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第五章開始 色付きの花束と透明な花  作者: 絢奈
第一章 箱庭
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入学式






「お、おい…見ろよあの子…めちゃくちゃ可愛いな…」


「え…?でもズボン履いてるぜ…?男なんじゃないのか…?」


「…それもまたいい…」


「ていうかあの子の制服…なんで黒なんだ…?」


「ああ黒い制服はな?――――」



 ………



(あ…あれ…?僕…制服間違えた…?みんな白…?う、嘘…)



 真っ白な制服を着た生徒達を涙目で見つめる真っ黒な制服の唯織…あまりの場違い感に押しつぶされそうになった唯織は事前にもらった学園の地図を見ながら目的の場所を目指すが…



(…やっぱりここ…だよね…でもここに集まってる人はみんな白い制服だし…時間になるまで待ってみるしかない…かな…)



 何度歩いても白い制服を着た生徒達が集まる場所に戻ってきてしまい…遂に諦めの境地へ達してしまう。



(…みんな僕の事を見てひそひそ言ってるし…そりゃ一人だけ黒い制服だったら目立つよね…うう…どうしたら…)



 出来るだけ人目につかない様に体を小さくしながら空いているベンチに腰を下ろそうとした時…



「…()()()()。こっち…」


「っ!?あえ!?ちょ、ちょっと…!は、離しっ!?」



 真っ黒の制服を着た銀髪碧眼の少女が平坦で抑揚のない声を出しながら唯織の手首を力強く引っ張り…唯織は少女の手を振り解こうとして驚愕の表情を浮かべる。



(び、ビクともしない!?な、何で!?!?)



「…暴れないで」


「っ…!ど、何処に連れてくの!?」


「…あっち」


「あ、あっちってどこ!?」


「…いいから」


「よ、よくないよ!?」


「…うるさい」


「だ…だったら手を…!!放してよ…!!」



 何を言っても平坦な声色で喋り続ける銀髪の少女に引きずられ続けた唯織は渾身の力で少女の手から逃れようとすると…



「暴れないで」



 少女は唯織の手首を握り砕く勢いで力を込めて引っ張り、態勢を崩した唯織の眉間目がけて小型のナイフを突きこんだ。



「っ!?!?」



 唯織は態勢を崩しながらも突きこまれた短剣を首をひねって躱し、頬に小さな傷を作りながら制服の下に隠していたナイフに手をかけると…



「ふぅん。よく避けたね()()()


「っ!!」



 全くの初対面なのに名前を呼ばれた唯織は即座にナイフを抜き放ち、少女へお返しとばかりにナイフを突きこむが少女は…



「遅いね」


「あぐっ!?」



 ずっと握りしめていた唯織の手首を強引に引っ張って唯織の体を浮かして白い制服を着た生徒達が見ているのもお構いなしに地面へと叩きつけた。



「…()()()()()()()()()()頑丈だね。早くしないと入学式遅れるよ」


「っ!?…げほっ…き、君は一体何者なの…?」



 背中から伝わる痛みを吐き出してずっとこちらの手首を握りしめている少女へ問いかけるが少女は小さく息を吐き…



「面倒…もういい、連れてく」


「ちょっ!?ま、待って!!自分で歩くから!自分で歩くから!!!」



 唯織をお姫様抱っこして走り出した…。





 ■





「―――――となっていますので皆さん、有意義な時間を過ごしてください。最後にレ・ラーウィス学園の理事長であるガイウス・セドリック様からお言葉があります。理事長…」


「うむ。()()()()()が既に言っておるが…生徒諸君、まずは我がレ・ラーウィス学園、戦闘学科に入学おめでとうと言わせてもらう」



 メイド服からスリムな黒の礼服姿になったミネアが真っ白の制服を着た新入生達に言葉を送り終わると入れ替わる様にガイウスが壇上に上がる。



「さて…ミネア校長は生徒諸君に有意義な時間を過ごして欲しいと言った。…だから儂からも戦闘学科で学ぶ生徒諸君の4年間がより有意義になるように景品を用意させてもらった」



 景品という言葉を強調したガイウスは壇上の舞台袖へ視線を向けるとミネアと複数の教師が大量の資料を抱えて入学式に集まった新入生達へ配っていく。



「…うむ、皆に行き渡ったようだな。その書類に景品の内容が書いてあるのだが、簡単に説明してしまえば超好待遇の寮生活、学園生活、卒業後の待遇についてだ」



 超好待遇の寮生活と学園生活、卒業後の待遇…その書類に書かれている内容はこうだ。



 寮生活、学園生活における消費する、消費した資金は全額学園が負担する。



 寮にはセドリック公爵家のメイド、執事が待機しており生活の全てをサポートする。



 卒業時に貴族位を持っていない者は貴族位の付与と領地の譲渡、既に貴族位を持っている者は陞爵(しょうしゃく)と叶えられる範囲で国王からの褒美を贈呈される。



「…が、大まかな内容となっておる。他にも様々な待遇があるのだがそれはこの式が終わった後に各自確認したまえ。そしてこの景品を受け取る条件なのだが…皆、壇上にあがりたまえ」



