瞬だけバジリスクの呪いを受けたら徐々に石化をしていくって感じかな。だからウォルビスさんはドルトエイク古城でレイスの邪視、迷いの森でエントの呪歌、カラ砂漠でバジリスクの石化を受け…半身が石化するのに合わせてかけられていた遅効性の二つの呪いが発動した…って感じだと思う。ここまで帰って来るまでに石化が半身にまで達した…かな」


「…でも何故この三ヶ所ですの?ウォルビスさんはティリアさんの為にロストポーションの素材を集めていたんですのよね?」


「ちょうど古城も森も砂漠もロストポーションの素材…古城は賢者の石があると言われている場所、森は世界樹アルムの雫を取りに行く通り道、砂漠は竜の爪を取りに行くドランド山脈…竜神様が守護するドラゴニアの集落がある通り道だからね」


「古城に行って帰って来てるって事はウォルビスさんは既に賢者の石を手に入れた…?でもそんなこと言ってなかったですよね?という事は手に入っていない…?」


「うん…多分シャルの言う通り手に入れてないと思うよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「え…?ユイ君は行った事あるんですか?」


「…ちょっと色々あって…でもこの場所に賢者の石が無かった事は本当だよ」


「そうですか…?」



 引きつらせた笑みを浮かべる唯織に何か隠しているんじゃないかと皆が疑いの視線を向けると気だるげな声がその視線を攫う。



「…それより呪いを解く方法。ロストポーションとか今はどうでもいい」


「…そうですわね。シルヴィから聞いた呪いを解く方法…バジリスクの石化はバジリスクの血を飲ませる。エントの呪歌はエントに実る金色の実を食べさせる。レイスの邪視は聖女の生き血と聖水を飲ませる…でしたわね?」


「…そう」


「バジリスクの石化も血さえあれば大丈夫だし、エントは金色の実を付けてればどれでもいいんだもんね?」


「…そう」


「…お風呂に入っている時にも聞いて疑問に思ったんですが…最後の聖女の生き血と聖水はどうしますか?教会でそんな物を売っているものなんでしょうか?かなり手に入り辛い気がしますが…」


「確かに…教会の人に聖女様の生き血をくださいなんて言ってももらえないと思う…Sランク冒険者って事を伝えて融通してもらう?」



 最後のレイスの邪視を解く為にメイリリーナ達四人が頭を悩ませていると気まずそうな表情を浮かべながら唯織が口を開くが…



「…えーっとその…聖女の生き血と聖水なんだけど…実は『…問題ない。()()()()()()()()』…」


「「「「二人…?」」」」



 唯織の言葉を遮る様にシルヴィアが言葉を被せこの場にいる聖女二人に指を差す。



「え…?わたくし…?」


「…?私も?」


「…そう、リーナとシャルは聖女。白の魔色を持ってて穢れ…()()()()()()()()()()()()()()()()()()『シルヴィ!?そこまで言わなくていいから!!』むぐぐ」


「「っ!?」」



 指を差されながら穢れ無き聖女と言われたメイリリーナとシャルロットは顔を真っ赤にして真っ黒の制服のスカートをぎゅっと握りしめて俯いてしまう。



「え、えーっと…私は白の魔色を持っていないから聖女じゃない…って事でいいんですよね?」


「…ぷはっ…そう、リーチェは白の魔色を持ってないから聖女じゃない。でもしょ『だからシルヴィ!?』むぐぐ」


「そ、そうですか…なんというか…なんというかですね…」



 またも唯織に口を塞がれたシルヴィアだったがリーチェは少し顔を赤くしながらワザと咳払いをして続ける。



「んんっ…で、リーナとシャルが聖女であれば二人の血液があれば聖女の生き血はクリア出来るんですよね?」


「…ん。でも白の魔色を起こして血に魔色を練り込む様にしないとダメ」


「それはアリア先生に鍛えられたので問題なさそうですね…なら聖水は教会で売っている物を『…ダメ』…え?教会で売ってる物ではダメなんですか?」


「…ダメ。()()()()()じゃないとダメ」


「聖女の聖水…それも白の魔色を練り込んだ水…という事ですか?」


「…違う。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()『シルヴィ!?』むぐぐ…」


「「お、おし…っ…」」



 何度もシルヴィアの口を塞いだ唯織はこのままではダメだと思い意を決した表情を浮かべながら代わりに答えていく。



「聖女の聖水はシルヴィが言いかかっていた物と他にも汗や唾液、涙なんかも含まれるんだ。だから白の魔色を起こしながらお風呂に入って汗をかく、もしくは涙を流せばそれが聖水になるんだよ。でもその後も白の魔色でその水を浄化しないといけないから結構時間がかかるんだ」


「そ、そうなんですのね…」


「び、びっくりした…」


「でもそれであればレイスの邪視に関してはすぐに解除出来そうですね…なら残りのバジリスクの血とエントの黄金の実ですか…」



 リーチェがそう言うとテッタが勢いよく手を上げて機嫌よさげに尻尾をゆらゆらと揺らす。



「エントの黄金の実なら僕に任せて!僕の血統魔法で森全体を捜索すればエントの呪歌ももらわないし問題ないよ!」


「確かにそうですね…ならバジリスクの血ですがこれはユイ君とシルヴィに任せてもいいですか?」


「うん、一番遠いのはカラ砂漠だしそこは僕とシルヴィでやるよ。…いいよね?」


「…ん」


「わかりました。…なら私はテッタ君の護衛に付きましょうか。一人でも大丈夫だとは思いますが万が一という事もあるので。リーナとシャルは今すぐにでもお風呂に入って汗を集めてください」


「う…わ、わかりましたわ…」


「うう…私達の汗を飲ませるんだよね…うう…」



 顔を真っ赤にしたままメイリリーナとシャルロットは寝室を後にし…



「では私達も迷いの森へ行きますか。ユイ君、シルヴィ、バジリスクの方はお任せしますね」


「行ってくるね!」


「うん。一応耳を塞げるような耳栓とかを用意していってね?」


「…がんば」



 テッタとリーチェも寝室を後にしてその場には眠っているウォルビス、ティリア、唯織、シルヴィアの四人だけになる。



「さて…カラ砂漠だけど僕達が全力で走ってどのくらいで着くと思う?」


「…一週間ぐらい」


「…だよね。こればっかりは仕方ない…か。ティリアさん、僕達も呪いを解く為にこの場を離れるので何かあったらアリア先生かユリさんにお願いします」


「…!」



 そしてウォルビスの呪いを解く為に唯織達…メイリリーナとシャルロット以外の四人は動き出す…。

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