表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第五章開始 色付きの花束と透明な花  作者: 絢奈
第二章 友情
41/157

石の木

 





「すみません、この村にはどういったご用件でしょうか?」



 一本一本が太く頑丈な木を杭の様に突き刺した木の柵に大きな木の門が取り付けられた入り口で使い古された防具と槍を持つ男が話しかけてくる。



「私達冒険者でこの村には依頼で来たのよ。これが依頼書と私のギルドカードよ」


「っ!?SSSランクの冒険者様っ!?す、すみません!どうぞお通りください!!」


「悪いわね」



 ティリアの依頼書とギルドカードを返してもらったアリアは炎を消した白炎馬と黒炎馬の手綱を握るユリに合図を出して馬車をゆっくりと進ませると木の門がギギギという音を立てながら開いていく。



「へぇ…案外住み心地の良さそうな村じゃない」


「ええ、この辺りは水源もしっかりしていますし土も肥えてます。近くにある森も強い魔獣はいないので平和なものですよ」



 木造の建物が立ち並ぶ村は所々に黄金の絨毯が惹かれ風が吹く度に自然の音と匂いを届けてくれる心休まる様な村の風景が目の前に広がっていく。



「んじゃあ村に入らせてもらうわよ?」


「あ、はい…あの、失礼ですが先程の依頼書はティリアの依頼書でしょうか…?」


「そうよ?」


「そうですか…あの、冒険者様…出来ればティリアに優しくしてあげてもらってもいいでしょうか?あの少女は目も足も不自由で言葉も…一応親代わり…兄代わりの人物もいますが幾多の呪いを受けて床に臥せっていまして…」


「…本当にいい村ねここは。ティリアはここに向う最中に偶然ティリアちゃんを乗せた荷馬車と野営する事になって私達の馬車に乗ってもらってるのよ。事情もちゃんとティリアちゃんから聞いているから安心してちょうだい」


「…!すみませんが私達では力になれず…どうかティリアと兄…ウォルビスを救ってやってください…」


「ウォルビスって言うのね…わかってるわ。私の生徒達がきっと助けてくれるわよ」


「生徒…?」



 門番の優しさに触れて笑みを零したアリアは門番の疑問を躱して馬車の中に入ると明らかに不機嫌なメイリリーナ、シャルロット、リーチェが黙々とサンドイッチを口に運び、唯織とテッタがティリアの傍で苦笑していた。



「ティリアちゃん?セグリム村に着いたから家まで案内してもらっていいかしら?」


「…!…!」


「助かるわ。唯織、テッタ、ティリアちゃんを外に連れてってくれるかしら?」


「「わかりました」」


「「「…」」」



 そう言ってアリアが馬車の外に出ようとするとメイリリーナ達は無言でアリアを一瞥し横を素通りして外に出て行く。



「…はぁ、随分怒ってるわね?」


「朝起きた時からずっとあんな調子で…」


「そう…雰囲気を悪くして申し訳ないわねテッタ。唯織?シルヴィはどうしたのかしら?」


「それがまだ眠ってて…」


「全く…まぁいいわ。ティリアちゃんを頼むわよ」


「わかりました。…テッタ、車椅子用の坂を作ってもらっていいかな?持ち上げたりするとティリアさんが危ないから」


「うん。あんまり急じゃない方がいいよね」



 当然のごとくシルヴィアに当てられた部屋ではなく唯織の部屋に入って行くアリアを見届けた唯織はティリアの負担にならない様テッタに土のスロープを作ってもらい気遣いながら馬車の外へと出て行くと三人の鼻腔をくすぐる優しい匂いが漂う。



「…小麦と土、水の匂いだ。いい匂いだね…」


「うん!王都だと畑とか土の匂いってほとんどないもんね…」


「…!」



 数日振りに帰ってきたからか、呪いに冒され床に臥せる兄が心配なのか興奮気味に手話をするティリアに笑みを向けた唯織とテッタは先に下りていたメイリリーナ達を見ると三人とも目を丸くして好奇心が抑えられない少女の様な表情をしていた。



「わたくしこんな素敵な光景を見るのは初めてですわ…」


「うん…王都とは全然違う。なんていうか休まるというか…」


「ですね…王都はいい意味でも悪い意味でも騒がしいですし落ち着きますね…」



 王族と貴族とは思えない感想を述べているのを横目に唯織達が先に進むとティリアは慣れ親しんだ村なのか的確に自分の家までの方向を指を差して進むと村の人…恰幅のいい女性がティリアに話しかける。