 真っ白の制服を着た新入生達が景品の内容に目を輝かせているとガイウスは壇上に真っ黒の制服を着た()()()()()()をあげた。



「レ・ラーウィス学園の事を知っている者が身内に居れば既に知っている者もいるだろうが…我が学園では君達とは違う黒い制服を着ている生徒がいる。…この()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。では特待生の諸君、自己紹介をしたまえ」


「ではわたくしからさせて頂きますわ」



 エメラルドの様なキラキラした瞳と自信が溢れる目元、小さな口から出るお嬢様の様な言葉遣い…そして金糸の様な金髪を巻いた縦巻きロールの少女は黒い制服のスカートを摘まみ上げてカーテシーを披露する。



「ハプトセイル王国第一王女、メイリリーナ・ハプトセイルですわ。先に言っておきますが、わたくしは第一王女だからこの特待生クラスにいるわけではありませんわ。単に実力が皆さんより上だから特待生クラスにいるんですの。身分を考慮しないこの学園で自身の身分をひけらかす愚かな貴族達と一緒にしない様、気を付けてくださいまし」



 高圧的な物言いは真っ白の制服を着た爵位を持つ新入生達から憎悪にも似た視線を生み出し、その憎悪の視線を一身で受けながらハプトセイル王国第一王女メイリリーナ・ハプトセイルはふんっと鼻を鳴らして全てを一蹴する。



「うむ。メイリリーナの言う通り、この学園では身分の違いを他者へ押し付ける事を禁止している。そしてそれはこの学園外でも同じ事だ。この学園の生徒である限り、己の持つ身分は何も意味がないという事を肝に銘じておいてくれたまえ。…次の者、自己紹介を」


「なら次は私が」



 メイリリーナと同じ様に自信を宿らせた目元で輝く金色の瞳、肩にかかった長くて綺麗なピンクゴールドの髪を手で払いながら一歩前に出た少女は小さくカーテシーを披露する。



「私はシャルロット・セドリックと申します。理事長であるガイウス・セドリック公爵の孫ですが()()()と同じ様に私自身の実力でこの特待生クラスという席を勝ち取りました。理事長の孫だからと見当違いな事を言い出す方がいる様なら実力でわからせてあげますのでよろしくお願いしますね」



 可愛らしく笑みを浮かべながら発せられる言葉…それは丸い言い方をしていてもメイリリーナと同じ高圧的な意味を孕んでおり、また新入生達から向けられる憎悪の様な視線を受けながらシャルロットは笑みを浮かべて一歩下がる。



「うむ、決して儂の孫だから贔屓しているわけではない。儂が言っても信じられないだろうがシャルロットは贔屓目無しでこの学園に勤める教師達からも一目置かれているので実力は本物だ。…次の者、自己紹介を」


「はい」



 ミステリアスな紫の瞳と優し気な目元、長いオレンジ色の髪を緩く編んだ少女はメイリリーナとシャルロットが煽った所為で敵意の様な視線を向けられているのにも関わらず、小さく笑みを浮かべたままふわりとカーテシーを披露する。



「ニルヴァーナ男爵家の長女、リーチェ・ニルヴァーナです。皆さんこれから4年間、一緒に卒業出来るように頑張りましょう。…後、仲良くしてくれたら嬉しいです」



 まるで聖女の様な笑みを浮かべたリーチェは真っ白の制服を着た新入生達から敵意の視線ではなく、熱い視線を受けながら小さく手を振って一歩下がる。



「うむ、場を和ませる実にいい自己紹介だった。次の者、自己紹介を」


「は…はい…」



 海の様に濃い青の瞳と怯える様に涙を溜める目元、真っ黒の髪を触りながら頭の上から生える猫耳を忙しなく動かし続ける少年はもう片方の手で尻尾を握って声を震わせる。



「ぼ、僕は…て、テッタ…です…仲良くして…ね?」



 握った細い尻尾で顔を隠す様に絞り出した言葉は真っ白の制服を着た女子生徒達があげた歓喜の様な叫びにかき消された…。



「う…うむ、生徒諸君落ち着きたまえ…テッタはこう見えてもかなりの実力者だ。きっと皆も驚く事だろう…次の者、自己紹介を」


「…」



 そして…唯織を拉致した銀髪碧眼の少女が無表情で一歩前に出て…



「…シルヴィア」



 と答えて一歩下がった…。



「…それだけか?」


「…?ダメ?」


「…いや、構わん。…では最後の者、自己紹介を」


「…はい」



 面倒くさいと一目で分かるほどのしかめっ面をガイウスに披露したシルヴィアは一歩前に出た唯織を見つめ、唯織は意を決して自分の自己紹介をした。



「皆さん初めまして唯織…です。透明の魔色ですがよろしくお願いします…」


「「「「「「!?!?」」」」」」



 この入学式という場で唯織が透明の魔色だと知っているガイウスとミネアは目を閉じ、同じ特待生の生徒も真っ白の制服を着た新入生達と一緒に驚いている中…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…。



 ………



「…やっと落ち着いたようだな生徒諸君」



 透明の魔色の唯織が特待生クラスに居るのはおかしい、間違っている、自分は無色の無能より下だと言うのかという唯織に向けられた真っ白の制服を着た新入生達からの罵詈雑言が収まり…ガイウスが重苦しく口を開いた。



「今回は突然の出来事と入学式という君達の晴れ舞台だから大目に見るが…今後、学園内でイオリ君を無色の無能だとか、イオリ君を蔑む様な事を口にした者は即刻停学処分…改善が見られない場合は退学処分を下す。これは特待生クラスも同様である。生徒諸君…わかったかね?」



 有無を言わさぬ重圧の声を響かせながら周りを睨んだガイウスはわざとらしく咳ばらいをして本題を口にする。



「では先程伝えた好待遇の景品を受け取る条件を伝えよう。それは特待生クラスに入る事…そしてその特待生クラスに入るには今、この壇上に上がっている特待生クラスの生徒達の誰でもいい…一対一の決闘で己の実力を証明し、その座を奪い取る…たったこれだけだ」



 真っ白の制服を着た新入生達はガイウスの言葉で壇上にいる真っ黒の制服の特待生…特に唯織を睨みつける。



「…うむ。皆やる気になったようだな?これにて入学式を終了する故、担任の指示に従って各々行動したまえ。ではレ・ラーウィス学園戦闘学科に入学した生徒諸君…健闘を祈る」



 そしてガイウスの言葉は真っ白の制服を着た新入生達のやる気を闘志へと変え…ガイウスは特待生の生徒と共に壇上から姿を消した…。





 ■





「…イオリ君、どうしてあの場で言ったのかね?…大体予想はつくが君の口から聞かせてくれたまえ」



 レ・ラーウィス学園の理事長室…入学式を終えた後、唯織はガイウスとミネアに理事長室へ連れられていた。



「…勝手な事をしてしまい申し訳ありません…ですがこの学園に在籍する以上、遅かれ早かれ自分が透明の魔色である事は知られます。でしたらあの場で素直に言うべきだと考えました。それに…特待生だからと言う理由で僕を目標にする人が出てきてしまったらその人はきっと僕が透明の魔色である事を知ったら悲しむと思いましたので…」


「……ふぅ…本当にイオリ君は…」



 息を吐き捨てたガイウスは頭を押さえながら苦笑し、その苦笑に釣られてミネアも笑みをこぼす。



「…イオリ君?ガイウス様はイオリ君の為に色々しようとしてたのよ?」


「…え?…どういう事ですかミネア校長…?」


「まず特待生クラスの席を狙ってイオリ君に挑む一般生徒達を決闘で倒し続けて実績を作り、そこから徐々に透明の魔色自体の認識を改める授業を施してイオリ君の事を誰も悪く言わない様にし、イオリ君が学園生活を楽しめるようにしていこうとしてたのよ」


「っ!?…そ、それじゃあ僕は……」



 ミネアの話を聞いて自分の勝手な判断で二人の好意を無下にしてしまったと感じた唯織は顔を青くし…



「せっかくのご好意を無下にしてしまい本当に申し訳ござ『よい。謝るなイオリ』っ!?」



 床に額をつけて謝ろうとしたが、ガイウスの鋭い眼光と重圧を感じる声で制止された。



「儂もイオリにちゃんと話してなかったのだ、謝る必要はない。…それにイオリはあの場で打ち明けるのが一番よいと思ったから言ったのであろう?」


「……はい」


「なら謝るな。己が正しいと思ってした行動を悔いるな。謝るのは己自身が間違いに気づいた時だけにしたまえ。…わかったかイオリ?」


「…はい」


「うむ。…まぁかなり強引になってしまったが、イオリ君を悪く言うような生徒がいれば然るべき対応をすると公言出来たからよしとしよう。…ミネア校長からはイオリ君に何かあるか?」


「…そうですね、では一つだけ」



 唯織に伝えたい事を伝えきったガイウスは落ち着く様に目を閉じて椅子に寄りかかり、ミネアの言葉を静かに聞く…。



「これはイオリ君が自分で選んだ道です。どんなに辛くても進み続けなさい。そしてどうしようも無くなった時…私でもガイウス様でも誰でもいい…誰かを頼りなさい。貴方を見てくれている人は必ずいます。…この言葉は絶対に忘れないでくださいね」


「…はい。肝に銘じておきます…」



 唯織の震える声で笑みを作ったガイウスはミネアと共に唯織を理事長室から送り出し、これから唯織と唯織を取り巻く環境がこの学園をどう変えてくれるのか期待を膨らませる…。

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