「あらティリアちゃん!その人達は誰なんだい?」


「…!…!」


「…?なんだいその手の動き?」


「……」


「あ、えっと…今の手の動きは手話っていってティリアさんは『こんにちは、メルラさん。この方達は私の依頼を受けてくれた冒険者様です』…って言ってます」


「おやまぁ!?手の動きで会話ねぇ…!それは私達が覚えればティリアちゃんと会話できるって事かい!?」


「ええ。覚えるのは大変ですが覚えてしまえば耳が聞こえない方とも喋る事が出来るんです」


「よく考えられてるねぇ…」


「これから依頼が完遂出来るまで一緒に居ると思いますので興味がお有りでしたら手話をお伝えしますよ」


「そりゃ本当かい!?なら畑仕事が終わった時にでも教えてもらおうかねぇ」


「わかりました。僕達の先生にも伝えておきます」


「はいよ!うちは酒場もやってるから依頼の合間にでも飯を食いにきな!」


「ありがとうございます。では失礼しますね」



 現状手話がわかるのは唯織達だけだという事に俯いてしまったティリアだったが唯織がフォローすると笑みを浮かべて自分の家の方向に指を差す。



「…なんかイオリ変わった?」


「…え?」


「ほら、僕が言うのもなんだけど前は他の人に話しかけられてもおどおどしてたじゃん?今の人…メルラさんと話す時は普通だったって言うか…」


「ああ、ここじゃ僕が透明の魔色だって知る人はいないだろうから…」


「なるほど…そう言う事ね。…ねぇイオリ?」


「ん?どうしたのテッタ?」


「…気は早いけど、レ・ラーウィス学園を卒業したら…イオリはどうするの?」


「どうするって…どういう事?」


「ほら、騎士団に入るとかお店をやるとか…このまま冒険者とかになるの?それとも魔王領に戻ってシオリ様と暮らすの?」


「…まだ何も考えてない…かな」


「そっか。だったら僕と一緒に冒険者になって色んな国を旅しない?」


「旅…?」



 テッタの言葉に首を傾げた唯織はテッタが笑みを浮かべているのを見つめつつ耳を傾ける。



「冒険者になったら色んな依頼で色んな場所に行くでしょ?そうしたら色んな人と出会うじゃん?もしかしたら透明の魔色だからってイオリの事を悪く言わない人もいるかも知れないし逆に同じ透明の魔色の人がいるかもでしょ?だからそういう人を探しに行くっていうか…どうかな?」


「旅…か…そうだね、それもいいね」


「ほんと?じゃあ約束ね?」


「うん。卒業したら一緒に冒険者として旅をしよう」


「うん!」


「…」



 そう言うとテッタは卒業後にやる事が決まった事に嬉しそうに尻尾を振り始めるが唯織は胸が締め付けられるような痛みを感じつつ笑みを浮かべると目的の場所、ティリアが住んでいる少し古びた家に到着する。



「…!」


「ここがティリアさんのお家かな?」


「…!…!」


「あ…みんな、ここがティリアさんのお家みたいだよ」



 家に帰ってきたからか自分で車椅子を動かして家の中に入ったティリアに置いて行かれた唯織は後ろから付いてくるメイリリーナ達に声をかけると歩の進みを速めて合流すると…



「ここですのね。なら早急にティリアさんとお兄様を救う為にお話を伺いますわよ」


「そうだね、早く助けてあげたいもんね」


「ティリアさん?入らせてもらいますね」


「えっ…?あ、アリア先生達を待たないの?」


「どうでもいいですわ。この件はわたくし達で何とかしますわよ」


「「…」」



 テッタの制止も聞かずに中に入ってしまう三人にどうしたものかと悩んでいるとぐったりしているシルヴィアを肩に担いだアリアとユリが徒歩で近づいてくる。



「あら?もうみんな中に入ったのかしら?」


「はい…えっと、シルヴィは何でぐったり…?」


「まだ寝てんのよ。馬車を空間収納に仕舞うのに中に居たら閉じ込められちゃうでしょう?」


「あはは…」


「ほら唯織、シルヴィを負ぶっておいてちょうだい」


「わ、わかりました」



 アリアの肩からシルヴィアを受け取った唯織はアリア達と一緒にティリアの家へ入ると中で立ち尽くすメイリリーナ達が視界に映り…



「「「…」」」


「「「「え…?」」」」



 寝室であろう場所から伸びる巨大な石の木が天井を覆い尽くしティリアの鼻を啜る音が家の中に響いていた…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